日本の尖閣諸島国有化に反発したデモは沈静化したようですが、その後も中国政府の強硬姿勢が続いています。10年前の日中国交正常化30周年の記念式典は、当時の小泉首相の靖国参拝による日中関係の険悪化の中ですら行われましたが、今回の40周年の式典は、事実上の中止となってしまいました。
反日デモは暴徒化し、現地の日本企業やスーパーなどに大きな被害が出ました。現地工場の稼動が停止したり、両国を結ぶ航空機の座席は何万席という単位でキャンセルが出て観光客は激減、日本の商品の取り扱いを中止する中国の商業施設が相次ぐなど、経済的な影響は多方面に広がっています。

日本製品の通関に時間がかかるなど、貿易面でも心配な動きが伝えられていますし、現地に滞在する日本人に対する嫌がらせが行われたという話も聞きます。文化やスポーツなどのイベントも中止が相次いでおり、両国の民間交流の分野にまで影を落としています。
言うまでもなく、尖閣諸島は日本の領土であり、歴史的にも国際法上も、そのことに議論の余地はないと思います。にもかかわらず、今回の影響の全ての責任は日本にあるとする中国政府の強硬な姿勢に対し、あまりに理不尽な言いがかりだと感じている人も多いことでしょう。
報道やアンケート調査の結果などを見ても、日本政府には毅然とした態度であたってほしいという国民の声が大半を占めているようです。そもそも中国側の尖閣を自国領だとする主張が図々しいわけで、その上、暴動の責任を日本に押し付けるなんて論外だと感じている人も多いに違いありません。
しかし、それにしても今回の中国側の反発は予想外に激しいと訝る向きもあります。中国側は、そもそも日本に領有権が無いと主張しているのに、日本国内の手続き上、所有者が個人から国になったことに文句を言うのは、日本の領有を認めるようなものです。そんな手続きは無効だと無視してもいい話のようにも思えます。

日本の領有権を認めないのであれば、日本の誰の所有になろうが無関係でしょう。日本側としては、所有者が高齢などを理由に、都か国に売却したいと言うので応じただけの話です。どちらかと言えば、国有地になったほうが都合がいいとしても、今までだって国の管理地だったわけで、たいして変わりはありません。
中国側が、単に所有権を移転しただけのことで、これだけ激しい反発を見せたことに戸惑っている人も多いと思います。日本政府だって、中国の反応を読み違えていたのは明らかです。デモが暴徒化し、政治だけでなく経済面まで関係が悪化するような事態にまで発展したことに、少なからず驚いているでしょう。
このことについては、さまざまな憶測が飛び交っています。反日デモは基本的に政府による「やらせ」であり、一部が暴徒化して制御が効かなくなったという指摘もあります。国民が反政府に向かうのを防ぐための反日であり、ガス抜きだが、一部では毛沢東の写真を掲げるなど、必ずしも反日ではなかったと言う人もいます。
ただでさえ、中国指導部の交代の時期を控えた微妙な時期であり、さらに薄熙来氏が失脚するなど、中南海では権力闘争が激しくなっていると言います。日本に対する強硬姿勢を示さないわけにはいかなかったのでしょう。デモを暴徒化させて、現執行部の失態を演出するなどの謀略説もあります。

その辺の真相は、私にはよくわかりませんが、少なくとも尖閣諸島の国有化は、中国政府、あるいは共産党指導部にとって、このように激しく反応せざるを得ない状況にあったということでしょう。言い換えれば、そこまで中国側を追い込んでしまったと言えると思います。
日本では、一昨年の漁船の衝突事件の時もそうでしたが、日本政府が、領土問題で中国に対して弱腰すぎるという不満は多いようです。石原都知事が尖閣の買収を発表した後、15億円もの寄付金が集まったことが象徴するように、断固として尖閣諸島の領有を主張すべきだ考えている人が多いということでしょう。
原則はその通りだと思います。もちろん尖閣諸島は日本の領土です。それを南シナ海の南沙諸島などと同じように、中国が強引に奪おうとするならば許すことは出来ません。しかし、だからと言って、不必要に中国との関係を険悪化させ、経済的にも不利益を蒙る事態を招くのは賢明とは言えません。
尖閣諸島は日本が実効支配しているのですから、粛々とその状態を保っていけばいいはずです。わざわざ事を荒立てる必要はありません。これは国際社会での共通の認識と言っていいでしょう。普通は実効支配している側が、事を荒立てることはありません。

世界は、日中二国間の問題として静観する国が多いようです。しかし、必ずしも日本の主張が受け入れられているわけではありません。国際的な広報活動の問題等もありますが、どちらかと言えば、この問題に対して日本の非を指摘する論調も少なくありません。決して日本は世界から支持されていません。
領有権の正当性ということより、領土の問題で、実効支配する側が事を荒立てるような行為をすることが非常識であるというのが、世界の見方と言えると思います。その点で、日本がわざわざトラブルの種を作り、騒ぎを大きくしたことは責められるべきだとの非難があると思います。
つまり、東京都知事が尖閣諸島を買い取ると、それもわざわざアメリカで発表し、中国共産党指導部の神経を逆なでするような必要があったのかということです。中国側からすれば、挑発行為そのものであり、決して見逃すことは出来ないということになるに違いありません。
結果としては日本政府が国有化しました。この国有化にあたって、政府は中国側にその意図を説明したようです。すなわち、都知事に買われて船溜りや灯台などの施設を作らせるより、政府が買い上げて、そのまま表面上、今まで通りに保ったほうが中国にとっても都合がいいはずだということです。
しかし、中国側は、都と国が結託し、一芝居打ったと見なしたようです。国有化するために、都が買い上げるフリをしたというわけです。そんな事実はないとしても、中国側がそう考えるのも無理はありません。東京都知事が、わざわざあれほど派手にぶち上げれば、そう疑いたくなるのもわからないではありません。
同じ国有化するにしても、水面下で事を荒立てずに、事前に内密に協議して、中国側の了承をとって進めることは出来なかったのでしょうか。すなわち、不必要に中国政府の面子を潰すような挑発をせず、中国指導部を過激に反発するしかない状況に追い込むようなことをしなくても良かったのではないでしょうか。

都知事が発表してしまったので、内密にというのは無理だったでしょう。それならば、このタイミングではなく、ほとぼりがさめるまで、国が賃借する今の状態を続けるとか、国有化の発表を当面伏せるとか、もう少し冷静で賢明な方法はとれなかったのでしょうか。
もちろん、これについては異論もあると思います。都知事の行動を支持する声は多いようですし、一昨年の漁船の衝突事件のように、少しずつ中国が事実を積み重ね、尖閣を奪いに来ているのだから、国有化くらいは当然、施設をつくって実効支配を強化すべきだという意見もあるでしょう。
なかには武力衝突も辞さずというような過激なことを言う人までいます。中国海軍が関与を示唆するなど、中国側の強硬姿勢も伝えられているのだから、弱腰ではいけないということなのでしょう。しかし、こんな過激な意見が世論に浸透していったら、本当に武力衝突に発展しかねません。
日米安保があるから大丈夫と考える人は多いと思います。確かにアメリカも尖閣諸島は日米安保の適用範囲だと言っています。しかし、本当に中国軍が侵攻してきても、アメリカ軍が出動するとは限りません。いくら同盟国とは言っても、アメリカがよその国の小さな無人島を守るとは限らないでしょう。
常識的に考えれば、日本の小さな島の領有権のために、米中対立の引き金になりかねないリスクをとるとは到底思えません。これは多くの専門家も指摘するところです。つまり、中国軍が侵攻して、支配権をとられ、立場が逆転する可能性はゼロではありません。
仮に中国海軍が島に侵攻したとします。日米安保があるからと言って、アメリカが代わりに戦ってくれることはありません。まずは自衛隊が出て行かなければ話になりません。日本がまず武力で対峙して初めて、アメリカが安保に基づき、援護してくれる可能性が出てくるわけです。

しかし、その自衛隊が、尖閣有事の時に対応するための根拠となる法律すら整備されていません。もちろん自衛隊ですから、日本の国土を守るにしても、無人島に上陸して奪還するような能力、装備もありません。アメリカが後ろ盾だから大丈夫ということはないわけです。
中国だって、アメリカを敵に回すようなことはしないだろうと楽観する人も多いでしょう。おそらくはそうですが、それこそ国内的に追い込まれたらわかりません。すぐにアメリカと対峙するわけではないので、漁船を大挙して送り込み、その護衛として艦船を派遣してくるような可能性は充分あるでしょう。
尖閣諸島が日米安全保障条約の適用範囲内だと言明する一方で、アメリカのパネッタ国防長官は、主権に関する紛争では、いずれの国の肩も持たないとも明言しています。米国が中立の立場を堅持すると見れば、日本に軍事的圧力をかけてくる可能性は否定できません。
中国海軍と書きましたが、よく知られるように正確には中国の軍隊ではありません。人民解放軍は中国共産党の軍隊です。国内的に追い込まれて共産党支配が危機に陥り、その存亡にかかわるとなれば、その打開のために人民解放軍を侵攻させる可能性はゼロではないはずです。

戦争なんてしたら中国側も損です。特にこれだけ経済成長を続けているのに、わざわざ損をする戦争なんかするわけがないと言う人もいます。確かに理屈ではそうです。しかし、戦争など起こりっこないと言われていたのに起きたフォークランド紛争のような例もあります。理屈どおりにいかないのは歴史が証明しています。
そう考えると、政府にはなるべく穏便に事を進める外交努力を続けてもらい、私たち国民も冷静かつ抑制的であるべきだと思います。間違っても相手を刺激するような言動は慎むべきです。現在のところ、国内で不穏な行動をとる人は、ごくわずかなのが幸いです。
日本でも政治の季節ですが、政治家にもいろいろな考え方の人がいます。選挙を意識すれば世論や、国民の声を感じて動くこともあります。ナショナリズムを高揚させ、政治家をそそのかすような事態は避けるべきだと思います。毅然とした対応より、冷静かつ思慮深い対応が望まれます。
日中国交正常化以来、尖閣諸島の問題は棚上げにされて来ました。それが先人の知恵であり、先送りすることで無用な対立を避けてきたわけです。別に中国の肩を持つわけではありませんが、中国にしてみれば、その棚上げの状態を日本が崩し始めていると感じているのでしょう。

これまで、中国人の島への上陸などに対し、政府は強制送還の措置をとってきました。それが一昨年の漁船の衝突事件では、日本の主権に基づいて逮捕・起訴という形になりました。双方の言い分はともかく、中国は、これを棚上げ状態から一歩踏み込んだ由々しき事態として、レアアースの事実上の禁輸など強硬な姿勢をとったわけです。
さらに今回、国有化ということで、また一歩進めたと感じているはずです。国有化すれば、自衛隊の基地でも演習場でも、なんでもつくれます。日本による国有化は、さらに次の一歩への布石と中国側が身構えるのは、当然と言えば当然の反応と言えるでしょう。
もちろん、日本にも言い分があるわけで、中国側の主張を一方的に受け入れろと言うのではありません。しかし、日本が実効支配しているのに、こちらから事を荒立てるのは賢明ではありません。わざわざ、領土問題が存在すると世界にアピールするようなもので、相手の思う壺です。
中国共産党が、国内的にも難しい時期に、足元を見透かしたように弱みにつけこんだり、挑発するような行動は厳に慎むべきでしょう。火遊びは不測の事態につながりかねません。政府や軍部だけでなく、国民も熱くなって太平洋戦争に突入していってしまった教訓を忘れるべきではないでしょう。
このことについては、異論も多いと思います。もちろん主張すべきことは、しっかり主張していくべきです。私も中国政府の肩を持つわけではありません。しかし、だからと言って、不必要な対立を先鋭化させて、経済的にも不利益を蒙るのは愚の骨頂でしょう。私たち国民は冷静でいるべきだと思います。
抜き差しならない状態になって、相手が迫ってきてから戦争反対、武力衝突回避を叫んでも遅い可能性があると思うんですよね。
私は歴史に詳しいわけではないこともあり、両国が棚上げしている時代は、尖閣諸島は日本の領土の可能性が高い(その程度)と思っていました。しかし、今回の中国の反応の無茶さを見ると、やっぱり無理矢理自分の領土にしようとしていると感じます。本当に正当な理由があれば、あのような態度は取らず、冷静に対応するはず。
そもそも、
「日本の領有権を認めないのであれば、日本の誰の所有になろうが無関係でしょう。」
全くその通りと思います。こういう(中国の主張としては)本質的でない事に過剰に反応すること自体、中国領有権説は、でっち上げと思われても仕方がないですね。
日本政府が
「やっぱり間違ってました。国有化は諦めて、元の所有者に島を返します。ごめんなさい。」
と謝罪する戦略をとったら、中国はどう反応するのでしょうね。何も言い返せないのではないでしょうか? それとも、国有化が問題ではないと、論点を変えてくるのでしょうか?