オープンソースのソフトウェアを使っている方も多いと思います。
オープンソースのソフトウェアは、ソフトウェアの設計図と言うべきソースコードを、インターネットなどを通じて無償で公開し、誰でもその改良や再配布を行えるようにしたものです。誰もが使うような種類のソフトウェアから、専門的なプログラムまで、さまざまなものがあります。
著作権が放棄されているわけではありませんが、一定の条件内で自由な利用が認められます。ソフトウェアは特定の国や企業、団体、個人の所有物でなく人類の共有財産とすべきだという考え方、理想の元に発展してきたスタイルで、世界中から多くの人が開発に参加するようなプロジェクトも多数存在しています。
企業が開発し、一般に販売されているようなソフトウェアは、ふつう複製や改変は禁じられています。権利を持つ企業の技術者しか、開発に携われません。しかし、オープンソースのソフトウェアは、誰でも開発・供給に参加できるため、有名なプロジェクトになると、世界中の大勢の技術者が開発に加わることになります。
結果として、驚くべきスピードでソフトウェアが改良されたり、多くの人の英知が合わさって、一社で開発するのでは到底及ばないような、優れたソフトウェアに成長したりします。誰もが一から開発しなくて済み、他の人の作った土台の上に積み重ねていけるので、効率的ということもあります。
有名なところだと、Firefox、Thunderbird、OpenOffice、WordPress、などでしょうか。なにそれ?という人でも知らないうちに、あるいは間接的に、Linux、Apache、MySQL、PHP、FreeBSD、といったオープンソースプロジェクトの恩恵にあずかっていることになります。
さて、そんなオープンソースですが、なんと自転車ベースのコンピュータをオープンソースで作ってみようというプロジェクトがあります。サイクルコンピュータ、いわゆるサイコンではありません。全く新しい発想で自転車のコンピュータを開発しようというプロジェクトです。
自転車に載せるコンピュータ、普通に考えると、スマートフォンのようなものが想像されると思います。地図が表示されたり、現在地が把握できて目的地までナビゲーションされれば便利です。GPSで走行軌跡を記録したり、動画を撮影するなど、今どきのコンピュータならば、いろいろ考えられます。
しかし、それは既にスマホとアプリで、あるいは自転車用ナビなどの専用の機器で実現されています。そういう既にあるようなコンピュータを作ろうというのではありません。全く新しい発想で、自転車にコンピュータを搭載するとどうなるか、何が実現できるか、共同で開発していこうというものです。
その名は“
velosynth”、自転車シンセサイザーを連想させるネーミングになっています。自転車の速度や動きを「音」としてフィードバックするシステムになっており、あたかもシンセサイザーのような音を出します。ただ、単なる楽器としての自転車シンセサイザーを作ろうというのではありません。
私たちが通常使うコンピュータへの入力は、キーボードやマウス、タッチパネル、あるいはカメラやスキャナなどから行います。しかし、この“velosynth”への入力は、自転車の動きです。スピードや加速度、傾きなどを、スポークに取り付けた磁石や本体内部の3Dモーションセンサーから取り込みます。
その意味では自転車自体が入力装置、マン・マシンインターフェイスということになります。自転車の動きを信号に変換してコンピュータで処理します。一方、出力装置としての液晶ディスプレー等はありません。今のところの仕様では、LEDなどの光や、シンセサイザーのような音で出力されるというわけです。
自転車に乗りながら、ディスプレーを見て確認するのは危険が伴います。音であれば視線や操作を妨げることはありません。音による出力は、なるほど合理的な考え方と言えるでしょう。楽器ではありませんが、シンセサイザーのように音が出るので“velosynth”というネーミングになったようです。
その名の通り、現段階の仕様ではコンピュータというより、自転車インタラクション・シンセサイザーのDIYキットと言ったほうがピッタリきます。自転車に載せるわけですから、当然、大きな機械にするわけにはいきませんが、それにしてもシンプルです。安っぽく見えるのは否めません(笑)。
しかし、ハートウェアも今後開発が進めば、必要に応じて修正されることになります。現段階では、その修正が簡単に出来るよう、コンピュータのようなプリント回路基板ではなく、組み合わせを変えて使用できる、小型のブレッドボード・モジュールを使用しています。
見た目がオモチャのようだから、取り付けがゴムのヒモだから、などと侮ってはいけません。今はまだ開発途中のため、自由度の高いシンプルな形状ですが、ネットワーク化された、自転車ベースのコンピューティングの可能性を探るプロジェクトであり、そのまだ孵化したばかりの段階と考えるべきでしょう。
ソフトウェアのソースだけでなく、コンピュータのハード的な仕様も含めて公開されています。それどころか、この自転車ベースのコンピュータの使い方や利用目的も含めてオープンソースのプロジェクトです。言ってみれば、自転車をコンピュータにしたら、何ができるだろうという実験的なプロジェクトなのです。
まだ開発のごく初期段階で、発展途上なわけですが、まず簡単な用途として、例えば歩行者などに対するシグナルとして利用することが考えられます。単に自転車の接近を知らせるだけでなく、速度によって音のピッチを変えるなどすれば、背後から近づく自転車の速度もわかります。
進む方角を検知して音を変え、乗り手に方角を知らせるようなことも考えられます。障害物を検知したり、自転車の挙動を音で確認するような用途も考えられるかも知れません。自転車の走りを信号に変換することで、何らかの形で記録するようなことも考えられるでしょう。
サイコンのようなスポークに取り付けたマグネットを使うので、スピードだけでなく、ケイデンスなども取得できます。理想的なケイデンスを音で知らせたり、速度の変化、姿勢や車体の傾きなどを音で知らせることで、理想的な練習が出来る装置なども充分に考えられます。
音は、あくまでも出力デバイスに過ぎません。必ずしも音にこだわる必要はありません。無線チップを搭載することで、近くの自転車と交信することで安全面に役立てたり、自転車同士でデータを交換したり、メッセージをやり取りしたり、友達の接近を自動的に確認したり出来るかも知れません。
いや、そんな誰でも考えつくような用途ではなく、もっと革新的なものが生まれる可能性があります。それが協働作業の大きな利点であり、オープンソースプロジェクトの妙味です。個人や一企業の発想では想像もつかないものが生まれるかも知れません。何が飛び出すか、少なくとも面白い実験にはなりそうです。
オープンソースのプロジェクトは、参加を強制されるようなものではありません。そのため、プロジェクトのコミュニティが盛り上がれば参加者も集まり、開発も進みます。逆に盛り上がらず、参加者が減って停滞することもあります。この“velosynth”も、どうなるかは誰も予測できません。
しかし、こうしたプロジェクトを立ち上げること自体、なかなか普通の人には思いつかない発想だと思います。どんなものになるのか、果たして有意義なものが出来るかどうかはともかく、なかなか先進的でユニークな試みであり、クリエイティブなプロジェクト、意欲的で夢のある挑戦と言えるでしょう。
自転車にコンピュータを載せたら、いったい何が生まれ、何に進化するのか、全くの未知数です。完成するかも不明です。でも、オープンソースのプロジェクトにすることで、多くの人の発想が化学反応を起こして、何か全く新しい、画期的なものが生まれないとも限りません。ちょっと楽しみです。
レギュラーをハイオクと偽って販売していたスタンドが過去5年で全国延べ209箇所ですか。ひどい話ですね。指導ではなく、詐欺として摘発すべきでは..。