最近の日本は、イノベーションの不足が指摘されています。
イノベーションの例として、よく挙げられるものにソニーのウォークマンがあります。音楽を屋外へ持ち出し、歩きながら聴くような新しい形を作り出し、世界的なヒット商品になりました。まさにイノベーションとして、世界中の音楽視聴のスタイルを変えました。ソニーの基盤を築いた商品とも言われます。
ソニーのような当時のベンチャーは、いまは大企業となり、最近の日本ではイノベーションと呼ばれるようなものが生まれてこなくなったと言われています。ウォークマンの後の音楽業界にイノベーションを起こしたと言われる“iPod”あるいは“iTunes”は、アメリカのアップルから生まれました。
携帯電話やモバイル端末にイノベーションをもたらした“iPhone”や“iPad”も、言うまでも無くアップルですし、グーグルも、ユーチューブも、ツィッターも、フェイスブックも、みなアメリカの会社です。日本には、イノベーションを起こす力が不足していると言われても仕方ありません。
イノベーションとは、技術革新や新しい技術の発明のことのように思っている人も多いですが、それだけではありません。ものごとの新しい切り口を考え、そこに新しい意味や捉え方を見出したり、新しい活用法を生み出したり、新たに結合したり、新機軸を打ち出したりすることでもあります。
独創的なアイディアや発想によって新たな社会的価値を生み出すことであり、広く社会に大きな変化をもたらすことです。実際に、ウォークマンはプレーヤーを発明したわけではありません。それまでのカセットレコーダーから録音機能を外し、小型にして乾電池で外に持ち出せるようにしたところが革新です。
もちろん技術的な工夫もあったのだと思いますが、とくに新発明とは見られていません。“iPhone”や“iPad”にしても、技術的にはそれまであったものですし、必ずしも新技術の発明ではありません。しかし、その利用の仕方に新しいスタイルを生み出し、世界に大きな変化をもたらしました。
つまり、技術者や発明家でなくても、誰もがイノベーションを生み出す可能性があります。ソニーのウォークマンも、若手社員のちょっとした思いつきから生まれたと言います。また、必ずしも世の中に知られたイノベーションばかりとは限りません。
地域イノベーションとか、マーケティング・イノベーション、物流イノベーションなど、いろいろな領域でもたらせるイノベーションもあります。物流にイノベーションが起きて、一般の人は知らないうちに、言われなければ気づかない恩恵を受けているようなこともあるでしょう。
さて、自転車の世界でイノベーションと言えば、それまでなかった野山を走り回るスタイルを生み出したマウンテンバイクとか、ペダルをモーターの力でアシストする電動アシスト自転車といったものが挙げられるでしょうか。もちろん、誕生から歴史をたどっていけば、ほかにもいろいろあるでしょう。
マウンテンバイクも、それまであったビーチクルーザーや実用車などでオフロードの山を下り、タイムを争って遊んでいたのが発祥だと言います。ちょっとした思い付きや工夫、遊び心など、どこからイノベーションにつながるかわからないのが面白いところです。
そう考えると、自転車の世界においても、今後もいつどこでイノベーションが生まれても不思議ではありません。世界には、いろいろ変わった自転車を作ったり、今までにない工夫を考え出したりする人がたくさんいますが、そんな中から、何か新しいブレークスルーが起きる可能性もあります。
こちら、スケートボードと自転車を合体させた“
sbike”です。異なるものの結合は、イノベーションを生む常道と言えるでしょう。スケートボードとの合体ということで、キックスケーター、あるいはキックボードにも似ている部分もありますが、こちらは自転車並みの前輪がついています。
そのぶん、また違った乗り味なのでしょう。乗ったことがないのでわかりませんが、自転車の中では、BMXに近い感覚かも知れません。自転車のようでありながら、スケートボードのようにトリックを決めたり、技を競うような新しいスタイルのスポーツが楽しめそうです。
こちら“
Swifty”もキックボードに似ていますが、前後輪が自転車のタイヤになっています。キックボードに似た自転車、あるいは、自転車からサドルやペダルを省き、フレームを低くしたものと見ることも出来ます。近い距離の移動であれば、これで充分という考え方もあるでしょう。
スピードは出ませんが、例えばビーチ沿いを行き来するぐらいの用途ならば、わざわざサドルは不要、トラブルになりやすいペダルやチェーンはないほうがいいということもあるでしょう。折りたたんで持ち運ぶにしても軽くなるので有利です。似たような発想をする人は多いのか、いくつかあるようです。
こちらは、ペダルとは別系統で、手でクランクを回して、その力を足の力にプラスしてタイヤを回そうという自転車“
RaXibo”です。言ってみれば、手の力でアシストする人力アシスト自転車です。足だけの普通の自転車と比べて駆動力が増すので、坂道を登るのにも力強さが増します。
考えてみれば、両手をハンドルに置いておくだけ、遊ばせておく手はありません。実際には手を置いておくだけではありませんが、手でクランクを回すことで、さらに駆動力をアップさせようという工夫です。運動としても上阪神と下半身のバランスがとれ、全身運動に近くなるでしょう。
手でペダルを回すと言えば、ハンドサイクルがあります。足が不自由な人でも手でこげる自転車です。一般的なハンドサイクルは、上の写真のような乗車姿勢が腰掛けるようなスタイルや、仰向けに近い形になるものをイメージしますが、こちら“
RacerT - 10”は、ハンドサイクルのロードレーサーとも言うべきスタイルです。
3輪で軽量なフレームは、スピードと安定性を考慮しており、仰向けではなく、前傾姿勢になります。腕を回転させるのではなく、レバーを倒すような形で駆動力を与える構想です。これは、一般的なハンドサイクルよりもスピードが出そうですし、このほうが操作しやすいかも知れません。
どちらかと言うと、うつ伏せに近いスタイルでこぐのは、こちらの、“
Pardo”と名づけられた自転車も同じです。しかし、こぎ方は全く違います。図のように、言ってみれば平泳ぎのキックのような動きで、足を蹴り出すようにしてタイヤに駆動力を伝えます。
動物のチーターをイメージしてデザインされたそうで、低い姿勢で疾走する動物のイメージなのでしょう。ただ、下手をすると、カエルのように見えなくもありません(笑)。いずれにせよ、通常の自転車のペダルを回転させる足の動きとは、異なる運動になるのは間違いありません。
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どれも、変り種自転車、こんなものと言ってしまえばそれまでです。実用的でないものもあると思います。こうした変り種自転車の中からイノベーションが出てくるとは限りません。しかし、効率や実用性ばかり重視し、常識から外れることを排除してばかりでも、イノベーションは生まれてこないでしょう。
思いつき、ひらめき、遊び心、独創的な発想や奇抜なアイディアの中に、イノベーションのタマゴが隠れている可能性があります。だとするならば、いま日本人に必要とされているのは、常識にとらわれず、普通とは違うもの、変わったアイディアを面白がるような感性、興味を持つ好奇心なのかも知れません。
最近はスマホでご覧いただいている方も増えていますが、写真が多くなってしまって機種によってはレイアウトが崩れて見にくいかも知れません。ご容赦のほどを。