パンクをはじめ、チェーン、ディレーラーやブレーキなど、走行中にトラブルに見舞われることは、ままあります。そんな時、慣れたサイクリストなら、その場で修理やメンテナンスをすることが出来ます。ただ、場合によっては、パーツの破損など、その場での修理が困難なこともあります。
初心者など、パンク修理すら出来ない人もいますし、自分には手に負えないトラブルということもあるでしょう。そんな時には、最寄の自転車屋さんに駆け込むか、無ければ走行継続を諦めて、後日ショップに持ち込むことを考えると思います。
減ったとは言え、日本ならば歩いて行ける範囲に自転車屋さんがあるかも知れません。ふだんの活動エリアであれば、心当たりもあるでしょう。しかし、これが国土の広いアメリカとなると、なかなか自転車を押して持っていける距離に自転車ショップはありません。
仕方がないのでクルマに積んでショップまで行き、預けて修理をしてもらい、済んだら引き取りに行くことになります。とても面倒ですし、その間は自転車を使えません。クルマを使わず、代わりに自転車を使っている人などは、大いに困ることになります。
バージニア州のハリソンバーグというところで自転車店に勤めていた、Ben Wyse さんは、勤めている店が修理やメンテナンスを必要とする顧客のニーズに答えられていない状態を何とか出来ないものかと感じていました。そして独立して自分の店、“Wyse Cycles”を開業する際、自分のアイディアを試すことにしました。
ベンさんの“Wyse Cycles”は、指定された場所まで出向き、その場で修理やメンテナンスを行う出張修理サービスです。ただし、他と違うのは工具や部品などの商売道具を積むのは自転車で牽引するトレイラーという点です。ベンさんが知る限りにおいて、全米で唯一の自転車による自転車修理サービスなのです。
パンク修理から、完全なドライブトレーンのオーバーホールやカスタムメイドのホイールビルディングまで、仕事の内容は多岐にわたります。依頼に応じて、職場や学校など現場に駆けつけるだけでなく、顧客の家を訪問して修理やメンテナンスも行います。
顧客の中には、ガレージのシャッターの開閉装置の暗証番号を教えたり、ガレージのキーの隠し場所を、あらかじめ教えてくれる人もいます。つまり、依頼者が仕事などへ出かけている間に勝手にガレージを開け、その自転車に必要な修理や部品交換、メンテナンスなどを行うわけです。
帰宅後、依頼主は自転車の状態を確認し、請求金額に応じた小切手を郵送するなどして決済を行うことになります。当然ながら、相応の信頼関係を築かなければ出来ることではありませんが、顧客もベンさんも、お互い手間や時間が省けて便利というわけです。
自転車は、定期的なメンテナンスを施すことで、快適に乗ることが出来ます。趣味のサイクリストであれば、そのことはよくわかっているはずです。しかし、なかなか時間がとれない人、面倒なのでメンテナンスを頼みたい人もいます。そんな人も、わざわざ自転車店に愛車を持ち込む手間が省けるのは助かるでしょう。
自分の自転車のチューンナップのついでに、家族の自転車の整備を合わせて頼む人には、割引もします。ベンさんが開業したのは2009年の4月ですが、リーマンショック後で失業率が高くなっています。失業中などで苦しい経済状況にある人には、部品代だけで工賃をとらない場合もあると言います。
ベンさんも独立後、売り上げが上がらない間は、家族を養うため、市バスの運転手としても働きました。地元の大学で、自転車のメンテナンスについて教えていたこともあります。そんな経験が、失業して苦労している人を、少しでも応援したいと思わせるのでしょう。
苦労もあります。注文時、顧客がトラブルを必ずしも正確に判定しているとは限りません。行ってみると、あらかじめ予想したのとは全く違う資材が必要になる場合もあります。しかし、牽引するトレイラーには、リペアスタンドや必要な工具、標準的な消耗品や替えのパーツなどの他に、積載できる容量はそう多くありません。
そんな場合、必要な資材を“Wyse Cycles”の拠点であるベンさんの自宅まで取りに帰らざるを得ないことも、しばしばです。彼の営業エリアであるハリソンバーグは広さ44平方キロメートルもあるのに、効率よく顧客の家を回るというわけには、なかなかいかないのです。
それなら、なぜトラックとかバンを使っわないのかと不思議に思う人もあるに違いありません。全米唯一の自転車による自転車修理サービスというのを売り物にしているわけではありませんし、トラックに工具や資材を全て積んで出かければ、はるかに効率的なはずです。
多くの人にとって、自転車に乗ることは楽しみであり、一人ひとりにとっては個人的な趣味だったり、通勤通学の手段でしかありません。しかし、自転車に乗ることが社会に広がり、一般的な交通手段、輸送手段として活用されるならば、それは社会的な問題の解決の助けになる可能性があると、ベンさんは考えています。
言うまでも無く、気候変動や環境汚染、生態系の破壊などもそうです。これら地球規模の問題だけでなく、失業に苦しむ人が、職業にアクセスする助けになるかも知れません。アメリカ社会で深刻になっている肥満による健康問題、医療費や保険の問題にも関係してきます。
そして、エネルギー安全保障の問題や、石油の権益を巡って繰り広げられる戦争も、その中に含まれます。開戦のきっかけや戦争の理由はともかく、背後に石油を巡る思惑が広がる中東地域での戦争で、多くのアメリカ人の若者の血が流されているのは、紛れもない事実です。
自転車を使うことの意義を感じているベンさんにとって、自転車とトレイラーで足りるのに、クルマを使うという選択肢はありません。自転車の良さを多くの人に知ってもらい、楽しんでもらい、自転車を整備することで、どんなに快適になるか知ってもらおうとしているのに、自らがトラックを使うわけにはいかないでしょう。
もちろん、トラックを使わないことで、トラック代や維持費、燃料費などの経費が必要なくなります。その分、利益が出ますし、料金を抑えることが出来れば、お客さんに使ってもらいやすくなります。何より、自転車に乗るのが好きなベンさんにとって、他の手段は考えられないということでもあるでしょう。
もし私がハリソンバーグの住人だったら、どう思うでしょう。トラックで来たからといって悪く思うことはないと思いますが、自転車のほうが親しみを感じ、好ましく感じると思います。自分の自転車を託すなら、自転車での移動にこだわり、ひと目で自転車好きとわかるベンさんのほうがいいに決まっています。
日本では格安なママチャリが街にあふれ、使い捨てのようになっています。修理を前提としない構造のママチャリの修理は採算が合わないと言います。量販店で格安販売されるので、修理する街の自転車屋さん自体減っています。修理するより新しく買う人が増え、放置自転車を増やす原因にもなっています。
その背景には、間違った道路行政や歪んだ自転車市場、結果として自転車本来の能力が発揮されず、理解されないといった日本特有の事情があります。日本でも、自転車を社会的に活用するためにも、自転車屋さんが自転車のメンテや修理を当たり前に出来る社会にしていく必要があると思います。
今度は汚染コンクリートですか。政府の指示が無くても、採石場の場所を考えれば、当然計測してしかるべきですし、自らの利益しか考えていない人たちがいるとしか思えないですね。
ベンさんと私は似ている部分が多いかもしれません。とても共感しました。自転車は静かで、クリーンで健康的で、老若難所全ての人が親しみの持てる素晴らしい乗り物です。日本は自動車に頼りすぎており、その反動は重大事故数や酸性雨等自動車公害、運動不足によるおぞましい生活習慣病急増、環境破壊につながっています。もっともっと自転車活用を進めていくべきでしょう。