ノーブレーキがもたらすもの

秋の交通安全運動が終わりました。
各地でさまざまな活動が行われたようですが、自転車に対する取り締まりも強化されています。読売新聞の記事から引用します。
競技用自転車・ピスト、ブレーキなし摘発相次ぐ
ブレーキの付いていないピストバイク(ピスト)と呼ばれる競技用自転車で公道を走り、道路交通法違反(制動装置不良)容疑で交通切符(赤切符)を切られるケースが相次いでいる。
摘発件数も増えており、9月28日には東京都内で、お笑いコンビ「チュートリアル」の福田充徳さん(36)も同種の自転車で交通切符を切られた。昨年には、歩行者の死亡事故も起きており、警視庁では「必ずブレーキ装着を」と呼びかけている。
自転車で公道を走るには、前・後輪ともブレーキを装着する必要があり、違反した場合は5万円以下の罰金が科される。ブレーキの整備不良による警視庁の摘発件数は、2009年は2件だったが、10年は661件に急増。今年は8月末までに、前年同期より238件多い614件が摘発されて、自転車の交通違反全体の52%を占めている。9月に入って、愛知や熊本で初摘発されるなど、他県警も取り締まりを強めている。
チュートリアルの福田さんは9月28日昼、世田谷区の都道を、前輪にしかブレーキが付いていないスポーツタイプの自転車で走行中、警察官に呼び止められた。福田さんは所属事務所に、「片方の車輪だけブレーキが付いていれば大丈夫だと勘違いしていた」と釈明、「今後はきちんと整備して違反のないようにしたい」とコメントした。
「自転車文化センター」(千代田区)の村山吾郎学芸員(39)らによると、ピストは近年、雑誌などで紹介され、ファッション感覚で乗る若者らが増加。数万〜30万円程度で、最近はメーカーがブレーキ付きのタイプを相次いで発売しているが、ファッション性を重視して取り外す人もいる。(2011年10月1日14時32分 読売新聞)
ここのところ、いわゆるノーブレーキ・ピストがマスコミで取り上げられることが多くなっています。テレビでも、さまざまな番組で危険な自転車が増殖中と、さかんに報じられています。そこへお笑いタレントが検挙されたことで、ニュースでも大きく伝えられるところとなりました。
いまや、自転車について詳しくない人の間にも、ブレーキをつけないで走行している人がいるという事実が広く知れ渡っている状況です。実際に、街で横断歩道などを渡っていても、目前を横切られたり、赤信号でも突っ込んでくる自転車を見て、苦々しく思っている人は多いに違いありません。

普通の人はフリーホイール、すなわちペダルを止めてもギヤが空転して進む自転車以外知りませんから、ブレーキをつけないなんて信じられないと思っている人も多いのかも知れません。しかし、言うまでもなく、ピストは固定ギヤですので、ペダルを逆に踏めばブレーキがかかることになります。
でも、それだけでは制動力として弱く、例え競輪選手であっても制動距離が大幅に長くなります。当然のこととして法律上はブレーキとして認めらず、きちんと、前後輪ともに装置としてのブレーキを装着することが義務付けられています。もちろん、ノーブレーキは違法なばかりでなく、危険でもあります。
トラックレーサーなどの競技用の自転車にブレーキがないのは、競技の際にブレーキをかけると危険だからです。トラックで、あれほど接近して高速で走行している時、突然前の自転車がブレーキをかけたらクラッシュは必至です。ブレーキがあったら危ないわけです。
トラック競技ならば、フィニッシュした後、徐々にスピードを落として止まればいいですが、公道では、そうはいきません。競輪選手ですら、公道でノーブレーキのピストに乗るなんてありえないと言います。ましてや普通の人では無理です。特に下り坂などでは、止まりたくても止まれない状態となるので、非常に危険です。
イザという時は止まるというより、「かわす」しかありません。乗ってみて、かわせると過信する人も多いようですが、実際には、そう簡単にはいきません。当然ながら事故も増えています。事故で自らが死傷するだけでなく、歩行者に激突するなどして死傷させ、多額の賠償責任に問われています。

軽く考える人も多いようですが、大きなリスクを犯しているのは間違いありません。自爆に巻き込まれる周囲も大迷惑です。友人に勧められて、あまりよく知らずにノーブレーキにしてしまう人もいるかも知れませんが、ほとんどは確信犯と言われています。自転車ならと甘く見ている部分もあるのでしょう。
固定ギアのピストバイクに魅せられる気持ちは、よくわかります。ピストバイクが悪いわけではありません。確かに軽くてシンプルで魅力的です。普通のロードバイクが、乗り物という感覚だとすると、Fixie、固定ギヤの自転車は、自分の手足のような一体感があり、また独特の楽しさがあります。
それは私の少ない固定ギヤ経験でもわかります。ただ、固定ギヤの楽しさは、ブレーキを外さなくても味わえるはずです。むしろ固定ギヤと言うよりブレーキが外せることで、自転車をブレーキなしに自在に操る面白さ、陶酔、ノーブレーキということへの興奮やスリルがあるのでしょう。
ファッションで、カッコいいからブレーキを外すと言われていますが、わざわざ不便で危険になるのに、カッコいいと言うだけでブレーキを外すなんて、普通の人には考えられないと思います。見栄やカッコよさもあるでしょうが、ブレーキを外してこそ味わえるスリルとか、感覚があるということなのでしょう。

しかし、それは自分勝手です。危険回避のためブレーキを装備するのは、公道を走る以上当然の義務です。ノーブレーキで乗るのは許されず、乗るならブレーキを外すべきではありません。そこに弁解の余地はなく、事故らなければいいというものでもありません。違法で危険である以上、警察に検挙してもらうしかないでしょう。
このノーブレーキ・ピストは、アメリカでの流行が伝播したと言われています。ニューヨークなどのメッセンジャーが使い始めたことで、それがクールだと、若い世代を中心に広がり、日本にも伝わりました。映画などで、メッセンジャーの姿がストリートカルチャーとして描かれたのが流行を助長した部分もあります。
アメリカでは、来年またニューヨークのメッセンジャーを主人公にした映画が公開される予定になっています。当然アクションとして、交通ルールなどを無視してニューヨークを走り回るわけですが、これがまた自転車のイメージを悪くするだろうと、アメリカでは今から懸念する声もあります。
以前日本でも、スポーツ用品のナイキが、ピストパイクを渋谷のビルの大きな壁面広告に使い、「ブレーキなし。問題なし。」とのコピーを掲げたことがあります。抗議が殺到して撤去に追い込まれましたが、企業などにも、ノーブレーキを若者のファッションとして、もてはやすような部分があったのは否定できないでしょう。
ここ数年、日本でもピストがブームとなり、街でもよく見かけるようになりました。そのうち、どれくらいの割合がノーブレーキかわかりませんが、気をつけてみると、確かにブレーキを外しているピストが走っています。都内だけで年間数百件も検挙されているのですから、相当な数に上るのでしょう。

もちろん、それでもスポーツバイクに乗る人のごく一部に過ぎません。でも一般の人には、違法なノーブレーキ・ピストと普通のピストバイクやロードバイクの見分けはつかないでしょう。一部の不届き者のために、違法ではない普通のスポーツバイクまで悪く見られる点でも甚だ遺憾と言わざるを得ません。
ただ、普通のロードバイクに乗る人の中にも、信号無視をしたり、ロードレースよろしく集団走行するなど、周囲に迷惑をかけている人がいないわけではありません。いずれも、自転車に対する世間の印象を悪くする点では同じであり、結局は、それが自分たちの首を自ら絞めるようなことになりかねません。
世界を見渡せば、自転車は環境にやさしく、健康によく、21世紀の都市交通として大いに期待されています。関心も高まっていて好感度も高く、自転車ほど楽しい乗り物はないと考える人も少なくありません。それが、日本では邪魔で、危険で、身勝手で反社会的、厄災をもたらす存在と見られかねないのが非常に残念です。
ブレーキを外したり、赤信号を無視して、横断する歩行者の間をすり抜けるようなことをしていれば、事故のリスクが高くなるのは明白です。事故になれば、後から後悔するのも間違いありません。自転車好き、同好の士として、少しでも多くの人にそのことに気づいてほしいと思います。
放射性物質で汚染された焼却灰や下水汚泥の、焼却場や下水処理場などでの一時保管が限界に近づきつつあると言います。撒き散らした所へ戻すしかないんじゃないでしょうか。

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Posted by cycleroad at 23:30│
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こんにちは。
さて、どうしたものか・・・ノーブレーキのピスト車。
周囲を危険に巻き込む事の何が格好いいのか?これは単なる傲慢にすぎない。愚の骨頂である。ノーブレーキによるリスクを理解させるため、周囲を巻き込まない自損事故で痛い目をしてもらうのが手っ取り早いだろう。
逮捕された芸能人の件
警察発表はノーブレーキ→前輪はブレーキがついていた、に変わりましたね
だとするとわざわざ後輪ブレーキを外したわけもなく最初からついていなかったと考えるのが自然です
検挙された人間を叩くより販売店をきっちり指導すればいいだけの話なのになあと思います
私はピストは乗りませんがロード乗りのピスト叩きはすごくいやな感じがします。
たこつぼの狭い世界のなかで罵り合っていても結局は自転車界のためには全くならないと思うからです
ピストも安全に乗れる街づくりの方向になんとか動いてほしいものです
このままでは次は「ロードのブレーキは制動力不足なので規制する」なんてことが現実にありそうでこわいです
passerby Ωさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、自損事故で懲りればいいですが、突然衝突されて亡くなる人も出ています。
リスクを理解してもらうにも、自損事故でとどまらずに周囲に迷惑がかかり、実際に危険になっているのが問題だと思いますね。
WBさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうでしたか。前輪はついていたのですか。
実際のところ、どうだったのかはわかりませんが、警察からの再三の要請もあって、前後ブレーキ装着でないと売らないというのが販売店の基本スタンスのようです。
後輪は足でブレーキがかけられるという理屈で、前輪だけ残して外す人も少なくないと聞きます。
販売店の肩を持つわけではありませんが、販売店には一昨年あたりから、再三の要請があると聞いています。
販売時点で両方にブレーキがあっても、片方または両方を外してしまう人もいるのでしょう。
私はピスト乗りだけを叩く意図はありません。最後の部分でも、ロード乗りも危険な乗り方で周囲に迷惑をかけている人がいることを指摘しています。ロード乗りが正しくて、ピスト乗りが悪いなんて言うつもりは毛頭ありません。
ただ、ピスト乗りでもノーブレーキは違法ですし、実際に周囲に迷惑がかかっており、これだけ社会的に問題視され、マスコミなどでも取り上げられているのは事実としてあります。
一部の違法ノーブレーキ車により、直接・間接的に自転車界全体が迷惑を蒙っている構図ではないでしょうか。
その危険性に気づき、安全を確保して乗って欲しいと思うのです。
ロードのブレーキの制動力は、強すぎても危険な部分がありますし、また別の問題だと思います。日本でだけロードに乗れないなんてことにはならないと思います。
大震災で私達の生活が知らず知らずのうちに過度に原発に依存していたことが判明したようです。
自転車で公道を走っていると、いかに日本の公道が自動車のために作られてきたかを実感します。
原発も今の道路行政も私達が未来へ残す負の遺産ですね。
除染作業も自分家のゴミを隣家へ掃き捨てるようで、臭いものに蓋をするだけのような・・・。
「原発さえなければ・・・。」と思うのは私だけでしょうか?
いやー福田さんのノープレピストの件はかなり話題になりましたね
ブレーキの付いた固定ギアやロードバイクにまで悪いイメージが付かないことを願いたいです
いわゆる「ピストバイク」と呼ばれる自転車が悪いのではなく、ブレーキを正しく装着していないことが悪いのですよね。
ただ、いくらブレーキをつけていても、歩道をビュンビュンとばされると怖いですよね。
自転車に関する色々な問題、マナーという段階では済まなくなってきているのは確かだとおもいます。
cycleroadさんこんばんは。
一般道を走る車、オートバイに乗るの皆さんは知っていると思います。
ブレーキの無い乗り物が如何に危険であるかを。
サーキットを走るドライバー、ライダーは知っています。
決してブレーキの無い乗り物には乗らないでしょう。
何故!? ノーブレーキのピストバイクにあこがれて
ファッション!? 流行りだから
人の命は!? 私は大丈夫
他人の命は!? ...
誰が悪いのか。
何が悪いのか。
私にとっては明解ですが、皆さんはどうなのでしょうか。
cycleroadさんのように、問題提起と拡散を行ってくれる人が
多くならなければいけませんねー。
いたたたたた...、私もですね。
随分昔ですが、シクロ(東南アジアの人力タクシー)のドライバーの経験をしたときに固定ギアでしたが、走り出しは重いし、人を乗せてる時は足の力だけで止まらないといけないので大変でした。クランクはもちろん鉄でしたが、曲がってました(笑)
最近は無理やり後にもブレーキつけたピスト風(フリーギヤのみ)も見られるようになってきましたが、後ブレーキはコースターブレーキとかにすればいいのに・・・って思います。北米シマノには内装8段のコースターブレーキなんかもありますし。お洒落かつ実用的で見た目もブレーキ無し!
ピストの件は、報道され目立っていますが----。通勤時間帯の自転車ははっきり言って走る凶器!!信号無視、逆送、一方通行無視、携帯、ミュージックプレイヤー、歩道爆走、無灯火等何でもあり。注意すれば、逆切れ。赤信号手前で徐行すれば煽られ、怒鳴られる始末。挙句の果てに、逆送を指摘して、交番まで行こうと言われ付き合うことに。(結果は明らか)しかもどんどんスポーツバイクが増えて、そりゃイメージ悪くなるわ。皆、この半年に実際に起きたことです。最近の週末ライドは都会に行く気にならず、峠へ疎開しています(泣)。
二浪独河さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、道路をクルマ優先にしてきたため、ドライバーも歩行者優先の原則を忘れ、横断歩道などでも止まりませんからね。人命が軽んじられてきたと言っても過言ではないでしょう。
除染作業も、最終的には水に溶かしたり、洗い流して放射性物質を分離し、取り除く作業が必要でしょう。ちょうど東電が、いま汚染水処理をしているように。
その作業や仮置きには、発生源である原発を使うしかないのではないかと思います。
撒き散らしておいて、保管も限界に近づいているのに知らんぷりというのは、いかがなものかと思います。
ももさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ただでさえ、ノーブレーキが問題視されていたところでしたから、余計に大きく報道された感があります。
ホントですね、きちんと法令を遵守してブレーキを外していない人のほうが圧倒的に多いわけですからね。
英ちゃんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうです、問題はノーブレーキということですね。
ノーブレーキ・ピストに乗る人は、車道を走行する場合が多いと思いますが、歩道を平気で暴走するような人も問題ですね。
こちらは、もう当たり前の光景のようになっています。自転車が車両であり、車道を通るものだと認識していない人も多いのが問題でしょう。
おっしゃる通り、マナーでは間に合わなくなってきていると思いますね。
Fischerさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
全くブレーキがなければ、それこそ危険で、公道を走るなんて自殺行為です。
ただ、ノーブレーキ・ピストの場合、ペダルを逆に踏むことで、全くブレーキがかからないわけではない、という部分が厄介なところなのだろうと思います。
ファッション、流行という部分も多分にあると思いますが、純粋にピストの面白さに加え、ノーブレーキのスリル、高揚感、あるいは陶酔といったものもあるのでしょう。
自転車に限らず、周囲を危険にさらしたとしても関係ない、自分さえ良ければいい、といったモラルの低下は、昨今いろいろなところで現れてきている気がします。
本人は自信満々で事故るつもりはなく、周囲に迷惑をかけていないと思っているのかも知れません。
横断歩道でも止まらずに歩行者の中に突っ込んで行っても、ぶつからない限りかまわないとでも思っているのでしょう。
報道などでも、さかんに非難されているにもかかわらず、一向に改まる様子がありません。
こうした身勝手さ、モラルの低さ、公共性の欠如は、恥ずかしいことだったはずですが、それも感じなくなってきているようです。
社会の問題として、何か歯止めをかけるような仕組みが必要になってきているのかも知れませんね。
よっしーさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も伝統的なダッヂバイクなどのコースターブレーキの自転車には乗ったことがあります。
レバーやワイヤーがなくなりますが、ブレーキの強弱の加減が難しく、メンテナンスなども面倒です。
最近ではあまり採用されなくなっているようです。
確かに、見た目を重視するならば。コースターブレーキという手はあると思います。
しかし、おそらく、今ノーブレーキ・ピストに乗っているような連中は買わないのではないでしょうか。
kurajiさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、最近自転車通勤する人が増えたことで、とんでもない状況になっている場所も多いようですね。
法令を遵守して走行する人がはじき出される、それこそ悪貨が良貨を駆逐するようなことにもなりかねません。
ルールを知らない人も多いようですし、知っていても無視するようなモラルの低い人も増えているようです。
ノーブレーキ・ピストの問題が顕著になる前は、ルールを無視して走行するスポーツバイクに非難の矛先は向かっており、マスコミにも取り上げられていました。
おっしゃるように、震災以来、無法な自転車が増えているのは確かで、非常に憂慮すべき問題になっていると思います。
何か社会としての対策が必要な時期にきているのかも知れませんね。
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