放置自転車は、相変わらず都市部の自治体の懸案です。
全国各地の都市部の多くで共通する問題だと思いますが、放置自転車台数が全国最多とされる大阪市では、撤去した放置自転車の保管期間を短縮する方針を固めたことが報じられています。大阪の地元紙、大阪日日新聞の記事から引用します。
「放置自転車」保管20日に短縮へ 収容能力限界
大阪市は、撤去した放置自転車の保管期間を現行の30日から20日に短縮する方針を固めた。市内22カ所にある保管所の収容能力が限界に近付いているための対策。市民からの意見を参考にした上で、来年4月1日からの実施を目指す。
市建設局自転車対策課によると、昨年度の放置自転車の撤去台数は約27万9千台で、約50%が“引き取り手なし”。保管している間にも毎日撤去自転車は運び込まれ、「保管所全体で最大約3万2千台が収容可能だが、余裕はない」という。
保管所は現状1200〜1万2千平方メートルと広い土地が必要になり、新たに開設するにも候補地は「なかなか見つからない」。新設は厳しい財政状況から考えても有効とはいえず、返還を受ける人のうち「撤去から20日目までが95%」という状況を踏まえ、保管期間の短縮策に決めた。
ただ放置自転車をめぐっては駐輪場の拡充を求める声も多い。2007年に道路法施行令の一部が改正され、路上駐輪場の設置が大阪市内でも進んでいるが、設置基準に満たない道幅の狭い駅前などで課題は残る。
同課担当者は「大阪は平地が多く自転車の利用者は多い。車と同様に目的地の駐輪場を頭に入れたり、近場であれば歩くことも考えてほしい」と話していた。
放置自転車の保管期間の短縮に関する意見の受け付けは、郵送や電子メール、ファクス、持参で12月26日まで。改正内容案や関連資料は市建設局管理部自転車対策課(ATCビル)や市民情報プラザ(市役所本庁舎)、市建設局ホームページ(http://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/index.html)で閲覧できる。(2012年11月30日 大阪日日新聞)
言うまでもなく、禁止されている場所に違法に駐輪、放置するのは迷惑な行為です。歩行者の通行の邪魔ですし、緊急車両が通れないなどの問題をひき起こしかねません。苦情も多いでしょうし、自治体としては、撤去・移送せざるを得ません。撤去すれば、保管し、通知して引き取らせる作業も必要になります。
一方、最近は格安の自転車が流通しており、撤去されて保管料や手数料を払うのと大きく違わない金額で自転車が買えたりします。少し古くなっていたりすれば当然のように引取りに行かず、使い捨てのようにして新しく買い求める人が出てきます。撤去しても放置自転車が減らない「いたちごっこ」です。
東京などでも区によって、放置自転車対策への力の入れ方が違いますが、徹底しているところでは、見事なまでに自転車が一台もとめられていない駅があったりします。あまりに撤去が徹底しているので、駅前がガランとしてしまい、かえって寂しく見えてしまったりするほどです。
撤去する側としては、一台でも許せば、それが次々に駐輪を誘発して、あっと言う間に違法駐輪の山が出来てしまうということなのでしょう。その理屈はわかります。でも、ここまで徹底的に、自転車を目の敵にして、撤去にお金をかける必要があるのだろうかと感じることもあります。
もちろん、駅前などは地価も高く、駐輪場を設置できないので仕方がない、撤去は当然の措置だと言う人も多いに違いありません。それはその通りなのだろうとは思いますが、あまりの撤去への力の入れ方を見ていると、何か違う理由があるのではないかと思ってしまいます。
つまり、街角に自転車がとめられていること自体、気に入らない人もいるのではないでしょうか。撤去しても撤去しても迷惑駐輪の減らない状況に頭を痛めている役所の担当者にとっては、街角にとめられた自転車なんて、憎むべき敵以外の何者でもなく、目障りで消し去りたい存在でしかないのでしょう。
駅前の歩道の一部に、自治体が駐輪機を設置しようとしたら、地元の商店会が猛反対したという例もあります。駅前の放置自転車の減少に寄与するだけでなく、商店街内の迷惑駐輪に対しても効果があります。何よりお客が来やすくなりますし、地元の商店街が一番メリットも大きいはずです。
その一番得するはずの地元商店街が反対すると言うのですから驚きます。反対の理由は、「美観を損なうことに加え、通学する学生がケガでもしたら大変。」ということです。通園する幼稚園児ならともかく、学生の怪我を心配する必要があるとは思えません。
乱雑に駐輪され、通りにくくなる状況が改善されれば、むしろケガをする可能性は減るはずです。そうなると、理由は美観を損なう、景観が悪くなるということだけです。公共の駐輪機の設置にすら反対する人たちは、自転車がとめられること自体、気に入らない、耐えられないということなのだろうと思います。
そのくせ駅前には、店舗や壁面の看板や広告があふれています。路上にまで広告看板がはみ出していたり、自動販売機が並べられていたり、景観を損なうようなものは無数にあります。駐輪機なんかよりも美観を損ねるものはたくさんあるにもかかわらず、景観を理由に猛反対というのが不思議です。
とにかく駅前などから完膚なきまでに放置自転車をなくしたい、駐輪機すら設置させない、迷惑駐輪だけでなく、自転車自体、とめられているのを見たくないという人がいるように思えるのは私だけでしょうか。何か、自転車がとめられているのを毛嫌いする、潔癖症的な排除願望があるように思えてしまいます。
ヨーロッパへ行けば、アムステルダムでも、コペンハーゲンでも、日本より放置自転車が多いと勘違いしそうなくらい、無数の自転車が街角にとめられています。もちろん、通行の邪魔になるような迷惑なとめ方ではありませんが、駐輪場や駐輪が許可されている場所には、膨大な数の自転車がとまっています。
向こうは盗難が多いので、多くの市民は趣味用と通勤用を分けています。趣味用の高価なスポーツバイクと違い、通勤用は盗られてもいいように、古くて汚い、日本人が見たらゴミとしか思えないような自転車も多数とまっています。ここまで汚いと景観を損ねると言われても仕方がないと思えるほどです。
もちろん歴史あるヨーロッパの街ですし、景観を気にしないわけではありません。しかし、自転車がとめられているのは、多くの市民が使う以上、当たり前の光景であり、全て排除するなんてことはナンセンスであり、現実的ではないと割り切っているわけです。
違法駐輪の肩を持つつもりはありません。駅前にあふれる違法駐輪、放置自転車が酷い状態だったことも間違いありません。しかし、それがあまりに白眼視された結果、日本では自転車をとめること自体に、いささか過剰な拒否反応がある、アレルギー反応が出ていると言えないでしょうか。
もちろん迷惑駐輪が悪いのは確かです。こういうことを書くと、自転車をとめるヤツは自分勝手だ、自分達が悪いのを人のせいにしていると非難されそうです。そういう勝手な人の代弁をするわけではありません。個人的には、可能な限り駐輪場を利用していますし、迷惑駐輪する人は勝手だと、私も非難したい立場です。
街角にとめられた自転車なんて、無いにこしたことはなく、そのほうが見た目にスッキリするのは、その通りでしょう。とめるなら、見えないところにして欲しいのもわかります。しかし、多数の市民が使う乗り物である以上、それを強引に撤去するだけで対応するのはナンセンスではないでしょうか。
自治体は、その規模や対策箇所の数などによっても違いますが、多額の撤去費用の拠出を強いられています。億単位は珍しくありません。しかし、いくら費やしても、また新たに自転車を買われてしまえば効果は期待できません。いつ終わるとも知れない、何ら生産性の伴わない不毛な出費を続けざるを得ないわけです。
こんな使い方は税金の無駄です。対処療法ではなく抜本的な解決を目指すべきだと誰もが思うところでしょう。その抜本的な解決は、多くの識者が指摘するとおり、駐輪場の数を増やすしかないと思います。当たり前のことですが、このことに尽きるのではないでしょうか。
いつまでたっても放置と撤去のいたちごっこになるのは、駐輪するなというのに無理があるからだと思います。市民のニーズがあって駐輪を無くすのが無理だとするならば、駐輪場や駐輪機を増やし、秩序をもってキレイにとめさせたほうが、迷惑な状態よりいいはずです。慣れれば景観的な違和感も減っていくでしょう。
とは言っても、都市部の地価は高いので、なかなか駐輪場の設置は容易ではありません。そこで、歩道などのスペースに駐輪機などを増やしていく方法が考えられます。07年1月に、道路法施行令が改正され、歩道などにも駐輪器具の設置が可能になっています。(根拠となる法律は05年4月施行。)
冒頭の記事にもあるように、実は大阪でも、歩道上の駐輪場を増やすべく努力しています。歩道上に市がスペースを確保し、道路占用料を免除することで民間企業の設置を促し、駐輪場を増やしているのです。決して撤去一辺倒というわけではないのです。
ただ、駐輪場を増やしてはいるものの、まだまだ到底満足できる数ではなく、どこでも駐輪場が利用出来るわけではありません。依然として放置されることも多く、撤去を続けざるを得ない状態であり、保管期間も短縮せざるを得ない状況に追い込まれているものと思われます。
地価が高いので、駐輪場の増設は、おのずと歩道などの利用になってくるのは仕方がないでしょう。路上の駐輪機を増やし、その利用を促していくことで、違法駐輪、放置自転車が減って、撤去した自転車の保管に困る状態が解消する、すなわち、撤去費用も減っていくと理想的だと思います。
放置自転車:最多の大阪市 歩道に駐輪場誘致 好評
放置自転車台数が全国最多の大阪市で、民間企業が設置する歩道上の駐輪場が増えている。市がスペースを確保し、道路占用料を免除する全国でも珍しい手法で、今年度だけで約1440台分を増設し、現在約6460台分に上る。デザイン性を重視したスタイリッシュなタイプや、太陽光パネルを併設したエコ型もあり、官民挙げて汚名返上に躍起だ。
繊維問屋が並ぶ同市中央区の市営地下鉄堺筋本町駅周辺。今年6月、歩道に計463台分の無人駐輪場がお目見えした。地面の金属製ラックに前輪を乗せると施錠される。30分以内は無料、24時間使っても150円で、平日は会社員らの通勤自転車でほぼ満車。近くのはんこ屋の男性従業員は「以前は店の前まで自転車が並び、邪魔だったが、駐輪場ができてから数が減って助かる」と話す。(中略)
歩道への駐輪が可能になったのは、07年1月の道路法施行令改正で駐輪器具の設置が許可されたためだ。市は08年度から、放置自転車が目立つキタやミナミで、設置・運営事業者の公募を始めた。管理する公道などを無償貸与する形をとり、電柱の設置時などにも徴収する占用料を免除。その代わりに、売り上げに応じた納付金を受けるようにし事業者の進出を促進した。昨年度の収入は約1億円に上った。
内閣府の調査(09年)では、大阪市の放置自転車台数は4万1987台。全国ワースト2位の横浜市(1万8237台)は「景観上好ましくないし、歩道のスペースも狭い」として歩道駐輪場の設置には消極的だ。近畿では、京都市が占用料を半額にして09年度から事業者の公募を始め、約820台分を整備。神戸市でも占用料を減免して、今月19日から事業者の公募を受け付け、来夏にも約310台分がオープンする。(毎日新聞 2012年11月10日)
幸い、大阪では歩道上の駐輪場は好評のようです。個人的には、最初の30分以内を無料ではなく、最初の2時間くらい無料にすべきだと思います。そうすれば、買い物客などの利用も促され、さらに効果的だと思います。歩道駐輪場の設置は、京都市や神戸市などにも広がっていきそうです。
一方、全国ワースト2位の横浜市は景観を気にして歩道駐輪場の設置には消極的とあります。私の印象でも、景観を理由にするのは、東日本のほうが顕著であり、近畿圏、あるいは西日本のほうが合理的で、過度に気にしない面があるような気がします。
街の景観を気にするならば、クルマの違法駐車だって問題ですし、路上に設置するパーキングメーターだって景観を損ねるはずです。自転車に関してだけ景観を理由にするのは説得力がないと思います。確かに歩道上に駐輪機は邪魔でしょうが、パーキングメーターと同じ必要悪とも考えられます。
日本人は、行列していれば、きちんと整列して待ちますし、ゴミのポイ捨てなども少なく、外国人から見れば秩序正しく道徳心の高い国民に見えると言います。確かにそうでしょう。自転車の駐輪に関してだけ、道徳心がなく、秩序がないのも変な話てす。
街のあちこちに駐輪場や駐輪機があり、無料、もしくはリーズナブルな料金ならば、違法駐輪せずに、きちんと駐輪するようになるに違いありません。逆に、自転車が街に駐輪されるのは、市民のニーズがある限り当然であり、普通の光景だと思うようにならなければ、放置自転車の抜本的解決もおぼつかないと思われます。
大阪に限らず、合理的な精神で歩道駐輪機を増やし、結果として撤去と放置のいたちごっこを断ち切る方向に向かう都市が増えることに期待したいと思います。こうした動きが全国に広がれば、駐輪問題は新しい局面を迎える可能性もありそうです。今後の動向が注目されます。
そういえば、マヤ暦が終わるのは今週でしたね。国によっては信じている人もあるようですが、どんな気分なんでしょうか。
「約50%が“引き取り手なし」の放置自転車の処分と、交通インフラとしての自転車を考えるのとは、全く別の問題ですね。盗難車もあるでしょうから、行政としても、保管期間を単純に短くするのは、簡単ではないのでしょうが、方向性としては有りと思います。
一方、便利な駐輪設備が増えているのは、最近実感します。実家の最寄り駅前の空いた民地に民間の物が複数新設され、あれなら使いたいなと思わせる物です。
ロンドンでも、五輪前から、駐輪対策として、役所が広めの歩道に駐輪設備の新設をしているとのこと。ちゃんとした有料の駐輪設備を適切に作って、乗り捨て自転車を社会的に減らせるような、駐輪場の仕組み、運用方法はない物でしょうか?
仮に、クレジットカードでの事前(直前)登録、精算の駐輪場を充実させれば、放置するような自転車は使えない。それ以外の場所への駐輪は、経費をかけずに、処分する。とか。
日本の場合は、やっぱりスペースの問題は有りますが、少なくとも、乗り捨てのような自転車を排除するだけで、必要となるスペースは減るはずです。