ひと口に自転車と言っても、走行する場所や用途などによってさまざまな種類があり、それぞれに適した形のフレームやパーツなどが使われ、デザインも違ってきます。同じカテゴリーの自転車であっても、メーカーやモデルによってデザインは異なります。
場合によっては、求められる性能や条件によって最適なデザインへ収斂していくため、かなり似通ったものになることも多いですが、それでもメーカーやモデルによって少しずつデザインは違い、シティサイクルなどで比較的自由度が高いものは、かなり個性的なデザインも存在します。
通常、そうした自転車のデザインを担当するのは工業デザイナーです。メーカーの社員だったり、外部委託だったりしますが、専門の工業デザイナーが性能や製造コスト、他との差別化とか斬新さだとか、いろいろな要素からデザインすることになります。

もしそれが、ふだん自転車のデザインなどしたことのない、ファッションデザイナーが自転車をデザインしたらどうなるのでしょう。実際に、その答えが明らかになるイベントがニューヨークでありました。先月開催された
ファッション・ウィークの中でのイベントの一つとして行なわれたものです。
ファッション・ウィークに参加する、ふだんは洋服やアクセサリーなどをデザインしているデザイナーたちが自転車をデザインしました。もちろん、一からフレームなどをデザインしたわけではなく、既存の自転車をベースに、思い思いのデザインを施した作品です。

工業とファッション、分野は違ってもデザイナーだけあって、当然のことながらその感性やデザインセンスは、さすがと思わせるものがあります。色使いや飾り、コーディネートなどによって、同じ自転車でも大きく印象が変わり、ずいぶん個性的になるものです。
普通、自転車のカスタマイズと言ってもパーツを交換するくらいでしょう。中には、フレームの形状から何から独特のものに改造するような人もいますが、そこまで行くと溶接や金属加工など器具や技術も必要だったりして、ちょっと敷居の高いもの、自分には縁の無いものと思っている人が多いに違いありません。

でも、これらの自転車を見ると、表面的なデザインや装飾によるものだけでも、自分だけの個性的な自転車が出来るということがわかります。人と同じではなく、ちょっとオシャレな自転車に乗りたいとなと思う人であれば、一緒に写っているモデルさんの部分は差し引いたとしても(笑)、参考になると思います。
このイベント、その名も「
ツール・ド・ファッション」と題されています。今年初めて催された趣向です。ファッションウィークの期間中、ミッドタウンのファッション地区に展示されただけでなく、気に入ったものを借りて、実際に乗ってみることも出来るというものでした。

会場地区には自転車貸し出すステーションが設けられ、多少のデポジットを預ければ、誰でも無料で借りることが出来ます。ファッションウィークの期間中、デザイナーやファッションモデルなどの関係者がマンハッタンを移動する手段としても活用されました。
通常の場合、関係者が移動するのは黒塗りのリムジンか、ニューヨークでおなじみの黄色いタクシーということになるでしょう。有名デザイナーや、スタイル抜群の人気ファッションモデルが、マンハッタンを自転車で移動する光景が見られるということも話題になったようです。

ファッション・ウィークは、世界の主要都市を舞台に行われ、最新のファッションが披露される、いわゆるファッショショーなどを中心とした祭典です。だいたい1週間ほどの期間が設けられるので、ファッションウィークと呼ばれています。ニューヨークは、その中でも一番古い伝統を誇ります。
それでなくてもニューヨークという世界が注目する場所、世界中へ情報が発信される場所で行われるということもあって、世界中から有名デザイナーや著名なモデルらが集まる華やかなイベントです。頻繁に変わっていますが、冠スポンサーの名前を前につけて呼ばれる場合もあります。

そんな歴史と権威のあるニューヨーク・ファッション・ウィークですが、必ずしも形式や枠にこだわることなく、毎年いろいろと新しい趣向が凝らされたり、イベントが企画されたりしているようです。「ツール・ド・ファッション」と銘打たれた自転車のファッションショーも、その一つなのです。
ニューヨークでも、最近自転車に乗る人が急増しており、何かと人々の話題になることも多くなっています。そのことが今回、自転車のイベントが企画された背景にあったであろうことは想像に難くありません。自転車そのものを、ファッションのコーディネートの一部と捉える人も増えているようです。

日本でも、いわゆる『自転車女子』と呼ばれるような女性たちを中心に、自転車にアクセサリーをつけたり、好みの色のパーツに変えたりして、ファッションとしても楽しむ人が出始めています。今後、こうしたムーブメントは世界的なトレンドとなっていく可能性もありそうです。
もちろん、自転車が一般的なファッションアイテムとして扱われるようになるわけではありません。イベントとしても、おそらく今回だけで、毎回行われるわけではないと思います。ただ、自転車のファッション性については、今後自転車メーカーなども重視していく部分になっていく可能性があります。

ちなみに、このイベントでデザインのベースとし使われた自転車は、“
Bowery Lane Bicycles ”というビルダーのものです。アメリカで売られている自転車の99%は外国で生産されますが、この自転車はアメリカ製、それもメイド・イン・ニューヨークという自転車です。
最初から荷台部分に木の箱のようなものが付いているのが特徴です。確かに、平らな荷台よりも箱型になっていたほうが、荷物を載せたり、その荷物を固定したりするのに都合がいい場合もあります。荷台に人を乗せたりすることは想定しないのであれば、木の箱型であっても問題はないでしょう。

荷台に木箱とは、日本人の目にはちょっと風変わりな自転車に見えます。魚屋さんか誰かが使う自転車のようです。ただ、メイドインニューヨークと聞くと、なるほどブルックリンあたりで見かけそうな、いかにもニューヨーカー御用達の自転車といった風情にも見えてきます。
どこかレトロで、ビンテージ自転車のような雰囲気があります。量産されるものではなく、ニューヨークで、しかもアメリカ人が手作りで作っているという点もアピールするのでしょう。この荷台部分も、見慣れると、なんとなくオシャレに見えてきます。こんな自転車を選ぶのも、また個性的と言えるでしょう。

日本では、各地の駅前駐輪場にそっくりなママチャリが延々と並んでいて、持ち主でも見分けがつかないほどです。スポーツバイクは、全体の中での割合が少ないので、同じものばかりには見えませんが、モデルそのままで乗っている人も多く、ある意味、みな同じものに乗っていて個性的とは言えません。
大量生産の自転車が悪いわけではありません。スポーツバイクの場合、余計なものは邪魔になるでしょう。ただ、服装やカバン、靴などのファッションを気にするのと同じように、自転車に、もう少し個性を意識してみるのもいいかも知れません。自転車に乗るのが、さらに楽しくなりそうです。
ちょうど、ファッション・ウィーク東京が16日から始まっています。こちらでは、自転車イベントはないようですね。