使われていない資産を生かす
東京では、ここのところ新しい商業施設のオープンが相次いでいます。
この四月には、「東急プラザ表参道原宿」、「ダイバーシティ東京」、「渋谷ヒカリエ」、東京ではありませんが、「三井アウトレットパーク木更津」も含め、大型の商業施設が相次いでオープンしました。五月に入って、「東京スカイツリー」と「東京ソラマチ」の開業が大きく報じられています。
これほど短い期間に、大型の施設がこれだけ集中してオープンするのは、かなり珍しいことだと言います。どこも大勢の買い物客が訪れ、盛況のようです。それぞれ注目を集めた話題の施設ということもあって、首都圏各地からも人を集め、地域に経済効果が生まれているようです。
特にタワーとして世界一の高さを誇る東京スカイツリーは、併設の東京ソラマチと合わせ、東京ディズニーリゾートの年間2千5百万人を超える来場者を見込んでいます。地元商業の活性化だけでなく、新たな東京の観光名所として観光業界など広く経済波及効果が期待されています。
こうした商業施設がオープンし、地域が活性化するのを羨ましく見ている地区もあることでしょう。でも大型施設の建設には莫大な資金が必要です。スカイツリーのようなプロジェクトは、そうそうないですし、昨今の経済状況の中、大きな投資を呼び込むのは簡単なことではありません。
何か地域経済に貢献する施設をつくろうにも、投資を回収できるような魅力のあるプランがなければ、資金は調達できないでしょう。土地も手当てしなければなりませんし、ある程度の建設期間も必要で、リスクも伴います。関係者の理解を得て、プランをまとめるだけでも容易なことではありません。
ところで、近隣から人を集めるものは、大きな投資によって建設された大型商業施設ばかりとは限りません。何の施設があるわけでもないのに、周辺から数多くの人が集まってきている事例を、アメリカ・ロサンゼルスに見ることが出来ます。
それが、“
CicLAvia”です。日にちを決めて、休日のロサンゼルスの都市部の大通りをクルマ通行止めにし、自転車やジョギングする市民に開放するという試みです。いわば自転車版の歩行者天国、自転車天国です。それもロサンゼルス中心部の大きな通りを連続して通行止めにした大規模なものです。
日本の歩行者天国のように、銀座とか秋葉原など、限られた場所だけの通行止めではありません。自転車で広くサイクリングして回れる距離が通行止めになっています。東京で言えば、新宿から丸の内まで、新橋から上野まで、渋谷から池袋までの大きな通りを合わせて、連続して自転車専用にしたくらいのイメージでしょうか。
2010年から始まり、まだ数回の開催ですが、年々規模は拡大し、多くの市民が集まるようになっています。沿道では市民が憩うさまざまなイベントが行われたりして、大きな盛り上がりを見せました。誰が見ても大成功と認めるくらいの盛況だったと報じられています。
どこかで聞いたような話だなと思った方もあるかも知れません。そうです、実はこの“CicLAvia”、
南米コロンビアの“Ciclovia”が発祥です。以前取り上げましたが、本家は首都ボゴタ市民の約30%、なんと200万人以上の人が、毎週日曜日に楽しんでいるという大規模なものです。
これがコロンビアの各都市、南米各国の各都市へと徐々に波及し、今では北米大陸の都市にまで広がっているのです。アメリカ、カナダのほかにもオーストラリアやニュージーランドといった国にも広がり、アメリカでは地方都市ばかりか、ロサンゼルスのような大都市にまで広がり始めたというわけです。
“CicLAvia”、変な場所が大文字になっていますが、スペルミスではありません。本家の“Ciclovia”の途中をLAに変えて、ロサンゼルス版の“Ciclovia”ということを表しているのです。まだまだ本家の規模には遠く及ばず、開催も毎週とはいきませんが、今後の拡大を目指しています。
ロサンゼルスの中心部の全ての道路を封鎖するわけではありません。交通量が多く、クルマを通行止めに出来ない道路もありますから、そうした道路を横切る時は信号待ちが必要な場合もあります。しかし、自転車天国になっている区間は、クルマが通る心配もなく、安心してサイクリングが楽しめるのです。
近郊から電車などに自転車を載せてやってくる人もいます。この“CicLAvia”は、市民の健康増進への貢献も期待されます。すでにコロンビアでは、市民に運動やストレス解消の機会となって、結果として国民医療費の削減に大きく貢献しているとされています。市民同士のコミュニケーションの場にもなっているのです。
東京でも、皇居前の内堀通りの一部を通行止めにして「パレスサイクリング」が行われています。しかし、わずかな距離であり、東京近郊に住む人が、わざわざ出かけるほどのものではありません。もし東京のど真ん中に大規模な自転車天国が出来れば、多くの自転車乗りや家族連れなど大勢の行楽客がやってくるでしょう。
東京に勤めている人でも、なかなか休日の東京のオフィス街に足を運ぶことはないと思います。行ってみると、ふだんはクルマで渋滞しているような通りでも、当たり前ですが、休みの日はガラガラなのに驚きます。駐車しているクルマもありません。歩行者も少なく、自転車で快適に走行できます。
東京の場合、通過交通もあるので混んでいる道路もあります。買い物客で賑わっている地区もあります。しかし、オフィス街などを中心に、休日はガラガラに空いている道路も少なくありません。そうした道路を連続してクルマ通行止めにし、市民に開放すれば、走りがいのあるサイクリングコースとなるでしょう。
ふだん、なかなか自転車で東京を走る機会がない人は多いと思いますし、自転車天国となっているなら、誰でも気軽に走れます。もちろんジョギングしたり、ぶらぶら散歩しても構いません。自転車以外にも、思いおもいの時間を過そうという人たちが集まることになるでしょう。
都心の道路と言っても、平日の大混雑と比べ、休日は比べ物にならないほど使われていません。ならば、そうした道路を市民に開放するのは合理的な策です。都市部の道路は、大きな価値をもった社会的資産です。休日とは言え、遊ばせておくのはもったいない話です。
比較的交通量の少ない道路を選べば、クルマの通行にも支障は出ないはずです。渋谷や新宿、秋葉原のような特定の地区だけに人が集まるのではなく、都内を回遊させる効果があるかも知れません。レンタサイクルなどを充実させれば、東京への観光客にも魅力的な周遊手段となるに違いありません。
通行止めの措置などで、警察や地区ごとの商店会などには協力を求めなければなりませんが、何か大きな投資が必要なわけではありません。ただ時間を区切って通行止めにするだけです。他のイベントのように費用を使って、何か人を集める企画を催そうと苦労する必要もありません。
もし、人気が出て定着すれば、大勢の人が集まるようになり、その人たちに対し、商売をしようという人も出てくるでしょう。新たな施設を建設しなくても、今ある施設、都市の道路という貴重な資産を有効活用するだけで、経済を刺激する一定の効果が見込める可能性があります。
買い物目的ではないにせよ、飲食などの需要はあるでしょうし、大勢の人が集まれば、いろいろな形で経済を刺激する効果は期待できるはずです。もちろん大型商業施設での消費とは比べるべくもありませんが、拡大していければ、地域を活性化するチャンスになるでしょう。
この“Ciclovia”、コロンピアから南米・北米・オセアニアにまで広がりつつありますが、日本ではまだ導入しようという機運が盛り上がっていません。知名度が低いのも大きな理由でしょう。車道を一杯に使って自転車で走行出来るなんて、非常に魅力的だと思うのですが、日本では馴染みがないということもありそうです。
日本でも少しずつ、スポーツとしての自転車が認知されつつありますが、ママチャリにしか乗ったことがなく、まだまだ近所までのアシでしかない人が多いのも理由でしょう。休みの日の都心の道路を、それも車道を走行するなんて、ピンと来ないかも知れません。
もちろん、これは東京に限った話ではありません。ある程度の人口のある都市であれば、充分に実施できる可能性があります。コロンビアでも首都だけでなく、各都市に広がっています。何より、大きな投資は必要とせず、試してみても、それほど大きな費用はかかりません。
経済面や市民の健康以外にも、さまざまな副次的効果があることは、本家の例でも立証されています。地域の活性化のため、遊んでいる休日の道路という貴重な資産を生かすという手はあると思います。この“Ciclovia”、地域振興策として、日本の都市で検討してみてもいいのではないでしょうか。
個人的には、開業前にスカイツリーの近くまでは行きましたが、そのほかの施設も含めて、どれもまだ行ったことがありません。混んでるでしょうから、一年くらい経ってからにしますかね。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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最近あまり見なくなった、カエル。
「使われていない脂肪を生かす」道路環境に変(カ)エルまでカエレナイ?
毎年この時期に開催されてます、、、
Kinetic Sculpture Race May 26th, 27th, and 28th
http://kineticgrandchampionship.com/
Day 1
http://www.youtube.com/watch?v=CQkcEFHFD9s
http://www.youtube.com/watch?v=POn94hCEtyc
珍太郎知事は自転車のための交通規制なんて発想は微塵もあり得ないでしょうから、
大規模商業施設に防犯対策がなされた低廉な自転車駐輪場があればいいです。
銀座は三越地下駐輪場ができるまでは駐輪場なかったですし。
このイベント
お金もそれほどかけずに
開催出来て
経済効果抜群だと思います
なにより自転車の魅力を伝えるのに
大いに役に立つと思います
地方での開催は道路が貧弱なので難しいにしても
道路網が発達している都市部では比較的実行しやすいと思います
日本版 CicloTYOvia
環七(東京)
山手線一周
実現出来たらワクワクします
CicloTYOviaと同時に都内全線(電車、バス)
サイクルトレイン可能になれば
子供、年配者、障害者も気軽に参加出来ますね
毎年ゴールデンウィークとシルバーウィークの
年二回 2日連続開催(雨が多いので)
自転車大国、日本での開催に意味があると思います
あとは頭の固い日本の行政を動かす事だけですね
sharetheroadさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
Kinetic Sculpture Race、とてもユニークなイベントですよね。私も、このレースは知っていました。
かなり前になりますが、記事としても取り上げたこともあります。こんなイベントも楽しいですよね。
最近の開催の映像は見ていませんでした。情報をお寄せいただきありがとうございます。
anonymousさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
その意見については私も同感です。これまでの発言を聞く限り、こういう発想は全くないでしょう。
それがロンドンやニューヨーク、パリの首長との違いでしょうね。
東京については、次の知事に期待するしかないでしょう。
ロードバイク初心者さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これだけ世界の都市に広がってきているわけですから、その効果や意義については疑いの余地がないでしょうね。
地方都市でも、見合った規模で実施できると思います。やはり休日は交通量が少ないでしょうし、規模によっては、都市部を迂回させるようなやり方もあると思います。
海外でも、実施されているのは、大都市ばかりではないようです。
実施には、もちろん行政の協力も欠かせないでしょう。
ただ、なかなか市民レベルでも盛り上がっていないのは、市民の意識の中にも、車道を占有して自転車で走行するということに、馴染みが薄い部分もあるのではないかと思います。
パレスサイクリングには一度だけ行きました。HPによれば祝田橋から平河門までの往復3キロです。片道3車線がある車道の真ん中を自転車で乗れるのは気持ち良いです。本格的サイクリストには物足りない距離ですが、子連れには十分楽しめます。タンデム自転車や幼児2人乗り同乗子載せ自転車とか試させて良かったです。個人的には車椅子付き自転車や駒沢公園にある様な一度に家族全員乗れる様な自転車も置いて欲しいと思います。
大型商業施設を作って潤っても、寂れる商店街も出てるし、大量生産大量消費でゴミと脂肪が増えるだけの気がします。自転車天国が開催されれば、ガードマンの雇用は増えるし、運動して健康になりそうです。
皇居の周りがランナーでごった返して、歩行者や自転車やランナーとの衝突事故が増えているそうですね。祭日に内堀通りを車で通るとガラガラです。いっそのこと、内堀通りをランナーとサイクリストに開放して、警察関係車両だけ通れる様にするとか良さそうですね。都知事はマラソン好きそうだから、初めはランナー専用でも良いかなと思います。
でも警備の問題があるのでしょうね。
世田谷花子さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
“Ciclovia”は、パレスサイクリングを大規模にした感じかも知れませんね。
ただ、パレスサイクリングくらいの規模では、集まる人も限られますが、“Ciclovia”となれば、周辺地区からも多くの人が集まり、もっと賑わうことになるでしょう。
自転車で走るだけですが、人が集まればいろいろな需要が発生するので、沿道の商店街などにも相応の経済効果が生まれると思われます。
都知事はマラソン好きではなく、むしろイベントとしての経済効果に注目しただけだと思います。その意味では、“Ciclovia”にも興味を示す可能性はあるかも知れません。
ドイツにサイクリングに行ったときに、高速道路(アウトバーン?)を開放して、サイクリングしているシーンを、鉄道輪行中に見ました。毎年同じ時期に開催していると言う噂は聞いていたのですが、車窓から鉄道脇の自動車が走っていない道路を自転車がたくさん走っているのを見てびっくり。
それとは別かもしれませんが、2010年にこんなのもあったようです。
http://djginkishu.ikora.tv/e445567.html
最近、日本では一回の事故で被害者が多い自動車事故の報道が多いですが、通学路を変更するとか、被害者側の対応ばかりで、法律で禁止されている自動車側の利用制限という話が、あまりにも出ないのが残念です。日本は、まだまだ自動車偏重社会ですね。欧米の状況にはほど遠いです。
パラリンピックの開催を希望している東京でも、視覚障害者が乗ることが出来るタンデム自転車を禁止しているぐらい道路環境が危ないようで、弱者を規制するほどですから、こんなことでは、同時開催のオリンピックも開催できないでしょうね。
manさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
高速道路、アウトバーンを開放するとは大胆なイベントですね。自転車でも走りがいがあるでしょう。ただ、都市部のアウトバーンだけなのかも知れません。
面白い情報をありがとうございます。
おっしゃる通り、クルマ優先という考え方が抜けない部分があるのは間違いないと思います。
経済重視を大義名分に、人の生命や人権が軽視されている状態を、おかしく思わなくなってしまっているという点では、いまだに発展途上国とも言うべき状態ではないでしょうか。
オリンピック招致を機に、自転車革命に取り組んでいるロンドンのような考え方をするとも思えませんし、今の首長では期待できなさそうです。
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