朝、自転車で通学する学生たちと行き会う人も多いと思います。ただ地域によっては、マナーの悪い学生が目立つところも多いのではないでしょうか。逆走や併走、2人乗り、ケータイを使いながら、音楽を聴きながらなど、ルール違反も平気、周囲の迷惑かえりみずという生徒も少なくありません。
大人のマナーも決して褒められたものではないので、学生ばかりを責めるわけにもいきませんが、困ったものです。学校でも指導しているでしょうし、警察も啓発や指導に努めています。交通事故防止の観点からも力を入れているとは思いますが、必ずしも成果があがっているとは言えません。
教師の目も学校の外までは届きにくいでしょうし、家庭もその点は同じです。親や教師の目の届かない場所でも自発的に自転車のルールを遵守させるには、本人の自覚が必要であり、その自覚を促す教育が大切です。しかし、なかなか難しいのが現実なのではないでしょうか。
海外では、学校の授業や警察とは別に、地域社会が青少年に対する教育に真剣に取り組むところがあります。アメリカ・メリーランド州のボルチモアでは、“
Rails-to-Trails Conservancy”というNPOが、コカコーラ財団などの支援を受けて、“
Baltimore Earn-A-Bike Program”というプログラムを行っています。
中学から高校くらいの青少年が対象で、その名の通り、子供たちはこれによって新品の自転車を手に入れることが出来ます。しかし、ただプレゼントしてくれるわけではありません。さまざまなカリキュラムに4週間にわたって参加しなければなりません。
まず、自転車を手に入れるにあたって、交通ルールや安全について学ぶのは当然です。そのほかに、自転車のメンテナンスの仕方を学び、自分で手入れが出来るようになることが求められます。でも、カリキュラムはそれだけにとどまりません。
地元の公園でのゴミ拾いから始まり、地域社会の一員として、多くの地域貢献の活動を体験することになります。これらの体験によって、自分たちも地域社会のメンバーであることを実感し、地域のために何ができるか、また何をしてはいけないか、実地に学ぶことになります。
地元の農園では収穫を体験します。新鮮な野菜などを味わうのと同時に、健康的な食生活、いわゆる食育についても学びます。アメリカで社会問題となっているファーストフードなどの偏食や、それによる肥満など、自らの健康のために必要なことを若いうちから学ぶのです。
そのほか、さまざまなカリキュラムを通して、地球の環境を守るために必要なこと、自らが出来ることについても学びます。また、自分たちの行動が地域社会、地域のコミュニティにも貢献することを実体験として学ぶのです。地域社会にとっても、若い市民たちが新たな自覚を持つことは大きな利益となります。
一連のプログラムを修了した青少年たちには、新品の自転車と修了証明書が渡されます。これによって、彼らは晴れてその自転車に乗ることが出来るわけです。4週間にわたって清掃や奉仕活動など、いろいろな仕事をして手に入れたわけですから、普通にただプレゼントされたのとは違う重みがあるに違いありません。
親が簡単に子供に自転車を買い与えるのではなく、このプログラムに参加して自分で手に入れさせるようにすれば、一定の効果が見込めるわけです。苦労して手に入れたぶん大切にするでしょうし、メンテナンスや盗難防止にも気を使うでしょう。もちろん、交通ルールや安全面に関しても理解を深めるはずです。
地域の大人たちと交流することで、地域のコミュニティの一員であることを実感し、たとえ未成年であっても、コミュニティの一員として相応の責任や義務があることを理解するようになると思います。学生だからと言って、学校内と家庭内だけでないことを自覚すれば、公共の場所での態度も変わってくるでしょう。
事実、このプログラムを体験した子供たちが大きく成長したと評価する声が多いと言います。公共の場所の掃除をして、その大変さを理解すれば、簡単には汚せなくなるに違いありません。自分の行動を、周囲への影響を含めて客観的に見られるようになるのだと思います。
ただ単に、自転車のルールを教えるだけでは、なかなか実践には結びつかないものです。しかし、なぜそれが必要なのか、ルールを守らないことが周囲にどのような迷惑を及ぼすか考えられるようになれば違ってきます。今まで知らずに迷惑をかけていたこと、周囲からどのように見られていたかも知ることでしょう。
それまで、家庭の一員、学校の一員だけたったのが、地域社会の一員としての自覚を持つことで、今まで眼中になかった、通学途中の周囲の目を気にすることにもなると思います。あまり恥ずかしい行為、傍若無人な行動をとって、地域のコミュニティから白眼視されたくないとの気持ちも働くに違いありません。
多感な年頃ですから、反抗する子供などもあるとは思いますが、なかなか有意義なプログラムだと思います。単に交通安全だけを教えたり、一方的に押し付けるのではなく、地域社会との関わりの中で理解させ、環境保全や食育、地域貢献なども含めトータルに体験させながら自覚を促していくというのは上手いやり方です。
日本とは、地域社会の理解や制度など、さまざまな面で違いがあるので、そのままの導入は難しいかも知れません。しかし、こうした考え方は参考になると思います。日本でも、教師や警察だけに交通教育を任せてばかりではいけないのだろうと思います。
昔は、他人の子供であっても怒鳴りつけ、間違った行為を叱ってくれるカミナリ親父がいました。今は、まずそのような行為を期待できない以上、地域がもっと社会のルールやマナーを教えていかなければなりません。地域が見守っている、近所の人が見ているという認識を持たせることも必要でしょう。
大人の自転車マナーが褒められたものでない中、なかなか地域社会で安全教育というのも難しいものがあるとは思います。青少年側にも反発があるでしょう。しかし、このままでは次の世代の大人のマナーも悪いままです。どこかで、その連鎖を断ち切っていく必要があると思います。
今日は防災の日ですね。地震や津波、普段からどれだけ真剣に想定しておけるかが分かれ目なのでしょう。