May 13, 2011

使えるならばもっと使うべき

最近は捨てずに送るところが増えています。


復興のペダル踏んで放置自転車の処分のことです。これまで廃棄していた自転車を、被災地への支援物資として送る動きが全国の自治体に広がっています。期限までに引き取り手のなかった自転車のうち、状態が良いものを整備し、鍵を取り替えるなどして被災地へ送る取り組みです。

送る自治体としては、廃棄するより整備するほうが費用がかかりますが、被災地では、貴重な市民の足として重宝していると言います。少しでも被災地の方の役に立てばと考えてのことですが、まだ使えるのに捨てるのはもったいないですから、生かしてリユースする点でも意義があります。

しかし考えてみると、使える自転車を撤去し、処分するという仕組みがそもそも省資源という意味では好ましくありません。もちろん放置自転車を擁護するつもりはなく、迷惑駐輪する人が悪いのは間違いありませんが、問題の背景には駐輪場の不足という面もあると思います。

自転車を整備し被災地へ駐輪場の拡充と言っても、場所によっては簡単なことでないのはわかります。しかし、市民に駐輪のニーズがあるわけですから、それに応えるのが本来求められる公共の姿であり、税金の使い道でしょう。駅前の道路などへの放置を禁止するのは必要な措置としても、迷惑駐輪を防ぐためには駐輪場の整備が必要です。

放置自転車を撤去しても、引き取りに来ない自転車は、かなりの割合になると言います。いろいろ理由はあるでしょうが、格安自転車が出回る昨今、市民は新しい自転車を買い、そしてそれがまた放置されることになります。つまり、いたちごっこです。やむを得ない反面、無駄な税金の使い方と言われても仕方ありません。

日本では、クルマ中心の道路政策、都市計画が進められてきた結果、走行空間にしても駐輪施設にしても、市民の足である自転車を使うためのインフラ整備が軽視されてきたのは否めないでしょう。もちろん、自転車を放置する行為は責められるべきですが、行政の手落ちが放置自転車を招いた面もあるはずです。

被災者の移動手段に放置自転車のない街を目指して、撤去を強化する自治体もあります。しかし、一時的にきれいになったとしても、駐輪需要がある以上、対処療法にしかなり得ません。結局延々と繰り返すだけの撤去作業より、抜本的な解決、すなわち駐輪場の整備を進めるべきでしょう。

そうは言っても、都市部は地価も高く、駐輪場の整備は容易なことではありません。自転車の利用が進めば、自転車が集まる駅前などだけではなく、街中のあちこちにも駐輪場が必要になります。道路幅も広いわけではなく、物理的に駐輪スペースがない場所も多いに違いありません。

しかし、街を立体的に見れば、駐輪スペースが隠れている可能性があります。そう気付かせてくれるのが、アメリカ・ニューヨークを拠点に活動する建築事務所、“MANIFESTO Architecture”です。彼らのデザインする駐輪システム“Bike Hanger”はユニークです。

Bike Hanger, www.mfarch.com

よく、クルマ用に狭い土地を利用した、パーキングタワーなどと呼ばれる機械式の駐車場があります。外から見るとビルのようですが、中は吹き抜け空間になっています。その中に、遊園地にある観覧車を縦長にしたような機械が入っていて、クルマを載せる台車が複数、垂直方向に循環するようになっています。

方式としては、それと同じように自転車を掛けるハンガーが縦方向に回転する立体式駐輪場です。ただ、それだけではありません。既存のビルの壁面とか、ビルとビルの間、高架の橋脚など、都市のちょっとしたスペースを有効に利用して設置できるようになっています。

Bike Hanger, www.mfarch.com

Bike Hanger, www.mfarch.com

自立型もありますが、既存のビルの壁面などに取り付けることで、簡単に施工できるようになっています。新たに構築物を建てる必要がないので建設コストも抑えられます。ハンガー部はリサイクルしたステンレス材料、カバーの部分は、プラスチックのビンをリサイクルした材料とするなど環境負荷にも配慮しています。

しかも、動力は人力です。つまり、駐輪したい人が空いたハンガーを移動させたり、自分が駐輪したハンガーを下ろすため、駐輪機に取り付けられたペダルをこぐシステムです。動力を使わないのでランニングコストも安く、せいぜい機械装置に注油するオイル代、年間15ドル程度だと言います。

Bike Hanger, www.mfarch.com

利用者が自分で自転車をハンガーに掛け、料金も無料が想定されていますので、係員は不要、人件費もかかりません。何より、空間を上手く利用することで収容力が大幅にアップします。自転車をとめるのに多少手間がかかりますが、駐輪場が不足する場所に設置すれば市民にも使ってもらえるに違いありません。

ちなみにこの“Bike Hanger”、ソウルで行われたコンペの応募作品です。韓国は、昔から自転車に乗る人が少ない国です。市民はクルマ志向が強く、大人が自転車に乗るのはみっともないとか、恥ずかしいと考える風潮があります。中国や他のアジア諸国も似た傾向がありますが、韓国は特に強いと言われています。

Bike Hanger, www.mfarch.com

ソウルは坂が多いということもありますが、韓国人が自転車に乗るのをカッコ悪いと考えてきたこともあって、道路が自転車で通るように整備されていないのも要因です。当然、駐輪場の整備もされてきていません。今となっては駐輪場を整備するようなスペースに乏しいのも、日本の都市と同じです。

しかし、近年韓国では、国をあげて自転車の利用拡大に取り組んでいます。環境に配慮し、化石燃料への依存を減らすためにも、自転車の活用は世界の趨勢です。ソウルを自転車フレンドリーな街にするためには、駐輪場が不可欠なのは自明です。そのためのアイディアを求めているわけです。

Bike Hanger, www.mfarch.com

都市の空間の有効利用とは言っても、実際には土地や建物の権利関係や建築基準法等の法的な要件など、クリアすべき点はあるでしょう。しかし、都市の限られたスペースを上手く使うことで、放置自転車、迷惑駐輪の解消につながる可能性もあると思います。

自転車が上空まで占拠するようで、景観的に問題とする人もあるかも知れません。でも、例えば全体を金網でカバーし、ツタ類などの植物を這わせる手も考えられます。目隠しになるばかりか、都市の緑化とヒートアイランド対策、また、ビルの温度上昇を防いで節電対策の一助にもなります。

Bike Hanger, www.mfarch.com

パッと見た感じでは、突飛でナンセンスなアイディアのようにも見えますが、なかなかどうして実用的です。駐輪場のスペース不足に苦しむ日本の都市でも福音となる可能性を秘めています。放置自転車の活用もいいですが、むしろ都市の未利用の空間こそ、もっと活用すべきなのではないでしょうか。





いろいろ異論もありますが、浜岡が止まることになったのは良かったと思います。電力不足が懸念されますが、これが代替エネルギーの開発を加速させるきっかけになってほしいものですね。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 デル株式会社


Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。



 楽天トラベル






この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
自動車から自転車へシフト。
最高ですね。

原発から代替エネルギーへシフト。
歓迎ですね。
Posted by 二浪独河 at May 14, 2011 16:04
今日は、毎回自転車にまつわるお話を楽しみに拝読させていただいております。
小生も駅前の駐輪場を時々利用しています。 二段式の駐輪場ですが、盗難やいたずらを心配で必ず上段を使用します。 でも、利用状況を見ると圧倒的に下段が多いのはやはり簡単に置けるからでしょうね。 今回の記事のシステムは人力で動かすところが非常に面白く感じました。 しかし、うっかり漕ぎ過ぎてキャッチポイントを通過してしまったときに、もう一周漕ぐしかないとしたら絶望感が半端じゃなさそうですね。
Posted by teela brown at May 14, 2011 21:55
誰が考えても歩行者の邪魔にならない駅前の空きスペースに駐輪すると放置自転車とされてきました。それが機械式駐輪所として整備され、1時間無料、8時間150円、その後2時間50円でしす。
空きスペースを駐輪禁止してフェンスを張り巡らすか、駐輪所として活用するかです。駅前に駐輪所を作れば、沢山の方が電車で出掛けて、沢山の方が駅前で買い物して、駐輪所係員としての仕事が生まれます。

知的障害の息子が9歳になり、自転車後部補助椅子も嫌がり(違反は承知)、歩き専門になりました。後部補助は荷物運搬に使っています。万が一に備えて、後部補助椅子のままにしてあります。

自転車から歩く人に変わってしまいましたが、共に環境に優しい事なので、今後もサイクルロードさんのプログ読ませて貰います。
Posted by ジャムおばさん at May 15, 2011 05:43
二浪独河さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
クルマでなくとも自転車で間に合うのであれば、自転車を使えばいい、このことに同意する人は増えつつあると思います。
同じように原子力を代替できるならば、それでもいいと選ばれるような発電方法が開発されるといいですね。
Posted by cycleroad at May 15, 2011 23:14
teela brownさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
スペース効率を考えて、2段式の駐輪機を導入するところは増えているようですね。でも、やはり上の段に載せるのは面倒ということなのでしょう。
確かに、駐輪機を動かすのもペダルをこぐというのはユニークですね。日本の感覚だと、当然のように電動ということになりそうですが、こちらの方がリーズナブルだと思います。。
細かい部分はわかりませんが、シングルの固定ギアで、行き過ぎてしまったら、ペダルを逆回し出来るようになっていたりするのではないでしょうか。
「もう一周」だと、時間がかかって行列が出来てしまいそうですからね。
Posted by cycleroad at May 15, 2011 23:31
ジャムおばさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
駐輪場が景観を壊すなどとして、地元の商店街の人が設置に反対したりするところもあるようです。そういう見方もあるでしょうし、景観から言えば無いに越したことはないのでしょう。
しかし、自転車を使わない人には邪魔で、景観的には、言ってみれば必要悪なのかもしれませんが、これだけ市民の需要がある以上、必要な施設であることは間違いありません。もっと整備を加速させていく必要があると思いますね。
歩いていると、自転車の人のマナーが気になることも増えてくるかも知れませんね。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at May 15, 2011 23:45
駐輪場を作るというと建物の隙間か地下に作るかしか思い浮かばなかったんですが立体的に作れるとは驚きました!
撤去費用を無駄に使うくらいなら立体駐輪場に使ったほうが町の人が喜ぶと思います
Posted by 職人気取 at May 16, 2011 17:17
cysleroadさん こんばんは。

ユニークな発想ですね。
しかし残念ながら日本の場合、先ず、自転車が落下しないか否か、
立体駐輪場(機?)の安全面が問われるでしょうね。

都心部のビルとビルの間は隙間がないとか、立地の確保が...。

しかし、何もせずに手をこまねいていては先へ進めませんよね。

何かのコマーシャルのように、
「どっかの誰かが なんか えー感じにしてくれへんかな〜」

人頼みですいません。
Posted by Fischer at May 16, 2011 23:56
街中にあったら「えええ〜〜!」と叫んでしまいそうですが、こういう発想もアリでしょうか。ただ日本の場合だと、地震に耐えられるかどうかも問題になってきそうですが。小規模なものをしっかり建てればどうでしょうね?

よくある2段式駐輪場、結局上が殆ど利用されず下ばっかりが混むのは、使い勝手の問題だと思います。特に子供乗せ設置の自転車、本気で重いので上に乗せるのは色々な意味で危険。乗せおろしが楽で落下の危険性が低い構造はないものでしょうか。

駅前等の駐輪スタンドも、隣の自転車にブレーキをひっかけられ外された、等のトラブルが絶えません。もっと使いやすくて効率よく停められる形を考え直してもいいかもしれませんね。
Posted by Hani at May 17, 2011 17:04
職人気取さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ちょっと日本の常識からすると、思いつかない発想ですよね。平面的には土地の利用も密だと思いますが、上空までは考えないですし..。
撤去移送の予算は、毎年かなりの額になる自治体は多いですから、設置費用は充分まかなえますね。
Posted by cycleroad at May 17, 2011 23:12
Fischerさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに日本では、いったん事故が起きると、管理責任が問われることになりますから、設置にはハードルがありそうです。
建築基準法だけでなく、消防法などの絡みもありそうです。
ただ、駐輪場がなくて、撤去と放置のイタチごっこを解消するには、踏み出す勇気も必要でしょう。
松本人志ですね。実現には法律の壁、行政の壁がありますから、なかなか個人の力では、こういうものを実現させるのは簡単ではなさそうです。どっかの役所が英断してくれへんかなあという感じはありますね。
Posted by cycleroad at May 17, 2011 23:20
Haniさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
実際、いきなり現れたらインパクトありそうですね。でも発想としてはアリでしょう。
地震の問題はあるかも知れません。ただ、歓楽街などの雑居ビルが立ち並ぶ場所なんかに行くと、看板だのエアコンの室外機などが、ビルの壁の高い部分に取り付けられていたりして、地震の際に大丈夫なのだろうかと思うものも多かったりします。
見たところバイクハンガーは、きちんと施工すれば、揺れても案外大丈夫なのではないでしょうか。
2段式の駐輪機の上段にママチャリを乗せるのは、力がいりそうですからね。かと言って、電動というのもランニングコストがかかります。油圧式か何かで開発できるといいのかもしれません。
少しでも収容台数を上げようと、駐輪機の感覚が狭いというのがあるのでしょう。その点は、バイクハンガーのほうが間隔があって、余裕がありそうですね。
Posted by cycleroad at May 17, 2011 23:37
 
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)