お月見と言えばススキのイメージですが、今年は中秋の名月も熱帯夜でした。秋の運動会の練習をしていて熱中症で搬送されるといった事例も相次いでいます。9月の半ばを過ぎても気温が高く、夜間も下がらず寝苦しい夜が続いており、寝不足気味という人も多いかも知れません。
ぐっすりと良質の睡眠をとることの重要性については、いろいろと指摘されています。睡眠不足は、血圧やコレステロールなどの数値を悪化させ、心臓病や脳梗塞などの疾患を引き起こすと言われています。ホルモンのバランスが崩れ、ストレス物質を増やすとも言います。
寝不足は肥満を助長し糖尿病などにも影響しますし、脳の働きを鈍らせることも知られています。セロトニンなどの減少で、うつ病などの原因になることも疑われ、起きている間の身体の消耗を回復する大切な時間が損なわれるので、さまざまな疾患の引き金となりかねません。
ただでさえ現代人は忙しく、寝不足がちです。熱帯夜でなくても、寝覚めが爽やかでない人、夜中に目が覚めるなど熟睡できていない人、睡眠の質が良くないことに気づかない人も多いはずです。寝具などをつくっている企業、
COCO−MAT社は、寝具にも原因があるかも知れないと指摘します。
睡眠をより快適にするため、寝具に天然の素材を使うという、地中海地方に伝わる古くからの知恵を製品作りに生かしているのだそうです。例えば、よく玄関マットなどに使われるココナッツの乾燥した外皮をベッドマットの素材の一部に使います。通気性や堅さやクッション性など優れた特性があるようです。
必要に迫られて編み出され、数百年続いてきた知恵です。他にココヤシの繊維、木材、海草、ウール、絹、ガチョウのダウン、コットン、馬の毛など天然の素材にこだわり、「自然の上で眠る」ことを提案しています。残念ながら日本には進出していませんが、このコンセプトとリーズナブルな値段で世界に展開している会社です。
そして、天然の素材にこだわると同時に、環境への負荷を減らし、いわゆるサステナビリティに配慮しています。いまどき、環境に優しいことを前面に出す企業は多いですが、本当に環境負荷を考えておらず、エコとは名ばかりで内容が伴っていないと、すぐ消費者に見透かされてしまうことになります。
商品には気を使っていても過剰包装だったり、製造工程や販売現場ではエネルギーを無駄に使っていたり、物流には無配慮だったりすれば、せっかくの取り組みも台無しになってしまいます。COCO-MAT社は、商品以外についても環境負荷を減らすべく努力しています。
ユニークで印象的なのは、配送に自転車を使っていることです。ベッドや寝具だけでなく、家具も扱う会社なのに自転車です。全てではありませんが、枕やシーツなど小物だけでなく、マットレスなどの大きな商品の配送でも、なるべく自転車を使って配送します。
後ろにトレイラーを連結した特製の自転車ですが、遠距離でなければ十分デリバリー可能でしょう。街中ならば、狭い道でも通れますし、荷下ろしも容易です。おまけに、トレイラーに店名を入れておけば、自転車で配送する家具店として、格好の宣伝にもなります。
より大きな荷物には幅広のトレイラーもあります。左右に並んだ2人乗りという珍しい特製自転車でトレイラーを牽引します。これならば、後ろの荷台と幅も同じなので、車幅感覚もつかみやすそうです。1人乗りに比べて、牽引力も2倍ですから、より重い荷物でも牽けます。
配送だけではなく、お客様が自転車で来店すると5%の割引というサービスもしています。また、従業員が自転車通勤を始めると賃金の5%が加算されます。お客様にも従業員にも、強制するわけではありませんが、インセンティブを与え、少しでも化石燃料による移動を少なくしようと取り組んでいるわけです。
ほかにも、喫煙者の従業員が禁煙に成功すると3%の賃金アップなど、従業員の健康にも配慮したプログラムも実行しています。従業員に環境に気を配る動機を与えるだけでなく、自身の健康にも気を配ってもらい、気持ちよく働いてもらおうという配慮です。社員にも優しい会社のようです。
日本では、宅配便が街中で、一部リヤカーを牽引した自転車を利用しているのを除けば、自転車を物流に使う動きが広がっているとは言えません。運ぼうと思えば、ベッドなどの大きなものでも運べることを思えば、もっと活用する余地はあるに違いありません。
環境負荷だけでなく、イニシャルコストもランニングコストも低く抑えられます。店舗ごとの商圏の範囲を考えれば、案外距離も短く、むしろリーズナブルだったりします。運ぶ従業員はトラックと比べて大変になりますが、健康増進にもなります。宣伝効果も期待出来るでしょう。
日本では、家具でも家電でも、最寄の店で購入しても物流センターから配送されたりするので、なかなか採用しづらいケースが多いのかも知れません。ただ、店舗から周辺への配送で、少ない荷物、短い距離でもトラックを使っているような業種、検討の余地のある店舗も少なくないのではないでしょうか。
ちなみに、このCOCO-MAT社、ヨーロッパ各国をはじめアメリカや中東にまで店を出していますが、実はギリシャの会社です。ギリシャと言えば、今問題になっている金融危機の発端となった国です。ヨーロッパ中の非難の矛先が向かい、金融当局や政府関係者は、それこそ睡眠不足になってもおかしくありません。
国民も緊縮財政下、さぞ寝苦しい夜を過ごしているのかと思えば、必ずしもそうではないようです。ドイツ・ハンブルクの未来研究財団とブリティッシュ・アメリカン・タバコ社が先ごろ実施した「幸福度」に関する欧州の世論調査によれば、財政危機の中でも、ギリシャ人は8割が幸せだと答えています。
この調査、ヨーロッパ13ヶ国の計1万5000人を対象に、「私の人生は幸せだ」と答えた人の割合を調べています。福祉国家デンマークが96%で1位でしたが、ギリシャは2位(80%)で、3位は同じく財政危機にあるイタリア(79%)でした。
逆にヨーロッパ一の経済大国のドイツは61%で下から3番目です。経済が好調で、救済する国のほうが幸福度が低いという皮肉な結果です。もちろん、デモや暴動のニュースも伝えられていますが、さすがラテン系の気質なのか、あまり悩んではいないようです。
これだけ幸福感が高いということは、当然睡眠不足を心配するような要素も少ないのでしょう。自然素材もいいですが、何も考えずにぐっすりと眠るには、楽天的な性格とか、図太い神経とか、国民性の違いといったメンタルな部分も大きいのかも知れません。
また同じところに豪雨の恐れとは気の毒です。土砂ダムがいつ決壊するかと考えると、怖いでしょうね。