May 19, 2011

災害の後にも備えておきたい

東日本大震災の仮設住宅の建設が遅れています。


震災から2ヶ月以上経つのに、未だ11万人を越える方々が避難所生活を余儀なくされており、一刻も早い仮設住宅への入居実現が強く望まれています。しかし、肝心の仮設住宅の建設が遅れており、阪神淡路大震災の時と比べても大幅に遅いペースとなっています。

建設が遅れた背景には、被害が大規模で広範囲だっただけでなく、建設資材の工場も被災するなどして、合板や断熱材など建設資材が不足したということもあったようです。でも、一番の原因は、仮設住宅の建設用地の確保が難航していることだと言います。

岩手県陸前高田市に建設された仮設住宅被災地は、地形的に海沿いまで山が迫っている土地が多く、津波の被害を受けなかった場所では、仮設住宅の建設出来る公用地が圧倒的に不足しているのです。まだ余震も警戒されていますし、当然ながら再び津波が襲う恐れのある場所に建てるわけにはいきません。

これだけの被害ですから、仮設住宅の建設にこだわらず、被災していない地域の賃貸住宅を仮設住宅の代わりに借り上げ、早急に被災者の方に入居してもらったらどうかと言う人もいます。近くで足りなければ首都圏なども含め、地区のコミュニティごと集団で疎開するような形も考えられます。

しかし、当の被災者の方にしてみれば、後片付けや仕事、通勤・通学などの事情もあります。今後の生活再建に向けて地元を離れたくない、離れられないということもあるに違いありません。他の地域の賃貸住宅に移れる人もあると思いますが、多くの人は地元から離れたがっていません。それが11万人という数字です。

建設用地の確保を担う地元自治体も、近隣の市町村に土地を借り、市外、町外に建設することを検討しています。でも、なかなか被災者の要望と合わずに苦慮しているようです。民間から未利用地を借りる手も考えられますが、大規模な造成が必要だったり、水道や電気をひくのが大変だったりと問題が多いと言います。

なんといっても、地形的に平らな土地の絶対数が少ない上に、海沿いの平地はみな津波の被害を受けています。資材が手に入り始めても、用地が無くては建設することも出来ないわけです。トレーラーハウスを輸入すれば、などと言う人もいますが、トレーラーハウスを置く場所がなければ意味がありません。

コンテナ Photo by KMJ,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.私は防災の専門家でも建築の専門家でもありませんので、もしかしたら見当違い、素人考えかも知れませんが、仮設住宅にプレハブでなく、コンテナを使ったらどうなのでしょう。コンテナ船や貨物列車、大型トレーラーなどに積んで使う、あの輸送用のコンテナです。

JRの貨物列車で見るような短いコンテナは国内規格で、容積も小さいため向かないですが、海運などで使われる、国際規格の20フィートや40フィートの貨物コンテナであれば、それなりの広さも確保できます。あんなものに被災者を押し込めるなんて、と怒られそうですが、きちんと居住用に改造したコンテナを使うのです。

海外では、仮設の事務所などに使われる場合もあります。日本では、同じような大きさで、事務所用に窓などを取り付けたプレハブのユニットを使う場合が多いようです。プレハブのユニットも組み立てた状態で、そのままトラックの荷台に載せて運んで使うことが出来ます。両者の見た目は似ていますが、別のものです。

コンテナは、鋼鉄製で強度があり、耐久性も抜群です。規格化されて比較的安価ですし、実は建築材料としても理想的なのです。オランダなどでは、実際に住宅に使われている事例もあります。居住用のコンテナならば、トレーラーなどで運んで来て下ろせば、そのまま住居として使えます。

コンテナによる仮設事務所の例 Photo by Staro1,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

実際には、電気の配線や水道の配管など付随する工事はありますが、形は出来ているので、プレハブの仮設住宅のように、大工が現場で建てたり組み立てたりする必要は基本的にありません。輸入したり、工場で改造されたコンテナを運んでくれば、あっという間に完成です。

そして、プレハブのユニットと違いコンテナは鋼鉄製なので、積み重ねることが出来ます。これが大きなメリットです。冒頭の写真のように、プレハブの仮設住宅は、どれも平屋のようです。しかし、コンテナを使えば、2階でも3階でも、あるいはそれ以上でも積み重ねることが出来ます。

コンテナで学生寮, www.tempohousing.comバルコニーも取付可能, www.tempohousing.com

千人単位で入居も可能, www.tempohousing.com大規模なものでも建設可能, www.tempohousing.com

つまり、平屋の仮設住宅に比べ、同じ面積の用地で2倍3倍、あるいはそれ以上の数の仮設住宅が建てられることになります。高齢者の方など、上層階では辛いといったこともあるかも知れませんが、仮設建設の用地が決定的に不足している今回のような場合、有力な解決策となるのではないでしょうか。

実際の事例もあります。災害用ではありませんが、オランダ・アムステルダムでは学生寮に使われています。写真のように、高く積み重ねられるのです。もともとコンテナ船などで高く積めるようにつくられており、しっかり連結できるようになっていますので積み重ねても安全です。

コンテナとは思えない, www.tempohousing.com内装の例, www.tempohousing.com

廊下側に入口, www.tempohousing.com

内装の例, www.tempohousing.comバストイレ付, www.tempohousing.com

千人単位で収容できる本格的な学生寮も、安く簡単に建てられます。建設期間も短くて済みます。居住用につくられていますので、内装もしっかりしており、内側から見る限り、とてもコンテナとは思えません。片方は廊下をつけて出入口にしますが、個々のコンテナのもう片方にはバルコニーも取り付けられます。

元々、輸送時の排水なども考慮されているので、雨が溜まってしまうこともありません。積雪でも潰れません。家族の人数によっては、コンテナを2つ以上使ってもらえば広さも確保出来ます。2つ以上のコンテナを連結した間取りも設置可能です。そして、不要になったら、またコンテナとして移送すればいいわけです。



仮設住宅として使った後は、次に災害等で必要になる場合に備えて、どこかにストックしておけばいいでしょう。日本は地震大国ですから、必ずまた出番がくるに違いありません。地震や津波だけでなく、火山の噴火や、台風や集中豪雨による洪水、土砂災害など、残念ながら出番には事欠きません。

いざ災害が発生したら、コンテナ船か貨物列車で大量輸送し、近くの港や駅からトレーラーで搬入すれば、迅速に仮設住宅が設置出来ることになります。プライバシーの保てない避難所生活が長引くこともなくなります。そして平時には、ただ積んでおくのももったいないので、その間はホテルとして使ったらどうでしょう。

最近、日本の物価が高く、また円高なこともあって、海外からのバックパッカーなどの旅行者が、安い簡易宿泊所やカプセルホテルなどに泊まることも多いようです。彼らに安価に泊まってもらえる施設にすれば、観光立国に向けた訪日客の誘致策にもなります。東京などで、ホテルとして営業しながら非常時に備えるわけです。

コンテナでホテルも積み上げるだけで建設出来る

外装を整えればコンテナに見えない客室も見劣りしない

実際に、コンテナを学生寮だけではなく、オフィスやホテルに使った事例もあります。ロンドン近郊では格安ホテルチェーンが実際にコンテナでホテルを建てています。ユニットバスなどもついており、他のホテルと設備的には遜色のない部屋が設置可能です。

日本では、一時期カラオケボックスに使われた例もありました。ただ、すぐに常設の立派なものが増えたので、淘汰されてしまったようです。住居用として、永続的に使うには必ずしも向かないと思いますが、臨時の仮設住宅のような場合には、工期も短くすぐ入居出来る点で、まさにうってつけです。

実は昨今、北米を中心にコンテナが大量に余っていて、値段も下落していると言います。大量に買い付けて改良すれば、輸送費を含めても、仮設住宅を建設するより安くつくのではないでしょうか。何より、一回きりではなく、今後も使えますし、平時にホテルとして使えば費用を回収出来るかも知れません。

コンテナでレストラン



カナダ・モントリオールには、本格的な厨房設備を取り付けたコンテナを使い、広場に置いて飲食店とした事例もあります。ひさしや座席スペースも展開するようになっています。こうしたユニットを、仮設住宅の敷地内に利用者が集まるコミュニティスペースとして設置することも考えられます。

コンテナには、それぞれユニットバスを取り付けることが出来ますが、トイレ専用のコンテナも開発されています。アメリカのサム・ヒューストン州立大学の研究室が開発したもので、コンテナにトイレと小規模ながら独立した汚水処理プラントが内蔵されています。

トイレ用コンテナも

これを運ぶことで、迅速に被災地へトイレを設置することが出来るわけです。ハリケーン・カトリーナのような災害時だけでなく、アメリカの場合は戦争に使うことも想定しています。1日最大600人分の汚水を処理でき、最高6ヶ月間独立して稼働する能力があると言います。

そのほか、コンテナを仮設の博物館として使った事例もあります。中央アジアのキルギス共和国などでは、ドルドイと呼ばれる巨大なバザール、市場が、コンテナを使って建てられています。世界では、コンテナを輸送用だけでなく、建物として使っている事例が多数あるのです。

コンテナで博物館 Photo by Tempshill,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

ドルドイと呼ばれるバザール Photo by Vmenkov, licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

今回、大きな被害を受けたことで、各方面から防災体制を見直す必要に迫られるケースも多いと思います。防波堤などのハードに頼った津波対策だけでは足りないことも明らかになりました。今回の貴重な教訓を、これからの災害対策に生かしていかなければなりません。

しかし、災害そのものへの対策でなく、災害が起きた後の避難生活に対する備えについてはどうでしょう。災害大国・日本では、残念ながら仮設住宅が必要になる事態も往々にして起きます。しかし、必ずしも災害の後のフォローが万全とは言えない事例が続いてきました。

オランダのコンテナの家 Photo by JePe,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

今回も、せっかく津波を生き残ったのに、その後の避難生活で命を落とす、いわゆる震災関連死が増えていると言います。災害そのものへの備えが必要なのは当然ですが、大災害の後、否が応にもやって来る避難生活のことも考えておく必要があります。その点、災害多発国なのに、あまり経験が生かされているとは思えません。

苛酷な避難所生活を少しでも早く終わらせ、仮設住宅に移れるように備えておくことも求められます。復興に向けて立ち上がるためにも、長い避難所生活で被災者を疲弊させてしまうのは避けなくてはなりません。コンテナによる仮設住宅、今後のためにも、考えてみる余地があると思います。





こうした話も、平時にはピンと来ないと思います。こういう時こそ考えておくべきだと思うので取り上げてみました。なんとか被災地の方々が早く入居できるよう願いたいものです。

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この記事へのコメント
「サイクルロード〜自転車への道」お気に入りに登録して、いつも見て、楽しんでいます。すごい情報量と視点の鋭さにびっくりです。建築、まちづくり、自転車、海外旅行、トラム好きの私にはとても勉強にもなってます。

 東日本大震災の被災地支援で私自身は、4月〜5月に3回宮城県、岩手県を訪れました。建築仲間と音楽仲間と住まいの相談会や避難所に支援物資と音楽を届ける活動をしています。
 仮設コンテナは、良いアイディアだと思います。海外の情報を見て、私も住んでみたくなりました。知り合いの設計者で具体的に考えましたが、受け入れなど難しい問題もあり、「コンテナお風呂」をつくり、5/23に東松島市に設置されました。お風呂はとても喜ばれているようです。
 詳細は下記に(^_^)

http://www.fukkoushien-nuae.org/2011/05/18/福永博建築研究所ほか-サニタリーユニット現地設置/

http://fari.co.jp/
Posted by Live Love発信人 at May 25, 2011 08:34
Live Love発信人さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
単なる素人考えと言いますか、海外では例があるのに、なぜ日本の仮設住宅に取り入れないのだろうという素朴な疑問だったわけですが、専門家の方に、そう言っていただけるところを見ると、あながち的外れな話というわけではなかったようですね。
コンテナのお風呂はテレビのニュースで見ました。ちょうど記事を書いた後だったので、やはりコンテナの利用を考える方もいるのだなと思いました。
仮設住宅そのものに使って、縦に積み重ねることで、設置面積が何分の一かで済むというメリットを活かし、用地不足を打開するところが出てきてもいいと思いますが、現実にはいろいろ問題もあるのでしょうね。
過分におほめいただき恐縮です。いつもご覧いただき、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at May 25, 2011 23:41
 
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