日本と他の国とで反対になっていることはいろいろあります。
たくさんあると思いますが、自転車への対応もその一つでしょう。報じられる各地のニュースを見ると、日本の自治体は、さまざまな手を使って放置自転車を減らそうとしています。迷惑駐輪された自転車の撤去・移動を強化したり、自転車駐輪禁止区域を拡大したりして、街から放置自転車が減ったと成果を誇ります。
一方、自転車先進都市として名高い、デンマークのコペンハーゲンでは、市民に自転車の利用を奨励し、街に自転車があふれています。自転車レーンが整備され、街のあちこちに駐輪スペースがあったり、駐輪場所が指定されており、文字通り自転車であふれているように見えます。
しかしそれは、コペンハーゲンが、世界の都市に先駆けて駐車場などのクルマ向けのスペースや施設を削減してきた結果でもあるのです。そのあたりのことを書いた記事が、ナショナルジオグラフィックニュースに載っていましたので引用します。
市街地の駐車場改革、欧州から北米へ
デンマークの首都コペンハーゲンは過去40年間、駐車場の削減という革新的な試みを一歩ずつ進めてきた。自家用車の駐車スペースを増やす世界の各都市とは対照的である。
ただし、歩行者や自転車、公共交通機関のサービスやインフラを整備して、大型の駐車場、路上駐車、ガレージを排除しようとする取り組みも一部の地域で広がっている。
「駐車場そのものには需要はない。人々が求めているのは目的地へのアクセス手段だ」と話すのは、アメリカ、ペンシルバニア大学の都市地域計画学の准教授で、駐車対策の専門家レイチェル・ワインバーガー氏。レストランやショッピングセンター、職場、近隣スポットにアクセスする手段が車しかない場合は、「結果的に駐車場に対する需要が発生することになる」。
駐車場規制がエネルギー問題や交通渋滞、ひいては気候変動に対する懸念への有効な間接的対策であることは、世界共通の見解だ。フランス、パリに拠点を置くサレコ(Sareco)社の調査によると、都市部の交通手段は、出発地と目的地の駐車スペースの有無で決められるという。
スイスのチューリッヒとドイツのハンブルクでは、それぞれ1976年と1996年に市街地の駐車システム改革に踏み切った。駐車場を表通りから離れた場所に移し、空いた土地は自転車レーンや幅の広い歩行者用スペースに割り当てた。
フランスのパリでは2003年以降、路上の駐車スペースを約1万4300カ所(全体の9%)削減し、同国の他の都市のように地下駐車場を整備、95%を有料化した。
この政策を効果的に進めるには、全体のバランスが重要だ。「駐車場の削減は、市民が車から徒歩や自転車に切り替えるきっかけになる」と、サレコ社の研究者エリック・ガンテレット(Eric Gantelet)氏とクリストフ・ベゴン(Christophe Begon)氏は説明する。しかし、路上の駐車スペースを探す“うろつき交通”により交通渋滞が増加する可能性があるなど、課題も残っている。
影響は他にも考えられる。両氏は、街中で買い物をしようとしても車を駐める場所がなかなか見つからなければ、消費者は大型駐車場を持つショッピングセンターに流れるかもしれないと指摘する。商業不動産会社コリアーズ・インターナショナル(Colliers International)のロス・ムーア氏も、社員が無料駐車できる郊外に事務所を構えようとする企業が出てくるとみている。
ガンテレット氏とベゴン氏は、公共交通機関の充実と広域に及ぶ駐車規制など、“アメとムチ”の使い分けが重要だと主張する。
ペンシルバニア大学のワインバーガー氏にとって、コペンハーゲンはいまだ駐車対策で抜きん出た存在だ。しかし同氏によると、交通手段の改革や都市部の活性化・グリーン化を目指す構想がついに大西洋を越えたという。
アメリカのサンフランシスコとニューヨークは昨年から、数台分の臨時駐車スペース「パークレット」の整備に着手している。パークレットによって不要になった有料駐車場には、明るい色のテーブルや木製ベンチを置き、読書やおしゃべりを楽しんだり、地元のカフェが提供するコーヒーやランチを満喫することができる。
シカゴやワシントンD.C.、さらには車中心で名高いロサンゼルスでも同様に、独自のアプローチを開始している。中でも目を引くのは、ワシントンD.C.で実施されている携帯電話による駐車料金支払いサービスで、利用者は「実際に利用した時間分」のみ料金が請求される。
「これらのスマートな戦略のコンセプトは、駐車スペースを探すうろつき交通の排除にある」とワインバーガー氏は説明する。駐車場の料金を引き上げ、不要な駐車や運転を減らし、常に数%は空車の状態にしている。しかし、現在の管理システムでは、占有率などのデータの取得に時間がかかり、実現は容易ではなかったという。
大学レベルでも取り組みは進んでいる。一部の大学では、気候変動を懸念して、資金の投入先を新しい駐車場の設置から自転車などの利用促進へとシフトしている。ミシガン州アルマ・カレッジの学長、ジェフ・アバーナシー(Jeff Abernathy)氏は最近、次のように語った。「学内に車が増えると、コミュニケーションが活性化しない傾向がある。キャンパスの主役は車ではない。学生や教員が、直接顔を合わせて活発に交流できる環境にしていきたい」。(July 14, 2011 National Geographic News)
コペンハーゲンに自転車があふれているのは、それだけ市民が自転車を使っているからです。街の中の移動に自転車を使う以上、街角に自転車がとめられなくては不便ですし、自転車を使う意味がありません。人が集まるところに、自転車も集まるのは当たり前です。クルマ用のスペースを削って、自転車用に使った結果なのです。
もちろん、歩行者の邪魔になったり、往来が妨げられるようでは困りますが、市民の駐輪ニーズがあるわけですから、それに応えるため、自転車がとめられる場所を整備するのが自治体の役割です。市民が自転車で来たがっているのに、その場所を自転車駐輪禁止にするなんて、本来はおかしな話です。
コペンハーゲンでは、市民の利便性を第一に考え、街に少しでも多く自転車がとめられるようにしています。かたや日本は違います。いくら駐輪ニーズがあろうと、駐輪場を整備するスペースには限りがあり、自転車をとめるスペースが足りずに、あふれたら撤去するというスタンスです。
必ずしもスペースがないわけではありません。歩行者や自転車よりクルマが優先されているのが原因です。クルマ優先が当たり前になっているため、まず車道の幅を広げ、パーキングスペースや駅前ロータリーなどを優先し、余った場所だけで、歩行者や自転車を押し込めようとするから足りなくなるのです。
それが都市を通過するだけであっても、クルマ優先の整備がなされ、歩行者や自転車は、相対的に狭いスペースに押し込められています。しかし、それでも道路は渋滞し、移動速度は遅く、クルマの機能は発揮できていません。都市の中心部ではクルマ用のスペースこそ、渋滞を呼ぶだけで無駄なのではないでしょうか。
もちろん、クルマを使いたいというニーズもあるでしょう。しかし、人が集まる都市のような場所で、自家用車という交通を優先するのは、さまざまな面で合理的でないと、欧米の都市は考え始めています。クルマでも自由にアクセス出来れば言うことなしですが、どこの都市でも、そういうわけにはいきません。
世界中の多くの都市では、渋滞が慢性化しています。移動の速度は自転車よりも遅いのが現実です。その排気ガスで人々の健康が害され、温暖化ガスの排出が増え、排出する熱は都市の温度を上げます。そのぶん冷房が必要となり、エネルギーも余計に必要になります。
クルマの交通量が増えることで、交通事故も増えます。実際に多くの命が失われています。狭い路地までクルマが押し寄せ、安心して道を歩けません。街から憩いの場も奪われています。クルマのための街ではなく、人間のための街にするべきだと、多くの都市が考えるのも無理はありません。
苦労して都市の道路幅を広げても、渋滞が増えるだけです。渋滞が慢性化している状態では、交通としての効率も悪く、空間が無駄に占有されることになります。路側帯は、車庫代わりに使われたり、アイドリングしたまま昼寝をする場所になっていたりします。
渋滞する都市でクルマを使うのは、利用者としても時間の無駄で、メリットに乏しくなってきています。それならばクルマの流入を制限し、公共交通や徒歩、自転車を優先する都市にすべきです。クルマは不要と言うつもりはありませんが、少なくとも都市部では、クルマを優先する合理性が失われているように思えます。
コペンハーゲンは、都市の中心部で、クルマ用の道路や駐車場所を減らす代わりに、自転車のために使おうとしているわけです。都市の中心部では、クルマ用のスペースを増やしても渋滞を呼ぶだけと割り切り、クルマではなく、歩行者や自転車を優先し、そのためにスペースを使うのは賢いやり方だと思います。
都市の中心部の貴重な公共空間をクルマに占有させることで得られるものと、失うものとを比べるまでもありません。少なくとも、都市のような場所では、個人がクルマでアクセスする自由は制限されても仕方がないでしょう。公共の利益を優先するべきです。
そういう視点から見ると、街に自転車があふれているコペンハーゲンのほうが自然であり、街にはクルマが溢れているのに、市民の自転車は勝手に撤去されて、一台も並んでいないと喜んでいる日本の都市の方が不自然に見えてきます。駐輪スペースだけでなく、走行スペースに関しても同じです。
日本では、道路がクルマ優先に整備され、自転車は事実上、歩道に押し込められたようになっています。狭い歩道や歩行用部分に、人や自転車がひしめいているのに、車道上は平均して1人強くらいしか乗っていないクルマで延々と渋滞し、車道の脇は違法駐車が占有しています。考えてみれば、これは大いに無駄で非効率です。
都市の中心部へのクルマの流入は制限し、もっと車道や駐車スペースを削り、自転車レーンや駐輪スペースにしてもいいのではないでしょうか。そうすれば、歩道上での自転車と歩行者の事故も減りますし、自転車ももっと安全で便利になります。バランスから言っても、合理性から言っても、それが自然のように思えます。
日本では、自転車を歩道に押し込めたり、放置自転車の撤去を強化したりなど、自転車の活用拡大という世界の考え方の変化に逆行しているように見えます。相変わらずクルマを優先しているため、自転車の走行空間も駐輪空間も足りません。歩行者と共に押し込められているため、さまざまな問題も起きています。
公共交通の整備状況にもよりますが、都市では、そろそろクルマ優先という固定観念を捨て、柔軟に考えていくことが必要なのではないでしょうか。自転車が邪魔だから撤去するという硬直的で、税金と市民の自転車代と資源を延々と無駄にするだけの放置自転車政策も考え直す必要があると思います。
それぞれ事情が違いますから、必ずしも他の国のようにする必要はありません。しかし、欧米が変わりつつあるのを見て、日本も考え直すべき、見習うべきこともあると思います。その一つが都市ではクルマ優先の考え方を転換することのような気がします。
おかげで気温が下がった地域もありますが、それにしても遅くて進路の不安定な台風ですね。早く遠ざかってほしいものです。
富山のアヴィレは私も視察に行きました。160台のママチャリを1億6千万円(一台あたり100万円)で買ったといことでずいぶん気前のいい人もいたもんだと驚きました。勿論、自転車以外の無人貸し出しシステムが高いということですが、それにしても、「自転車を活用したエコで便利な街づくり」ということを目的としているなら、もっと別の金の使い方があるのではないかと思ったものです。
アヴィレは言わずと知れたフランスの「ヴェリブ」をそのまま導入したものですが、出来上がったカタチ(システム)をそのまま導入するのではなく、自転車利用に関する思想をこそ学ぶべきです。ヨーロッパの自転車政策の基本には、人優先の思想があります。サイクルロードさんおっしゃるように日本は車優先を信じて疑わないどころか、車が優先されている事実すら気がつかない人が大勢います。これが問題の本質です。
実は私は富山の隣の金沢に住んでいるのですが、金沢市も富山に負けじと近々コミュニティーサイクルを導入する予定です。アヴィレの不振をもっと早く知りたかったです。 金沢でもまたまた壮大な無駄遣いが行われす。・・・残念!