
自転車の形はフレームで決まると言ってもいいでしょう。
フレーム以外の要素、ハンドルやホイールの形状、タイヤの大きさの違いなどもありますが、なんと言っても、フレームの形状によって印象が大きく左右されます。その自転車の性質や用途といった属性がフレームによって決まってくる場合も多いと思います。
フレームの形で多いのは、三角形が二つ合わさった菱形、いわゆるダイヤモンドフレームです。違う形のものもありますが、ロードバイクから実用車まで、多くの車種でダイヤモンドフレームが採用されています。よく見かける、ポピュラーな形です。JIS規格でも、ダイヤモンドフレームとそれ以外に分類されます。

自転車が今のように、基本的に前後で同じ大きさのタイヤを使う形になった19世紀以降、いろいろなフレームの形状が試行錯誤されてきました。その過程で、多くのものが淘汰されて消えて行き、最終的に残ったものがダイヤモンドフレームと言えるでしょう。それくらいリーズナブルな形であることに異論はないと思います。
三角形を使うことで構造的に高い強度を持たせることが可能であり、シンプルな形なので軽くするのにも有利です。生産がしやすいというメリット、すなわち、金属パイプ、金属の管状の材料を溶接などで接着して作る場合、加工がしやすく無駄の無い形であることも理由でしょう。
ダイヤモンドフレームの中には、トップチューブが地面に対して水平のもの、オーソドックスな、いわゆるホリゾンタルフレーム以外に、トップチューブが傾いているスローピングフレームもあります。よりつぶれた菱形ですが、どちらもダイヤモンド型に分類されます。

ダイヤモンドフレームでないものとしては、トップチューブが2本あるパラレル型や、トップチューブが後輪のハブに向かって真っ直ぐに伸びているミキスト型などがあります。そのほか、折りたたみ自転車等では、ダイヤモンドフレームを採用せず、独自の形のフレームを採用するものが多数存在します。
日本では、自転車の歩道走行という独自の道路行政が行われてきた結果、歩道走行に適したママチャリが大多数を占めるという独特な環境です。そのため、ダイヤモンドフレームのオーソドックスな自転車より、ダイモンドフレームでないママチャリを見ることが多くなっています。
ママチャリのフレームは、トップチューブがシートチューブの下のほうに付いていて菱形になっていないスタガード型や、トップチューブが無く、ダウンチューブが太くて湾曲しているUフレーム型と呼ばれるものが多く見られます。女性が乗りやすい、またぎやすいことを重視しているからです。

乗りやすさを優先した結果、構造的に強度は低くならざるを得ません。そのため、チューブを太くしたり、金属の厚さを厚くしたりして強度を補うことになります。結果として重量が増し、スピードを出すのには不利です。歩道をゆっくり走るための自転車、ママチャリならではの形と言えるでしょう。
ダイヤモンドフレームにしても、それ以外のものにしても、長い間の試行錯誤や市場原理による淘汰によって、今の形になってきました。部分的にデザイン的な特徴を出す場合はあっても、ある意味で成熟し、これ以上は、そう大きく変わらない、最終形に近いところへ来ているような印象があります。
しかし、ここへ来て、フレームの形が再び変わっていく可能性が出てきています。強度や軽量化、加工のしやすさの点でリーズナブルなダイヤモンドフレームに行き着いたのは、フレームの材料として主に金属のパイプを使ってきたという前提があります。


昨今、素材技術が飛躍的に進歩した結果、この前提が崩れつつあります。一部の車種では、カーボンなどを使った樹脂系の素材が多用されるようになってきました。また、パイプ型の材料をつなぎ合わせるのではなく、一体成型することが可能になってきています。
金属と比べて軽く、強度も高いので、必ずしもダイヤモンドフレームである必要はありません。充分な強度と軽量化が実現できて、何か理由があるならば、もっと違う形でも構わないわけです。実際に、著名メーカーがシートチューブを省略し、直線でなく曲線的なフォルムを持つモデルを出した例などもあります。
必ずしも中空のチューブ型にする必要もないですし、直線や三角形を使う必要がなければ、デザインの自由度は広がります。素材の価格などの要素もありますが、これまで合理的と考えられてきたデザイン以外のものが製造される可能性があります。


今のところは、相変わらずダイヤモンドフレームが多くなっています。これは、国際自転車競技連合の規定で、ロードレースに出場する時の自転車はダイヤモンドフレームに限るとされているのも影響していると思われます。プロ選手がロードレースに使うようなモデルは、ダイヤモンド型しかないわけです。
他のスポーツでもそうだと思いますが、トップ選手が使っているモデルが注目され、人気になるのは自然なことでしょう。メーカーも市販車を、あえてダイヤモンドフレーム以外にする選択肢、奇をてらって独創的なデザインを採用する必要性は低いという判断があるものと思われます。
スポーツ性を強調するロードバイクなどでは、競技の世界の影響もあって、保守的に推移するとしても、新たに参入するメーカーや、新しい分野、例えば電動アシスト自転車などでは、斬新さをアピールするためにデザイン的な冒険をするようなブランドが出てきても不思議ではありません。


実際に、ネット上では新しいデザインの提案が見られます。バッテリーの高性能化もあって、今後も電動アシストは伸びていくでしょう。電池をフレームの中などに配置することで、デザイン的に洗練されるというメリットが考えられます。斬新なフォルムの提案の中から、新しいフレームの流行が出てこないとも限りません。
ケータイやスマホなど、モバイル機器の急速な進化も、デザインを変える可能性があります。例えば、スマートフォンやタブレット端末をセットしてナビゲーションなどに使えるようにするフレーム、それらを安全に運べるようにするフレームなども考えられます。
駐輪時用のロック機構が組み込まれていれば、U字ロックや太いチェーンを持ち歩く必要がなくなります。ライトが一体化されていれば、別に持ち歩かずに済みます。走行中にスマホを充電するなど、独自の機能を盛り込んだ、今までにないデザインが出てくるかも知れません。





別に、ダイヤモンドフレームが悪いと言うわけではありません。しかし、ダイヤモンドフレームに行き着いていまったように見える自転車のデザインが、素材や環境の変化に促され、再び進化を始めるかも知れません。自転車のデザインも、世の中の変化と無縁のままということは、ないような気がします。
阪神淡路大震災からもう18年も経つんですね。でも、震災を知らない市民が4割を超しているとは驚きます。