メキシコと聞くと、砂漠やサボテンをイメージしがちですが、実際は、日本企業がアジアを除くと、ブラジル・ロシアに次いで有望と見なす新興の経済国です。ブラジルを抜いて中南米最大の経済規模になる可能性が指摘されるほど、高い経済成長力が指摘されている国でもあります。
アメリカと国境を接するため、アメリカに密入国する不法移民が多いというイメージもあります。貧富の格差が大きく、国境を目指す人が多いのも確かですが、一方で景気が急減速するブラジルやアルゼンチンとは対照的な高い経済成長を続けており、海外からの投資も増えています。
北米自由貿易協定(NAFTA)を締結したことから、その安い労働力を求めて、アメリカやカナダ、あるいは世界各国から企業が進出し、アメリカやカナダ向けの自動車や家電製品などの生産を増加させています。石油や地下資源も産出しますし、首都メキシコシティには世界の有名企業が拠点を置いています。
メキシコシティ市内には高層ビルやホテル、大型のショッピングモールなどが林立し、道路はクルマで溢れています。900万近い人口を擁し、メキシコ経済を牽引する中南米を代表する都市ですが、よく知られているように大気汚染の酷い都市でもあります。
経済の拡大と共にクルマが増え、慢性的な渋滞により街はクルマで埋め尽くされている状態です。その上、クルマの排気ガス規制が緩いため、大気汚染が深刻です。地形的に周囲を山に囲まれた盆地であることも、大気汚染の深刻化に拍車をかけています。
メキシコでも、渋滞を回避し早く目的地に到着できる交通手段として、自転車を利用する人は増えていますが、大気汚染がメキシコのサイクリストにとって厳しい環境となっています。ディーゼル車を制限したり、排ガス点検の義務化などで改善に向かっているとは言うものの、未だに酷い状況であることは間違いありません。
さて、そんなメキシコシティで、遅々として改善しない環境への抗議をするサイクリストが話題を集めています。その抗議行動が奇抜だからです。なんと、身体に直接内蔵の絵をペイントし、肺にあたる部分を真っ黒に塗りつぶすというパフォーマンスです。
これにより、市民の肺が真っ黒に汚れるほどの大気汚染の深刻さを訴え、早急な改善を求めているわけです。ビジュアル的で、言いたいことがひと目でわかります。普通にプラカードを掲げて通りを行進したくらいでは、世界中にニュースとして配信されることもないでしょうから、その意味では効果的と言えるでしょう。
ただ、果たしてこうした行動が議会や政府に対する圧力となり、大気汚染の改善に結びつくかどうかは、残念ながら別の問題と言わざるを得ません。メキシコシティの酷い大気汚染は、すでに広く知られるところですが、この20年のあいだ問題となったままです。
高度経済成長を経験し、深刻な公害病とその悲惨な被害の歴史を持つ日本人ならば、大気汚染が深刻な状態に危惧を覚えても不思議ではありません。でも、日本にいる日本人にとっては直接関係無いですし、メキシコ人が考える問題だと、大気汚染への危機感を共有する人は少ないに違いありません。
大気汚染のせいで、メキシコへの投資が敬遠されたり、企業がメキシコから撤退するような状況にならないと、メキシコ政府に対する改善圧力にはなりそうにありません。しかし、世界的な競争上、日本企業だけがメキシコに進出しないわけにはいかないのも仕方のないところでしょう。
日本では、高度成長期に深刻だった大気汚染も、大幅に改善しました。工場の排煙にしても、クルマの排気ガスにしても、大幅に規制が強化されました。今、深刻になってきている、お隣の中国や東南アジアなどと比べれば、クリーンとも言えるレベルです。国内では、あまり大気汚染について話題にならなくなってきています。
しかし、日本でも都市部を走行するサイクリストは、近年改善したとは言うものの、依然として排気ガス臭い空気を感じている人も多いと思います。幹線道路などを走行して帰ってくると、排ガスで鼻やマスクなどが汚れていることに気づいたりすることもあるのではないでしょうか。
日本では、一時と比べれば大きく改善したとは言え、いまだに大気汚染は存在しています。幹線道路沿いなどでは、依然として公害病としての喘息に苦しんでいる人がいますし、都市部では光化学スモッグが発生して注意が呼びかけられることもあります。
因果関係を明確に立証するのは、なかなか困難ですが、改善したとは言え、相変わらず大気汚染が私たちの身体に影響を及ぼしているとの説を主張する専門家も少なくありません。例えば、スギの花粉症は、交通量の多い幹線道路沿いに住む人のほうが2倍以上発生率が高いという研究、疫学的調査もあります。
最近子供に増えているアレルギーや喘息、あるいはアトピーなどについて、排気ガスなどとの関わりを疑う説も聞いた事があります。私には真偽のほどはわかりませんが、直接のアレルギー物質ではなくても、何らかの影響を及ぼす可能性が指摘されていたりもするようです。
さらに、国境を越えた影響も指摘され始めています。我が国の状況は大きく改善されたとは言え、近くの国、中国や東南アジアなどには深刻な大気汚染の状況があります。春先に多い黄砂にのって、有害物質が運ばれてきている可能性も指摘されています。
黄砂とは別に、
中国の大気汚染物質が直接日本に影響を与えているという研究もあります。先日のニュースでは、
中国の大気汚染物質が、遠くカリフォルニアにまで到達しており、アメリカ西海岸の大気汚染の主因になっているという報道もありました。
西海岸まで到達するなら、日本は当然その影響下にあるに違いありません。メキシコシティの汚染も、気流によっては、どこに影響するかわかりません。大気汚染は決して対岸の火事では済まされず、地球規模の問題ということになります。今後のアジアの経済成長を考えれば、日本への影響拡大が懸念されます。
大気汚染は経済活動の結果で、成長過程の一時的現象として座視すべきではありません。日本で大気汚染による公害病が多くの死者を出した過去を忘れるべきではなく、むしろ、その経験を生かして世界に貢献すべき立場です。地球はつながっています。国境を越えて危機感、問題意識を共有する必要があるのではないでしょうか。
アルジェリアの地で命を落とすことになった方たちは、さぞや無念だったことでしょう。心からご冥福をお祈りしたいと思います。
自動車の排ガス公害、臭気公害、騒音公害については、その被害者である歩行者や自転車、自動二輪、近隣住民にとっても多大な損害、損失であり、通行路を含め、生活環境をも劣悪化するものに他なりません。
そして、その排ガスは、他国にも迷惑をかける。
私は、週に何度も、子供が自動車の排気管のすぐそばを通りながら咳をしている姿、自動車が蔓延する通学路、幹線道路を通ろう子供が咳をする姿を目にします。
歩道をふさいで車道への合流待ちをしている自動車の姿を見たことがあると思います。
少なくとも私の地域では日常的に見受けられ、その自動車のために子供らは迂回を強いられ、
自動車の背後、排気ガスを吐き出す管の辺りを通るしかなく、結果、その臭気のために喉を痛め、咳をしているのです。
自動車のわがままが、子供を苦しませています。
自動車のためなら、子供らの健康や安全など、どうでもいいかの如き社会は、明らかに理性ある人々の社会として、間違った姿だという確信が、私にはあります。
脱自動車、自転車への転換を加速させる政策を加速させるのが、健全な国としての使命だと言えます。