自転車の交通ルールには都道府県によって違うものもあります。
例えば、自転車に乗りながらのイヤホン・ヘッドフォンの使用禁止です。34の都道府県で何らかの禁止規定がありますが、残りの県には特に禁止という規定がなく、都道府県によってルールが違う形になっています。(少し前のデータなので、その後、34より増えているかも知れません。)
各都道府県ごとに、道路交通法の施行細則などで定めているわけですが、禁止する自治体でも、それぞれ規定が違います。例えば京都府は、「携帯電話、イヤホン又はヘッドホンを使用しながら運転をしないこと。」と明確にヘッドフォンそのものの使用を禁止しています。
一方大阪府のように、「警音器、緊急自動車のサイレン、警察官の指示等安全な運転に必要な交通に関する音又は声を聞くことができないような音量で、カーオーディオ、ヘッドホンステレオ等を使用して音楽等を聴きながら車両を運転しないこと。」と、ヘッドフォンそのものは禁止していないところもあります。
つまり、ヘッドフォンをしていても即違法として取り締まられるわけではなく、警察官の制止が聞き取れなければ違反ということになるわけです。実際、街でもヘッドフォンやイヤホンをして自転車で走行している人を当たり前のように見かけるのではないでしょうか。
ヘッドフォンをして自転車に乗る、すなわち周囲の音が良く聞こえない状態で乗るなんて、怖くて出来ないという人がいる一方で、平気で乗ることが出来る人もいます。歩行中や電車の中など、ふだんから移動中にヘッドフォンを使っていると、その延長で平気で乗れるようになるのかも知れません。
東京都のアンケート調査によれば、日常的に音楽プレーヤーを使い、ヘッドフォンなどで聞いている人の約3割が、自転車に乗っていても使うと答えています。ラジオや音楽以外のコンテンツを聴く人もいるでしょうし、おそらく相当の数の人がヘッドフォンやイヤホンをして自転車に乗っていると思います。
使用そのものが禁止の都道府県は別として、適切な音量で聴いているならば、イヤホンやヘッドフォンをして自転車に乗っていたからといって、非難するわけにはいきません。しかし、違反にはならないとしても、必ずしも安全であるとは限らないことに注意すべきです。
イヤホンで音楽聞きながら自転車に乗っていた男子大学生、遮断機のない踏切で電車にはねられ意識不明の重体
8日午後4時半頃、埼玉県熊谷市曙町の秩父鉄道持田―熊谷駅間の踏切で、自転車で渡ろうとした同市に住む大学4年の男子学生(22)が、下り普通電車(3両編成)にはねられ、全身を強く打ち、意識不明の重体になった。
熊谷署の発表によると、現場は警報機も遮断機もない踏切。運転士は数十メートル手前で、左側から年配の女性が自転車で横切ったため警笛を鳴らしたが、直後に右側から学生が進入してきたという。
学生は耳にイヤホンを付け、ポケットにある携帯型の音楽プレーヤーが再生状態になっていた。
同署は、学生が音楽を聴いていたため、電車の接近に気づかなかったとみて調べている。(2010年9月9日 読売新聞)
これは昨年9月のニュースですが、その前の5月にも、同じ埼玉県の秩父市で高校1年の男子生徒(15)が、同市内の踏切を自転車で渡っていてはねられ、死亡する事故が起きています。秩父鉄道だけでも99年以降に13人が死亡していると言います。まことに痛ましい限りです。
埼玉県でも、他の鉄道は含まれていません。全国での自転車の踏切事故の統計が見当たらないのでわかりませんが、全国で合わせれば相応の数に上るはずです。こうした事故を、本人の不注意、自業自得、愚かなどと片付けるのは簡単ですが、果たしてそれだけでいいのでしょうか。
電車が警笛を鳴らしたにもかかわらず、聞こえなかったようです。聴いていた音楽の音量のことは記事にありませんが、至近距離に迫る電車の警笛が全く聞こえなかったとは考えにくいでしょう。だとすれば、ある程度聞こえていたにもかかわらず、注意を払わなかったことになります。
音は聞こえづらかったにせよ、目は開けていたはずです。目をつぶって自転車に乗っていたとは考えられません。当然踏切が目に入ったでしょうし、例え一時停止は怠ったとしても、左右を確認すれば、接近する電車に気づかなかったはずはありません。特に見通しの悪い場所との記述もありません。
要するに、それだけ注意散漫になっていたと考えられます。ある程度警笛が聞こえていたのに、その危険性に思いが至らなかった、踏切だとわかっていたのに、左右を確認するという当たり前の行為が出来なかった、そのことに頭が回らなかったのだと思われます。
信じられない気もしますが、音楽などを聴いていると、こうしたことが起こりうるわけです。両耳をふさぐわけではない携帯電話でも、同様のことが起こります。会話の内容に気をとられるあまり、周囲の景色が見えているのに注意散漫となり、目からの情報が疎かになってしまったりします。
よく、目の前が真っ暗といった表現がありますが、何らかの刺激や情報に集中するあまり、見えているのに周りが見えなくなることがあります。考え事をしたり、音楽などに集中していても、同じようなことが起きます。そのような状態のまま自転車で走行していたとすれば、危険を察知できず、素早く回避も出来ません。
自分では大丈夫、周囲の音も聞こえていると思っていても、実際には、こうしたことが起こりうると考えるべきでしょう。タイミング的に運が悪かったということはあるとしても、ヘッドフォンをしていたなら、いつ何時、こうした事故が起きてもおかしくありません。
ちなみに、2件とも遮断機も警報機もない第4種という分類の踏切で起きています。遮断機があれば起きなかったかも知れません。しかし、この種の踏み切りは全国で3千箇所以上もあるのが現状です。幅の狭い小さな踏切、人通りの少ない踏切も多く、コスト面などから、なかなか対策は進まないと言います。
事故が起きた踏切は、どちらもすぐ近くに遮断機も警報機もある第1種の踏切がありました。そのため当該踏切の閉鎖は可能で、事故防止のため閉鎖を願い出ていましたが、地元の反発で実現していませんでした。閉鎖されると遠回りで不便だし、気をつけて渡っているので危険はないと反対されるのだそうです。
さすがに事故後、熊谷の踏み切りは閉鎖となり、秩父のほうも、今後対策が行われる予定になったという話です。しかし、小さい踏切は、なかなか遮断機をつけるのもコスト的に難しく、閉鎖が妥当だとしても、そう簡単には対策が進まないわけです。
通勤経路や、よく通る場所に第4種踏切が無ければ問題ないかと言えば、そんなことはありません。ヘッドフォンやイヤホンの利用、あるいは携帯電話の通話も含め、そのことが原因か、直接ではなくても遠因となるのは踏切事故に限ったことではありません。
交通事故の件数は少しずつ減っていますが、そのうちの自転車が関係する事故の割合は増えていると言います。自転車とクルマの事故では、信号無視とか一時不停止など、自転車側の交通ルール違反が原因となった事例が大きな割合を占めています。
具体的に調べたデータがないのでわかりませんが、クルマとの事故の中にも、音楽を聴いていたために注意散漫になったのが間接的な原因という事例もあるに違いありません。音楽に気をとられたために、クルマの接近に気づかなかったり、注意散漫となって信号無視をしたり、一時停止を忘れたという例も少なくないはずです。
交通ルールは守っているし、マナー的に問題となる行為はしていないというサイクリストは多いと思います。でも、ヘッドフォンについては違反ではないし、音量さえ適切なら問題ないと考えている人も多いのではないでしょうか。もしかしたら、それは単に今まで運が良かっただけなのかも知れません。
交通ルールを遵守するのは、自分の身を守るため、また他人を死傷させて多額の賠償責任を負わないないためにも重要です。しかし、交通ルール違反さえしなければ安心というわけではありません。違反でなくても、安全上のリスクの高い行為があることにも、注意しておく必要があると思います。
ウォール街でもデモですか。本当は日本でも起きて不思議ではないのかも知れませんね。