慣れてくると往々にして感じなくなるものがあります。
身近にある不便だとか、不満に感じることなども、慣れてくるとそれが普通になり、不満と感じなくなることがあります。それが当たり前のことになってしまえば、よほど顕著な不便でない限り、あまり感じなくなってしまうことは、身の回りにも多いと思います。
世の中は進歩し、生活は便利になる一方です。しかし、便利になったことで、また新たな不便が発生する場合もあります。人間の欲求にはキリがないので、不便や不満に思うことがなくなることはないでしょう。そうでなくては人類の進歩が止まってしまいます。
不便や不満は進歩を促し、商売のタネになることもあります。新たな発明や工夫、解決策などを提供し、不便や不満を解消することが出来れば、多くの人が利用する製品に育つかも知れません。アイディア一つで新たなビジネスを興してやろうと考える人は、世の中にたくさんいます。
前回取り上げた“
Kickstarter”を見てもそれがわかります。前回は多くのアイディアのうち、自転車に関連したもの、特にライトに関係するものを取り上げました。自転車関連で、ライト関係のアイディアが多いのは、従来のライトへの不満、不便が多いことを反映しているのでしょう。
しかし、アイディアが出されたり、広く投資や資金協力を求めたりしているのはライト関連ばかりではありません。今回は、前回取り上げた自転車のライト周り以外のアイディアについて、目立ったものをいくつかピックアップしてみたいと思います。
ハンドルのゴムの
グリップを分割するという単純なアイディアです。しかし、これによってハンドルの中央付近にもグリップを巻くことが出来たり、グリップを好きな長さにすることが出来ます。色の組み合わせも自由に変えることが可能です。
ハンドルバーに簡単に通すことができ、劣化した部分だけ取り替えることも出来ます。どれだけ需要があるかはともかく、一つの工夫と言えるでしょう。従来のハンドルバーの先端に取り付ける一体型グリップの不便という、見過ごされがち、忘れてしまいがちな不満を解消する商品と言えるでしょう。
こちらは、腕にリストバンドのように取り付ける
バックミラーです。後続車に右左折や進路変更を伝えるため、ハンドサインをしながら、後ろの様子を見ることが出来ます。フレームに取り付けるのと違い、身体から離れた部分にミラーが来ることになりますので、後ろが見やすいというわけです。
タイヤのリムの部分に貼る簡単なシールによって、視認性を大幅にアップさせる
リフレクターです。スポークなどに取り付けて、電池を使って光らせる製品もありますが、そうしたものに比べて手軽で、軽く、安くて、見た目にもシンプルです。そのわりに大きな効果が見込めます。
電池を使う製品では派手過ぎるとか、電池の交換が面倒という不満もあるでしょう。ランニングコストもかかります。そういう不満を解消しつつ、視認性のアップ、安全性の向上を図るアイディアです。確かにこちらのほうが手軽で便利だという人も多いに違いありません。
似たアイディアですが、こちらは自転車全体に貼って、
夜間の視認性を上げるためのシールです。昼間用に色を選ぶことも出来ます。このシールで自分だけのカラーリングにカスタマイズすることも出来ます。似た自転車が多い場合には、駐輪場などでの判別にも役立つでしょう。
市販の自転車、既存のメーカーのラインナップに、自分が欲しいモデルがないと感じる人も多いと思います。細かい部分に、もっとこうだったら、などと考える人も多いに違いありません。そこで、従来の自転車に満足できず、
自分で作ってしまおうと考えた人がいます。
スポーツバイクほどの性能は不要だけど、もっとシンプルでスタイリッシュ、オシャレでリーズナブルで手軽な街乗り用の自転車があってもいいという考え方です。同時に、みんな同じの画一的なものではなく、個性を主張するためカラーリングをカスタマイズしたいという要望にも応えます。
シマノの内装式のディレイラーを採用したり、ケーブルをフレーム内に通してスタイリッシュにしたり、たくさんの色からカラーを選べるなど、ニーズに沿った仕様になっています。細かい部分にこだわって、自分たちが本当に欲しいと思う機能に絞って搭載した、シティーライド向け自転車です。
こちらは、
自転車の製造方法に対する新たな挑戦です。金属のパイプを溶接して製造する従来の方法とは違い、金属板を折ってフレームを製造、溶接を使わずに組み立てます。これによって、軽量化や強度アップ、コストダウンなど、さまざまなメリットが得られると言います。
普通の板金加工で自転車が製造できるわけです。このことによって、どのくらいのアドバンテージが得られるのか、専門的なことはよくわかりませんが、今までの常識を破ることによって、自転車製造に新たな展開が開ける可能性があります。
自転車のフレームを、誰でも簡単に組むことが出来るようにするという製品です。既製品に飽き足らず、
自分でフレームを組もうという人が対象ですから、かなりニッチな需要だとは思いますが、フレームを組むのが上手くいかずに不便を感じていた人もいるはずです。
自転車乗車中にイヤホンやヘッドフォンで音楽を聴くのは危険です。そこで、自転車に取り付け、“bluetooth”で接続するワイヤレススピーカーです。周囲の騒音や風の音にも負けない音が出ます。シリコン製で簡単に、ハンドルやフレームのどこにでも取り付けられる、ポップでカラフルなスピーカーです。
電動アシストの折りたたみ自転車、フォールディングバイクというアイディアです。バッテリーのぶん重くなりますので、持ち運びには不利ですが、コンパクトに折りたためることで、駐輪や収納的にもメリットがあります。レンタサイクルに使うなど、いろいろな展開も考えらるでしょう。
壁に取り付けて使う、自転車収納用の
バイクラックです。ネジ2本で固定でき、上下からトップチューブをはさむように固定し吊り下げることが出来ます。自転車を安定して壁にかけることが出来るデザインです。こうしたラックにも、まだまだ改善の余地がありそうです。
子供と一緒にサイクリングする時、子供の脚力では上れない坂があります。親は、先に行って待つか、自転車を降りて子供の自転車を押してやるかしなければなりません。いちいち降りて押すのも面倒で不便です。そこで、この器具を子供の自転車の後ろに取り付けます。
これによって親が後ろから子供の自転車を押してやることが出来るようになります。回転するタイヤで押す形になるわけですが、押す部分がローラーになっていますので、スムーズに力を伝えることが出来ます。なるほど、これは便利な工夫です。
言われてみれば、たしかに不便や不満に感じるものもあります。自転車や自転車関連用品は、成熟した市場だと思いますが、探せば、まだまだ新しいアイディアが隠れているものです。もちろん、この中でも製品されて普及するものは限られるでしょうが、多くのチャレンジがなされています。
私たちが感じなくなってしまっているような不便、不満でも、敏感に感じとり、的確に把握して解決策を編み出せば、まだまだ商品になるものはありそうです。こうして、改善点を見つけ出そうという人たちの情熱が新しい製品を生み出し、私たちの自転車生活をまた一つ便利に、豊かにしてくれるに違いありません。
春一番が吹かなかった年は天気が荒れるそうですが、こんな大きな竜巻が起きるとは驚きました。今後も不安定な天候に注意が必要ですね。