ビクトリア州の州都で、都市圏の人口は4百万人、シティと呼ばれる地区には超高層ビルも立ち並ぶ大都市です。市内の公共交通は、メットリンクと呼ばれるトラム(路面電車)、バス、電車を結んだネットワークになっており、共通券で乗り降り出来るようになっています。
電車は、メルボルン市内を環状に走るシティーループと呼ばれる環状線から郊外へも路線が伸びています。道路は比較的広く、高速道路も整備されていますが、人口やクルマの増加に追いつかず、朝と夕方の通勤ラッシュの時間帯には、かなりの渋滞が起きているのが実態です。
さて、そのメルボルンでも都市交通の手段としての自転車が大きな関心を集めています。自転車で通勤・通学する人も増えており、自転車レーンなどの整備も進められています。今回、さらに注目を集める自転車レーンの整備プランが提案されました。
それは、なんと自転車用の専用高架レーン、“
Veloway”です。市内の電車の高架の線路の脇に、高架を拡張する形で自転車レーンを設置しようという大胆なアイディアです。過密な都市空間の思わぬ場所に、大きな価値を生む可能性に富んだ未利用空間を見出したプランと言えるでしょう。
クルマとも歩行者とも、もちろん電車とも完全に分離されます。既存の道路とは立体交差なので信号もありません。高速で巡航できる、まさに自転車専用のハイウェイです。これまでにも様々なアイディアがありましたが、稼動している鉄道の高架を拡幅するというのは新しい発想と言えるでしょう。
既存の高架を拡幅することで、高架道路を新設するよりは低コストで整備でき、歩行者やクルマとの事故も防げます。渋滞する都市部では、通常の自転車走行でも充分に速い移動手段ですが、ノンストップの走行で更に速い移動が可能となります。自転車利用者にとっては理想的なレーンです。
自転車通勤が便利で安全、そして速いとなれば、渋滞するクルマ通勤をやめて乗り換える人も増えるに違いありません。都市の渋滞対策にもなります。オーストラリアでも昨今肥満の増加が大いに懸念されているので、市民の健康増進に寄与することにもなるでしょう。
電車のルートに沿う自転車レーンということで、満員電車を避けるために、同じ区間を走行する自転車レーンを選択する人が増えるかも知れません。電車の混雑緩和策としても作用する可能性があります。通勤・通学以外でも都市の移動手段となりますし、レンタル自転車を用意すれば更に有効活用できるでしょう。
もちろん、全くの新設よりは安いと言っても、ある程度建設コストがかかります。費用対効果の問題はあります。ランプ、出入り口も必要ですし、実現に向けてはいろいろ課題もあると思います。それでも、なかなか魅力的な構想と言えるのではないでしょうか。
このプランは、建築やエンジニアリング、設計や管理などの会社の連合体が、メルボルンの具体的な場所を示して提案しているものです。決して素人の妄想や思いつきではありません。都市部の東西の連絡が不便であるなど、メルボルン固有の交通事情が背景にあるのですが、現実の提案なのです。
メルボルンでは朝、都市部に流入してくる車両の1割以上は自転車になっており、この10年で2倍以上に伸びています。混雑や事故など、さまざまな要素を勘案しても、充分に現実的な選択肢だとしています。提案したコンソーシアムでは、他の交通オプションよりも優れており、市民の支持も得られると考えています。
当面のプランとしては路線の一部区間だけですが、両方向に延長していく含みも残しています。この鉄道の高架を利用して自転車レーンを設置するというアイディアは、なかなか面白い発想だと思います。言ってみればデッドスペースを有効に使うプランとして、他の都市でも応用できる可能性はあるでしょう。
日本でも都市部に多くの電車の高架の線路があります。郊外への路線もあります。もし、それらの脇に自転車レーンが出来たら、自転車通勤が劇的に速く、ラクになる可能性があります。なにしろ信号はないし、歩行者は飛び出してこないし、クルマに気をつける必要もありません。
構造的に、屋根もつけられるでしょうから、雨の多い日本には更に理想的なレーンです。素人の私には、実際どのくらいの建設コストになるかわかりませんが、高架の線路の脇を少し張り出させるくらいならば、思ったより安く整備できたりしないでしょうか。
日本だと、自転車用高架道路なんて笑い話のように感じる人もあるでしょうが、世界では真剣に自転車の活用が進められています。日本のママチャリでの歩道走行では現実的でない部分がありますが、本来の自転車のポテンシャルをもってすれば、充分に都市の交通手段、立派な交通網として機能します。
ロンドンやコペンハーゲンなど一部の都市では、市内の自転車レーンの整備にとどまらず、都市部と郊外を結ぶ形の自転車専用道路、
自転車スーパーハイウェイを整備し始めています。高架ではありませんが、自転車で高速に走行できるようになっています。
基本的に従来のクルマ用の道路とは別に独立した自転車道として敷設し、自転車が高速で走行できるようにしています。なるべく信号をつくらないようにするため、立体交差にしたり、場合によってはクルマのほうを一時停止にさせるなど、ハイウェイの名に相応しい仕様です。
ロンドンでも一部が開通していますし、コペンハーゲンでも計画の26本の最初の一本が今年4月に開通しています。日本では都市部の自転車レーンすら遅々として整備が進みませんが、先進的な都市では、自転車の走行空間整備において、はるかに先を行っているわけです。
メルボルンの“Veloway”は更に先進的な構想と言えるでしょう。もちろん資金的な問題などがあって、なかなか簡単ではないかも知れませんが、実現すれば世界をリードする自転車インフラ、新しい都市交通の可能性を示すものとして注目を集めるに違いありません。
この構想について、現地のコミュニティでは多くの支持が集まっているようです。日本では道路の端にすら自転車レーンが整備されないのに、メルボルンでは電車の線路の端にまで自転車レーンが出来るかも知れません。大胆で夢のあるプラン、自転車政策の先進性がうらやましい限りです。
新エネルギー戦略を打ち出しておいて、閣議決定を見送るとは迷走していますね。ますます国民に見放されるでしょう。もう誰も民主党になんか期待してないかも知れませんが..。