路上生活者、ホームレスについての調査です。
ホームレス、全国で9576人=初めて1万人下回る−厚労省
公園や路上などで生活する全国のホームレスの人数は、今年1月時点で9576人だったことが13日、厚生労働省の概数調査で分かった。1年前に比べ1314人(12.1%)減少し、2003年の調査開始以来初めて1万人を切った。同省は「ホームレス自立支援センターやシェルターなどの事業が効果を上げた」と分析している。
内訳は、男性が8933人、女性が304人、性別不明が339人。都道府県別では大阪が最多で2417人、次いで東京2368人、神奈川1509人。島根以外の全都道府県で確認された。調査は、東日本大震災の影響を受けた福島県の一部を除き、全市区町村で実施。市区町村職員らが公園や道路、河川敷などで生活している人を目視で確認した。(2012/04/13 時事通信)
記事にあるように、行政も対策に力を入れているのでしょうが、不景気が長引く中で、果たして本当に減っているのかには疑問も残ります。公園や河川敷、文字通り路上で生活している人が減っているぶん、ネットカフェ難民などと呼ばれるような人が増えている可能性もあるのではないでしょうか。
アメリカでは、リーマンショックで失業したり、サブプライムローンの破綻で家を失う人が続出、金融危機などの影響もあって失業率は依然として高い水準にあり、路上生活者が増えていると言います。欧州も含め、世界的に経済の先行きが懸念される中で、日本だけが減少しているというのは腑に落ちない気もします。
フードスタンプなどの公的扶助のほか、アメリカでは、主に教会などを中心とした民間のボランティアによってホームレスの人に対する支援活動が行われています。そうした支援活動を頼る人が急増しているというニュースも聞きます。支援団体は対象者の増加に、活動の拡充のための寄付などを募る動きを強めているようです。
さて、そんな中で、昨年から独自のホームレス支援を始めた人がいます。アメリカ・オハイオ州はポートランドに住み、自転車に乗るのが趣味という、Laura Moulton さんです。彼女の支援は、彼女の言うところの「外で生活する人」に対し、無料で本を貸し出すというものです。
その名も、“
Street Books”、言わば、自転車による移動図書館です。3輪のカーゴバイクに本を積んで出かけ、ポートランドのダウンタウンなどで、路上で生活する人に本を貸し出すのです。昨年の6月上旬から毎週水曜日と土曜日、本を届けています。
「ホームレスに本を貸すのが支援?」と、首をかしげる人も多いに違いありません。今日、食べるものに事欠く人もいます。寒空に身体を暖めることも出来ずに、下手をすれば凍死しかねない状況があります。本なんかを貸し出すより、もっと必要な支援があるだろうと思うのは当然の反応かも知れません。
確かに、食べるものや寝る場所、着るものが優先でしょう。暖をとる手段も欲しいですし、身体の不調のある人には医療が必要かも知れません。そして仕事、ホームレスの状態から抜け出すためには安定した収入が得られる職につくことが必要であり、就職活動に必要な住所なども含め、自立の支援が必要なはずです。
ただ、そうした支援を提供しようとする機関や団体は他にも存在します。当面の食料や凍死しない寝場所の獲得が喫緊の課題、切実な問題という人がいる一方で、必ずしもそうではない人もいます。支援の手を差し伸べても拒否するような人もいると言います。
自らの選択として路上生活を選んでいる人もいます。食料や必要なものは自ら調達し、支援を必要としていない人もいるでしょう。それより干渉してほしくない人、シェルターなどに世話になって束縛されるくらいなら、路上で過したいという人も多いと聞きます。
一方で自暴自棄になっている人、自立したいと思っていない人、路上生活という境遇から脱却しようという意欲を無くしている人もあるに違いありません。もちろん、衣食住の支援の必要性は否定しませんが、必ずしも自立につながらない場合があるのも確かでしょう。
路上生活をしているか否かに関わらず、人間はなかなか他人に言われて、自分の考え方や行動、生活習慣を変えられるものではないと思います。とくに頑固な人でなかったとしても、人に促されただけでは、なかなかやる気にならないという経験は誰にでもあるはずです。
いくら本人の為だったとしても、自分の決意から行動するものでなく、他から促されたものでは、なかなか続かなかったりするものです。一方で、自分の中で痛感し、納得し、結論に至って、決意するならば、他人に言われるまでもなく行動するに違いありません。
もしかしたら、そんな自分から決意の手伝いをするのは、一冊の本かも知れません。一冊の本との出会いによって考え方が180度変わったり、人生が変わったりすることもあります。自分の見方や考え方が変わったことで、実際には何も変わっていないのに、今まで見てきたものが全く違って見えることもあります。
自暴自棄になっている自分に気づいたり、諦めている自分を発見するかも知れません。一冊の本が、夢や希望を与えることもあるでしょう。そんなケースは稀かも知れませんが、機械的に繰り返される日常に潤いを与えるものだったり、何か小さなきっかけを得ることになるかも知れません。
自ら作家でもあり、教育者であり、読書家でもあるローラさんは、本の持つ力を信じています。良い物語は、誰であってもいい影響を与えると信じています。二人の子供を持つ母親でもある彼女にとって、この、“Street Books”は、自分で出来ることであり、やりたいことでもありました。
一冊の本が、必ずしも外で生活する人を救うとは思っていません。しかし、定まった住所を持たず、公的な身分証明もないため、公共の図書館で本が借りられない人たちに、少なくても本へアクセスする場を提供出来ます。例え暇つぶしに過ぎなくても、ひと時の憩いの時間を提供する移動図書館に意味はあると思っているのです。
ローラさんは、毎週2回、改造したカーゴトライクに数十冊の本を積んで出かけます。このストリートブックスの創始者であると同時に、運搬係であり、移動図書館の司書でもあります。貸し出しは無料ですが、昔ながらの貸し出しカードを作ってもらう方式をとっています。
この図書館の利用者は、何のデポジットも証明証も無しに貸し出しカードを作ることが出来、どの本でも借りられます。カードの裏には返却場所や、街を巡回する曜日が書いてありますが、返却期限はありません。いつまで借りていても構いません。近頃は、彼女が出かけていくと、既に待っている常連さんもいると言います。
当初、この計画を聞いた周囲の人は、本は2度と戻ってこないだろうと言いました。ところが、実際には高い返却率だと言います。わざわざ本を破損してしまったと恐縮しながら謝りに来た人もいました。もちろん、全く心配する必要はないと、謝りにきてくれたことに対する感謝を伝えました。
ライブラリは、地域の芸術文化評議会による5千ドルの補助金で古本を買って揃えました。事情を知って、安く仕入れさせてくれる古書店や、本を寄付してくれる人も多く、彼女の家の地下には、多数のストックがあふれています。利用者の外で生活する人たち自身が少ない荷物の中から本を寄付してくれることもあります。
それでも、ローラさんは本を差し上げるのではなく、貸し出すことにこだわります。彼女の図書館を利用してくれる人たちと、継続的な関係を持つことを重視しているのです。彼女は顧客たちと、単に面識のある仲ではなく、名前を知っている仲でありたいと望んでいます。
利用者たちと、好きな作家や本の感想について語り合うこともあります。もっとさまざまな話もします。他人と会話する機会が極端に少ない、一部の外で暮らす人たちにとって、貴重なコミュニケーションの場にもなっており、それが利用者の楽しみや励み、癒しになっているのも見逃せません。
時には困っていることで相談を受けることもあります。他に相談する相手がいないこともあるでしょうが、ローラさんの人柄や親近感がそうさせるに違いありません。もちろん、相談された問題を解決する支援を提供したり、関係の機関とつなぐことも可能です。
実はローラさん、以前炊き出しやシェルターを提供する施設で働いていたことがあります。そこでの経験が、今回立ち上げた“Street Books”の意義に対する確信につながっているのです。そして、予想以上に熱心な利用者の支持が得られ、彼ら、彼女らとの関係が築けたことは、ローラさんの大きな喜びでもあります。
地元ポートランドをはじめとする多くの人の寄付や支援、活動に対する応援も寄せられました。当初は昨年の夏だけの予定だった活動ですが、4時間交代のシフトで、この移動式図書館司書の役目を手伝ってくれる協力者も得ることが出来、その後も交代で提供が続けられています。
さらに、この“Street Books”、当初の補助金が続く限りの活動ではなく、永続的なシステムにするため、NPO法人の設立に向けて申請中です。地元の複数の組織からの支援も受け、継続的な地域の奉仕活動の一つとして運営されることが、ほぼ決まっています。
公共の図書館が利用できたり、比較的安く古本が手に入ったりする日本とは単純に比較出来ないと思います。しかし、これは日本でも有効かも知れません。路上生活者が本を読むきっかけを作り、自ら何かを考える機会を作ることは、私たちが考えるより、大きな意味を持っている可能性があります。
日本では近年、いわゆる派遣切りで、仕事と住む場所を突然失う人が増えています。正社員であっても、例えば事故や病気などをきっかけに仕事を辞めざるを得なくなり、突然収入を断たれることが無いとも限りません。公園や路上などで生活するホームレスの人数が減ったと喜べるような社会環境ではありません。
セーフティネットなど社会の仕組みや、いかに自立、再挑戦に向けて有効な支援体制がとれるかが重要なのは言うまでもないでしょう。問題を全国のホームレスの人数の増減として捉えるのではなく、一人ひとりが、さまざまな事情を抱えていることも忘れてはなりません。
日本でも民間のボランティアやNPOなど、支援を行う人がいる一方で、青少年が路上生活者に暴行したり、放火、殺人にまで至るような事件が後を絶たないのも気になるところです。貧困ビジネスと呼ばれる、ホームレスの人を食い物にするような犯罪も増えていると言われています。
ローラさんは、もし機会があれば、外で生活する人たちと会話をすると、今までの認識や固定観念が変わるだろうと語っています。日本では支援どころか、少年が平気で路上生活者を殺しかねないようでは、社会の将来が危ぶまれます。まず大人たち、多くの市民がホームレスの人に対する無関心を改める必要がありそうです。
失敗を認めたのは意外でしたね。しかし、近くにはもっと悲惨な大量の国民を抱える国もあるわけです。あの一発で、慢性的な食糧不足にある住民の約8割、1千9百万人の年間の食事をほぼ賄える金額だと言います...。