August 29, 2011

膨らむのはタイヤだけでなく

自転車にパンクはつきものです。


ある程度、継続的に自転車に乗っている人なら、誰でもパンクの経験があると思います。タイヤが空気をふくらませたチューブに支えられている構造、またその材質からして、何らかの原因によってパンクしてしまう可能性があるのは自明であり、仕方ありません。

topeak(トピーク)ジョーブロースポーツIIでは、パンクの原因はと言えば、多くの人がクギやガラスを踏むことだと思っています。たしかに、イメージ的にはそんな気がします。しかし、実際には、そうした原因によるパンクはむしろ少なく、多くはリム打ちによるものだと言われています。

考えてみれば、今どきクギなんて、そうそう道路に落ちているものではありません。ガラスの破片についても同じです。事故があると、クルマのフロントガラスなどの破片が飛び散っていることがありますが、多くはサイコロ状に割れていて、踏んだからすぐパンクするような破片ではないはずです。

大きな道路なら、定期的に道路清掃車が掃除もしてくれています。異物を踏むことが無いとは言いませんが、多くはタイヤの空気が不足している状態で段差などを乗り越えたために、チューブがつぶれ、段差とリムに挟まれる形で起きるリム打ちによるものなのです。

もちろん、趣味のサイクリストには常識です。そんな状態で乗ることは少ないと思います。しかし、普通の人の多くは、タイヤの空気圧に無頓着なのが実際のところでしょう。ある時、気がつくとパンクしていて、チューブに穴、いわゆるスネークバイトが開いているので、異物が原因だと思い込んでしまうわけです。

逆に言うと、適切に空気圧を管理していれば、パンクは、そう頻繁には起きません。空気圧が適正なら、リム打ちだけでなく、多少異物を踏んでもパンクしないで済みます。しかし、残念ながら実際に街中で観察してみると、実に多くの人が空気圧の不足した状態で乗っているのがわかります。

パナレーサー(Panaracer)ミニフロアポンプ中には、ほとんどリムが地面につきそうな状態の人もいて、これでパンクしないほうが不思議です。特に日本では、欧米などと比べて、空気圧が足りない状態で乗っている人が多いような気がします。ママチャリで歩道を走ることが多いため、多少空気圧が少なくても気にならないのかも知れません。

近年、格安のママチャリが流通していることも背景にあるのは間違いないでしょう。迷惑駐輪で撤去されても保管場所に取りに来ない人が相当の割合でいると言います。事実上、使い捨てのような乗り方をしている人が少なくないようです。自分では修理も出来ず、インフレーター、空気入れさえ持っていなかったりします。

近所にパンクを修理してくれる店が無かったり、あっても新しく格安自転車を買いなおすのと、あまり料金的に変わらなかったりします。そのまま乗り捨てるのならば、わざわざ修理をすることもなく、空気圧などに気を使うはずもありません。日本で空気圧不足の人が、より多いように見えるのは故なきことではなさそうです。

使い捨てるつもりはなくても、タイヤの空気に無頓着な人は多いはずです。気がつけば補充するけど、いちいち空気圧を確認したり、定期的な注入などはしないという人たちです。比較的空気圧に注意している人でも、タイヤに空気を入れるのは面倒な作業であり、ついつい手を抜いてしまうかも知れません。

もし、こうした手間が無くなったら魅力的だと思いませんかと提案している人がいます。ベンチャー企業や個人が事業化を目指してネット上で資金の拠出を募るサイト、“Kickstarter”で呼びかけているのは、サンフランシスコを拠点にするベンチャーの、Benjamin Krempel さんです。

PumpTire, www.pumptire.comPumpTire, www.pumptire.com

その名も“PumpTire”、そのまま乗っているだけで、自分で膨らみ、自動的に空気圧を保ってくれるというタイヤです。これならば、いちいちタイヤの空気圧をチェックする必要はありませんし、定期的に空気を入れる作業も必要ありません。ものぐさな人でなくても魅力的です。

タイヤやチューブはゴムで出来ているので、分子レベルで、僅かづつですが空気が抜けていきます。長い間乗らないでいると、空気が抜けてしまうのは、このためです。常に少しずつ抜けていく空気を、乗っている間に少しずつ補充してくれるわけです。

PumpTire, www.pumptire.comPumpTire, www.pumptire.com

自動的に空気圧を高めてくれるというタイヤは、以前にも取り上げました。日本の中野鉄工所という会社が開発したエアハブ(動画の下の左の写真)です。これは、タイヤのハブに特別な構造があり、ハブからタイヤに空気を送り込む形でタイヤの空気圧を維持してくれるというものです。

こちらの“PumpTire”は、タイヤがポンプのようになって、チューブに空気を送り込みます。文字通りポンプタイヤです。特殊なハブに交換する必要も無く、タイヤを換えるだけでどんな自転車にも装着できます。もちろん、タイヤのサイズは合っている必要がありますが、これは便利そうです。



動画を見るとわかるように、タイヤが接地する部分に、細いチューブ状のものがついており、ここが収縮することで空気をタイヤチューブに送り込むという仕組みになっています。細かい部分はわかりませんが、タイヤが地面に押し付けられる力を動力としているということのようです。

実はこれ、医療用の蠕動(ぜんどう)ポンプの原理を応用していると言います。 Krempel さんは医療機器の会社の人なのです。蠕動運動とは、例えば人間の腸が、内容物を先へ送るような運動です。ポンプの管が収縮することで、その中のもの(この場合は空気)を送り出すというポンプなのです。

エアハブPeristaltic pump, This image is in the public domain.

上の右の図が蠕動ポンプですが、なるほど血液などを送り出す、病院にありそうなポンプです。ポンプの管を絞るような形で、内容物を押し出しています。この動力を電気などではなく、タイヤの回転と、地面に押し付けられる力で実現しているということなのでしょう。うまい工夫です。

当面はシティサイクルや商売で使われる自転車を想定し、26"×1.5”タイヤと700×28Cのタイヤが製品化される予定です。圧力的にも、65から95psiと言いますから、十分に実用になると思われます。この事業化資金、25万ドルを集めるのが目標です。

PumpTire, www.pumptire.comPumpTire, www.pumptire.com

あらかじめ適正な空気圧が固定で設定されているタイプと、自分で空気圧を指定して、自由に変えることの出来るタイプがあります。バルブの部分に目盛りがありますが、好きな圧力を指定しておけば、走行中にその圧力まで上げてくれるのですから、こんなラクなことはありません。

これは優れたアイディアです。乗り心地や耐久性など、実際に市販されるようにならないと不明な部分はありますが、タイヤの空気圧管理の煩わしさから多くの人を救う可能性があります。同時に安全性も向上することになります。今のところ価格設定が高めのようですが、普及すれば安くなるでしょう。

PumpTire, www.pumptire.comPumpTire, www.pumptire.com

日本のママチャリやシティサイクル、実用車などにも、これが採用されるようになれば、パンクが起きる確率が劇的に下がる可能性があります。自転車屋さんにすれば商売あがったりのようですが、ママチャリのパンク修理は、自転車屋さんにとっても面倒で割に合わないと聞きますから、朗報かも知れません。

タイヤの空気圧の不足は、パンクのリスクを高めるだけでななく、自転車の快適性や楽しさも奪います。買ったばかりはいいですが、乗っているうちに、いつの間にか疲れるようになったり、楽しくなくなったりして、乗るのをやめてしまう人も多いはずです。

タイヤの空気圧を高めるだけで、嘘のように乗りやすく、またラクになったりするのですが、残念ながらタイヤの空気圧にまで思いが及ばないことも少なくないようです。自転車に乗らなくなってしまう人を減らし、自転車の快適性や楽しさを、より多くの人に見直させる助けにもなるでしょう。

放置自転車や、粗大ごみの減少に貢献することも考えられます。メンテナンスがよりラクになることで、自転車に乗る人を増やし、その活用を拡大させる力となるかも知れません。地味なアイテムに見えますが、もしかしたら社会的にも意味のある商品となる可能性がありそうです。





また首相交代ですか。民主党への国民の期待はとうに冷めていますが、せめて内輪もめくらいは回避してほしいものです。

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この記事へのコメント
私は未だにパンクした事ありません (^^;
子供の頃はよくママチャリパンクさせてましたが…
今はママチャリも空気圧に気を付けているお陰なのか、パンク皆無です。

MTBのトレイルライドでも、一度もパンクした事ありません。
トレイルで乗るようになってから3年ですが…。
せっかくいつもスペアチューブ持って行ってるんだから、1度ぐらいパンクしてチューブ交換してみたいです!
Posted by youshookme at August 30, 2011 20:57
cycleroadさんこんばんは。

素晴らしいアイデアですね。

私のBikeは一度もパンクしたことがありません。
でも、走行中に、チューブがバーストしたことがあります。
(それもパンクとするならば...、パンクでしょうね。)
そして、自分でタイヤ交換した直後に、
チューブが破裂したこともあります。
十分に注意したつもりなのに、
リムにチューブを挟んでいたようです。

チューブのバーストを除いて、
パンク対策として有効なのは、やはり適正な空気圧。
是非とも、安価で、色々なサイズに対応するタイヤを
お願いしたいものです。

軽くて、安くて、パンクしない。
夢のようなタイヤが欲しい。
Posted by Fischer at August 30, 2011 23:23
youshookmeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
それはスゴイですね。運がいいんでしょう。
私も何回か経験はありますが、滅多にはおこりません。やはり空気圧を見ていれば、そうは起きないですね。
逆に、パンクするのが楽しみな感じでしょうか。
何とかの法則ではありませんが、よりによって、という時に起きたりするような気もします。脅かすつもりはありませんが..。
やはり、パンクに備えておくのは大事でしょうね。
Posted by cycleroad at August 30, 2011 23:52
Fischerさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
Fischerさんもパンクなしですか。パンクした経験のない方は、けっこういらっしゃるのかも知れません。
走行中のバーストは怖いですね。急な下り坂とかだったらと考えると、穏やかではありません。
タイヤ交換後に、また..というのは結構ありがちですね。特に出先で、先を急いでいたりすると、ついミスが出てしまうのでしょう。
チューブのバーストは、やはり劣化でしょうか。チューブではなく、タイヤの劣化で一部分が弱くなり、そこだけ圧力がかかってチューブが変形してバーストする場合もあると聞いたことがあります。劣化への注意も大事なのでしょう。
このPumpTire、性能や乗り心地、パテント関係などにもよるでしょうが、市販のタイヤはどれでも当たり前のように、この機能を備えるようになるかも知れません。
磨耗は仕方ないとしても、パンクもバーストもしないタイヤが当たり前になったらいいですね。
Posted by cycleroad at August 30, 2011 23:58
こんばんは。

私は小学生の頃よりパンクの修理を自分で行っていたので、パンクに対する不安は皆無。故に、パンクの修理が出来ない人を見ると不思議としか思えなかった。まあ、後にこの考え方は改めた、笑。パンクのリスクを最小限に抑えるには管理人さんの言う通り”徹底した空気圧管理”だろう。加えて、週に一度くらいはタイヤをじっくりチェックすれば更にリスクは減らせるハズだ。私の場合、乗る前に空気圧を確認するのが習慣化しているので面倒と言う考えは無い。そして、先にも述べたが週に一度は必ずタイヤの点検を行っているのでパンクのリスクは最小限に抑えている。自分の命を預けるモノなので当然の事だ。しかし、世の人間すべてパンクの修理が出来るとは限らないので、パンク無し・空気の補充も無しと言ったタイヤはとても有用性があり便利な品だ。
Posted by passerby Ω at August 31, 2011 22:38
passerby Ωさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、修理は自転車屋さんでやってもらうものという固定観念がある人が多いのだと思いますが、慣れれば誰でも出来ます。
まず修理しようという意思があって、実際にやってみなければ仕方がありませんが、意外と簡単と感じるのではないでしうか。
自分でメンテナンスするようになれば、空気圧管理の重要性も理解できるでしょうし、その管理も習慣となれば、どうということはありませんね。
それでも面倒だという人がいるのは事実でしょうけど。
Posted by cycleroad at September 01, 2011 00:34
マンション住まいの人は自動空気入れタイヤ便利でしょうね
わざわざ家から空気入れを下の階の駐輪所まで持って行くのは面倒でしょうし
Posted by 職人気取 at September 01, 2011 07:54
なるほど、いろんな物を発明する人がいるものですね。

子供達のママチャリのパンク修理は何度も経験がありますが、修理に出すと、修理もチューブ交換も料金に差は無かったようです。

中学の技術家庭の科目で、パンク修理は出来あいのプラモデルよりも絶好の教材だと思いますが・・・。

壊れたら修理よりも新しいものに買い替える方が安上がりの習慣を作ってしまった僕達の責任も・・・。

新政権には経団連がすりよってきているようです・・・。
経済復興を理由に「脱原発」から遠ざかってしまうことだけは避けてもらいたいですね。
Posted by 二浪独河 at September 01, 2011 17:04
おお、コメントいっぱい!!
皆さんのコメントを見るのも楽しみです。
いろんな意見があって。

僕はこの3年間で10回くらいパンク修理しました。
自分のクロスバイクや家族のママチャリを。
自分の自転車には、水に付けて泡ぶくぶくを確認できるよう容器を常備しています。コンビニなどで水をもらってパンク修理などをしています。

自動で空気が補充されるタイヤは理想的ですね。
ハブポンプと比べてランニングコストを考えるとどちらがいいかなと気になります。
それにしてもぜんどう運動から発想するなんて素晴らしいですね。
Posted by トンサン at September 02, 2011 07:53
職人気取さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そういう利点もあるかも知れませんね。タイヤのおかげでパンクも防げるわけですが、そのうちにそれが当たり前になって、ありがたみも忘れてしまいそうですが..。
Posted by cycleroad at September 02, 2011 23:38
二浪独河さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
タイヤが簡単に外せない構造の一般的なママチャリの場合、チューブの交換は非常に手間がかかります。もし同料金ならば、かなり良心的ですね。
通学に使っている学生も多いわけですから、学校でパンク修理を教えるというのは、いいアイディアだと思います。
確かに、使い捨て文化の罪はありますね。自転車に限ったことではありませんが..。
新しくつくることは事実上不可能ですから、いずれにせよ無くなっていかざるを得ないでしょう。すぐに無くせないにせよ、将来的に新エネルギーを開発していくのは、産業の振興にもなると思いますね。
Posted by cycleroad at September 02, 2011 23:56
トンサンさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も、皆さんがいろいろコメントしていただけるので、とても励みになっています。
容器まで常備とは、用意がいいですね。私も、穴が開いた場所を確認して原因は取り除きますが、換えのチューブに交換し、帰ってから修理をしています。まだ使える場合は、そのチューブを換えのチューブにします。
市販された時の値段と耐久性、それと乗り心地なども気になります。
医療機器を扱う一方で、自転車好きだったのでしょうけど、こんな発想はなかなか出来るものではないですね。
Posted by cycleroad at September 03, 2011 00:08
 
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