July 27, 2012

社会インフラの足りない部分

日本には多くの自転車があります。


一説には8千6百万台とも言われています。保有台数と自転車人口は違いますが、相当な数の人が自転車に乗るという意味で、有数の自転車大国であることは間違いないでしょう。しかし、自転車に乗る環境に関しては、決して恵まれているとは言えないのが残念なところです。

日本は世界的に見ても非常識な自転車の歩道走行という間違った道路行政を40年も続けてきました。そのため、自転車の車道走行が考慮されていないような場所も少なくなく、多くの人が車道は怖いと敬遠し、歩行者を縫うように歩道を走り、事故が増えて問題になっています。

自転車は車道が原則という認識が、まだまだ一般には徹底していません。最近でこそ、自転車レーンの整備がされ始めていますが、まだまだほんの一部に過ぎません。これだけ自転車を利用する人が多いのに、その走行空間は、まことに貧弱な状態と言わざるを得ません。

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道路だけではなく、駅前などの人の集まるところでは駐輪場が足りません。結果、勝手に路上に駐輪する人が多く、放置自転車として問題となっています。もちろん迷惑駐輪はマナー違反ですが、駐輪場が不足しているという側面があるのも否めないでしょう。

自転車で、駅の反対側へ抜けるような導線が考えられておらず、歩行者と交錯して危険な場所があります。鉄道や高速道路との立体交差には、自転車の合理的な通行が難しい場所もあります。普通の大きな交差点ですら、自転車の車道走行を想定していないため、横断が危険な場所も存在します。

例えば、駅前の再開発で歩行者がゆったり通行できるようになったり、立派なペデストリアンデッキが出来たりするのはいいのですが、自転車利用者のことは考慮されておらず、結果として遠くに追いやられて、不便を強いられる形になっていたりします。

歩行者の通行に配慮するのはいいのですが、美観を優先して駅の近くへは駐輪させず、それが後になって駅前への迷惑駐輪を誘発し、撤去と放置のいたちごっこを招いたりしています。駅周辺の商業施設の関係者も駐輪場は美観を損ねると設置に反対し、お客のはずの自転車利用者を目の敵にするような事例も見られます。

なぜこれほど利用者が多いのに、自転車向けのインフラ整備がなかなか進まないのでしょうか。むしろ自転車の利用を抑制するかのような動きすらあります。自転車利用者のマナーの悪さなどへの反発などもあるのでしょうが、自転車利用者の多さに比べ、インフラが大幅に不足しているのは確かでしょう。

Cycling Center / We Are You + Erik Hallberg

一方、海外では近年の自転車利用者の拡大にあわせ、自転車インフラの整備に力が入れられています。ロンドンやパリ、ニューヨークといった大都市だけでなく、小規模な地方都市でも、渋滞の解消や居住環境の向上、市民の健康増進や肥満解消のためにも、積極的に自転車インフラの整備を進め、その利用を促進しようとしています。

Cycling Center / We Are You + Erik Hallberg

普通の自転車レーンや駐輪場だけではありません。駅に直結した利便性の高い駐輪場を新設するところもあります。駐車場の利用が不便な代わりに駐輪スペースは充実している集合住宅もあります。お客だけでなく、従業員の通勤にも自転車を推奨出来るように駐輪設備を充実させる商業ビルもあります。

自転車利用が見込まれる大学などの施設には、自転車利用とその安全をあらかじめ考慮した施設計画が採用されます。スポーツ施設へのアクセスにも自転車の利用を想定しています。さらに、今までに無かったようなインフラの整備も構想されています。

Leith Walk ‘Green Bridge’ biomorphis

こちらは自転車専用の横断橋です。普通の道路と立体交差させることで、自転車利用者の利便性を向上させる一方で、クルマや歩行者との事故を防ぐ効果が見込めます。自転車を迂回させる、交差点で停止させるのではなく、自転車を優先してスムーズに走行させようという考え方です。

Leith Walk ‘Green Bridge’ biomorphis

水に浮く構造のコンクリート製の浮橋を自転車専用の通行帯にするというアイディアもあります。川や運河などを埋め立てなくても、そのスペースを効率的に利用することができます。都市の見過ごされている空間を有効に活用できるという点で、面白い構想だと思います。

Wederom genomineerd voor 'in de kiem gescoord'

自転車レーンを発電に利用しようという構想もあります。自転車レーンに太陽電池を埋め込み、その上を特殊なガラスなどで覆い、自転車で通行できるようにします。発電した電気は蓄電して夜間の照明に使ったり、沿道の施設などで使います。自転車レーンの設置と太陽光発電パネルの設置の一石二鳥というわけです。

SolaRoad, www.tno.nl

本来ならば、日本でこそ、こうした技術開発が行われ、世界をリードしてもいいくらいです。しかし、こと自転車環境に関しては、歩道を自転車が暴走し、来日する外国人が驚くような野蛮な状態です。日本は、自転車インフラの整備において、一回りも二回りも遅れていると言えるでしょう。

自転車インフラの整備をかえりみない自治体は多いですが、自転車用のインフラ設備は、一部の利用者だけの利便性を図ることであり、市民一般の理解を得られないと思っているのでしょうか。都市の交通は、クルマや公共交通、歩行だけでよいと考えているのでしょうか。

SolaRoad, www.tno.nl自転車は必要悪で、排除すれば利用する人もいなくなると思っているのかも知れません。あるいは徒歩の延長であり、歩行者と混在したままでよいと考えているのでしょうか。少なくとも、自転車のポテンシャルを理解しておらず、インフラを整備して、その有効活用を図ろうという考えが浮かばないのは確かなようです。

欧米などでは、自転車を積極的に活用することが、渋滞対策や事故の防止、居住環境の向上、市民の健康増進と医療費の削減などにつながり、行政としても大きなメリットがあると考えるのが一般的になってきています。ママチャリが大多数を占めるという特殊事情があるにせよ、自転車に対する理解が違いすぎます。

日本では多くの自転車が保有され、利用する人がこれほどたくさんいるのに、自転車の利用促進どころか、あって当然の自転車インフラが大幅に不足している状態です。自転車利用を拡大させようと力を入れている国とは違い、すでに拡大している自転車利用にインフラが間に合っていない状態と言えるでしょう。

自転車インフラの充実は、人々の移動をスムーズにし、歩行者との事故を減らし、自転車利用者以外にも大きな恩恵があるはずです。決して一部の利用者のためのものではなく、社会の基本的なインフラなのに、大きく欠落している部分だと考えるべきではないでしょうか。





サッカーは男子も最高の滑り出し、いよいよオリンピックが開幕です。楽しみですが、寝不足が辛いところです。

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この記事へのコメント
日本は役人が馬鹿ですね。馬鹿は言い過ぎなら 発想が貧弱貧困に過ぎます。(同じ事か)
駅前の迷惑駐輪も裏を返せば駐輪施設の貧困さによるものですが、駐輪はけしからんと考えるより
これだけの人数が自家用車で駅前に来たら大変なことになる、自転車だから大渋滞も起こさなければ
排気ガスで空気を汚すこともない、と前向きに考えるべきです。が彼らには考えきれないのです。
その一方で 車に対しては卑屈なほど便宜を図る。殆ど傷んでいない道路を年度末には再舗装、
その一方で両脇にある歩道は凸凹で電柱が歩行を邪魔しても いっこうに改善しない。車の出入りのために
歩道を斜めに削って老人が転ぼうが車いすが転倒しようが それはお構いなし。
社会のインフラを整備する金が無い国ではないでしょう、日本は。役人の馬鹿な頭を変えるだけで
済むのです。しかしこんな自明の事を変えるのに 一体何年かかるのだろう(嘆)。
Posted by 隠居@川崎市 at July 28, 2012 16:27
残念ながら、多くの日本人の自転車に対する感覚は、歩行者の延長で、ゲタ代わり。と言う意識でしょう。効率的に運用できる車両であるという意識は無しですね。評価が低すぎます。
だから、1年ですぐ壊れるような安物粗悪品自転車ばかりが売れる。価格が10倍しても、10年使えて、高価な分、性能が良ければその方が安上がりなのに。
ドイツで話を聞くと、安い自転車も売っているが、粗悪だから、少量しか売れないとのこと。中国や日本からの留学生が数年使うためだけに買うのです。
日本での自転車関連インフラ整備は、放置自転車対策も負担になっているかと思いますが、この辺の粗悪品自転車の対策も必要だと思います。
Posted by man at July 28, 2012 22:08
その粗悪品自転車対策のアイディアとして、たとえば、2万円以下の自転車には廃車時対策等として、5千円ぐらいの金額を購入時にデポジットをさせ、それで基金を作り、ちゃんとした廃車処理をすれば、一部を処理費用として残りは返金される。この仕組みにすれば、もったいないので放置はしないでしょう。もちろん、返金時に身分も証明させれば、不正な返金のための盗難も抑止できます。
今から徹底すれば、対応していない粗悪品自転車が一巡して消滅すれば、放置自転車問題はかなり減ると思います。
趣味の自転車やスポーツ車、ある程度高額の自転車は、そもそも放置する率は小さいので、対応外。
もちろん、そんなことを言い出せば、安い自転車が売れないので、メーカーや量販店は反発するし、消費者の一時的な負担が増えるので、嫌がらられると思いますが、放置自転車問題でどれだけの税金が使われているのかとか、理解してもらえれば、納得してもらえる範囲と思います。そして、廃車時には実費を除いて、ちゃんと返金されるとなれば、消費者は大きな文句は言えないと思います。
Posted by man at July 28, 2012 22:10
隠居@川崎市さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
少なくとも自転車を目の敵のように思っている役人は多いでしょうね。
自転車を排除したいあまり、「市民のみなさんは自転車には乗らずに、歩きましょう。」などと呼びかける自治体もあります。
自治体によっては、莫大な予算を放置自転車の撤去移送に費やさざるを得ず、いくら対策してもキリが無いのですから、そうなる気持ちがわからないでもないですが..。
おっしゃるように、発想を転換して、放置と撤去のいたちごっこから、積極的な駐輪場整備に転換すれば違うと思いますし、市民のニースということで言えば、それが当然だと思います。
毎年度末に決まって繰り返される「掘り返し」だけでも、他の目的に振り返れば、いろいろ変えられるような気がしますね。
Posted by cycleroad at July 29, 2012 23:13
manさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに自転車に対する理解、認識はゲタ代わりか子供の乗り物くらいの人も多いでしょうね。そして、そのことが各方面に影響していると思います。
ママチャリが大多数を占めるということも、その要因になっていると思います。スポーツバイクならば、粗悪で重いものだと遅くて快適ではないので、自然と価格帯も違ってくると思いますが、ママチャリで歩道を走行する場合は、重くて遅くても、あまり問題になりません。
雨ざらしですぐ錆びますし、盗まれたり、放置自転車として撤去されたりすることを思えば、安くて粗悪なものを選ぶのも合理的な判断ということになるのでしょう。
結局、粗悪な自転車が市場を席巻するのも、ママチャリが歩道走行をするという日本の自転車行政の失敗、特殊性が根底にあると思います。
(続く)
Posted by cycleroad at July 29, 2012 23:41
(続き)
私も、高くてもいい自転車を買ったほうが絶対に楽しいと思いますし、その価値はあると思っていますが、現状では格安自転車のニーズが大きいのも現実だと思います。
本体価格によってデポジットをとるのは、仮に実態にあっていたとしても、公平性の観点から難しいような気もします。
中国からの格安自転車に対して関税をかければいいという意見もあります。EUなどは実際そうしていますが、それはそれで貿易を阻害する障壁となりますし、難しいでしょう。
格安で粗悪な自転車の流通が、放置自転車対策として税金を使わせることになっているのは間違いないでしょう。
ただ、携帯電話会社が景品に自転車をばら撒いたりなんてこともありますし、その対策はそう簡単ではないような気がします。
Posted by cycleroad at July 29, 2012 23:46
いつも楽しく拝見させていただいております。
>間違った道路行政を40年も続けてきた
おっしゃる通りだと思います。第一次・第二次交通戦争の死者を減らすべく手っ取り早く行った付け焼刃行政の挙句の果てですから。
今後加速度的に状況の改善が見られるとしたら・・・地方分権が進み、ユニークな交通政策を摂る自治体が登場してくれる事かな〜、と淡い期待を持っております。
また一方では、私達一般市民がどんどんと物申すのも必要なのかもしれませんね。

Posted by 群馬の自転車屋さん at July 30, 2012 16:19
群馬の自転車屋さんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
その付け焼刃行政を延々と続けてしまい、状況が変わっても正さなかった責任は重いですよね。
政治は地方分権を唱えていますが、なかなか霞ヶ関は権限を手放したがらないだろうことが懸念されます。
特に交通のような分野では、あまりユニークすぎる政策は許されないのではないかという気もします。
一方、地方自治体側としても、目に見えるメリットが乏しい分野で、大胆に改革するようなリスクをわざわざ犯すだろうかということもあります。
改革を促すためには、おっしゃるように、市民の声、市民の意識が変わっていくことが重要でしょうね。
Posted by cycleroad at July 30, 2012 23:32
近年、一定時間無料の駐輪機や駐輪場が増えているのはいいですね。
違法駐輪することなくスーパーマーケットの駐輪機で料金無料のうちに買い物をさくっと済ませたり、
池袋では深夜0時まで管理人がいる駐輪場があるので、安心して映画のレイトショーを見てから自転車を引き取って乗って帰って来ることができました。
さすがにドイツ某都市のメカニックがいる駐輪場にはかないませんが。
Posted by anonymous at July 31, 2012 21:24
anonymousさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、行政はともかく、民間の商業施設では駐輪場を設置するところが増えていると感じます。しかも最初の何時間か無料のところが多いので、利用しやすいと思います。
少しの時間だけ駐輪する場合でも、いちいち料金をとられるのでは敬遠する利用者も多くなるでしょうから、このスタイルは迷惑駐輪を減らす効果も高いと思います。
街の自転車屋さんも減っていますし、メンテナンスをしてくれるような駐輪場があってもいいような気がしますけどね。
Posted by cycleroad at August 01, 2012 23:39
マイナビニュースで、「自転車を点検せずに乗っている人は7割」という記事がありました。
http://news.mynavi.jp/news/2012/08/01/120/

回答者の自転車が7割もママチャリだったので、当然の結果だと思いますがいかに自転車に対する理解が少ないかという事も言えると思います。本当にタダの安い道具としか見られてないような感じです。1万円以下の格安自転車もこれを助長しているのでしょう。
Posted by さすらいのクラ吹き at August 03, 2012 19:27
さすらいのクラ吹きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
この記事、私も読みました。自転車だとあまく見る人が多いのでしょうけど、下手をすれば命に関わる問題ですね。
おっしゃるように格安の自転車、粗悪で壊れやすい自転車の流通も助長しているのは間違いないでしょう。
ママチャリとはいえ、例えばブレーキが甘かったりすれば、重大な事故に巻き込まれたり、他人に大怪我をさせたりすることが充分に起こりうることを思えば、看過できない問題だと思いますね。
Posted by cycleroad at August 04, 2012 22:58
水上に造る浮橋は最高ですね

首都高みたいに走れる道が自転車にも有ればと思っていましたが、この方法があったかって

都内には機能しなくなった運河が沢山あります
少しずつ埋め立てられて公園などになっていますが、
この方法なら少ない予算で整備出来るし、必要無くなればすぐに撤去出来る
運河の本来の目的にも合ってるし

今すぐにでも都庁に行って提案したいくらいです
Posted by ぶーちょ at August 12, 2012 09:46
ぶーちょさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
斬新な発想ですよね。川の上空空間の有効活用が簡単に出来る優れた案だと思います。
都市部で用地買収をして道路を造成しようとしたら莫大な予算と長い年月がかかります。その点で、むしろ現実的で都市の過密な空間に持ってこいの案だと思います。
大雨で増水が予想される時には通らないようにすればいいだけです。まあ、そんな時には誰も自転車に乗りたくないと思いますけど..。
都庁の担当者に言ってやって下さい(笑)。
Posted by cycleroad at August 13, 2012 23:36
 
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