日本では、自転車と言えばママチャリのことと思っている人が大多数です。そのくらい圧倒的な割合を占めていて、ママチャリしか乗ったことがなく、それ以外よく知らない人が大半でしょう。最近でこそスポーツバイクがブームと言われ、興味を持つ人も増えていますが、全体から見れば一部に限られます。
ママチャリが自転車の標準と思っている人が、スポーツバイクを間近に見ると、いろいろ驚く点があると思います。ママチャリとは桁違いの価格をはじめ、車体の軽さ、タイヤの細さ、ギヤの多さ、スタンドが無いこと、タイヤが簡単に外せること、あたりが主なところでしょうか。
もう一つ、音の静かなことに驚く人が少なくありません。きちんと整備してあれば、音などしないのが普通ですが、自転車には何らかの走行音、作動音があるのが当たり前と思っている人も多いようです。ママチャリのイメージでいると、全くと言っていいほど音がしないことに驚くわけです。
大きな川沿いなどにあるサイクリングロードだとか、車道と歩道の区別のない路地裏などの細い道を通るとき、歩行者が横に広がって歩いていたりすることがあると思います。その後ろについて抜くタイミングを伺ったり、声をかけるか様子をみるようなこともあるでしょう。
音もなく後ろにつく形になって、歩行者がそれに気づいて驚くというシーンもあるのではないでしょうか。自転車が近づいたことに気づかなかったという事実に驚くのでしょうが、元々、音がしないものだと知っていれば、ことさら驚くことはないはずです。自転車は音がするものというイメージがあるからなのでしょう。
スポーツバイクに乗っている人にとっては、きちんと整備された状態ならば、音などしないのが当たり前です。それが普通で、異音は、どこか不具合や劣化があるサインと言えます。音が気になったり、その状態で走行するのは不快に感じる人も多いに違いありません。
ただ、歩行者にしてみれば、後方からの自転車の接近に気づけたほうが安心ということもあります。もちろん、音がしないからと言って、そのまま衝突されるわけではありませんが、音も無く近づかれるのは、あまり気持ちのいいものではないということもあるでしょう。
いくら道を塞いでいるからと言って、歩行者をどかせようとベルを鳴らすのはマナー違反ですし、法令違反です。歩行者だって、どけとばかりにベルを鳴らされれば不愉快ですし、トラブルになることもあります。過去には、それが原因で刺傷事件にまで発展した事例もあります。
そのようなケースでは、声をかけるなどして、道をあけてもらって追い抜くことになると思います。ただ、それがたび重なるような場所では、いちいち声をかけるのも大変なので、自転車の接近に気づいてもらえた方がいい、あまりに音がしないのも考え物だという人もあるのではないでしょうか。
そこで、わざわざ音を立てることを考える人もいます。EV、電気自動車はエンジン音がせず、接近に気づかないため、あえて音を作って鳴らすことが検討されるのにも似ています。無色無臭だと漏れていてもわからないので、わざわざ都市ガスに臭いをつけるのとも共通する考え方と言えるでしょうか。
例えば、鈴などを使います。鈴をぶら下げておくことで、接近に気づいてもらえば、声をかけずとも、道をあけてくれることもあるでしょう。特に専用のものということではなく、熊よけの鈴などを使っている人が少なくないようです。ずっと鳴らしっぱなしは、自分がうるさいので、必要に応じて消音出来る製品もあります。
ところで、同じような状況は、海外でもあるようです。日本では見かけない、専用の商品が売られています。こちら、ブザーのように見えますが、単なるブザーやホーンではありません。
声によるホーンです。自分の声を録音して、ボタンを押すと再生するというものです。
「すいません、通してください。」とか、「右から追い抜きます。」、「自転車が通ります。」といったセリフを録音しておき、必要に応じて再生するわけです。ベルでは、「どけどけ」と言っているように聞こえかねませんが、言葉によるならば、そういった心配はありません。
もちろん、口で言えば不要です。ただ、例えばサイクリングロードに歩行者が大勢歩いていて、何度も声をかける必要がある場合など、声をかけるのに疲れてしまうこともあるでしょう。こういう商品が売られているということは、確実にそういう需要が存在するのだろうと思います。
もっとユニークなのが、こちらです。タイヤに取り付けることで、パカパカと
馬が歩くような音を出すことが出来る製品です。わざわざココナッツの殻を使い、馬が歩くようなリズムで鳴らすために工夫されています。キットになっていて、自分で組み立て、取り付けて使います。
馬の歩く音を出すための道具といったほうが正確です。自転車に乗って乗馬をしている『気分』を味わうための製品なのです。これを歩行者に自転車の接近を知らせる用途にも使えますが、私が勝手に、そのように使えることに注目しているに過ぎません。
見ようによってはバカバカしい限りですが、なんともユーモアあふれるアイディア商品です。貴族社会と馬術の伝統が現代にも色濃く残る、イギリスならではのウイットに富んだ製品であり、プロジェクトと言えるかも知れません。実は、商品化を目指して、申し込みを募っている企画ものなのです。
1千個の注文が今月20日までに集まれば商品化され、来年3月に発送されることになります。もちろん商品化が実現できなければ返金されます。現在注文が600を越えるところまで来ていますが、残り時間を考えると微妙です。ただ、600も注文が集まっていることに驚きます。
自転車の接近を知らせるものではなく、あくまで乗馬の気分を味わうためのグッズです。ただ、こんな音が後ろからしてきたら振り返るでしょうし、振りかえって、その意図を理解すれば、思わず笑ってしまうかも知れません。音も素朴ですし、何か場を和ませる力がある気がします。
鈴など使って接近を知らせる理由の一つには、歩行者に、特に道をあけてもらう必要がない場合でも、音もなく追い抜くより良いという考え方もあるようです。ベルを鳴らすのは論外としても、いちいち声をかけて振り返らせるのも悪い、それとなく接近を知らせるほうがベターというわけです。
問題なく追い抜けるときでも、音を鳴らしておけば、急に歩く方向を変えたために衝突するなど、不測の事態も未然に防げます。間近をすり抜けるわけでなくても、全く気づかない状態から、いきなり追い抜かれれば驚きますし、あまり気持ちいいものでないということへも配慮します。
当然ながら、接近を知らせる音を出すのは義務ではありません。もちろん、音がしない、よく整備された自転車に乗ることが悪いわけでもありません。ただ、現代はストレスをためている人も多いのか、ちょっとしたことでトラブルになりかねません。自転車に限ったことではありませんが、いろいろトラブルが起きています。
そういう時代ということを考えれば、他者への思いやり、公共の場所での周囲への配慮を考えるのは賢明なことと言えるでしょう。さらに言うなら、社会における潤滑油のような役割として、馬の足音を出す器具を使うようなユーモアがあってもいいのかも知れません。
金曜日の地震は、震災を思い出させるものでした。被害が少なく幸いでしたが、津波からの避難のクルマが渋滞するなど、問題もあったようです。このままでは、また流される人が確実に出るのでしょうね。