東京でも桜が開花し、桜前線は北上を続けています。まだまだこの時期、花冷えの寒い日もあったりしますが、街を行く人も春の装いが目立ってきています。自転車に乗るときの服装も、冬用から、春用のものへと切り替える人が増える頃かも知れません。
さて、この時期、自転車用のジャケットなどを着る人も多いと思いますが、自転車用ウェアの進化を予感させる一着が発表されています。オーストリアのデザイナーらで構成される“
The Utope Project”から発表されたサイクリング・ジャケット、“
Sporty Supaheroe”です。
夜間の視認性に配慮して、LEDが組み込まれたジャケットです。夜間、自転車にライトやテールライト、フラッシャーなどを取り付けている人は多いと思います。しかし、視認性を考えたとき、自転車の横方向はともかく、前後方向の断面積は決して大きいとは言えません。
自転車に取り付けるライト類も、それに応じた小さなものにならざるを得ず、視認性という意味では不利です。そこで自転車よりも大きな面積のある、乗る人の身体を使おうというのはリーズナブルな考え方です。ウェアの前面や背面にLEDを取り付ければ、前後方向への視認性の点で大きなアドバンテージとなります。
これまでにも光るサイクリングウェアというアイディアはありました。しかし、この“Sporty Supaheroe”は、ただ単純に光るだけのジャケットではありません。なんと、LEDとバッテリー以外に、加速度センサーや3Dのモーションセンサー、ジャイロセンサーなどが内蔵されているのです。
これによって、加速度や動き、姿勢や重力に対する傾きなどを検知して、それに応じた点灯や点滅のパターンを各所のLEDに信号として送り、光らせることが出来るというのです。言ってみれば、デジタル・ジャケットという感じでしょうか。
例えば、背中の面を赤色に光らせて、後続車への視認性を高めるだけでなく、ブレーキをかけて減速する動きを感知したら、より明るく発光させ、ブレーキランプのような役割を持たせることが出来ます。加速度センサーで減速を自動で感知しますので、乗り手が何か操作する必要はありません。
クルマのブレーキランプは、基本的にドライバーがブレーキを踏むと点灯します。同じように、自転車のブレーキレバーを引いた時に点灯させるのは技術的に簡単ですが、ブレーキレバーとブレーキランプを有線か無線によって接続する必要が出てきます。
無線にしたとしても、ブレーキレバーに何らかの装置を装着する必要が出てきます。このジャケットなら、そうした機器は不要です。自転車に取り付ける小さいブレーキランプだと点灯もわかりにくいですが、これは背中の大きな面を使いますから、後続車への合図としての効果も高いでしょう。
前面は、赤色光にすると進行方向を誤認させて危険ですので、ライト(前照灯)と同じ白色光や他の色などを使うことになると思います。この前面の光も、例えば停止時には目に入るまぶしさを軽減するために減光するとか、乗り手の動きと連動させることが出来ます。
さらに、傾きを検知して、左右を別々に光らせることも可能です。つまりクルマのウィンカーのように発光させたり、点滅させることも出来ます。右左折する前から点灯させるためには、別の仕組みが必要になりますが、左右への動きを知らせることで、後続車などに注意を喚起することが可能です。
もちろん、加速度や傾きとは別に、いろいろな色やパターンの光を発光させることも可能です。LEDや基盤は曲げることの出来る素材に取り付けられています。ウェアとしてサイクリストの動きを邪魔をせず、伸縮性や撥水性などの機能も阻害しないようにデザインされています。
そのほか、例えば携帯電話の着信を光って知らせるような機能を持たせることも可能です。走行中、風切り音などで着信に気づかないケースを防ぐことが出来ます。ケータイとの連動が必要ですが、すぐ停車して通話する必要があるか、相手などを色を変えて発光させることも考えられるでしょう。
自転車用のウェアを、単に光らせるだけでなく、ある種の表示装置、ディスプレーのように使うわけです。こうなってくると、ケータイやスマホと連動させたデジタル・ウェアとしての展開も考えられます。光るウェアというアイディアも確実に進化しているようです。
どこかに電池を装着する必要があると思いますが、LEDの消費電力は小さいですし、バッテリーも小型化しています。最近はコンピュータやケータイ、モバイル端末などの発達で、半導体やセンサーなども小型化・低価格化しています。充分実現可能なアイディアと言えるでしょう。
個人的に勝手な想像をすると、例えばウェアにGPSを組み込んで、LEDと連動させるようなことも、当然考えられると思います。目的地やルートを設定すると、曲がる方向をウェアの左右の袖が案内してくれることになるかも知れません。必要な地図情報をウェアが光って乗り手に知らせる機能なども考えられます。
さらに、その先にはLEDだけでなく、有機液晶パネルなどがウェアの表面に縫い付けられる可能性も考えられるでしょう。電子書籍などの進化に伴い、液晶パネルを紙のように薄くしたり、曲げたり出来るようなものも開発されつつあります。そうした技術を使えば、液晶ウェアも不可能ではないはずです。
こうなってくると、スマートフォンならぬスマート・ウェア、あるいはウェアラブル・コンピュータの領域へ入っていくことになりそうです。安全のために情報を外部に伝達するだけでなく、コミュニケーション・ツール、あるいは一種のモバイル端末として発達するかも知れません。
スマートウェアが、走行ルートからケイデンス、心拍数まで記録してくれるのはもちろん、緊急時の通報機能や走行中、乗り手の好みに応じたレストランを教えてくれるなどのガイド機能も可能でしょう。近くを走行している友人を見つけてくれたり、そのほかにもいろいろ考えられます。
もちろん、スーツなどへも搭載は可能ですが、普通の服に組み込む必要性は低いでしょう。とりあえず今のところ、自転車用ウェアへの搭載は現実的な選択肢です。光ることが大きなメリットになりますし、後続車とのコミュニケーションや、走行時の利便性など、こうした技術を搭載する潜在的な需要があると思います。
もしかしたら、自転車用ウェアが、着るスマホ、スマート・ウェアの登場を促すことになるかも知れません。ウェアラブル・コンピュータや、ある種のモバイル・コンピューティングの未来を、自転車用ウェアが切り開く形で発達していく可能性も否定できません。
いろいろ空想すればキリがありませんが、自転車用ウェアの世界も劇的な進化を遂げるかも知れないと考えると、なかなか興味深いものがあります。この“Sporty Supaheroe”、実用化も視野に入れているようですが、もし実現するとしても、まだ少し先のことになりそうです。
ただし、自転車に乗る際の夜間の視認性については、こうしたツールの発売を待っているわけにはいきません。反射板やアナログの昔ながらのアイテムであっても、周囲への視認性を高め、知らないうちに、私たちの安全に大きく貢献してくれるはずです。
自分自身では、なかなか自分の走行シーンを見ることは出来ません。自分は周囲がよく見えていても、周囲からこちらがよく見えているとは限りません。何の対策もとらないでいると、ある日突然、事故という形で思い知らされることになりかねません。
新年度、新学期がスタートし、この春から就職や進学で、通勤通学の手段として自転車に乗るようになった人も多いことでしょう。帰りが夜間になることもあるはずです。新しいデジタルアイテムの登場への期待とは別に、夜間の視認性を高めることの重要性は忘れないようにしたいものです。
いや、昨日の爆弾低気圧はすごい威力でした。北日本は今日も大変だったようです。今年は春一番が吹かなかったので、今後も天気は安定せず、雹が降ったりなどもありそうということなので、自転車で出かける時にはチェックが必要ですね。