行楽に出かける人、スポーツで汗を流す人、自転車で出かけるにも絶好の陽気です。文化祭とか美術展といった文化的なイベントが数多く行われる時期でもあります。ただ、この季節は天気が崩れて雨が続くこともあります。休日と雨が重なることもあるでしょう。
趣味の自転車乗りは、雨で出かけられずに仕方なくメンテナンスをしたり、自転車をいじって過すこともあると思います。寿命がきたパーツを交換したり、乗っているうちに不調が出てきた箇所を念入りに調整したりするのには時間がかかりますから、ちょうどいい機会かも知れません。
ブレーキパッドやタイヤなどのように、誰もが消耗品と認識している部品以外、例えばギヤ類なども磨耗しますし、チェーンは伸びますから、それぞれに寿命があります。適切な時期に部品を交換することは、余計なトラブルを未然に防ぐことにもなるので、パーツの状態をチェックするのも大切な作業です。
あらためて見ると、自転車は多くの部品で構成されています。完成車として買った自転車でも、さまざまなメーカーの部品が使われているはずです。モデルのブランドとは別にパーツメーカーのロゴが入っている部品もあります。全ての部品を製造しているメーカーはないので、それが普通です。
むしろ、パーツによっては採用されているのが名の通った部品メーカー製であるのが当たり前で、各パーツごとに定番とも言うべきメーカーが決まっていたりします。量販店で売られているマイナーなメーカーの自転車であっても、パーツは有名メーカーのものという場合も少なくありません。
例えばクルマの場合、完成車のメーカーが一番有名です。トヨタは誰もが知っていますが、使われている部品のメーカーは知らない会社もたくさんあります。トヨタが一番大きな会社で、部品を納めるメーカーは下請け、孫受けとピラミッド構造の下に行くに従って小さくなるのが一般的です。
ところが自転車の場合、自転車本体を生産するメーカーより、パーツメーカーのほうが大きな会社だったりします。ブリジストンサイクルやパナソニックサイクルテックは非上場ですが、シマノは世界中の自転車メーカーにパーツを供給する一部上場の大企業であり、資本金も売上高も桁違いに大きい会社です。
自転車の場合は、パーツメーカーのほうが有名で規模も大きく、グローバルに展開している企業という場合が少なくありません。アメリカのパーツメーカー、“
SRAM”もそんな企業の一つです。傘下の“Avid”や“Rockshox”などを含め、使っているという人も多いに違いありません。
アメリカ企業ということもあって、元はマウンテンバイク用のパーツが主でしたが、現在はロードバイク用のパーツも展開しています。シマノとカンパニョーロが圧倒的に強く、参入が極めて困難なコンポーネントの分野で、第3のメーカーとして急速にその地位を確立してきた点は驚くべきことと言えるでしょう。
このSRAMという会社、社会貢献にも取り組んでいます。以前にも取り上げましたが、世界的なNPO組織、“
World Bicycle Relief”は、自転車の提供などを通じた途上国の支援をしています。この組織もインド洋津波の復興支援のため2005年にSRAM社が中心となって立ち上げたものです。
さて、そのSRAMは、ユニークなアートプロジェクトを行っています。その名も“
pART PROJECT”、パーツとアートを意識したネーミングなのは一目瞭然です。SRAM社のさまざまなパーツを使って、プロのアーティストにアート作品をつくってもらうというものです。
その上で、その有名アーティストの作品の寄託を受け、オークションで販売します。その収益は100%、“World Bicycle Relief”に寄付され、途上国の支援活動に活かされます。まさにパーツメーカーならではのチャリティプロジェクトと言えるでしょう。
これまでにも不要になったパーツを使ってアート作品をつくる人を取り上げたことがありますが、これは廃品パーツの再利用ではありません。SRAM社の新品のパーツを使う点、さまざまなアーティストに依頼して製作してもらう点、オークションで販売して収益をチャリティにする点など、よくある廃品利用とは違います。
どの作品も、さすがプロと思わせるような出来です。素人が作ったのでは、なかなかこうはいかないでしょう。絵画などなら、プロとアマチュアの差が歴然とするのもわかりますが、パーツ自体は同じなのに、やはり、感性とかセンスの違いなのでしょうか。
自転車のパーツと言っても、いろいろな形のものがあるものです。自転車を構成している状態では見慣れていますが、バラバラにしてしまうと、どこのパーツだったかと思うものもあります。多様な形の部品があるので、他の機械の部品と比べ、アート作品にしやすい素材と言えるのかも知れません。
自転車の部品は、基本的に軽くてスリムにするため、どれも機能的で実用性重視、シンプルなイメージがありますが、こうして使うといろいろな表情を見せるものです。サイクリストにとっては身近な自転車の部品ですが、もはや同じ部品だとは思えないほどです。
上の右は、本当のカレイドスコープ、万華鏡になっていて、実際に覗き込むとギヤの模様などが見えるそうです。“pART PROJECT”のサイトには、この他にもたくさんの作品が紹介されています。それぞれの作品の製作者であるアーティストの紹介や、そのオリジナルサイトへのリンクも載っています。
その作品をつくったアーティストが、ふだんどんな作品を手がけているのかを見ることも出来ます。当然ながら、ふだんは全く違った素材を使っていながら似たテイストだったり、自転車好きで、ふだんからも自転車に関係する作品をつくっているアーティストもいたりして、リンクを辿っても楽しめると思います。
今年は11月末にニューヨークでオークションが行われるそうです。前年と比べてアーティストの数も倍以上の95名に増やされ、より規模も拡大されています。競売にかけられるまではギャラリーに展示され、優秀な作品には表彰も行われると言います。
個人的には、スポーツや読書、食欲の秋は身近ですが、芸術の秋には、あまり馴染みがありません(笑)。ただ、アートと言っても堅苦しく考えなければ、身近な自転車のパーツでも作品が製作できるわけです。雨の休日には、家にころがっているパーツを使って、何かアートを生み出せないかトライしてみても面白いかも知れません。
ウィルスによる遠隔操作事件、突然犯人にされて逮捕されるのも怖いですが、誤認逮捕にもかかわらず、自白させられているというのが、あらためて警察や検察の怖さを感じさせますね。