オリンピックを機会に改革を
ロンドンオリンピックが、あと2ヶ月半に迫りました。
現地では、大会への期待が膨らみ、興奮も徐々に高まりつつある頃かもしれません。日本でも続々と各種目の代表選手が決まり、少しずつ五輪ムードが盛り上がりつつあります。ロンドン五輪の組織委員会は、まだ膨大な準備が残されているとしながらも、順調に準備が進んでいるとアナウンスしています。
委員会は大会の運営に自信を示しており、問題なく開催されることが期待されます。ただ、懸念される点がないわけではありません。ロンドンでの五輪の開催が決定した2005年7月7日の翌日に地下鉄とバスで連続自爆テロが発生したのを記憶している人も多いでしょう。警備は厳重なものになるはずです。
大会期間中の道路の渋滞や公共交通の混雑も大きな懸念です。そうでなくてもロンドン中心部ではひどい渋滞が発生します。道路だけでなく世界最古の地下鉄は老朽化しており、信号故障などのトラブルの発生や、輸送能力の低さから、朝夕の大混雑が予想されています。
もちろん、大会の開催決定からの7年で対策も進んでいます。オリンピック会場と中心部を結ぶ高速鉄道なども新設されました。ただ、道路の拡幅などは、必ずしも満足できるレベルまで進められるわけではないので、やはり相当程度の渋滞が予想されます。
ただでさえ大きな人口を抱える大都市に、国内外からの膨大な数の観客、選手や関係者、報道陣などが訪れるわけですから、ピーク時の人の移動には相当の混雑が発生するのは避けられません。オリンピックでの都市交通については、どの都市でも頭の痛い問題なのは間違いありません。
そこで、ロンドン市長、ボリス・ジョンソン氏が進めてきた対策のうちの一つが自転車の活用です。少しでも渋滞を緩和するため、市民にはなるべく自転車による通勤などを奨励し、クルマの利用抑制を促そうというわけです。しかし、五輪の期間だけ自転車に乗れと言うのでは、混乱は必至です。
事故が起きたり、かえって混乱が拡大しかねません。付け焼刃的な自転車利用ではなく、市長はロンドンの交通政策を根本的に見直し、自転車革命と位置付けて、ふだんから自転車の活用を拡大し、オリンピック開催を機に、ロンドンをクリーンで緑豊かで安全な街にする考えなのです。
ロンドンでは、自転車専用道や自転車レーンなどの整備が急ピッチで進められています。さらに、市民だけでなく観光客にも自転車での移動をしてもらうため、コミュニティバイク、都市型のレンタサイクル網も導入しました。過去にも取り上げましたが、市長の名前をとって、通称ボリス・バイクなどと呼ばれています。
そのボリス・ジョンソン氏が、先日の市長選挙で再選されました。犯罪対策などと共に公共交通整備が大きな争点となった選挙で、市民の支持が示された形です。自らも自転車通勤をするジョンソン市長がロンドン五輪の顔となると共に、自転車政策が継続されることになったわけです。
市長が選挙キャンペーンで訴えたのが、“
Love London, Go Dutch ”、ロンドンをオランダに見習った自転車の街にしようというものです。イギリスの首都ロンドンがオランダを見習うというスローガンは驚きますが、オランダが有数の自転車先進国であることは知る人ならば、その意図するところは明快でしょう。
ロンドンを、オランダのように自転車の走行環境の充実した都市にし、同時に安全性を高め、市民が安心して自転車で走行できる街にすることを目指す決意です。以前のロンドンを訪れたことのある人ならばわかると思いますが、なかなか意欲的な目標設定です。
先月末には、この方針を支持する市民が大勢参加し、“
Big Ride ”と呼ばれるイベントも行われています。多くの市民が、これまでのジョンソン市長の自転車革命を支持すると共に、さらなる自転車環境の充実を求めています。ロンドン市民はオリンピックとは別に、終了した後も自転車環境の充実を期待しているのです。
オリンピック期間中、当然ながら、相当程度の渋滞は避けられないでしょう。しかし、ロンドンが模索してきた、この自転車による渋滞回避策が、どのくらいの効果をあげるかも興味深いところです。日本でロンドン市民の移動の様子が伝えられることは少ないでしょうが、注目してみようと思っています。
もし、顕著な効果が認められれば、世界の都市に、新たな交通政策の一つの選択肢として認識され、世界の自転車環境の充実に貢献する可能性があります。少なくとも先進国にとっては、都市の中心部でクルマの利用を抑制し、渋滞や事故防止、都市の環境の改善を目指す政策として参考になると思います。
ロンドンの道路は決して広いとは言えませんが、そのクルマの車線を減らして、自転車レーンにするわけですから、オリンピック開催でもなければ、なかなか自転車走行環境の整備は進まなかった可能性があります。また他の市長だったら、自転車インフラを全面的に整備する政策が採用されたかわかりません。
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ボリス・ジョンソン氏は、自らも自転車通勤するくらい、自転車のことがよくわかっている政治家です。オリンピックの渋滞対策もありますが、むしろオリンピック開催を利用して、ロンドンの交通環境を改善し、グリーンな都市、居住環境の改善を目指そうと考えたのでしょう。
ロンドンオリンピック・パラリンピックの全ての面での基本的コンセプトは「持続可能性」です。「2012年、ひとつの地球に向けて」という大会のテーマは、オリンピックの準備、開催、レガシー(開催後)に至るまで、地球資源の利用を最小限にするという義務を表現していると言います。
大会での二酸化炭素排出を最小限にするとともに、大会はプロジェクト全般で二酸化炭素の排出を把握する最初の夏季オリンピック大会となるそうです。大会開催に伴い、様々なプロジェクトが組まれていますが、エネルギーや気候変動、廃棄物、生物多様性、そして健康な生活を重視しています。
ロンドンの自転車インフラ整備は、オリンピックとは直接関係ありませんが、このオリンピックのコンセプトにふさわしいものと言えるでしょう。ロンドンオリンピックは、夏季オリンピックとしては30回目の記念すべき大会ですが、大会に向けた都市の整備の考え方についても節目となる大会なのかも知れません。
2ヶ月以上前に江戸川区の水族館から逃げ出したペンギン、東京湾で泳いでいるのが目撃されたそうです。東京湾でも平気で順応するんですね。すごい生命力です。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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「児童の列に車、小1死亡…大阪・玉造」
今日、現場(玉造稲荷神社の石柱)に花を手向けに行った。
「右折する時に交差点の安全をよく確かめなかった」
http://www.mbs.jp/news/kansaiflash_GE120514221000568329.shtml
「歩道を歩いており、交通ルールは守っていた」
http://mainichi.jp/area/news/20120515ddn041040016000c.html
まとめ
http://matome.naver.jp/odai/2133698901469906301
現場は交差点というよりも歩道の一部が狭い路地(駐車場)への入り口となっており、ドライバーの一時停止違反が事故の直接の原因。減速しなくても乗り越えられる歩道(段差が低い)が違反の誘因。
前をよく見ていなかったら何を見てたの?
http://www.news24.jp/articles/2012/05/02/10204934.html
sharetheroadさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
最近、児童の列にクルマが飛び込む事故が続いて起きていますね。
ドライバーの不注意や無責任な運転のために、尊い命が奪われる事態、なんとかならないものかと思ってしまいます。
「手軽に運動欲を消化できる」乗り物として人類が百年前に発明したもの、それがクルマと自転車。共通しているのはハンドルとアクセルを操作することで運動欲が満たされること。そしてスタイルが良いこと。そう、走る自分がカッコ良いのである。オリンピックの開催を前にしてロンドン市内ではクルマと自転車とが互いにカッコ良さを競い合ってるかのよう。果たしてスポーツの神様はどちらに軍配を上げるのか。こちらの観戦も楽しみだ。
ロンドンではオリンピック開催をきっかけに自転車環境を作る整備しているんですね。
自転車の車道走行を徹底させると警察が発表した時に反対した東京都とは大違いだと思います。
ロンドンオリンピックがうまくいけば東京都の考えが変わるかもしれませんね。
sharetheroadさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
運動の内容はずいぶん違いますし、走る自分に酔う目的の人ばかりとは限りませんが、通じる部分はあるかも知れませんね。
ロンドン市内でどちらが選ぶれるかは、カッコ良さよりも、渋滞の程度とか、利便性、速さ、ラクさや快適さなどだと思いますが、五輪期間中に限ってはクルマを敬遠する人も多そうです。
職人気取さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
もちろん鉄道や道路の整備もしていますが、自転車インフラをこれだけ前面に出し、大幅に整備する例は、これまでにあまりないと思います。
東京都の考えと言うより、知事の考え方が大きいと思います。
2016年の誘致に失敗したら辞めると宣言したくせに、未だ辞めない知事の任期中は、変わるのは難しいかもしれません。
http://www.youtube.com/watch?v=2ZDq1vkiZwA
ロンドン警視庁の視認性抜群の蛍光レモン色ジャケットに対して、日本の警察は闇にとけ込む紺色の制服。
乗ってる自転車も、スポーツバイクタイプに対して、白チャリ。
正しい施錠方法、防犯登録を自ら説明するタスクフォース警官に対して、顔の見えない日本の警察。
薩英戦争から依然として差が縮まってないんじゃないでしょうか?
anonymousさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
さすがに薩英戦争の頃と比べれば、日本の警察制度は大きく成長したとは思いますが、ご指摘のように、彼我の差がまだまだあるのも事実でしょう。
ただ、そのあたりは文化の違いのようなものもある気がします。
世間一般の自転車に対する見方、自転車の位置づけ、評価といったものが大きく違うというのもあると思いますね。
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