自転車シェアリングが知られるようになって来ました。
パリのヴェリブを筆頭に、海外の事例がテレビや雑誌などで紹介されているのを見ることも増えました。世界各地で、自転車シェアリングシステムを導入する例があることは、少しずつ一般にも認識されつつあるようです。この自転車シェアリングを取り入れようとする動きは日本にもあります。
実は、この自転車シェアリング、パリの事例で有名になる以前から、日本各地で取り入れようとする事例がありました。しかし、これまでの多くの場合は、結果として定着せず、失敗に終わっています。導入しようとする自治体に、理解不足があったのが原因と言えると思います。
よく観光地にあるようなレンタサイクルを、市街地で展開することだと考えてしまうのでしょう。これは簡単に出来ると安易に導入しては失敗し、華々しくスタートしたものの、ひっそりと消えていった例は少なくありません。そうした失敗例が多数あるのに、また違うところで導入され、失敗が繰り返されています。
失敗の理由はたくさんあります。まず、撤去して廃棄処分しなければならない放置自転車を活用すれば、一石二鳥だと考えてしまうことです。しかし、必要な整備もされておらず、放置されていた古い自転車や、もともと格安で粗悪な自転車は快適性に欠け、利用者に敬遠されてうまくいきません。
利用料も、中古の放置自転車を使うのだからと無料にするところが多いですが、タダだと、どうしても利用者の扱い方も雑になります。きちんと返還されずに散逸してしまうことも多く、維持管理だけでなく、回収や修理にも多額のコストが必要になるなどして、事業継続が難しくなります。
駅前の放置自転車の問題を解決する目的で導入する自治体も少なくありません。多くの人で自転車を共有すれば、全体の台数を圧縮できて、駐輪問題が解決すると考えるわけです。しかし、これは自転車を使う住民の都合や利便性を考えていない、わかっていないわけで、やはり失敗するのは明らかです。
自宅から駅への足をシェアしても、必要なときに使えないなど不便になります。自転車が高価なわけでもなく、自分の自転車を使ったほうがマシです。結局、ふだん自転車に乗らない人が使うくらいで、あまり活用されません。全体の自転車の台数の減少にも役立ちません。
大都市郊外のベッドタウンなど、都心へ通勤する人が多い街では、自転車の使い方に偏りが多く、また必ずしも、自転車による街の中での交通手段の需要が大きいわけではありません。結果として、自転車シェアリングシステムが機能しないことが多いのは否めないでしょう。
つまり、自転車シェアリングシステムは、都市交通なのです。バスやタクシー、地下鉄や路面電車と同じように、都市の中を移動するための交通手段であり、そのネットワークです。自家用車やバスの代わりに使うものなのです。そう考えれば、安易に放置自転車を並べて貸し出したくらいで、機能すると考えるのは浅はかです。
きちんと都市交通として設計、計画し、配置しなければなりません。また、自転車で移動することがメリットとなるケース、例えば、渋滞しているクルマより速く移動できるとか、駐車場を見つけるのが困難といったような場合に、自転車シェアリングが生きてきます。
クルマでのアクセスが容易であり、駐車も比較的容易であれば、人々はクルマを選択するでしょう。坂が多かったり、自転車で走行しにくい街であったりすれば、やはり利用は進まないと思います。中心部が渋滞し、駐車場が少なくアクセスしにくいような都市が導入に向いています。
それも、周辺から電車などで通勤してくる人が多い都市です。街の中に住んでいる人であれば、自転車をシェアせずとも自分の自転車を使います。自宅から電車で来て、街に着いてから自転車を使うと便利な場合に、交通手段としての共有自転車が生きてきます。
そして、観光地型のレンタサイクルと違って、借り出しや乗り捨てが、どこでも自由に出来なければ、自転車シェアリングシステムとしてのメリットはありません。ずっと借りた自転車に乗って移動するとは限らないからです。バスやタクシーに乗るように、必要な場所、区間だけ利用する形になります。
そうなると、どこの街角でも借りたり返したり出来るよう、貸し出し拠点を多数整備することが必要になります。拠点が広範囲に、多数あればあるほど便利になるからです。よく、実験などと称して、狭い地域と少ない拠点で始める場合がありますが、その便利さが理解されずに利用が進まない可能性があります。
しかし、拠点を数多く、都市全体を網羅して広範囲に設置するのは、なかなかたいへんです。一つひとつの拠点は大きくなくてもいいですが、やはりそれぞれの用地の確保が問題になるでしょう。この問題がネックとなって導入に踏み切れない自治体もあるのではないでしょうか。
前に挙げた失敗例は、すべて理解が足りず、目的や方法を誤ったからですが、これは、システムの本質を理解しているからこその悩みです。この貸し出し拠点を広範囲に多数設置するための用地の確保は、自転車シェアシステム導入の大きな壁になります。
パリなどの事例のように、自治体が強力なリーダーシップと実行力をもって、街角へのステーションの設置を進めてしまえば、問題ないのかも知れません。歩道が狭くなったり、クルマの通行の邪魔になったりしますが、市民の支持があるならば、それでも可能でしょう。
ただ、普通はなかなか新しいものを受け入れてもらうのは容易ではありません。自転車シェアリングをすべての人が利用するとは限らないですし、各貸し出しステーション付近の住人や商店主などの中には、邪魔になるなどとして設置に反対する人もあるでしょう。
そこで、新しい方法を提案する人がいます。いちいち拠点、貸し出しステーションを設置せず、自転車一台ごとに自転車の貸し出し、返却機能を持たせてしまおうというアイディアです。街角の普通の駐輪ラックなどにとめて、U字型のロックで施錠するスタイルになっています。言わば、一台一台がステーションです。
街角にとめてあるのを借り出すことも出来ますし、近くに見当たらなければ、GPSを使って管理された位置情報から、手元のスマートフォンなどで探すことも出来ます。1台ごとに位置情報が管理されることで、行方不明になった自転車を探したり、自転車の駐輪禁止場所への放置を発見して回収したりも出来るわけです。
言われてみれば簡単なことですが、これによって今までのように、貸し出しステーションを街中の何百箇所に設ける必要がなくなります。ステーションごと必要だった貸出機等の機械を設置する占有スペースも不要です。ステーションを整備するシステムに比べて、導入費用は3分の1で済むと試算されています。
これならば、ステーションに、それなりの大きさの用地の確保が困難な、道の狭い街などでも導入できます。利用者は、既存の駐輪場や街角の駐輪ラックなどに駐輪します。どこでも駐輪して施錠すれば、返却したことになります。決められたステーションでなくてもいいぶん、利用者の利便性は向上します。
問題は、自転車があちこちに駐輪されることになることでしょうか。しかし、これは考え方の問題です。今でも、街中には自転車が駐輪されていますし、そもそもドアツードアで移動できるのが自転車のメリットであって、それを否定すると自転車を交通手段として使う意味がなくなります。
場所によっては邪魔になるかも知れませんが、クルマと比べれば、はるかに小さいスペースで済みます。そして、システムの性格上、自転車は分散して駐輪されることになります。つまり、特定の駅前ばかり駐輪されるのではなく、街中に広く分布することになります。
場合によっては、駅前などに集中する放置自転車の問題が軽減する可能性もあります。自転車シェアリングシステムを都市交通に使おうとするならば、駐輪場所は必要です。使用頻度の減ったクルマ用のスペースを削るなどして、いずれにしても駐輪しやすい街にしていく必要があります。
これはなかなかユニークなアイディアです。この“sobi”と名づけられた、「どこでも自転車シェア」システムは、小額の出資を集める、ソーシャルな資金調達サイト、“kickstarter”で現在出資を募集しています。日本でも、これならば導入できるという自治体があるのではないでしょうか。
最近、自転車シェアリングシステムについて、よく知られるようになってきたとは言え、まだまだ本当に理解している人は多くありません。単なる都会の貸し自転車、自転車を所有せずに共有するスタイルと捉えている人も多いはずです。都市の交通手段として自転車を活用するという本質は、まだあまり理解されていません。
日本では、都市の交通システムとしての自転車という考え方やそのメリット、利便性などを啓蒙していかないと、なかなか定着は難しいのかも知れません。システムの設計とともに、まず、そのあたりの理解、市民のコンセンサスを得ていくことが重要になりそうです。
お盆で都内は道がすいています。これで暑くなければいいんですが..。