例年より、かなり早い梅雨入りです。自転車乗りにとっては、憂うつな季節が始まりました。計画停電による交通機関の混乱の影響もあって、今年から自転車通勤を始めた人も多いようですから、朝、自転車で行くかどうか迷う人も増えているのではないでしょうか。
朝から雨なら諦めもつきますが、困るのは朝、晴れていても、雨が降るか微妙な日です。大丈夫と判断して、自転車で出かけたものの、帰る頃には雨ということもあります。中には、どうせシャワーを浴びるからと、雨中を走行する人もいますが、雨が降ったら、やはり電車などで帰る人が多いと思います。
もう一つ、行きは自転車でも、帰りは電車にせざるを得ないのが、お酒を飲んだ場合でしょう。自転車通勤なので、会社帰りには飲まずに、家に帰ってから飲むという人も多いと思いますが、つき合いや断れないような場合もあります。
もちろん、飲んでしまったら自転車で帰るわけにはいきません。道交法違反で検挙されれば懲役刑まであります。自分では大丈夫な気がしても大変危険ですし、最近は実際に検挙もされています。最寄り駅からならばと、ほろ酔い加減で乗っているような人も見ますが、自転車であっても飲酒運転は厳禁です。
ところが、アメリカ・ミネソタ州には、飲酒しても合法的に乗れる自転車があります。その名も“
CityCycle”です。15人乗りの自転車で、そのうち14人は向かい合わせに乗ってペダルをこぎます。この自転車、『酒を飲んでいても、ハンドルは握っていない』のです。
日本風に言えば、走る屋台という感じでしょうか。ハンドルを握る一人だけは飲酒出来ませんが、あとの14人は、お酒を飲んで談笑しながら、ペダルをこぐわけです。路上を移動しながらパーティーが出来る自転車です。7対7の合コンにも使えます(笑)。

アフターファイブは飲みにも行きたいし、ジムでエアロバイクもこぎたいし、なんていう人は、矛盾するようですが、同時に出来ることになります。これから暑くなれば、路上で風を受け、夕涼みしながらの一杯は格別でしょう。路上での移動ビヤホールにもなります。
ところで、ここまで読んで、どこかで聞いたことのある話だなと思った方もあるかも知れません。サイクルロードを以前から読んでくださっている方なら、ご記憶の方もあるでしょう。4年ほど前の記事でも似たような自転車を取り上げたことがあります。“
PedalPub”という自転車です。

しかも、場所は同じアメリカ・ミネソタ州です。今回の記事、実は4年前の記事の、言わば続報です。前回の記事で、この“PedalPub”がミネアポリスに登場して、一部の自転車乗りと一部の酒飲みの間で話題になったと書きました。ただ、実際に走るパブとして一般向けに営業していたわけではありません。
この自転車を、ドライバー込みでレンタルするというスタイルです。イベントや仲間同士でのパーティーなどで、走る貸し切り会場として使うわけです。しかし、実際には、ミネアポリスの公道上で自転車に乗りながらの飲酒は出来ないので、飲める場所で止まっている間に飲んで、移動している間は飲めないというものでした。

これでは、飲みながら風を感じて夕涼みというわけにはいきません。そこで、いろいろな経緯を経て、ミネソタ州の州法が改正され、晴れてペダルをこぎながら飲酒が出来るようになりました。もちろん、普通の自転車で飲酒運転出来るわけではなく、この“PedalPub”ように、ハンドルを握らない場合に限ります。
今回の“CityCycle”は、Rhett Reynolds さんという人が、アメリカの“
Caztek Engineering”社に依頼して、新たに開発されたものです。この夏から営業を開始する予定だと言います。ミネソタ州のミネアポリスとセントポールでお目見えすることになっています。

前回の“PedalPub”は、元々オランダ生まれで、“Fietscafe”と呼ばれる「モバイルパブ」でした。ヨーロピアンテーストでレトロな感じの「自転車カフェ」の外観、個人的にはいいと思うのですが、“CityCycle”は現代風、アメリカ風に生まれ変わりました。
長さ約6メートル、幅約2メートルで、バーカウンターにはビールサーバーが搭載されます。照明はLED、6台のスピーカーによる音響システムを備え、66リットルのクーラーボックスも装備されています。前後にはパンパー、もちろんライトやブレーキランプなどもついています。
乗客用に14席あります。満席で全員こがなくても進むとは言うものの、最低10人程度はこぐ必要があるようです。最高速は、およそ11キロと、意外にスピードも出ます。さすがに新しく開発され、フレームの軽量化などが図られているだけあります。
今後は、他の州の都市での営業も計画していると言います。ただ、アメリカでは、自転車に優しい州もあれば、あまりフレンドリーとは言えない州もあります。どこでも簡単に許可が下りるわけではなく、許可をとるのが難しい都市もあるので、一気に全米に普及するのは期待できないようです。
自転車に乗っても、ペダリングとハンドリングを分ければ、飲酒運転にならないだろうという理屈です。この点は、日本の道交法でも想定されていないでしょう。少なくとも違法と明記はされていないと思います。おそらく運用で、各都道府県の条例か細則で決めることになると思われます。
日本の道路事情では、なかなか許可は下りにくいと思いますが、日本人もビヤガーデンや屋台、花見など、屋外で飲むのが嫌いではありません。屋形船とかお座敷列車など、乗り物とお酒の組み合わせもいろいろあります。そんな背景から考えると、こんなビヤホール自転車が出来たら人気が出るかも知れません。
帰る方面別に営業していたら、アフターファイブに、ジムでエアロバイクをこぐのと、お酒を飲むのと、自転車通勤が同時に出来て一石三鳥です(笑)。飲んでしまうと帰るのが面倒になる人は多いと思いますが、そろそろ帰るかという時に家の近くなら便利です。もう少し屋根を大きくすれば、多少の雨でも問題ないでしょう。
後ろに普通の自転車を載せられるようなトレーラーでも連結してあれば、さらに便利です。つまり、自転車通勤している人が、雨が降った時に自分の自転車を積んで帰れます。これなら翌日も自転車通勤出来ます。行きの2〜3倍、時間はかかると思いますが、飲みながら帰れるので良しとしましょう(笑)。
実際には、都市部での許可は難しいかも知れません。でも、観光地だったらどうでしょう。お酒を飲ませるのではなく、昼間の観光用に使うのであれば、問題はなさそうです。観光客を乗せ、自分たちでペダルをこいでもらいながら、ガイドがハンドルを握り、案内しながらコースを巡るスタイルも考えられます。
よく、観光スポットの前にズラリと観光バスが並んで、付近の渋滞をひき起こしていることがあります。そのスポットに駐車場が少ないと、客が観光している間、バスが路上に待機することもあります。団体客の乗り降りのために仕方がないのでしょうけれど、他の人には迷惑です。
客が戻ってきた時のために、冷暖房をつけておく都合上、アイドリングしたままのバスもあります。周囲に排気ガスが漂い、排熱もあって夏場などは余計に暑いですし、景観上も良くありません。観光施設側は、お客を連れてきてくれる以上、文句も言えずに対応に苦慮することになります。
実際、こうした場所は少なくないと思いますが、多少距離が離れても観光バス用の駐車場を確保し、観光客には、そこからこの“City Cycle”に乗り換えてもらうという手もあるかも知れません。観光施設と駐車場の間の連絡用に、この“City Cycle”を運行させるのです。

バス会社も駐車場に停められるほうがありがたいはずです。観光客は、その観光施設だけではなく、周辺も含めて町を楽しむことが出来ます。走りながら景色を眺めたり、ガイドの話を聞きながら観光が出来ます。もちろん、グループで会話を楽しみながら移動することも可能です。
観光地としても、そのスポットだけでなく、周辺の町並みなどを含めて見てもらうことが出来、この自転車乗車体験そのものも、一種の観光資源に出来るかも知れません。個別に自転車で移動するのと比べ、事故やトラブルも起きにくいと思います。観光スポットと広い駐車場が遠いという弱点が強みになる可能性があります。
場合によっては、軽食やお茶を飲みながらの移動も出来るでしょう。お客も、普通に歩いて回るより面白いと思います。歩くより3倍速いので、観光コースを見て歩く時間も短縮できます。バスのように居眠りしていて、途中の街の印象が残らないということもありません。
シャトルバスで連絡することも考えられますが、自転車だと、周りの音や匂いや風まで感じられ、町をじかに感じることが出来て、バスよりずっと印象に残るはずです。もちろん、場所によっては夜のコースで、飲酒しながらというのも設定出来るでしょう。普通のパブと違って、必要な時だけ営業出来て効率的です。
私も前回、『自転車パブ』というスタイルを面白いと思いましたが、あまり現実的とは捉えていませんでした。ところがアメリカでは、州法の改正を働きかけ、一般営業にまでこぎつけています。なんでもそうですが、面白いけど現実には難しいなどと、固定観念で決めつけるべきではないと言えそうです。
これだけ梅雨が早いと、夏も早くて長くなりそうです。今年の夏は、暑そうですね。