梱包や輸送に使う資材と言えば、ダンボールでしょう。
身近なところでも広く使われています。実は、このダンボール、19世紀のイギリスで生まれました。当時の貴族が着ていた服の波型の襟をヒントに、波状に折った厚紙をシルクハットの内側に使ったのが始まりと言われています。ダンボールの最初は、帽子に取り付け、汗を吸い取るために考えられたものでした。
その後アメリカでガラス製品などを包む目的で使われるようになり、世界中で現在のように梱包や輸送、保管などの用途に広く使われるようになりました。それまで使われていた木箱などに代わって、梱包や緩衝材として、輸送や保管などに、なくてはならないものとなっています。
野菜や果物から加工食品、飲料、電化製品、衣料、雑貨など、ありとあらゆるものがダンボールに入れて運ばれます。引越しなどにも必須ですし、物資の保管にも使われます。日々の生活の中でも、商品をダンボールごと、まとめ買いしたり、通販や宅配で届く品物の大半はダンボールに入って届きます。
紙から出来ており、重量が軽いのに、使い方によっては非常に大きな強度を発揮します。使わないときは折りたたむことが出来るので、スペース効率にも優れています。しかも、原料の95%以上は古紙であり、リサイクルして何度も使われる代表的な資材です。日本では平均7〜8回は再生されているそうです。
最近は、中身に応じてさまざまな形状のものが開発され、そのまま販売用に展示できたり、発泡スチロールなどの緩衝材が不要なものなど、多種多様なものが開発されています。さらに、耐水性のもの、保冷効果のあるもの、鮮度を保ったり、虫除け効果、静電気が帯電しないなど、特殊なコーティングをしたものもあります。
梱包など臨時的、補助的な用途に使われることが多いですが、ダンボールを使った家具など、製品の材料として使うものもあります。その軽さを生かして、ビルなどの空調用のダクトに表面をアルミ箔でコーティングしたダンボールが使われるなど、梱包以外への利用も広がっています。
もはや、ないと困ってしまうもの、ほかに代用するものが考えつかないほど、我々の生活に密着したものと言えるでしょう。ライフスタイルの変化もあって、その需要は伸び続けおり、日本人は平均して、一人年間150箱ものダンボールを使っていると言います。
さて、そんな身近な素材ダンボールを使って、なんと自転車を作ってしまった人がいます。いくらなんでも、自転車には向かないように思えますが、意外にも充分実用に耐えるものが出来ます。耐水性があり、湿気にも強く、強度的には体重140キロの人が乗っても全く問題がありません。
動画を見ていただければ、なるほど普通に走行できているのがわかると思います。普通の自転車とは多少違う部分もありますが、道行く人も言われなければ気づかないほど、見た目の違和感も無く、スムースに走行しています。もちろん、水たまりがあったりしても大丈夫です。
ダンボールで実際に乗れるカヌーを作ってしまった人に刺激を受け、自転車を製作することを思い立ったそうです。3人のエンジニアに相談したところ、いずれも不可能だと言われたと言います。しかし、
Giora Kariv さん、思いとどまることはありませんでした。
一から設計し、加工方法を考え、強度や構造を計算し、全て手作業で進めたので、相当の時間がかかりました。でも、基本的に材料として使ったダンボールの代金は、わずか9ドルです。自転車の素材としては圧倒的な安さもダンボールのメリットの一つでしょう。
なかなか完成度の高い作品だと思いますが、現時点では、Giora Kariv さんの道楽に過ぎません。しかし、考えようによっては、自転車製造の新しい可能性を秘めているかも知れません。素材はダンボールですから、今の加工技術をもってすれば、いくらでも大量生産が可能なはずです。
これまでにもアフリカの国々など途上国の自転車事情を取り上げてきました。公共交通が整備されておらず、クルマによる移動という手段を持てない人々にとって、自転車は死活的に重要な移動・輸送手段となっている国々があります。格安な自転車は、そうした途上国の多くの人々に福音となる可能性があります。
先進国では、格安な自転車が必ずしも社会的にプラスになるとは限りませんが、用途によっては有効かも知れません。例えば災害用の備蓄自転車として利用することも考えられます。何しろダンボールですから、イザとなれば燃やすことも出来ます。緊急時には燃料備蓄の代替にもなるでしょう。
仮にダンボール製の自転車が普及したら、自転車の価格が格段に安くなって、自転車盗という犯罪はなくなるかも知れません。放置自転車の問題は悪化させるかも知れませんが、まとめて溶かしてリサイクル出来ます。価格が安いので返還手続きを省略してしまえば、処理コストが低減できる可能性もあります。
山林などに不法投棄されたとしても、ダンボールは土に返ります。耐久性的には劣るとしても、パーツが破損したり、劣化したら、安いのでどんどんパーツ交換できるでしょう。使用済みのパーツは溶かして古紙として再生できます。レンタル自転車にも向くかも知れません。
何より軽いというのは大きなメリットです。走行性能的にも有利ですし、階段をかついで上がったり、駐輪などの際にも便利に扱えます。同じ炭素なのに、カーボンのフレームとは大いに価格が違うわけで(笑)、カーボン・フレームを買うのが馬鹿らしくなってしまうかも知れません。
もちろん、自転車がすぐにダンボール製になっていくとは思いません。ダンボール製なんて、ちょっとピンと来ないのも間違いありません。ただ、未来の自転車が、今とは全く違うものになる可能性はあります。そして、それがリサイクル素材でないとは言い切れません。
ダンボール自転車がいいかどうか、実現性が高いかどうかは別として、こうした自転車の素材に対する固定観念を捨てた発想が、大きなブレイクスルーをもたらす可能性は否定できないでしょう。まるで手品のようにシルクハットの中から飛び出した素材、ダンボールが、さらに自転車へと化けるかも知れません。
ロンドンでは素晴らしい戦いが繰り広げられています。日本人選手も頑張っていますね。テレビ観戦にも力が入りますが、完全に寝不足です。