June 27, 2011

基本の以前に前提となるもの

今月、国会で基本法が成立しました。


復興基本法が成立したのは20日です。被災地の復興を急ぐためにも、成立が待ち望まれていたのが復興基本法ですが、それよりも3日早く、今月17日に成立した基本法があります。大きく取り上げられなかったので、あまり知られていませんが、スポーツ基本法です。

もちろん、復興基本法をそっちのけで審議していたわけではありませんし、震災以前からの懸案としてあったのでしょうから、3日早かったことに意味はありません。ただ、復興対応が急がれ、またその関連に関心が集まる中、国会では不急な法律も成立しているわけです。ちょっと長いですが、毎日新聞から引用します。


スポーツ基本法:成立 「スポーツの権利」盛る 国家戦略として推進

超党派の国会議員からなる「スポーツ議員連盟」(会長・麻生太郎元首相)が提案したスポーツ基本法が17日、参院で可決、成立した。国のスポーツ振興の根幹をなす法律で、国や地方公共団体の責務などが明記され、付則には「スポーツ庁」設置の検討も盛り込まれた。法案成立を受け、文部科学省は具体的なスポーツ基本計画の策定に取りかかる。

基本法は1961年に制定された「スポーツ振興法」を50年ぶりに全面改正したもの。前文には「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことはすべての人々の権利」とし、振興法にはなかった権利規定が記された一方、スポーツ立国を目指す「国家戦略」として施策を推進する方針が示された。障害者スポーツの推進やスポーツ産業との連携、ドーピング防止も条文化。スポーツ団体には運営の透明性を求めている。

また、地域スポーツの中から優秀なスポーツ選手が生まれ、その選手が地域に還元する「好循環」がスポーツの発展につながるとした。国体や全国障害者スポーツ大会への援助のほか、五輪など国際競技大会の招致・開催でも国が資金確保のための措置を講ずる。

スポーツ議員連盟の奥村展三幹事長(民主)は「振興法から50年、日本体育協会創立100周年の節目に、法律が成立したことには意義がある。これをベースにスポーツを楽しんでもらえるように環境作りをしていきたい」と話した。

また、遠藤利明・幹事長代理(自民)は「国の責務などはあくまでも出発点であって、悲願のスポーツ庁設置に向けての大きな種火ができた」と歓迎した。

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スポーツ基本法成立■解説

◇個人と国、どう調和

スポーツ界にとっての「憲法」ともいえる「スポーツ基本法」が誕生した。スポーツの権利を明記したことと、国家戦略としてのスポーツ推進を位置づけたことが大きな特徴だ。

前文では「幸福で豊かな生活を営むことはすべての人々の権利」と定め、個人の自主性や適性を尊重することが基本理念として示された。しかし、スポーツは「我が国の国際的地位向上にも極めて重要な役割を果たす」「国民経済の発展に広く寄与する」とも記され、スポーツの政治的、経済的利用の色もにじませた。

五輪などの国際大会について「国は招致、開催に必要な資金を確保する」としている。この日、東京都の石原知事は20年夏季五輪の招致に意欲を示した中で、「国がしっかりしていれば借金してでも五輪はできる」と発言。前回の16年五輪招致で国家支援が乏しかったことを敗因として示唆した。

 基本法は、国民のスポーツに対する権利を認めながら、一方で選手強化や国際大会の招致で国家が強く関与する姿勢を打ち出している。JOCの竹田恒和会長は「五輪などでしっかり結果を出す必要がある」と、今まで以上に重圧がかかることを覚悟する。個人と国家のかかわりをどう調和させるか。それは国民、国、スポーツ界すべての今後の課題になる。

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◇スポーツ基本法のポイント◇

■スポーツの意義と権利

・スポーツは世界共通の人類の文化
・スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、すべての人々の権利

■スポーツの価値

・地域の交流を促進し、地域の一体感や活力を醸成する
・国際大会での選手の活躍は、国民に誇りと喜び、夢と感動を与え、国民のスポーツへの関心を高める
・国民経済の発展に広く寄与する
・国際相互理解を促進し、国際平和に大きく貢献する
・国際的地位の向上にも極めて重要な役割を果たす

■スポーツ団体による統治と紛争処理

・スポーツ団体は運営の透明性の確保を図り、順守すべき基準を作成するように努める
・紛争解決のため、中立性、公正性の確保、権利利益の保護を図る

■スポーツ基本計画

・文部科学大臣はスポーツに関する総合的かつ計画的な推進を図るため、基本計画を定める

■地域スポーツ

・国、地方公共団体は住民が主体的に運営する「地域スポーツクラブ」が行う事業への支援、指導者の配置、施設の整備などに努める

■競技力向上

・国は優秀なスポーツ選手を育成するため、スポーツ団体が行う合宿、国際競技大会などへの選手の派遣、スポーツ選手の技術の向上に必要な施策をする

■障害者スポーツ

・障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の程度などに応じ必要な配慮をしつつ推進する

■国際大会の招致

・国は国際大会の招致が円滑になされるよう、社会的機運の醸成、資金の確保、外国人の受け入れなどに特別な措置を講ずる

■ドーピング防止

・国は国際規約に従って、検査、教育、啓発などの体制の整備や反ドーピング機関への支援を進める

■スポーツ庁(付則)

・行政改革との整合性に配慮して検討を加え、必要な措置を講ずる

(毎日新聞 2011年6月18日)


基本法ですので、スポーツに対する国の理念や、基本方針が示されているに過ぎません。スポーツの振興を進めていこうということですし、それ自体は悪いことではありません。あまり大きく報道されなかったところを見ても、特に問題となる部分もなさそうです。

50年前の法律を全面改正し、より現実に即したものにしようということなのでしょう。個人的にも自転車をはじめ、いろいろなスポーツを楽しむほうなので、スポーツ全般の振興が図られることに異論はありません。しかし一方で、多少違和感を感じる部分もないわけではありません。

スポーツ基本法スポーツは人々の健康増進にも寄与しますし、確かに国際平和や世界の国々との相互理解に貢献する部分もあります。でも、はたして「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことはすべての人々の権利」とまで踏み込む必要があるのでしょうか。

幸福で豊かな生活を営む権利はいいとしても、それがスポーツを通じて得られるかどうかは、人それぞれのような気もします。運動が苦手で、嫌いという人もいるでしょうし、スポーツを見る事に興味がない人もいるでしょう。スポーツは全くしない、したくない人だって少なくないはずです。

スポーツは好き好きですし、人それぞれでいいと思います。振興法にはなかった権利規定をわざわざ明記してまで、スポーツは権利を主張するようなものではない気がします。その権利が阻害されたからと、被害の回復や国家の救済を求めたりするものでもないでしょう。

あまりにスポーツばかりを特別なものにすると、学校でスポーツが苦手な子供は、苦痛が大きくなるかも知れません。スポーツをしたくても出来ない人もいます。果たして、スポーツ自体に特別な地位を与える必要があるのだろうかと思ってしまうのは私だけでしょうか。

スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことが、全ての人の権利ならば、美術鑑賞を通じて幸福で豊かな生活を営むことも全ての人の権利でしょう。それが、音楽演奏であっても、読書であっても、サブカルチャーであってもいいはずです。スポーツだけ特別にする必要があるのでしょうか。

スポーツ基本法成立付則にはスポーツ庁の創設まで触れられています。基本法ですので、すぐどうなるということではありませんが、これが個別法の成立をうながし、スポーツ庁の設置への第一歩になりうるのは間違いありません。文化庁があるのだから、スポーツ庁があったっていいだろうという議論になっても不思議ではありません。

組織が出来れば、予算がつきます。そして、その予算の執行を巡って権益が生まれます。利権に群がる人が増え、やがては既得権となって、国家の財政の硬直化した部分を構成するに違いありません。そうした例は、これまでにも数多く繰り返されています。

スポーツの振興のために予算が割かれることが、必ずしも悪いとは言いません。しかし、他の例を見ても、無駄な使い方になるだろうというのは容易に想像がつきます。例えば、貿易の振興は国家の利益です。予算もとられ、さまざまな施策がとられます。

しかし、その末端では、わけのわからない団体がつくられ、愚にもつかない雑誌やパンフレットを作るくらいで大した仕事もせず、天下りした団体役員だけが莫大な報酬を得ているケースは少なくありません。貿易の振興という金看板の元に、市民が見たら、誰もが無駄と断言するような組織が増殖していくことになります。

雇用の安定は国民の利益ですが、問題になった「私のしごと館」のような意味のない施設がつくられることは、利益どころか損害でしかありません。本当に、市民のためになる施設が出来るならいいですが、これまでの例を見る限り、到底期待出来ません。

スポーツ基本法成立スポーツは国民の健康を増進し、国民医療費の低減にも貢献します。スポーツの振興が図られるのは意味があることだと思いますが、無駄な組織が増殖するだけという可能性が否定できません。そうした組織に限って、誰も使えないような無駄な施設を平気でつくります。そんな例は数多く、喜ぶのは一部の業者だけです。

50年前の法律は違いましたが、今回はプロスポーツも対象になっています。スポーツの振興が新たな産業を興したり、娯楽としての需要を喚起し、国民経済の発展に寄与することは認めます。しかし、国が直接スポーツに口を出すより、民間に任せたほうがいいのではないでしょうか。

国が優秀なスポーツ選手の育成をするなどとなっていますが、国が関わることで効率が悪くなり、かえって逆効果になることも多いはずです。既得権に守られた硬直的な組織を生むもは目に見えています。例えば、日本相撲協会のような腐敗した組織をのさばらせ、かえって国民の楽しみを奪う可能性も高いのではないでしょうか。

オリンピックやサッカーワールドカップは国民的な盛り上がりを見せます。国としての支援や補助が必要な部分もあるでしょうが、国が直接強化を図るのが必ずしも正解ではない気がします。民間で競争し、切磋琢磨することで競技レベルを上げるほうが効率的という場合も多いのではないかと思います。

スポーツが盛んになることは、国が平和で豊かな証拠であり、まことに好ましいことです。しかし、わざわざスポーツ基本法を定めて、ゆくゆくはスポーツ庁をつくり、予算を獲得し、と政治的な思惑が見え隠れしているのも事実でしょう。基本法は、将来の無駄をつくる第一歩でもあります。

むしろ今、国会に求められているのは、将来に負担を先送りすることなく、スポーツ関係にも十分お金を使えるような財政であり、国家予算の硬直的な部分を形成する無駄な組織、いわゆる税金の無駄をいかに排除するかということだと思います。スポーツ基本法よりもっと基本的な部分から始めてほしいものです。





しかし、復興そっちのけで権力闘争ばかり、期待するほうが無理ですね。基本の基本、それ以前ということかも知れません。


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この記事へのコメント
18歳のバイク事故による脳挫傷の後遺症:大学生の発達障害と思う。 心身に障害を抱える人が世界で少なくとも10億人と言われており、コレは世界の人口全体の約15%にあたるそうです。
Posted by 智太郎 at June 28, 2011 18:11
いつも楽しく拝見させていただいてます。

ボクは、スポーツっていわゆる運動だけではないと思うんです。音楽も絵画も「身体」を出発点としている点で、スポーツだと思います。
西欧ではチェスもスポーツとして考えられていると言うではないですか。だから、将棋や碁、オセロだってスポーツの一種だと思います。
身体を動かす、ということであれば、演劇だってそうですし、音楽も然り。中学高校時代のブラスバンド部は基礎練習として腹筋を鍛えていましたし、演劇で舞台に立つためには、中途半端な体力では演技が成り立ちません。
だから、スポーツという言葉で、すぐに「体育」を連想してしまう私たちの認識枠組みをもっと変えていかなければならないと思いますがどうでしょうか。
ともすれば経済合理性を追求することだけがこの世の中で唯一至高の価値であると思わされてしまうシステムの中で、もっと人生を愉しむ余裕が権利として求められてもおかしくないと思います。
Posted by 木蓮 at June 28, 2011 23:51
智太郎さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
スポーツの効用を認めるにやぶさかではありませんが、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことが、すべての人々の権利とまで規定するのには、違和感を感じるのも確かですね。
Posted by cycleroad at June 29, 2011 00:18
木蓮さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たしかに、頭脳のスポーツというような言い方をしますし、例えばプロ棋士の対戦などは、体力的にも厳しい、実際にスポーツと言ってもいいくらいの苛酷な勝負のようです。広い意味でスポーツと言ってもおかしくないでしょうね。
そうした広い意味でのスポーツ、活動ということなら、また話が違ってくるでしょうが、このスポーツ基本法は、いわゆるスポーツ、狭義のスポーツを扱っています。
スポーツという言葉の定義はともかく、人生を愉しむ権利を否定するつもりはありません。
むしろ、そうした広い意味ではなく、狭い意味でのスポーツだけを取り上げて、すべての人々の権利と規定することに、違和感を感じるわけです。わざわざスポーツの権利だけを規定することに、政治的な意図を感じてしまいます。
Posted by cycleroad at June 29, 2011 00:21
こん○○は。
この話は本記事で初めて知りました。

「国家は戦争をするために存在し、省庁の施策は国家の戦争計画そのものである」毎日の引用記事、「国」の字だらけで反吐が出そうでした。より優秀な兵士を作り、軍隊を編成する可く制定された優生保護法を補強するもの、とは考え過ぎでしょうか?1995年の宗教法人法「改正」といい、管理・統制は一見どうでもよさそうなところから推し進められていくものです。

人の幸福追求の形・手段はそれぞれにあり、今日ではその殆どが厳格なレギュレーションの下運営されていますので合法ということになってはいますが、もともとsportと言えば「ふざける」「憂さを晴らす」「愚弄する」「タコしばきにする」「嘲笑う」「サボる」「バクチを打つ」「身上潰す」の意、およそマットウな神経の持ち主がやることではありま…あッ、私も他人のこと言えないや!
Posted by alaris540 at June 30, 2011 14:57
cycleroadさんはじめまして。
はじめてコメントさせていただきます。

今回の法律は世界の常識に沿ってのものだと思いますが
よく「日本の常識世界の非常識」と揶揄されるからといっても世界常識が絶対正しいとはいえないとおもいます。

今年のツール・ド・フランスは国家間競争の様相がよりいっそう強くなっています。このような流れに日本のスポーツ界も追従するのが正しいとは思えません。

世界の潮流にあえて「NO」を唱えるのが日本の役割だと思います。
Posted by bluecycle at July 01, 2011 09:17
alaris540さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も、たまたま気づいたのですが、あまり報道されませんでしたね。
商業的、政治的な思惑は絡んでいる感じがしますが、優生保護法の補強というのは考え過ぎのような気がします。
過去には国民体力法など、軍事的な意図をもった政策が進められた歴史があるのは確かですが、さすがに、今の時代に軍国主義的な意図はないと思います。
仮に、そんな思惑があるのだとしたら、大騒ぎになると思いますし、さすがの日本国民も黙っていないでしょう。
むしろ、新たな利権を生む思惑が見え隠れしますし、スポーツを国民の権利とまで規定するのには違和感を感じますね。
Posted by cycleroad at July 01, 2011 22:25
bluecycleさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
世界の常識というより、オリンピックやW杯などの持つ大きな経済効果や利権を、国益として無視できないと考える国が増えた、国際的な趨勢という感じなのでしょう。
国と国がせめぎ合う国際社会の現実は、ものごとが倫理やきれい事ではなく、力関係によって動くのは否定できないと思います。
必ずしも正しいこと、正義が行われるとは限らず、国益と国益がぶつかりあうのが現実なのでしょう。ただ、それが、スポーツの場にまで色濃く反映するのが、どうかという問題はあるでしょうね。
国際的なスポーツが、国益が絡んだ利権の奪い合いや、商業主義や、ドーピングなど手段を選ばない争いとなっていることが、いいとは思いません。しかし、こうした場で日本がNOと言っても、まるで効果を持たないような気もします。ただ、競争の場から外れる、外されるだけでしょう。
それでも、あえてNOと言って、争いに加わらないという選択肢はあるかも知れませんね。
(同文のようなので、一つ削除させていただきました。)
Posted by cycleroad at July 01, 2011 22:59
こんにちは。

少し脱線するかもしれませんが、日本には「たばこ事業法」なる法律があります。これを要約すると「国民の健康を害してもいいからタバコを売ることで国の発展を促進する」という悪法だったと思います。

スポーツで健康を促進する前に、健康を害するタバコを国が率先して販売するような仕組みを改善するのが先だと思います。

たばこ事業法が無くならない(日本がJTの株を未だに大量保有している)のは、天下り官僚が影響しているという説があります。ここでも天下り官僚が悪さをしているようです。
Posted by さすらいのクラ吹き at July 04, 2011 23:48
さすらいのクラ吹きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ここでのスポーツは、必ずしも健康促進だけが目的ではないようで、たくさんの意義を掲げています。たばこだけと対比させるのは、多少無理があるかも知れません。
しかし、おっしゃるように、たばこについては、WHOのたばこ規制枠組条約に署名する一方で、たばこ事業を促進するというのも矛盾する話ですよね。
国民の健康を増進し、医療費の高騰を抑えようとするなら、当然避けて通れない部分であり、まずは、こうした部分に手を付けるのが先というのは、その通りだと思います。
Posted by cycleroad at July 05, 2011 00:27
 
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