もちろん、最寄り駅まで自転車で行くことではなく、自宅から勤務先まで直接自転車で行く自転車通勤です。これまで、自転車通学は学校まででも、自転車通勤は、多くの場合最寄り駅までと受け取られるのが一般的でした。それが、職場まで直接自転車で行くのが自転車通勤だと広く認知され始めています。
言うまでもなく、短期的には東日本大震災による帰宅難民の大量発生や、その後の計画停電などによる交通機関の混乱で、自転車通勤する人が急激に増加したことが影響しています。自転車自体がブームで関心が高まっていたところへ、自転車通勤の増加が一種の社会現象のような形で注目されています。
震災以前から、自転車通勤する人は増えていたものの、まだ一部の自転車好きに限られていました。それが、震災後の混乱で、普通の人でも自転車通勤をする、あるいはせざるを得ない状況になりました。電車が遅れると仕事に差し支えるとか、渋滞が予想されるので否応なしに自転車にした人もあったはずです。
やってみたら、意外とラクに行ける、電車と比較しても、たいして所要時間が違わないことを知った人も多かったに違いありません。朝、運動することで頭がスッキリして仕事がはかどるとか、体重が落ちて健康になったと実感した人も多かったのでしょう。
普通であれば、計画停電が終わり、通常の状態へ回復するにつれ、通勤手段も電車に戻ると思いますが、そのまま自転車通勤を続ける人も少なくないようです。一度体験してしまうと、ラッシュアワーの満員の通勤電車より、自転車通勤のほうが、よっぽどいいと感じる人も多いのでしょう。
自転車が流行っている。それもかつてない勢いだ。ブームがピークを迎えてかれこれ一段落していたところに、震災とそれにともなう計画停電による都市交通の麻痺が拍車をかけた。いまや自転車通勤はちっとも特別なものではなくなり、そうした通勤者をサポートするために、都心のオフィス街には自転車を保管するシャワー付きガレージまで出現している。(後略、「流行の自転車。収納はどうしてる?」 5月31日 朝日新聞)
朝日新聞のコラムの一部ですが、『いまや自転車通勤はちっとも特別なものではなくなり』というのが、一般的な印象になりつつあるようです。自転車通勤が認知されるどころか、ごく普通の通勤手段の選択肢の一つとして考えられ始めていると言えるのかも知れません。大きな変化です。
自転車通勤だけではありません。自転車が身近なアシとしてだけでなく、現代の都市交通の手段として大きなポテンシャルを秘めており、世界の都市を変える可能性があること、あるいは変えつつあることも、だんだん知られるようになってきています。
ご覧になった方も多いと思いますが、NHKの人気番組、「クローズアップ現代」でも、先日そのことが取り上げられました。自転車ブームについては、これまでも取り上げられてきましたが、今回は、そのタイトルも、「『ツーキニスト』が世界を変える」というものです。先月25日に放送されました。
都内に勤める、ある自転車ツーキニストの様子を紹介し、急増する自転車通勤の実態を報告しています。同時に、それが路上での混乱をもたらし、昨今の自転車ブームともあいまって、マナーの悪化や歩行者との事故の増加などの問題点も指摘する内容になっています。
自転車の走行空間の整備が遅れ、40年来、日本では世界の非常識である自転車の歩道走行が続けられてきました。本来は緊急避難で歩道走行させたにも関わらず、それが常態化してしまっているのです。そこで最近は、ようやく国交省も自転車レーンの設置実験をしていることなどが紹介されています。
しかし、その距離は短く、7割は歩道上に設置されていると言います。対面通行にしたり、柵を設けるなど自転車レーンの構造にも問題があり、違法駐車のクルマにレーンが占拠されていたりするというのが実態です。場当たり的で、根本的な解決とは程遠い状況であることがわかります。
そこで、オランダ、イギリス、ドイツなど、世界の状況へと番組は展開します。世界の都市で自転車が見直され、都市交通としての活用が拡大している様子が紹介されます。都市の交通手段として自転車が使われることにより、渋滞の緩和や、温暖化ガス削減効果も見込まれているのです。
それだけでなく、市民が自転車に乗ることで、生活習慣病の減少が期待されており、実際に医療費の大幅な削減にもつながっていることが報告されています。都市での通勤手段に自転車が使われることで、クルマ中心の都市から、人間本位の街づくりへというのが、世界の潮流になってきていることも指摘されています。
まさに、自転車ツーキニストが世界を変えると言うべき事態が進行しているわけです。日本では、単に震災の影響として捉えられていますが、世界の潮流として、自転車が活用され始めています。日本でも、テレビでこうした内容が取り上げられるようになったこと自体、以前とは様変わりした観があります。
特にロンドンで進行中の「自転車革命」については、具体的に取り上げています。ロンドン市民も、かつては自転車を子供や学生の乗り物だと見ていました。それが、自転車の活用拡大への大きな障害でもあったわけですが、当局がテレビCMなどでイメージアップを図ったことで、人々の意識も変わったと言います。
ロンドンでの同時多発テロの被害で地下鉄が長期にわたって止まり、人々が自転車で通勤せざるを得なかったことも大きなきっかけになりました。そして、なんと言っても、ロンドンのボリス・ジョンソン市長のリーダーシップがあります。
ロンドンで巨額の予算を投じ、その名も「自転車革命」を進めると宣言し、自転車レーンや自転車シェアリングの導入を進めました。スーパーハイウェイと呼ばれる、言わば自転車の高速道路も整備し、安全で快適、しかも速く走れると市民には好評です。こうしたインフラ整備の重要性は明らかです。
番組内で、ロンドン交通局の担当者が、「自転車こそ最もクリーンで環境に優しい交通手段だ。『自転車都市』こそ、真の先進都市だ。」と断言しているのが印象的です。しかし、ヨーロッパでは、さして驚くような考え方ではありません。自転車に優しい都市のほうが進んでいるというのは普通の感覚になりつつあります。
多くの日本人にとって自転車はママチャリのイメージしかなく、そのポテンシャルや社会での位置づけがピンとこないかも知れません。でも世界では、国家戦略として自転車による社会の変革を目指す、大きな潮流が進みつつある事実が、具体的に取り上げられています。
自転車を最重要の交通手段として位置付け、環境や渋滞、医療費の高騰など、さまざまな社会問題を解決する切り札として、自転車革命を進めるロンドンは、とても参考になる事例です。自転車のイメージが悪く、正しく理解されていなかったこと、地下鉄のテロや震災という不幸な事件が活用を加速させた面は日本と似ています。
もちろん、違う面も多々あります。首長がここまで理解し、真剣になって施策を進めるようなリーダーシップは、なかなか期待出来ません。自転車が交通政策や環境政策、そして医療費対策として重要な役割を果たすことへの理解や、国家戦略として位置付けるような、コンセンサスも不足しています。
そして、歩道走行という点が大きく違います。日本人は、自転車を徒歩の延長のように考えているので、傘をさしたり、ケータイを使いながら平気で走行しています。自転車は「車両」であり、車道を通るのが当然だという意識の欠落が大きな問題でしょう。
自転車が車道を正しく走行し、また車道にその空間が確保され、車両としての自転車のルールが理解され、正しく守られるならば、事故は劇的に減るはずです。不幸な事故を減らすためにも、日本の都市でもロンドンの自転車革命のような変革が期待されます。
今般、震災という不幸なきっかけだったにせよ、自転車通勤する人が増加し、それが社会的にも認知されつつあるのは、自転車走行空間の整備を進める絶好の機会です。クルマ優先から、人間本位へと転換し、もっと有効に自転車を活用しようという機運も、いつになく高まってきています。
残念ながら、路上の混乱が助長され、危険な状況が加速している事実もありますが、この機会に、新たな秩序を構築しなければ、相変わらず歩道で自転車と歩行者が混在し、事故が起きる状態が延々と続くに違いありません。今こそ、40年間の交通政策の誤りのツケを払うべき時ではないでしょうか。
番組の中でも指摘されていますが、単なる自転車通勤ブームとして片付けるのではなく、人々のライフスタイルに対する考え方の変化として捉えるべきでしょう。つまり、起こるべくして起きているシフトであり、クルマ中心から人間中心へ、人々の意識の変化でもあると思います。
一過性の過熱も無いとは言いませんが、自転車通勤の増加は、日本だけの現象ではありません。エネルギーの使い方やライフスタイルを考える人々の意識の変化という面では、ある意味、必然として起こっていることかも知れません。歩行者との事故を防ぐためにも、いずれ必要な改革でもあります。
海外の事例を見れば、長年にわたって自転車の走行空間の整備を怠り、そのぶん歩道を広げて混在させてきたのが間違いだったのは明らかです。自転車通勤が単なるブームで、その対応が必要なのではなく、本来あるはずのものが欠けている事実を気付かせ、当然必要な間違いの修正を促すものと見るべきではないでしょうか。
静岡県知事が態度をコロッと変えたようです。検査拒否は、余計に風評被害を招くのが、ようやくわかったのでしょう。まるで出るのがイヤで拒否したように見られるのに、愚かと言わざるを得ません。出たら東電に賠償請求すべきで、検査を拒否して消費者に被曝を押し付けるべきではないでしょう。
私は、週末の仕事は川越街道(埼玉県朝霞市あたり)を自転車で走ります。川越街道は道幅はあるものの、車線の幅が狭く、私の右肩スレスレを大型トラックが抜いて行ったり、幅寄せしながらクラクションを鳴らす不心得者ドライバーが多いです。
自転車専用道なんて、日本では無理だと思います。ジテツーを増やすため実現可能な線は、「ドライバーが自転車を安全に追い抜ける幅の車道を作ること」に尽きると思います。片側2車線道路であれば、中央寄りは普通幅で、外側の車線は1メートルプラスしてもらえれば、自転車に乗っていて安全感は雲泥の差だと思います。