少し前の新聞に、自転車に乗るリスクに関する記事が掲載されました。
毎日新聞の記事ですが、これを見て気になった人もあるのではないでしょうか。
サイクルファン:「自転車でED」に困惑
過剰に自転車に乗ると、男性はED(勃起障害)になるリスクが高まる??。そんな医学界の指摘に、サイクルファンが困惑している。海外では問題にされてきたが、国内では今年、ED治療の指針となる学会ガイドラインに注意を促す内容が追加された。大震災以降、自転車ツーキニストが目立つが、そのリスクは?
今春、東京・渋谷にあるED治療を専門とする「渋谷三丁目クリニック」を、都内の20歳代の男性が不安げな表情で訪れた。男性は古市昌之副院長に性行為がうまくできないと打ち明けた後、言った。「自転車に乗っていますが大丈夫でしょうか」
毎日の乗車時間は通勤の往復1時間半。乗ると会陰部(性器と肛門の間)に痛みを感じていた。一般にEDの原因となりやすい肥満や高血圧症状はなかった。古市副院長は「自転車は多分に原因になっているのでしょう」と答え、ED治療薬を処方した。クリニックには、2年間で約30人が「自転車が原因では」と訪れた。
ED研究者らでつくる日本性機能学会は、学会発行のED診療ガイドラインの本年版から「自転車は注意が必要である」「乗車時間とEDの間には明らかな用量相関関係がある(時間が増えるとリスクが高まる)とされる」と記した。
ドイツ・ケルン大学では99年、アマチュアの長距離サイクリストと非サイクリストにアンケート。年齢構成を補正してED発症率を比較した結果、非サイクリスト群3.9%に対し、長距離サイクリスト群は13・1%だった。国内の研究例はないが、同学会副理事長の永尾光一東邦大教授は「複数の信頼できる論文が報告されたためガイドラインに記載した」と話す。
◇細長いサドルが血管・神経圧迫
永尾教授は「サドルと接する会陰部は皮膚の下を動脈や神経が走っている。狭い面積に体重がかかって強く圧迫され、血管や神経に障害が起きやすい」と説明する。
ただ、国内の現状は明らかになっていない。永尾教授は「乗車中股間を打ち血管障害が起きたような例は自転車が原因と分かる。だが、慢性的な原因からの血管障害は加齢による動脈硬化でも起きるため、どちらが原因か分からない」と言う。
心配すべき状態はどうか。「自転車で一日、遠出したからといって直ちに影響はないでしょう。毎日乗っていてしびれなどの違和感が続くような人は、体重が強くかかる、先端が細長いサドルはやめた方がいい」(永尾教授)。トライアスロン歴があり自転車通勤する古市副院長は「予防のために」、先端のないサドルを使っている。
そのサドルの効果は米労働安全衛生研究所が調査している。仕事で自転車に乗る警官に先端がないサドルに6カ月間座ってもらったところ、勃起機能が改善したというアンケート結果が出た。性器の周りのしびれを感じていた人は73%から18%に減った。
自転車競技の日本チームのコーチを長く務めた斧隆夫・全日本実業団自転車競技連盟理事長は「関係があるか疑問。国内でも自転車に長時間乗る人と一般の人を比較する研究などを行ってほしい」と話している。(毎日新聞 2012年08月16日)
最初にお断りしておきますが、私は医者でも専門家でもないので、自転車とEDの関連の真偽はわかりません。こういう記事が載ったという事実を取り上げているだけで、自転車がEDのリスクを高めると言うつもりはありませんし、その危険はないと言うだけの根拠もありません。
この記事をどう受け取るか、どう感じるかは人それぞれだと思います。特に最近、趣味として自転車を始めたような人の中には驚いた人もあるでしょう。記事を気にする人、気にしない人、いろいろだと思います。どちらが正しいなどと断じることも出来ません。
ただ、個人的な見解として、いくつかの点を指摘しておきたいと思います。まず、この記事の伝える事実についてです。早とちりすると、「自転車に乗るとEDになることがわかった」と報じられているように見えますが、そうではありません。
自転車に乗るとEDになるリスクが高まるかも知れないと『
サイクルファンが困惑している』という記事です。しかし、どこの『サイクルファン』がどれほど困惑しているのか具体的な記述はなく、この記事を書いた記者の個人的な印象に過ぎないと思われます。困惑しているという事実の検証はありません。
この記事が書かれた背景には、国内で今年、ED治療の指針となる学会ガイドラインに注意を促す内容が追加されたことが挙げられるでしょう。ただし、これは『海外で複数の論文が報告されたためガイドラインに記載した』ということでしかありません。
震災以降、自転車通勤する人が増え、自転車によるEDが増えたなどという事実が明らかになったわけではありません。うっかりすると、そんな理解をしてしまいかねない文章ですが、そのような事実は一切ありません。注意して読むと、国内での現状は明らかになっていないと書かれています。
記者が取材したクリニックに、2年間で約30人の『自転車が原因では』と心配した人がいたのは事実としても、結果として30人とも自転車が原因だったかどうかは不明です。何人中の30人だったのか、その数が多いのかどうかも定かではなく、恣意的に不安を煽るような書き方のようにも見えます。
記事によれば、日本性機能学会副理事長の東邦大教授は、サドルによって会陰部に体重がかかって圧迫されると、血管や神経に障害が起きやすいと述べています。言われてみれば、そんな気がしますし、専門家が言うのですから、血管障害が起きるほどの圧迫が良くないのは、その通りなのでしょう。
しかし、『乗車中股間を打ち血管障害が起きたような例は自転車が原因と分かる。だが、慢性的な原因からの血管障害は加齢による動脈硬化でも起きるため、どちらが原因か分からない』と言っています。血管障害が起きても、サドルの圧迫によるものか分からないと述べてもいます。
つまり、自転車が原因である可能性を否定するものではありませんが、その因果関係を断定するのは困難だということです。専門家にしてみれば当然の答えでしょう。原因として疑う人、心配になる人がいるのは理解できます。そうでないとは言いませんが、自転車がEDの原因と断定できるわけではないのです。
この教授は、『毎日乗っていてしびれなどの違和感が続くような人は、体重が強くかかる、先端が細長いサドルはやめた方がいい』と述べています。痛みや痺れなどの違和感があって、それが続く場合に、そのままにすれば、何らかの障害が起きる可能性が出てくるというのは、普通に理解できることです。
そのまま放置するとEDになるかどうかは別として、痛みや痺れなど、身体からのサインがあれば、それに対処すべきというのは、ごく当たり前の話でしょう。つまり、専門家のアドバイスとして、股間の痛みや痺れ、違和感は放置しないほうがいいという話です。冷静に読めば、どうということはありません。
悪意かどうかは別として、記事に注目を集めたいと、このような意図的に紛らわしい書き方をする記者がいるのでしょう。他のことに関しても、タイトルで注目をひきつけ、インタビューや取材と混ぜて紛らわしく書かれているものの、よく読むと全くそんな事実はないという記事を見かけることがあります。
何かのニュースがあると、その方面の専門家のところにマスコミから取材があり、専門的な知見を述べたり解説するようなケースは多いと思います。一生懸命説明したのに、記事になったら肝心な部分が抜けていた、全く逆の趣旨の記事になっていた、などという話も聞いたことがあります。
もちろん、今後の研究によって、自転車とEDについての相関関係が明らかになるかも知れません。しかし、この記事にあるように、現状では海外の研究事例はあるものの、自転車がEDの原因かわからないわけです。可能性はあるので、痛みや痺れを放置しないほうがいいという段階です。
例えば「包丁を使うと指が切れる??料理マニアが困惑。」「カセットコンロを使うと爆発する??ユーザーが困惑。」と書くのと同じで、少し煽りすぎの感があります。正しい使い方をしないと危険があるというだけで、ちょっと膨らませて書きすぎなのではないでしょうか。
ドイツ・ケルン大学でのアンケート調査の結果があるではないかとの指摘もあるでしょう。確かに、そういう研究があるのは、他にも聞いた事があります。しかし、こうしたアンケート結果をもってして、自転車とEDに相関関係があると断定するのは、非常に難しいといわざるを得ません。
なるほど数字だけみると相関関係がありそうに見えますが、必ずしも明らかとは言えません。少なくとも学問的には、相関があるとは言えないでしょう。この程度のアンケート調査だけで、因果関係を立証するのは困難であり、専門家もそのことは認めているはずです。
自転車に限らず、何らかの症例について、疫学的調査によって因果関係を証明するのは、非常に難しいこととされています。何かが原因で、結果がもたらされると証明するためには、当然ながら、他の条件を同じにしなくてはなりません。これが非常に難しいのです。
ケルン大学の調査では年齢は補正したとなっています。でも、例えば自転車に乗っている人の中には、実は肥満傾向を気にしてダイエットで乗っている人が多く、そのことが影響したといった可能性も考えられます。肥満もEDとの相関が疑われている要素です。
そのほか、ケルン大学付近に特有の事情とか、他の未知の要因が隠れている可能性はいくらでもあります。ごく限られた集団の中だけの調査では、多少バラつきがあったとしても、それが有意に差があるとは言い切れません。もっと大規模な調査や数多くのサンプルが必要です。そして、その調査の方法は簡単でないのです。
公害病のような特異な症状であっても、原因を特定するのは難しい場合があります。ましてやEDのように、体調から心理的な要因まで、幅広い要素が関係するような症例で、何か特定の原因との関連性を調べるのは、そう簡単なことではないはずです。だから、専門家もわからないと答えているのです。
日本性機能学会が、海外の複数の信頼できる論文の報告を受けてガイドラインに記載したのは、賢明な判断でしょう。可能性があるとされている段階で、仮に間違いであったとしても、念のために注意を喚起するのは患者のためになるわけで、妥当な措置だと思います。
ただ、私の知る限り、他のテーマと比べても決して論文の数は多くないと聞きます。上述したように、調査や研究の結果が広く検証され、因果関係が認定されたわけではありません。自転車の乗り方に注意するのはいいとしても、自転車が原因になると解明されたかのような印象を与えるのは問題だと思います。
全日本実業団自転車競技連盟の理事長という立場の人が、「関係があるか疑問。国内でも自転車に長時間乗る人と一般の人を比較する研究などを行ってほしい」と話しているというのも注目すべきでしょう。都市伝説とは言いませんが、一部の報道等によって、思い込みばかりが先行している可能性も否定できません。
関連性の実証は難しいですが、関連が無いと実証するのは更に困難です。人々に関心のあるテーマだと、こうして調査や研究が話題になりますが、そうではないと否定する検証は困難で、実際に誰も行わないため、関連を疑う調査・研究ばかりが目立ってしまうということもあるでしょう。
これまでにも、多くの病気や症状について、数多くの要因との関連が疑われて来ました。結局、関係が特定できず、誰も気にしなくなったものも多数あります。病原菌やウィルスなどと違って、原因が絞れないものも多いですし、間違った知識として弊害を生む場合もあります。そうした点には注意すべきでしょう。
冒頭にも書いたように、私には事の真偽はわかりません。今回の記事はともかく、何らかの関係がある可能性も十分あるでしょう。私は特に影響を感じたことはありませんが、サイクリストの中には、何らかの影響を感じたり、不安を持っている人もいるかも知れません。
EDの心配をする必要は無いなどと言うつもりはありません。ただ、不安に感じる人は、まず自転車の正しい乗り方に注意すべきだと思います。坐骨ではなく、会陰部でベッタリ跨ってしまう人もいますし、坐骨とサドルの角度が正しくならない乗車姿勢の人もいます。
前傾姿勢をとろうとして、骨盤ごと傾いているために、会陰部が圧迫されるような姿勢になっている人もいると思います。プロの選手を見るとわかりますが、骨盤は起きており、背骨が曲がっています。文章で説明するのは難しいですが、市販の入門書などを見れば、正しい姿勢、乗り方がわかると思います。
サドルの位置や傾きが悪い場合もあります。痛みや痺れがあるならば、サドルそのものが身体に合っていない可能性もあるでしょう。真ん中に穴が開いていたり、二つに割れたような形をしているサドル、会陰部の圧迫を避けるようなサドルも多数売られています。痛みや痺れが出るなら、サドルを見直してみるのも手です。
自転車にも正しい使用法、すなわち正しい乗り方、姿勢があることには注意すべきでしょう。ただ、レースなどで、痛みや痺れがあっても長時間の乗車を強いられるようなケースや、マウンテンバイクでジャンプして局部を打つようなケース等を別とすれば、個人的には、さほど心配する必要はないような気がします。
おそらくベテランの方なら、自転車とEDについての話題は、昔から定期的に何度も繰り返されているように感じている方も多いのではないでしょうか。なぜか忘れた頃になると思い出したように話題になります。あまり気にしていない人も多いに違いありません。笑い飛ばす人もいます。
自転車による適度な運動は血行を促進し、ストレス解消にも役立ちます。むしろ、一般的にEDの原因と言われている肥満や高血圧、ストレスなどを取り除き、改善に貢献することも考えられます。乗るのを止めて悪化する可能性もあるわけで、気になる人は、医者に相談すべきしょう。
いずれにせよ、世界で、これだけ大勢の人が普通に乗っているわけですから、乗り方に問題がある人などを除けば、過度な心配は必要ないように思います。最終的には各自が判断することですが、せっかく健康にいい自転車が、間違って流布されたイメージのために敬遠されてしまうのは避けたいところです。
そろそろ、いい陽気になってくる頃でしょうか。今月は連休もありますね。
巷に溢れる情報をもとに正しい知識を得ることが、難しくても大切である。このサイトを読ませていただくとそれがよくわかってきます。自転車においては、自分の身体のこともそうですし、交通社会での他者との関係や安全についても。エネルギー問題だって、大人が頭の整頓をして後世に伝えねばならないのは、同じ類の責務に思えます。
それにしても、上手に挿入された絵を見るとそそられますね。自分自身の努力工夫はさておいて、道具交換の可能性は無限大だと思えてきます。前回の収納術に続いて、また家族会議ネタが増えてしまいました(笑)。
自転車による健康上のリスクとしてこの話は聞いたことはあります。他にも腰痛との関連があるとか、背骨がどうのとかいろいろな話がありますが、このところ自転車が健康にいいとあちこちで話題になり満員電車より自転車通勤などと言われ自転車のプラス面が非常に目立つ中アンチテーゼでマイナスなところを探ろうとする動きは健全な精神あるがゆえではないか。ここから自転車との付き合い方を多くの人が考えるきっかけとなることを願うばかりです。ちなみに私は毎日乗ってるけどだいじょうぶい。