今月21日、アトランティスが最後の飛行を終え、ケネディ宇宙基地に着陸、地球へ無事帰還しました。スペースシャトルは過去30年にわたり、宇宙開発のシンボルのような存在であり、まさに宇宙船の代名詞でした。日本でも広く親しまれてきたスペースシャトルは、その役割を終えました。
30年前、スペースシャトルが登場した時、宇宙ロケットから宇宙船への時代の転換と感じた人も多かったことでしょう。アメリカ航空宇宙局・NASAが威信をかけて開発したシャトルは、宇宙船を使い捨てでなく継続して使うという考え方の元、打ち上げコストも大幅に低減されることが期待されていました。
しかし、帰還後の修理や再整備に莫大な費用がかかり、アポロ計画時代の使い捨ての宇宙ロケットのほうが、かえってコストパフォーマンスがいいという、費用的には皮肉な結果に終わりました。特に耐熱タイルの損傷や脱落が問題となり、悲しい事故も起きました。
登場時は、飛行機のように翼を持つというスタイルが斬新でした。でも、地球へ帰還する寸前のわずかな時間しか翼は必要ないので、とても合理的とは言えません。大気圏突入の際、摩擦による高温にさらされる、耐熱が非常に重要な部分に開閉口を設け、車輪を出さなければならないという設計の悪さも指摘されました。
スペースシャトル後に、次世代の宇宙船として構想されているのは、アポロ時代とそっくりの円錐形の小さなもので、打ち上げロケットの先端に設置される方式です。結局、その形が一番効率的ということらしく、スペースシャトルのスタイルは、壮大な実験の結果、間違いだったということになるのでしょう。
ただ一方で、宇宙空間へ荷物を運ぶという点では、その高い積載能力から、国際宇宙ステーションの完成のために貢献しました。いろいろ問題はあったものの、アメリカの宇宙開発の一時代を築いたロケットとして、大きな足跡を残したのは間違いありません。
オバマ大統領は、今後の方針として、火星への有人飛行に言及していますが、宇宙ステーションや月面再着陸とはくらべものにならないほど多額の費用が必要になるのは明らかです。大統領は昨年、宇宙開発の予算を増額する方針も示しましたが、財政赤字の問題もあって、その道のりは不透明と言わざるを得ません。
しかし、短期的な予算や計画がどうなるかは別として、アメリカが今後も宇宙開発を続けていくという方向性が変わることはないでしょう。アメリカの宇宙への有人飛行能力が、数年の間ブランクとなるのは仕方ないとしても、NASAには、新たな目標の設定とビジョンを示すことが求められています。
ところでNASAは、ロケットの運用や開発など宇宙計画そのものを推進する以外にも、さまざまな事業を行っています。宇宙開発は長期にわたって継続していくプロジェクトですから、スタッフも入れ代わって受け継がれていきます。後任の技術者を育てていくというのも大事な役割です。
新入スタッフの教育ということだけでなく、将来を担うことになる今の学生たちや、その次の世代の子供たちにも、宇宙科学に親しんでもらい、関心を持ってもらい、そして科学者や技術者を目指してもらわなくてはなりません。そうした目的のためのプログラムもいろいろと実施しています。
その中の一つに月面探査車開発コンテスト“
NASA Great Moonbuggy Race ”があります。高校生や大学生に、ムーンバギーを設計・製作させ、その機能やデザインを競うというコンテストです。そして、その動力は「人力」です。つまり、月面や火星の地面を走行するための人力の乗り物、言わば『宇宙自転車』をつくるコンテストなのです。
その優劣を競うためのコースは実際の月面探査車を開発したテストコースを模して作られており、不整地を含む難コースとなっています。そのコースを走破するため、決められたレギュレーションに沿って、独自のデザインや仕組み、部品を考案するなどして車体を組みあげなければなりません。
写真は今年度優勝した作品ですが、パワーの伝達効率や、サスペンションなどの構造上の利点なのでしょう、リカンペントスタイルをベースにしたものが多くなっています。出来あがった作品を実際に走行させる審査の場面では、各グループ、悲喜こもごものシーンが繰り広げられたようです。
学生たちはグループで構想・設計・製作し、出来あがった作品を走行させることになります。このプログラムに参加する中で、技術力や発想力、問題解決能力だけでなく、仲間と協同して遂行する能力やコミュニケーション能力など、得られるものは少なくないに違いありません。
なんと言ってもNASAの主催するコンテストですから、学生たちもモチベーションが上がるでしょう。そして、こうして同じ目標に向かい、みんなで努力した経験は、単に楽しい思い出というだけではなく、宇宙開発に対する興味や関心を高めることになるはずです。
もちろん、学生相手のコンテストですから、これがそのままムーンバギー、月面探査車となるわけではありません。しかし、月面探査車はともかく、火星への有人飛行計画となると、これまでの宇宙計画と比べても格段に困難なものとなるのは確実です。なんと言っても、その距離の遠さが比較になりません。
ロケットの燃料の問題もありますから、持っていける荷物の量も相当限られることになるでしょう。限られた物資や使えるエネルギーなどから、火星探査車の動力に人力が採用される可能性もないとは限りません。もしかすると、火星の地面を、人類が最初に走行するのは自転車ということになるかも知れません。
スペースシャトルのような巨大な乗り物、それを実現する巨大プロジェクトと比較すると、笑ってしまうほど小さく、身近な技術ではありますが、案外、『宇宙自転車』が本当にならないとも限りません。宇宙飛行士がペダルをこぎながら火星の地面を走行する姿、見てみたい気もします。
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ようやくセミの声を聞くようになって来ました。まだまだ例年に比べて少ないような気はしますが..。
Posted by cycleroad at 23:30│
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