自転車乗りへの感謝のしるし
先日、大通りを自転車で走行していた時のことです。
よく晴れた気持ちのいい日で、私は学園通りと書かれた通りを東に向かって走行していました。前方の交差点の信号が赤になったので、車道の左端に止まりました。すると、歩道の端まで一人の見知らぬ年配の女性が近づいてきて、私に茶封筒を渡しながら言いました。
「今日は自転車にしてくれてありがとう。」
一瞬、何のことかわからず、頭の中には「?」マークが広がりました。でもすぐに、それはチラシか何かが入った袋であり、駅前などで歩行者に向けて配っているのと同じなのだろうと思い至りました。ただ、とっさのことだったので、思わず封筒を受け取ってしまいました。
「あっ、これ。」
気がつくと、女性はすでに離れていってしまっており、返すことも出来ず、かと言ってその場に捨てるわけにもいきません。仕方なくウェアのポケットに封筒を突っ込み、青信号でスタートしました。すると、交差点の向こう側で、一人のサイクリストが同じ封筒を振っています。その後ろにつく形で、私も止まりました。
(※ 写真は本文と直接関係ありません。)
「これ、何なんですかね?」
そのサイクリストが言います。自転車に乗ったまま封筒を渡され、明らかに戸惑っているようでした。お互い面識はありませんでしたが、彼もすぐ直前に封筒を渡されたようです。受け取りはしたものの、気になって振り返り、私が封筒を受け取ったのを交差点の先で見ていたのでしょう。
「いや、私も知りませんれど、チラシか優待券か何かじゃないですか。」
おそらく、自転車相手にチラシを配るという行為に虚を突かれて、彼も受け取ってしまったのでしょう。私も振り返ってみましたが、その年配の女性はもう移動してしまったのか、見当たりません。特に何かの店の新装開店という風でもなく、ほかに封筒を配っている人もいません。
「じゃ、お先。」
わざわざここで開封して調べるほどのことでもないと思ったので、一声かけて先にスタートしました。そのまま、走行しているうちに、その封筒のことなどすっかり忘れてしまっていました。家に帰り着いて、ウェアを脱ぐ時に封筒に気づき、取り出してみました。
その茶封筒には手書きの文字で、「ありがとう。寸志在中」と書かれています。開けてみると、プリントアウトされたイラスト入りの一枚の手紙と、なんと現金がはいっています。差出人が匿名になっている、その手紙の文面は次のようなものでした。
ありがとう。
この手紙に同封したお金は、街を移動するのにクルマではなく、自転車にするという非常に勇気ある決断をしているあなたへの、心ばかりのお礼です。あなたの選択のおかげで、そのぶん街の空気は汚れなくてすみます。そのことにとても感謝しており、ささやかですが、何か感謝の印を示したいと思いました。あなたの示しているリーダーシップにも感謝します。
匿名希望より
実は、わかりやすくする為、一人称の文章にして多少脚色したのですが、これは私の体験談ではありません。しかし、フィクションでもありません。昨年、カナダのトロントで実際に起きた話なのです。
Tom Polarbear さんというトロント在住のサイクリストが遭遇した話です。
トムさん以外にも、少なくとも数人以上のサイクリストが、このギフトを受け取ったようです。現金はカナダドルの5ドル紙幣が入っていました。500円弱といったところでしょうか。自転車に乗っている人に感謝の気持ちを表すため、少額とは言え現金を贈るなんて日本では聞いた事がありません。
寄付の文化が根付いているとは言え、直接サイクリストに現金を渡すのは、さすがにカナダでも珍しい話として、地元ではちよっとした話題になったようです。ただ、この贈り主の女性がいったい誰なのかは誰も知らず、結局わからないままのようです。
日本でも少し前、タイガーマスクを名乗る匿名の贈り主が、児童養護施設にランドセルなどをプレゼントするというニュースが相次いだことがありました。また、東日本大震災の被災者のために役立てて欲しいと、多額の現金を役所などに置いていく人が現われたりもしました。
もちろん、そんな特別な例でなくても、街頭で募金や義援金を集めていれば、ポケットマネーを出す人は大勢いるでしょう。日本でも、見知らぬ人のために現金やギフトを贈るような行為をする人がいないわけではありません。しかし、その対象が自転車に乗っている人というのはないと思います。
日本でも、例えば街で一生懸命に掃除をしている子供を見かけた人が、感心して、あるいは褒めるために、ジュースを買ってプレゼントするくらいのことはあるかも知れません。しかし、その対象がサイクリストが自転車に乗っているという行為に向かうとは、ちょっと考えられません。
日本で自転車と言えば、マナーが悪く交通法規を守らなかったり、歩道を傍若無人に走り回るなど危険だったり、放置自転車などの迷惑行為をするなど、残念ながら、いい印象がない人も多いと思います。クルマでなく自転車に乗ることが、街の環境のためにもいい、好ましいと評価するような風潮も乏しいでしょう。
自転車が、排気ガスや騒音を出さず、渋滞を減らし、道路を傷めず、環境への負荷を減らし、省エネに貢献し、健康にもいいことは理解されていると思います。しかし、そうした自転車の社会的な評価と、実際の印象とは乖離しているところが、日本と欧米とで大きく違う部分と言えるかも知れません。
トロントは、人口250万のカナダ最大の都市です。北米大陸でもニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴに次ぐ4番目の規模の大都市ですが、自転車で1時間もあれば大抵のところへは移動できます。欧米の都市で、まま見られるように、地下鉄にも自転車をそのまま乗せられますし、バスにもキャリアがついていたりします。
冬場は氷点下まで下がる寒さですが、自転車に乗る人が多い都市でもあります。基本的にクルマ社会なのは間違いありませんが、自転車が積極的に活用されている都市と言えるでしょう。また、このエピソードが示すように、自転車に対する理解、一定の支持があるのも確かなようです。
別に、日本でも自転車に乗ることが偉いとか、感謝されるべきだとか言いたいわけではありません。ただ、日本では長年特殊な道路政策が続けられたこともあり、自転車がその本来の能力を発揮できず中途半端で、結果として理解も進まず、マナーにしろ秩序にしろ、悪いところばかりが目立つ状態なのが残念です。
乗らない人でも、自転車に乗ることが素敵なことと自然に感じられるような社会に、日本もなるといいなと思います。賞賛され、現金を贈られないまでも、少なくとも社会から目の敵にされることなく、その有用性が理解されてイメージも良くなるよう、サイクリストはマナーの向上や秩序の形成に努めたいところです。
ガソリン価格が高騰しています。イランの懸念があるのでしょうけれど、もう少し投機資金の流入も制限できないものなのでしょうか。
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Posted by cycleroad at 23:30│
Comments(15)│
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良いお話ですね。
舞台が日本でないのが残念なことではありますが。
私は厳冬期も含めてほぼ毎日自転車で仕事場に向かいます
が、自動車のドライバーから邪魔者扱いにされることがよく
あります。悲しい現実です。cycleroadさんが時々書かれて
いるように、自転車が持つポテンシャルは素晴らしいもの
で、一日に何百キロも走れるし、改造や自作も自由自在。
ママチャリしか知らない人が大多数なのは本当に残念なこと
だと思います。どうしたら日本に於いて、自転車が本当の
意味での市民権を得ることができるんでしょうね?。
確かに、日本ではありえなさそうな話です。
事情が違うと言えばそれまでですが・・。日本の自転車の環境もどんどん変わってくればいいですね。
この記事を読んで、少し心が動きました。
ルールを守る気持の良いサイクリストに出会った時に、同じように出来たらなぁと思いました。
なかなか、運よくそのようなサイクリストが信号で停まるところに出くわせるかが問題ですが。
いつでも、そうすることが出来るように準備しておこうかな。
>自転車に乗ることが素敵なことと自然に感じられるような
どうしたらクルマが自転車にやさしくなれるのか?ちょっと試しに「花束」を自転車の後方に載せて走行してみました。花柄のウエアーもいいかもネ。
http://www.inouatlas.com/trip/detail/11382/
新聞記事
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120318/waf12031812560005-n1.htm
4月ですが、
2012年4月22日(日)地球の日/Earth Dayの自転車発電ライブ、それから
2012年4月7日(土)の御堂筋サイクルピクニックがあるので楽しみです。
http://8507.teacup.com/criticalmass/bbs
参考、
LRT構想 御堂筋も…府市統合本部検討
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120329-OYO1T00315.htm
睡眠不足はメタボを招く!? 過食の要因に
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/living/health/552701/
>どうしたらクルマが自転車にやさしくなれるのか?
「殺伐としたドライバーに心のオアシスを!」キャンペーン、、、信号待ちしてるドライバーに花一輪を配る、、、観光バスにあるような一輪挿しが全車にあればね。、、、まあシートポストに挿してるサイクリスト(男性はサングラスで顔を隠す)を見るだけでもドライバーは癒されると思うけど。
ボトルキャリアに花を生けたペットボトルを挿して気に入ったサイクリストにプレゼントしてみる、、、まばゆい笑顔がもらえたらハッピーだね。年中使えるからバレンタインチョコより効果は大きいよ。(内緒だよ!)
こんにちは。お金が入ってたのは驚きですが、悪いことではないので、むしろ気分を良くされたらどうでしょうか?
ところで私の自転車購入ですが・・・。
最初平凡なシティサイクルにする、と決めていたものの、近くのあさひで、いったんはプレシジョン・トレッキングを注文したのですが、ネットで見るとあまり評価は良くなく、「これはママチャリだ」と酷評されていまして悩み、結局、少し予算をあげて、ライトウェイのシェファード(2011年生産ですが)に発注し直しました。クロスバイクはパンクもよくあるようだし、チューブ交換も覚えないといけないようですが、そうなればタイヤ脱着もシェファードはクイックリリースで車重も12キロ代と軽いので、プレシジョンよりも一歩、本物のクロスバイクに近づいたかな、と思う半面で、自分みたいなオヤジに乗りこなせるか、24段ものギヤチェンジできるのか?など不安もあります。
店の人がプレシジョンの注文票をシェファードに移し変えて下さいまして、キャンセル料はなしでした。在庫は残り少ないらしいですが、フレーム色はブラック。ホワイト欲しかったけどありませんでした。泥よけと、電池式ですがライト(テールも)を装着してもらうようにし、今日は雨なので週明け晴れた時に改めて引き取りに行きます。今日は車で行ったのをさいわい、フロアポンプだけ別に買って積んで帰ってきました。それにしても、自転車購入っていろいろと付帯やオプションでお金がかかりますねぇ。盗難保険はあさひサイクルメイトで加入、全品10%引きが適用されるので、まあおトクなのかなー、と思いましたが。
ところでシェファードって入門クラスなんでしょうか。私はどちらかと言うと、予算オーバーでしたがあの美しいフォルムに一目惚れで欲しくなったんですが・・・。
環境に優しいのは、宅配のリヤカー牽引自転車と、荷物を沢山運べるママチャリだと思う。最近は息子が大きくなったので、歩き専門になってしまいました。
ファーマー佐藤さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
残念ながら、日本では起きそうにない話ですね。
欧米の国では弱者優先の原則が徹底している場合が多く、自転車に対してとても親切に感じることも多いのに対し、日本では、何か違法な走行をしているわけでもないのに、ドライバーの言われ無き悪意を感じることがあるのも、残念ながら、おっしゃるとおりだと思います。
日本は歩道走行のママチャリ文化とも言うべき、世界的に見れば独特な状況へと発展してきてしまったため、それを是正し、普通に自転車が理解され、活用されるようになるためには、相当の労力を必要としそうですね。
八木澤@ラフティング道さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
世間の自転車に対する見方、印象からして違いますし、自転車のポテンシャルに対する理解なども含めた根底からして事情が違うと言うことでしょうね。
こうがさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、自転車のマナーの悪さがクローズアップされることの多い昨今、マナーの良いサイクリストに対して、そのことに敬意や感謝の気持ちを示すようなことが出来たらいいかも知れませんね。
マナーの悪い人を罰したり、是正させることも必要かも知れませんが、マナーのいい人に対して、それを奨励するような風潮が広がるといいですね。
sharetheroadさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
大阪でも魅力的なイベントが目白押しのようですね。
自転車に乗る人であれば、「自転車に乗ることが素敵なことと自然に感じられる」ような機会も多いと思います。
しかし、残念ながら世間一般にそれが理解されるところまでは、日本はいっていないと言えるのではないでしょうか。
「殺伐としたドライバーに心のオアシス」という考え方もわからないではないですが、信号待ちで、ドライバーに花を配ったところで、果たして理解されるかという疑問も残ります。
シートポストに花を挿してるサイクリストを見て癒されるドライバーばかりとも思えません。
サイクリスト同士ならまだしも、わざわざ花を配って、ドライバーに媚を売るような行為には違和感を覚える人もあるような気がします。
spikaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これはカナダのトロントでの出来事で、私がもらったわけではありませんし、お金を贈るという行為に気分を悪くしたわけではありません。
日本と海外との人々の考え方の違いを感じたまでのことです。
私はそれらのモデルについて詳しくないので、なんともコメントできません。
世田谷花子さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
荷物を運ぶ自転車だけではなく、車種に関わらず自転車は環境に優しいと言えると思います。
移動か運搬かに関わらず、自転車を選んだという行動が、周囲へ示したリーダーシップととられたのでしょう。
感動モノ
タニグチさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ちょっといい話ですよね。
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