March 06, 2013

再びの惨事だけは起こせない

あれから2年の月日が経とうとしています。


未曾有の被害をもたらした東日本大震災からの復興は、いまだその途上にあり、なお多くの人が避難生活を余儀なくされています。特に福島県では、福島第一原発の事故の影響で、故郷への帰還の目途すら立たず、県内外へ避難したままの人たちが大勢います。

その福島第一原発では、高い放射線量と増え続ける汚染水との戦いが続いています。使用済み核燃料プールからの燃料取り出しに向けた作業は始まっていますが、メルトダウンした原子炉内部の燃料は、取り出す目途どころか、その方法すら見出せていない状況と言います。40年とも言われる廃炉への道は前途多難です。

そんな状態でありながら、安倍首相は施政方針演説で「安全が確認された原発は再稼動する」と明言しました。いわゆる「アベノミクス」への期待から円安株高が進み、財政規律への不安や従来型の公共工事による景気浮揚効果への疑問などはあるものの、支持率は好調に推移しています。しかし、このままの再稼動は疑問です。

増え続ける汚染水 溶融燃料手つかず脱原発を進めるか、原発を維持すべきかについては、国論を二分する議論になっています。しかし、原発維持、もしくは推進と言う人でも、再稼動については、安全性の確保が大前提という人がほとんどだと思います。つまり再稼動するにしても、安全の確保が、まず絶対条件であるはずです。

事故の調査報告書は3通り提出されていますが、国会ではこれらの調査報告書について、ほとんど議論すらされていません。事故の再発防止へ向けた取り組みどころか、事故原因の究明すら終わっていない段階で、再稼動のための安全確認をするというのはナンセンスではないでしょうか。

電源車を配備したくらいで安全になったと考える人はいないはずです。いまだに水没の恐れのある地下に非常用電源が集中する構造なのに、同様の事故を防げるでしょうか。浜岡原発では新たに防潮堤が建設されていますが、海岸側だけに防潮堤を立てれば済む話でしょうか。

全体写真を見れば、そのあまりの薄さに、大津波に耐えるとは思えない人が多いに違いありません。東海地震の想定される津波が上方修正されたため、慌てて4メートルほど柵を付け足した経緯もお粗末としか言いようがありません。大津波の猛威を目の当たりにした後にとる対策とは到底信じられません。

原子炉の圧力が高くなって、その破壊を防ぐため、いよいよベントを行うしかなくなった時のため、排気口にフィルターを取り付けておこうという話がありますが、そもそもベントの装置すら無い原発もあると言います。福島で生命線となった免震重要棟のような建物が無い原発もあります。

浜岡原発防潮堤元々、地震が少なく、津波など想定されない欧米の原子炉を持ってきたわけですから、いろいろ問題があるのは当然なのでしょう。それをそのまま使ってきたのも事故の背景にあるわけで、安全神話どころか危険極まりない部分がわかった以上、構造的に対策のとれない原子炉は廃炉にするくらいの安全対策が必要です。

ヨウ素剤の配布とか、避難計画の策定も必要でしょう。スピーディーなどのデータを迅速に公開することも、避難のためには重要です。福島原発の時は、避難にも大混乱が生じましたが、その時の教訓を生かした対策が必須です。起きた場合に原発を安全に停止・冷却するために、外部からの支援体制確立も重要なはずです。

運転開始から長い年月がたち、中性子が当たり続けたたことにより原子炉が脆くなり、耐熱性が低下することが知られています。決められた40年を超えて運転させている原発は安全とはほど遠い状態でしょう。古くて危ない炉がわかっているのですから、廃炉にすべきです。

今回の事故は、津波によるものと思われています。確かに津波によって非常用電源が水没したというのはあります。しかし、その前に地震によって配管等が破壊され、ベントが出来なかったり、冷却水の注入が出来なくなった可能性が専門家によって指摘されています。

事故調査では、この検証作業を東電が妨害していたことが明らかになりました。実際には光が差しこんでいるのに、原子炉建屋は真っ暗だと主張するなどの虚偽で調査を断念させていました。東電は意図的ではなく、係員のミスとしていますが、この隠蔽体質の酷い企業の言うことを信用する人は、果たしてどれほどいるでしょうか。

防潮堤4メートルかさ上げあれほどの大津波だから仕方がないという結論に持っていくための操作だけではありません。大津波は滅多に起きないとしても、震度6程度の地震で致命的な破壊が起きていたというのであれば、今後の再稼動は困難になります。責任逃れだけでなく、企業の利益を優先した身勝手な論理でしかありません。

原子炉本体や建屋の耐震性は考えられているでしょうが、揺れで配管などが破損することは充分考えられると専門家は指摘しています。震度6程度の地震で壊れていまう原発など、地震国である日本で、少なくともそのまま稼動していくのは問題でしょう。

東海、南海、東南海の三連動地震なども取りざたされています。東日本大震災クラスの揺れと大津波は起きなかったとしても、阪神淡路大震災のような直下型地震で原子炉が配管などの破断で冷却できなくなり、炉心溶融に至るという可能性も否定できないことになります。

2年前、自衛隊のヘリが必死に放水を繰り返し、消防隊が放水車やポンプ車に乗り、決死の覚悟で突入していった光景は日本人の記憶に刻み込まれています。あれは、使用済み核燃料の貯蔵プールから冷却水が失われ、メルトダウンを起こすのを防ぐためでした。

原子炉の中にある燃料の溶融も危機的な事態ですが、貯蔵プールにある燃料がメルトダウンしたら、遮るものはありません。政府も250キロ圏内、つまり首都圏まで避難区域とする事態を想定したと言います。福島だけでなく、横浜あたりまで人が立ち入れなくなる可能性があったことになります。

原子炉のメルトダウンだけでも恐ろしい事態なのに、そのすぐ上に、あれほど大量の使用済み核燃料が、水をかぶってはいるものの、ある意味、むき出しのような状態で保管されていることを初めて知った人は多いと思います。こんな状態を放置したまま再稼動して大丈夫なのでしょうか。

タンク増設もう限界今回、地震発生後に速やかに原子炉が停止したのは幸いでした。しかし、それすら出来ない可能性もあります。制御棒を原子炉に挿入することが出来ず、停止させられない事態です。原子炉が止まって、あの熱ですから、制御不能になった場合の恐ろしさは想像がつきません。

実際、制御棒が入らなかったトラブル、脱落してしまった事故が過去にあったことが報告されています。東電が隠してきたトラブルで、判明しても、あまり大きく報道されませんでした。専門家に言わせると、これは致命的で、原子力発電の安全を根本から揺るがしかねない問題です。

もし原子炉が暴走して停止させられなければ、福島第一だけでも6基ある原子炉全て、そして使用済み核燃料の全てが溶融し、水素爆発や水蒸気爆発によって、地球規模の惨事にならないとも限りません。事故当時、海外の専門家が地球規模の危機と懸念していたのは、そういう可能性もあったということなのでしょう。

今回の福島原発の事故が最悪のケースではなく、これ以上に深刻な事故もありえることを考えれば、今の状態で再稼動を言い出すのは無責任の謗りを免れません。これは私のようなただの素人が、ちょっと調べただけでも明らかであり、今の安倍政権の姿勢は疑問と言わざるを得ません。

事故が起きたのは民主党政権下でしたが、戦後原子力行政を推進してきたのは自民党です。原子力ムラを形成し、電気事業者と研究者とマスコミと結託して安全神話を作ってきたのは自民党の責任です。その反省と謝罪、そして構造転換に取り組むべきであり、国民の納得を得られてから、再稼動を口にすべきではないでしょうか。

防護カバーの建設発送電分離を断行し、総括原価方式を改めなければ、電力会社や電事連は、また電気料金の中から容易に資金を得て、原子力ムラを再強化し、利権の安泰や利益の確保に向けて邁進するに違いありません。そこに、国民の安全が考慮されないのは言うまでもありません。

まず事故原因の解明、そして原発の構造的な安全性の確保、さらに今回の危機を招いた原子力ムラの解体、それを生んだ電力行政、原子力行政、もっと言えばエネルギー行政全般の見直しといった課題をクリアしてから、原発の再稼動の是非を問うべきではないでしょうか。

仮に再稼動しても、このままでは原発内に使用済み核燃料の貯蔵スペースが一杯になり、早晩運転出来なくなる原発が少なくないと言います。使用済み核燃料の原発内での貯蔵は、そもそも危険ですし、核燃料サイクルも行き詰っています。六ヶ所村の再処理施設は稼動せず、最終処分場も決まっていません。

このまま稼動を続けるのであれば、核のゴミの問題も避けて通れません。この核のゴミの処理費用や、元々電気料金に含まれていない、立地自治体への地元対策など国の補助金、研究費などを含めれば、本当に原子力発電が安いのかという疑問にも、データを明らかにして答えるべきでしょう。

安倍首相は、民主党政権の失敗をあげつらい、ことごとく覆した政策を進めようとしています。民主党のどうしようもなさに辟易してきた国民は、これを支持しています。幸い、支持率が好調に推移しているのをいいことに、今回の施政方針演説で、他の民主党政権の方針と同じように、脱原発も覆して再稼動しようとしています。

 width=「安全が確認された原発は再稼動する」と明言したことについて、マスコミもあまり批判しませんでした。このまま、大きな部分は何も変えずに、ドサクサに紛れて再稼動に持っていこうとしているように見えます。安全は重視する、大前提だと言いながら、上述したようなことは何一つ行っていません。

どうしても再稼動が必要と言うのであれば、安全確保のために必要な対策を、すぐにでも始めるべきでしょう。実質的な安全の為の方策は何も進めていないのに、安全を確保した上での再稼動と言い、あたかも安全になったかのように錯覚させ、新たな安全神話を作り出そうとしているようにも見えます。

2006年12月、共産党の吉井英勝議員らが、「巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書」を提出し、原発の安全対策について政府の見解をただしました。これは、その4年余り後に福島第一原発に起きた、危機的状況を的確に予見したものだったと言われています。

大地震による鉄塔の倒壊、それによる外部電源の喪失、原子炉の停止と崩壊熱除去が出来なくなる状況、そして核燃料棒の焼損にまで言及しています。まさにその通りのことが起きたわけです。この質問に対し、おざなりな答弁に終始したのが、ほかでもない第一次の安倍政権でした。

もちろん、後の祭りですが、福島第一原発の事故を防げる可能性のあった貴重な機会を失ったのは間違いありません。安倍首相は、まずこのことに対する痛恨の思いと、歴代の自民党政権が進めてきた原子力行政、作り出してきた安全神話に対する謝罪と反省、決意から始めるべきではないでしょうか。

原発再稼働を明言原発の敷地内に活断層があるなんて論外です。今まで、いかにいい加減な認可が行われてきたかが明らかです。ストレステストと称して、地震や津波の無い欧米の基準で再評価するのも無意味です。誰が見ても安全性が向上したとわかるような、根本的な部分から変える必要があります。

さきの衆議院選で、ほとんどの政党が脱原発を打ち出したのに対し、自民党は脱原発とは言いませんでした。結果として自民党が大勝しましたが、それは小選挙区の特性であり、得票率は大敗して政権交代した2009年とほとんど変わりませんでした。自民党もその事実を認め、自民党が信任されたわけではないとしています。

原発の再稼動が争点として争われたわけではありませんし、自民党の原発政策が支持されたと見るべきではないでしょう。民主党の政策を覆すのはいいですが、当時の政府が打ち出した脱原発については、国民との意見交換会などを経て決められたものであり、それ相応に尊重する必要があると思います。

民主党の脱原発の方針まで踏襲すべきとは言えないものの、原発再稼動派も、当然ながら安全の確保が大前提と考えているはずです。再稼動を表明する前に、安全性を徹底的に見直すべきでしょう。発送電分離や、いわゆる原子力ムラ解体のための行政の転換をまず先にすべきです。

個人的には脱原発を進めるべきだとは思いますが、原発維持が必要という意見も尊重したいと思います。しかし、その議論は超えて、安全の優先は国民の総意と言えるはずです。我々国民一人ひとりも、せめて安易な再稼動だけは認めないよう、政府の動向に注意していくべきではないでしょうか。





ふだんは、呑気に趣味やスポーツの話を書いてますが、再稼動を言い始めているのに、安全への取り組みが全く進んでいないことには危機感を覚えますね。

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この記事へのコメント
>ふだんは、呑気に趣味やスポーツの話を書いてますが、再稼動を言い始めているのに、安全への取り組みが全く進んでいないことには危機感を覚えますね。


僕もそうなんです。
しばらく原発関連の記事を書いていませんが、実は今の政府の動きには「命取りになるんではないか」と危機感を覚えています。

「のど元過ぎれば熱さ忘れる」で、みんなの頭の中から原発の危機感が薄れていくことが心配です。
悪いことは考えたくないので、だんだんと考えないようになってしまいますが、「忘れたころにやってくる」で、再びの大惨事が起きそうです。

こうやってブログで「時々危機感を掘り起こす」ことも大事ですね。
2年経って、再びあの日の気持ちに戻ってみようと思います。
Posted by トンサン at March 07, 2013 09:54
cycleroadさんこんばんは。
暫くROMしておりました。
今回のブログを読んで大変嬉しく思い、投稿しました。

自民党が残してきた「負の遺産」を取り上げてもらった事、
本当にありがたいと思います。

その他にも悪しき遺産として「天下りシステム」だのなんだの
ありますけどね。
それをないがしろにするかのような政策ばかりが取り上げられます。

「〇〇ノミクス」!? じょーだんじゃありません!


私の友達は地震と原発のせいで職を失い、家を追い出されました。
そして、避難するまでの間に家族が浴びた放射線や放射性物質の量が
どれほどであったのか、とても心配です。
あー、なんとか原発を止めてもらいたい。

今回も、多くの皆さんがこのブログ読んでもらえるように、
TwiiterとFacebookで紹介しました。
日本中で、真剣に考えてほしい、今の政府のこと。
Posted by Fischer at March 07, 2013 21:16
トンサンさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
同じように感じている人は少なくないだろうと思います。確かに、のど元を過ぎて熱さを忘れている人もあると思いますが、このままでの再稼動には危うさを覚えている人も多いのではないでしょうか。
政府や電力会社が再稼動を目指す姿勢に不信感を感じている人も多いと思います。
本当に再稼動が必要ならば、誰もが納得できるような方策をとって、安全性を高める努力をすればいいのに、その部分がありません。
それで安全になるかどうかは別ですが、本当に猛省して根本から見直す姿勢がありません。それもせずに再稼動なんてとんでもないと思います。
もし、この文章を見て、思い出したり、改めて考えた人がいたとしたら幸いです。
一人ひとりが出来ることは多くないですが、周りの人で問題意識を持つ人を一人でも増やしたいと思います。
Posted by cycleroad at March 08, 2013 23:26
Fischerさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
共感していただけた部分があったようで嬉しいです。経済が上向きそうなので、その点については支持しているものの、必ずしも自民党を信用していない人も多いと思います。
今回の選挙と、政権交代した時の選挙で、得票率がほとんど変わらなかったことが端的に示しています。
無理やり再稼動しようとしたら、経済とは別に断固として不支持を表明してほしいと思いますが、日本経済のためには仕方が無いと再稼動の消極的支持に回る人が、時間の経過と共に増えてくるのが心配です。
表面的には経済性の観点から仕方なく思う人もあると思いますが、根本的な部分をそのままに再稼動をすれば大きな禍根を残すに違いありません。
ご友人のように、原発事故のせいで苦しんでいる方が大勢いるのに、ほとぼりが冷めたと言わんばかりに、何も変わっていないのに、さも安全になったかのように錯覚させて再稼動を目指す姿勢には不信感を覚えます。
拡散していただき、ありがとうございます。稚拙な文章で、どれだけ役に立つかわかりませんが、問題意識を持つ人が、一人でも増えてほしいと思います。
Posted by cycleroad at March 08, 2013 23:35
 
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