
世界では国境を越えて、いろいろなものが売り買いされています。
しかし、中には売買してはいけないものもあります。人間もその一つです。人間に値段をつけ、本人の意思に反して人身を売買するような行為は、当然ながら許されるものではありません。はるか古代文明の昔からありますが、決して過去のものではありません。世界では、いまだ多くの場所で人身売買が続いているのです。
強制労働や性的搾取、なかには臓器売買などを目的にして人身売買が行われます。その多くは女性や子供が被害者となっていますが、男性がテロリストや少年兵として売り飛ばされるようなケースもあります。そして、奴隷のように働かされている人が、いまだに少なくないのです。
誘拐や暴力、監禁や脅迫などよるものだけではありません。出稼ぎやアルバイトのつもりが、騙されて売買されてしまったり、詐欺や借金、薬物中毒を利用するなど、その手口は多岐にわたります。密入国など非合法な立場にして口を封じたり、家族を人質にとって逃亡できないようにするなど巧妙です。

人身売買が行われる背景には貧困があると言われています。他にも、内戦などの政情不安や災害、宗教や民族、身分や性別などによる差別や迫害、親が売りに出すようなケースまで、複雑な事情があります。南アジアなどをはじめ世界中に広がっており、多くは国境を越えて人身売買されると見られています。
その正確な実態を把握することも困難ですが、2000年には国連で条約も制定されました。国際機関や各国の専門機関、警察や司法、医師や出入国管理など各方面の組織、NPOなどが連携して、その撲滅に向け、犯罪組織の摘発、人身売買の抑止のための啓発、人身売買の被害者の救出などに取り組んでいます。
幸運なことに発見・救出できたとしても、被害者は心身に大きな傷を負っています。シェルターなどと呼ばれる場所で安全に過せるよう保護し、社会復帰に向けたリハビリなどの支援を行う必要があります。救出後のプロセスも大事であり、さまざまな段階での支援が多くの人の手によって提供されています。

さて、この人身売買による被害を受けた少女たちの社会復帰を支援するため、独自のプロジェクトを行っている非営利組織があります。これまでも自転車を通した途上国支援を続けている“
88 bikes”です。彼らの支援は、少女たちに、ズバリ自転車を寄贈し使ってもらうことです。
「なんで自転車なのか、もっと必要なものがあるのではないか」と思うかも知れません。食料や衣料品など基本的なもの以外にも、自転車より必要なもの、もう少し気の利いた彼女たちが喜ぶようなものを贈ってもいいのでは、と考える人も多いかも知れません。
しかし、アフリカや南アジアなど途上国の交通も発達していないような場所に住む人たちにとって、自転車は非常に重要な役割を果たします。学校や職場、市場や病院、あるいは水を汲みに行くのさえ、徒歩でのアクセスが困難な場所では、自転車は死活的に重要なアイテムとなります。
生計を立てるため、農産物の出荷などに使われる場合もあります。自転車は彼女たちの自立に大いに役立つものなのです。電車やバスで簡単に移動できたり、インフラや商業施設の集積している日本とは違って、彼女たちにとっての自転車の価値は計り知れません。日本とは大きく違います。
“88 bikes”では、自転車の修理や組み立てなどの技術のトレーニングにも力を入れています。この技術が生計をたてる、あるいは貧困から脱する直接の助けとなる場合もあります。自転車を手にして移動の可能性が広がることで、精神的にも彼女たちの大きな支えになっていると言います。
舗装道路が整備されていない場所も多いと思いますが、それでも徒歩と比べた自転車の機動力は圧倒的です。そして何と言っても燃料が必要ないこと、自分で修理やメンテナンスが出来て、ランニングコストが安いということも重要な要素です。
自転車の寄付は、魚(食料)を支援するのではなく、釣竿(食料を調達する道具)を支援することと言えるかも知れません。“88 bikes”では、人身売買の被害者だけでなく、これまで多くの地域の恵まれない子供たちへ自転車を提供する支援を続けてきました。世界中の全ての子供に自転車が必要だと考えているのです。
ちなみに、なぜ“88 bikes”なのかと言えば、自転車1台につき、88ドルの寄付を求めていることに由来します。この金額は、途上国で自転車を調達する概算のコストです。自転車を調達するのも現地の業者からの購入を原則としています。組み立てや輸送の費用にも充てられますが、それも現地の労働者を使います。
つまり、寄付した88ドルは、その地域の経済に100%役立つことになります。“88 bikes”のスタッフの人件費などには一切使われません。そして子供には、寄付した人の写真と、その人が住んでいる街を記した世界地図をプリントした葉書が、自転車と一緒に贈られます。
寄付した人には、自転車をもらった子供の写真の入ったお礼状が送られることになります。“88 bikes”は、支援する人と支援を受ける人をつなぐ役割を果たすというスタンスなのです。ほかに44ドルの自転車修理キットを贈ることもできますし、もっと少額の寄付も出来ます。
支援者と被支援者を結ぶというスタンスも含め、とても有意義で有益な活動だと思います。世界には、貧困に苦しんでいたり、弱い立場にある人々を搾取するような、冷血な犯罪者たちがいる一方で、こうして被害者を救い、支えようとする人たちがいることに救われる気がします。
ところで、欧米の国には人身売買の被害者支援をする人がいるのに対し、非常に残念なことに、日本は人身売買の受け入れ大国と言われています。風俗産業や飲食店などで、その意思に反して働かされていたり、労働に見合わない対価や劣悪な労働環境で働かされている外国人がいます。
日本人の労働者を確保できない企業が、研修や技能習得制度などと称して途上国・新興国の労働者を連れてきて、パスポートを奪って移動を制限し、安い賃金や、長時間働かせるような事例も人身売買です。日本人が買春ツアーで、途上国へ出かけるのも、その国での人身売買を助長することになります。
アメリカの国務省の報告書では、日本の人身売買を防ぐ法的枠組みは、努力中だが基準を満たしていないと判定しています。国務省の分類によれば、北米や西欧、オセアニア、おとなり韓国や台湾などが軒並み基準を満たしているのに対し、日本だけが外れており、これは恥ずべき状態です。
人身売買は、仮に違法な取引を産業として考えてみた場合、世界で最も収益性が高いと言われる麻薬販売に次ぐ収益と言われています。そして、最も急速に成長している犯罪産業だと見られています。その実態は多様で掴みづらく、根絶は容易ではありません。
深刻な人権蹂躙なばかりでなく、劣悪な環境や過酷な労働、エイズなどの病気や栄養失調などにより、若くして命を落とす人が大勢います。自分からは抜け出ることの出来ない地獄のような状態、まさしく奴隷のような状態に置かれている被害者の心情たるや想像を絶するものがあります。
日本政府も取り締まりに力を入れているものの、摘発されるのは氷山の一角と言われています。国民一人ひとりが、人身売買を助長するようなサービスを利用しないよう気をつけたり、外国人を不正に働かせているような企業とは取引しないなど、人身売買が起きる土壌を断つよう協力することが必要でしょう。
世界には人身売買の被害者を救ったり、社会復帰を支援する人たちがいる一方で、日本は、いまだに奴隷制度に結果として加担するような人身売買受入国であるという事実は重いものがあります。もちろん寄付や募金もいいと思いますが、私たちに何が出来るか、どう行動すべきか、よく考えてみる必要があるのではないでしょうか。






なでしこが米国に初勝利で決勝進出、相変わらず頑張ってますね。それに比べ..。