
日本では、竹製の自転車と聞いてピンと来る人は少ないと思いますが、アメリカでは生産を手がけているビルダーも何社かあり、少ないながらも、一定の支持があるようです。日本だと、竹で手作りの自転車なんてキワモノと思われがちですが、上述のように素材として素晴らしく、大きな可能性を秘めているのです。
この自転車を買うことは、社会貢献、途上国支援にもなります。他の人とは違った個性的な自転車が欲しいという人にも魅力的な選択肢になるかも知れません。もちろんフレーム以外のパーツは、シマノ製など、普通の自転車と同じであり、粗悪なものではありません。
発展途上国の中でも特に開発が遅れている国の一つであるザンビアでは、失業率が実に50%から80%に達すると言います。一日2ドル程度稼げれば食べていけるそうですが、目ぼしい産業がないのでその口がなく、社会のインフラも貧弱、識字率も低く、まさに貧困に喘ぐ状態です。
竹の自転車を先進国に輸出するのは、“Zambikes”の一部に過ぎません。現地向けには、竹ではなく普通の自転車を作っています。これは現地では貴重な交通手段となります。多くの国民はクルマなんて持っていませんし、公共交通も整っていないザンビアでは、自転車が死活的に重要な役割を果たしています。
職を得て働こうにも通勤手段がありません。例えば歩いて片道4時間以上かかるのでは、就業は困難です。必ずしも舗装された状態のいい道路ばかりではありませんが、それが自転車によって、1時間程度になるとすれば、通勤の可能性が出てきます。自転車はまさに生死をも左右しかねない道具なのです。
やはり片道数時間かけてでは学校にも通えません。教育も無料ではないので、それだけが要素ではありませんが、それでも自転車があれば、少なくとも物理的には通学の可能性が出てきます。子どもたちや、その親にとって、教育の機会を与えてくれる可能性のある、将来への夢につながる道具でもあるのです。
医療体制の悪さも、日本人の想像を絶するものがあります。看護師が歩いて出向いて手当てするなどしていますが、距離が遠いので、それが出来る人数は、一日3人程度が限界だと言います。もし、自転車があれば、それが10人にもなるでしょう。この効率の向上は、現地の医療体制にとっては画期的なことです。
“Zambikes”では、自転車とその牽引するカートで構成された“Zambulance”も作っています。“Zambikes”は、言うまでも無くザンビアとバイク(自転車)を合わせた造語ですが、“Zambulance”は、ザンビアと救急車(ambulance)を合わせた造語です。
つまり、救急搬送用の自転車です。日本で自転車の救急車なんて言ったら笑い話ですが、ザンビアでは大真面目です。日本のようにクルマの救急車による搬送体制が整っていませんし、タクシーの料金を払えるわけがない多くのザンピア人にとって、病院へ病人を連れて行くための重要な手段なのです。
それまでは牛が牽く荷車か、荷車を人が手で押していくしかありませんでした。遠い道のりを牛の歩む速さでは、救急とは言えません。スピード面でも格段の進歩であり、画期的なことです。事実上、病人や怪我人を素早く病院に運べる、ほとんど唯一の可能性が自転車なのです。
事実、2009年に供給された750台の自転車救急トレイラーによって、2010年には5万人の命が救われた計算になります。自転車はまさに生命線であり、それを提供することは、単にザンビアで雇用をもたらす産業という以上に、社会的にも非常に大きな意味があることなのです。
“Zamcart”というのも作っています。こちらはネーミング的な趣向はありませんが、その重要度は勝るとも劣りません。 “Zambulance”と同じように、自転車で牽引するトレイラーですが、家畜以外に荷物を運ぶ手段を持たないザンビアの多くの人々にとっては、大きな意味を持ちます。
当然、水道はありませんから、飲み水や生活用水の運搬にも大きな威力を発揮します。水汲みは、女性や子どもの仕事となっていますが、水瓶を頭の上に載せて、歩いて運ぶしかなく、水場まで何時間もかかるような場合もあります。それだけで他のことが出来なくなります。
水汲みに何時間もかかっていたのが短縮され、また体力的にも軽減されれば、他の作業をして所得が増やせるかも知れません。子どもなら、学校に通える可能性が出てきます。水以外にも、これによって、初めて農作物を出荷する可能性が開けるかも知れません。やはり死活的に重要な意味を持つ道具になりうるのです。
自転車の生産は、単に現地に仕事をもたらすだけではないわけです。雇用だけなら、他の工場でもいいですが、自転車を生産していることに意味があります。まさに、ただ自転車を組み立てているだけではなく、人々の命を救い、生活を向上させ、未来への可能性を開く事業と言えるでしょう。
“Zambikes”は、アフリカの支援をする非営利組織などと連携した社会的企業、ソーシャルビジネスです。2人のザンビア人と2人のアメリカ人が立ち上げた、まだ若い会社で、2007年に初めて300台が現地で販売されました。現在40名ほどのザンビア人たちが働いています。
ザンビアで最も優良な自転車とカスタマーサービスを提供すべく努めています。さらに、従業員は単に職を得ただけでなく、職業訓練を通して技術を習得し、将来は新たな工場を増やしていく過程に携わることになります。もちろん、“Zambikes”の利益は、そのための再投資に使われます。
工場を増やし、人々の生活を助ける自転車の供給を増やし、活動をザンビア全体に広げて行こうというわけです。同時に雇用を増やし、周辺産業も育てることで、貧困からの脱却の手助けを拡大していくことにもなります。ザンビアだけでなく、他のアフリカ諸国にも展開し、貢献していく日も遠くないかも知れません。
これまで、国連などを通じ、先進国が途上国に金銭や食料を援助する様々な途上国支援が行われてきました。しかし、必ずしも貧困から脱出に効果的とは言えませんでした。なぜなら、援助される側も援助されることに慣れてしまい、援助を待って何もせず、何も変わらないという状況があったのです。
それに比べ、現地の人に自立を促す途上国支援ということになります。利益を株主が得るのではなくコミュニティに還元する社会的な事業、ソーシャルビジネスの手法としても注目されます。竹の自転車によって、先進国の市場で先進国企業と競争し、利益をあげていこうという挑戦、アイディアも評価に値するでしょう。
自転車を買い換える際の検討ポイントに、途上国支援や社会貢献まで入れろと言うのではありません。しかし、もし竹製のフレームを視野に入れていたり、何か他とは違う独創的な自転車が欲しいと考えているのであれば、“Zambikes”を選択肢に入れてもいいでしょう。
他にも、海外の企業やNPOなどの中には、自転車の現地生産を通じてアフリカ各国の支援をしているところがあります。そうした活動を購買を通して支援する仕組みも増えています。同じ買い物が、購買先の選択によっては支援になります。何を買うかだけでなく、どこから買うかも検討すべき時代なのかも知れません。