自転車にだって活かせるはず
クルマの安全評価が新しくなっています。
日本では、クルマの衝突試験を元に安全性を評価する「自動車アセスメント」が1995年から行われています。当初、衝突時のドライバーと同乗者の安全性を評価するものでしたが、2003年からは歩行者の頭部が受ける衝撃を和らげるボンネットの性能の評価が加わりました。
さらに今回から、歩行者をはねてしまった場合のダメージを小さくする性能として、歩行者の足が受ける衝撃を和らげるバンパーへの評価も加えられました。ドライバーと同乗者に対する安全性と合わせ、初めてそれらを総合的に評価する方式となっています。
事故が起きた時、いかに乗っている人を守るかということについては、昔から考えられて来ました。近年になって、クルマの安全性能として車内の人間だけでなく歩行者を保護する性能が重視され、それが拡大する方向にあることは一定の評価をすることが出来るでしょう。
もちろん、事故は起きないに越したことはありません。いかに事故を防ぐか、事故を少なくするかが重要です。クルマの改良だけでなく、道路の構造や歩道、ガードレール等の設置、法制度の整備やスピードの抑制策、運転者のモラルや交通安全教育など、さまざまな観点から対策が必要なのは言うまでもありません。
クルマの性能にしても、なるべくなら事故の発生を回避するほうがベターです。歩行者を検知し危険を知らせる機能とか、自動的にブレーキをかけて衝突を回避するシステム、居眠り運転や酒酔い運転を防ぐ装置など、事故を防ぐような機能の実現に向けてメーカーも開発を続けています。
しかし、残念ながらそれでも事故が起きてしまった時、せめて少しでも被害者へのダメージを減らそうという考え方が、クルマの設計に広がってきているわけです。歩行者の頭が当たった際にボンネットをつぶれやすくしたり、固いエンジンなどの部品との間に空間を設けるなど、さまざまな工夫が施されています。
そうした対策により、衝突の際に頭が受ける衝撃は約3分の1、足はおよそ半分にまで抑えられるといいますから、決して小さい値ではありません。事故防止には直接役立ちませんが、実際に事故が起きている以上、起きてしまった場合のダメージは少しでも小さいに越したことはありません。
ところで、こうした衝突実験は世界的に行われており、クルマの衝突安全性能の向上に役立てられています。それならば自転車にも、こうしたクラッシュテストを役立てたらいいのではないかと考えた人たちがいます。カナダはオタワにある、
カールトン大学の学生たちです。
自転車にダミー人形を乗せ、事故時の挙動を再現して、衝突による衝撃を解析することで、サイクリストの安全に役立てようというわけです。学生グループには、工学から生物、医学系まで各方面から20人以上が参加しています。専用のダミー人形の製作には8ヶ月かかりました。
自転車とクルマの事故でも、必ずしもサイクリストがクルマに衝突するとは限りません。衝突で空中に投げ出され、道路に叩きつけられるような事故もあるはずです。もちろん、何らかの障害物で転倒するなど、自転車が単独で起こすような事故もあります。
これまでのクルマの衝突実験では、人間の身体がクルマに直接衝突する場合が想定されてきました。クルマによるダメージを調べるわけですから当然ですが、自転車に乗った人間が遭遇する可能性のある事故のデータとしては、不十分ということになります。
そこで、クルマの開発のための衝突実験ではなく、自転車の事故としてシミュレーションを行い、事故の衝撃によるデータを、サイクリストの安全に直接生かそうというのです。頭部への損傷が致命傷になるというような一般的な知見でなく、詳しいメカニズムを探ることで、新たな安全対策につながるかも知れません。
例えば、時速25キロほどで自転車を走行させ、何らかの原因でハンドル越しに投げ出されるようなケースを再現します。ダミー人形には、頭や首の損傷を測定するためのセンサーが埋め込まれています。衝撃センサーだけでなく、加速度センサーなども使って、事故のダメージを分析します。
よく柔道の授業などで、投げられた際に脳が頭蓋骨の中で振動し、いわゆる脳震盪で死に至る事故が報告されています。直接、頭をぶつけなくても、脳が急減速する加速度が致命的ダメージになる場合があるのです。果たして事故の時に、どのような力が加わって致命傷となるのか、そのメカニズムが解明される可能性があります。
事故が起きた時、どんな状況が起こるか、なんとなく想像はつきますが、ダミー人形によるテストにより、どんな部位にどれくらい衝撃を受けるか、かなり正確なデータを得ることが出来ると言います。事故のリスクの内容が具体的にわかるだけでも有益です。
クルマとは違って、自転車のフレームの開発へは生かせないかも知れません。しかし学生たちは、よりよい自転車走行環境の構築、安全な道路インフラの実現に役立つと考えています。そして、それらはもっと優先されるべきだと感じているのです。
ほかにも、自転車走行に伴う怪我を軽減する方法は、もっと研究されるべきテーマとしています。例えば、ヘルメットのバイザー部分が、衝突時に脳への急減速の加速度を大きくし、脳へのダメージを増幅してしまう可能性が示されています。頭部を守るヘルメットが、逆に脳震盪を拡大する可能性があるのです。
そのほかにも、いろいろ思いがけないことがわかるそうです。ものを破壊するテストは、とても興味深いと言います。地味な実験に見えますが、やっている学生たちは楽しんでいます。研究としては、複雑な計測や難しい解析が必要になってくるわけですが、それがまた面白いようです。
今年行われた実験は、頭部の急激な減速によるダメージなど、頭部や首への影響が中心でした。実験は来年のクラスへと引き継がれることになっています。頭部だけでなく、身体全体へと広げられていく予定です。今後、どのような成果として結実するのか注目されます。
クルマの開発ではなく自転車の安全のほうに主眼を置いて、ダミー人形による自転車の衝突実験を行うという考え方は、これまでなされてきませんでした。学生たちの着眼点、自由な発想は褒められていいでしょう。具体的な成果に結びつくことを期待したいものです。
ゴールデンウィークが始まりました。クルマを運転する人も、自転車に乗る人も安全第一で行きたいですね。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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最近、歩行者の衝撃を緩和する車のボディの実験
なども実施されているようですね。又、自動的にブレ
ーキが掛る装置なども市販されています。
勿論、こういった対策も危険運転に対する刑罰強化
や事故防止キャンペーン等も有効でしょう。
然しながら、このような対策も悪質な人間からすれ
ばあまり効果がないのではないでしょうか?
亀岡の殺人者は何度も無免許運転で捕まっています。
このような犯罪者の運転する車から人命を守るために
ハンプ、シケインなどの対策を早急に行う必要がある
と思います。特にハンプならば費用対効果は大きいの
ではないでしょうか?
車の利便性よりも人命、特に子供たちの命が大事では
ないですか?自動車は必要悪なのだということをマスコミ
も報道するべきです。お金で亡くなった人は帰ってきませ
んよね。
cycleroadさん こんばんは。
スペインのあのガウディも、路面電車で撥ねられて...で、
思い出しました。
路面電車の前部に歩行者をキャッチするネットを取り付けたもの
(歩行者と衝突した時の為のもの)を写真で見たことがありますが、
実用化されたのかどうかは分りません。
自動車の構造上の改良はかなり以前から進められているようですね。
こういった改良は必要かと思いますが、それよりも重要なのは
(以前にも投稿いたしましたが)”運転する人のモラル”でしょう。
ハードウェアを改良すること以上に、ソフトウェアの改良も必要です。
路上で”車両”を運転する全ての人のモラル。
そして行政でしょうか。
高校生の自転車通学は酷いものです。
昔は、小学校等の授業の一環として、交通ルールの指導を受ける事が
有りました。
今はどうなのでしょうか。
カールトン大学の学生が、”人”の安全性を考えて行く中で、
車両を運転する人、歩行する人、... 人々のモラルの在り方も
世に広めてもらいたいものです。
(すいません、文章にすると 難しい表現になってしまいますね、
そんなにかたい事を言いたいわけではないんですが。)
亀岡の地区ではクルマが普及するにつれて住民は歩かなくなったようだ。歩行者という主人公(ハンプ)を失なった道路では代わりに時速40キロというスピードが支配者となった。そんな誰もが歩かなくなった道路を試しに歩いてみた。後方から来たクルマが慌てたようにクラクションを鳴らした。振り向いたら高齢のドライバーが僕の顔を見て、そして恥ずかしそうに会釈した。きっと昔歩いてた頃の自分を思い出したに違いない。もうしばらく道の真ん中寄りを歩いてみたいと思った。クルマが歩行者や自転車にやさしくなれる道路環境を夢見て。
sharetheroadさん、自動車による背筋が凍るような惨劇の起こった、あの亀岡もそうなのですね……私の地区でも同様に、自動車の害が深刻です。
おそらく、全国で蔓延している深刻な自動車害のひとつなのでしょう。
自動車により、地域が破壊されている。歩行者や自転車といった弱者が、のんびり安全に往来できる当たり前の環境が、自動車により、破壊されている。
そして、弱者は自動車に怯え、外を歩かなくなった。
いえ、"歩けなく"なった。
自転車ですらも自動車に怯え"通れなく"なった。
法的に自転車が通れる道路でも、実質、自動車の危険運転やそれを許してしまっている行政ゆえに、自転車の通行が危険な道路が多い。
弱者の命を脅かす自動車運転をろくに取り締まらず、自転車という弱者を保護優先する当たり前の運転を、積極的に自動車運転手へ呼びかけもしない、自動車の速度や通行を制限する弱者保護インフラの整備を怠る行政。
窮屈で危険な思いをする歩行者・自転車。自動車の通行により、弱者が迫害されている。
弱者が自動車に怯えるという、本来、あってはならない実態が、現代日本には蔓延しています。
日本における"自動車優先病"は、もはや狂気の域にあるようです。
弱者の命を軽視、蔑ろにしてまで、自動車を優先させてしまっている。
自動車の通行、及び、速度、それらを制限する取り締まりやインフラについても、怠慢が目に余る。
弱者をないがしろにする身勝手な自動車運転手、そしてそれを許す道路行政は、自動車による惨劇がまた起こる前に、一刻も早く正さなければならない。
歩行者や自転車という弱者の安全を第一に考えた、あって当たり前の道路環境実現に向けて、市民らはもっと行動を起こしてよいものです。
声を行政に届け続ける、市長や議員、警察署長等に訴えかけ続ける。
なるべく大勢の同志を集めて、訴えかけ続ける。
そうでもしなければ、おそらく、なにも変わらぬでしょうから。
本来、歩行者や自転車といった、弱者の安全を第一に考えた環境整備は、政治家や道路行政担当者が率先して取り組むべき事柄。
ですが、いまや、市民から積極的に訴えかけなければならない時代となってしまっているようです。
弱者のことを考えなければならぬ人々が、自動車に毒されてしまっている。
それは間違いだ、過ちであり、愚かで人としての良心に欠けた考え方だ、ということを伝えていかねばなりません。
弱者である歩行者、自転車にやさしい、命当たり前の道路作り、地域づくりを、市民らは行政に急がせてよいものです。
「弱者の人命最優先な、自動車に怯えず安心して往来できる、当たり前の道路をつくってほしい」と。
自転車にダミー人形を乗せて、データを取る。この活動には、大きな希望があるとおもいます。
歩行者保護のための自動車設計ノウハウと合わされば、なお、重大事故の減少に貢献できましょう。
歩行者さんもですが、我々サイクリストの安全向上につながることは、本当にすばらしいことです。心から応援していきたい。そして、敬意もお伝えしたい。
そして、こういった活動があることを、いつも紹介してくださっているサイクルロードさんにも、感謝の念を抱いています。
また、自動車の自動運転システムも近頃は開発が進んでいるようですね。
そうなれば、現在の自動車による法令無視暴走行為(速度超過、車間距離不保持、側方等間隔不保持、警音器使用制限違反、駐車違反、合図不履行、携帯電話等使用等、無灯火、等々)もなくなり、弱者にとっての安全性が増すでしょう。私は期待しています。
現状、通行料の多い車道を自転車で走れば、もれなく上記の法令違反危険運転により、脅かされるのですから。
いえ、弱者のための道路である、生活道路でも同様に。そして、連日のニュースにあるような自動車暴走により大勢の人命が奪われる虐殺事件が起きてしまっている。自動車に対する制限を強化していれば、防げた惨劇です。
あのような道路は、車止めや保護策等で弱者の安全を確保するべきでした。それを怠慢してきた道路行政の罪は重い。
道路行政もですが、自動車運転手のモラルハザードが、極めて深刻化、蔓延してしまっています。
ですが、自動車産業と蜜月な新聞社やテレビ局は、その実態を見て見ぬふりし、ろくに取り上げず戒めず、放置してきた。その罪、責任は、極めて重い。自動車運転手への戒めとなる報道を、しっかり続けていれば、防げた惨劇は、あまりに多い。
自動車は大勢の人命を一瞬にして奪う凶器。自動車運転手のモラルハザードも極まっている。
自動車乱用、安全運転義務違反的な運転に罪の意識すらなく、常に「歩行者、自転車が悪い」と主張するドライバーたちの狂気のコメントを、あちこちで目にします。
もはや、自転車や歩行者といった弱者との混合通行には限界がありましょう。
弱者の命を蔑ろにし、自動車を優先させるという弱者の人命軽視な道路を作り、放置し続けた道路行政の責任は極めて重い。
私は道路行政にも、積極的に抗議や訴訟を起こしていくべきだとも思います。そうしなければ、道路行政担当者の思考、態度は、変わらぬままでしょう。そして、大勢の弱者の人命が、自動車害によって、奪われ続ける。そんなことは許されてはならぬのです。決して。
yokoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、残念ながら、無免許や飲酒運転など法律を守らない悪質なドライバーがいるのは間違いありません。
身勝手に危険運転をし、その結果おこす可能性が高くなる重大な事故のリスクすら、思い至らないような人間がいます。
そんな人間のために、何の罪もない人が巻き添えになるのが腹立たしく、悲しい現実です。
悲惨で悪質な事故がおきるたびに、なんとかならないものかと思う人は多いでしょう。
私もハンプやシケインなどの物理的な対策を出来る限り進めてほしいと思います。
無免許や飲酒などの悪質な違反は、もっと厳罰化してもいいとも思います。
無免許運転という悪質な行動なのに、危険運転致死にならないというのも、法律の不備なのではないでしょうか。
Fischerさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
路面電車にネット、私もどこかで見たような気もしますが、今、聞かないということは、実用化されなかったのかも知れませんね。
確かに、クルマの衝突ボディの性能向上では事故は防げません。
運転する人のモラルの向上、安全運転の徹底は地味ですが、重要なことだと私も思います。
さらに、モラルが期待できないような悪質な運転者には、厳罰化や物理的な事故防止策なども必要だと思います。
おっしゃるように、学生の交通ルールの無視、モラルの低下は目に余る時があります。
安全教育も重要な施策の一つでしょう。
カールトン大学の学生も、衝突試験のダメージのシリアスな数字に接することで、安全の確保の重要さが、あらためて感じられることになるかも知れませんね。
sharetheroadさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
日本でもクルマ社会になっていて、クルマがないと不便なところがあるのは、その通りだと思います。
一方、同じ地域で小学生や幼稚園児など、歩いて集団登校していたりします。
せめて生活道路に、抜け道としてクルマが猛スピードで入ってくるのは止めなければなりませんね。
佐藤さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
悲惨な事故が起きるたびに言われることは多いですが、一向に改まらない状況があるのは、おっしゃる通りだと思います。
なんとかならないものかと思いますね。
やるべきことは、いろいろあると思いますが、例えば生活道路を抜け道として利用しようとするクルマを遮断することくらい、規制を変更して、標識を変えれば、すぐに出来ることだと思います。
手続きはいろいろあるでしょうが、住民のコンセンサスは、悲惨な事故が相次ぐ中で、とりやすいと思います。
自分や家族の身に起こる前に、未然に防ぐためにも、地域で協力して、生活道路の安全性を高めるための規制変更を警察に陳情するなど、行動を起こすべきかも知れませんね。
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