警察や損保協会などの資料によれば、自転車の事故のうちの8割は対クルマですが、その多くは交差点で起きています。一番多いのは出会い頭の事故で、次に多いのがクルマの右左折時におきる事故、いわゆる左折巻き込みなどの事故となっています。
交差点を横断しようとしていて、左折してきたトラックやダンプカーなどに轢かれるという事故が典型的な例でしょう。被害者が死亡するケースも珍しくありません。そして事故に遭うのは、小さな子供や子供を乗せたお母さん、高齢者ばかりとは限りません。
信号が変わって交差点を横断しようとしたら強引に左折してきたとか、直線部分で追い抜かれたと思った途端、急に左に曲がってこられたといった経験のある人も多いと思います。スポーツバイクに乗る人も含めて、いつ誰の身に起きてもおかしくありません。

トラックやダンプが追い抜いた途端に左折するのは、運転手が自転車のスピードは遅い、すぐ止まれるなどと思っているからに違いないと考えている人も多いのではないでしょうか。そういうドライバーもあると思いますが、まるで嫌がらせをするかのように、追い抜いた後、急に左折するのは、それだけが理由ではないようです。
実際に事故を起こした運転手が事情聴取され、多くのケースでの答えは、「見えていなかった。」だそうです。つまり、自転車を意識せずに追い抜いて、左折するときに左のミラーを確認するも、死角に入っているなどして見えていないケースが多いということなのでしょう。
実際の事故には、いろいろなケースがあると思います。トラックが左折しようとしているのに左からすり抜けようとするなど、必ずしも自転車側の過失割合がゼロの場合ばかりではないと思います。トラックやダンプが全て悪いなどと言うつもりはありません。

見落としや確認し忘れなどではなく、本当に死角に入ってしまって自転車が見えていなかったことが原因だとすれば、双方にとって不幸なことです。被害の大きい自転車はもちろんですが、加害者側になってしまった運転手にとっても不幸なことと言わざるを得ません。
そんな自転車が死角に入って起きる不幸な事故をなくそうと、これまでにも左折巻き込み事故の危険についての啓発が行われてきました。交通安全教室だとか免許の取得・更新時など、ことあるごとに、その危険性を習ってきた、注意を促されてきたという人も多いに違いありません。
トラックやダンプカーなどの死角や内輪差といった特性を理解し、自転車に乗るとき、その死角に入らないよう注意すべきというのは、多くの人が知っていることだと思います。そのことを啓発したり、注意を促すポスターなども、あちこちで見かけます。
このブログでも関連する内容は何度も取り上げました。イギリス・ロンドン交通局のポスターを取り上げたこともあります。普通、トラックやダンプとの違いをあまり意識していませんが、トレーラーの場合、さらに大きな死角が生まれる可能性を、端的かつインパクトある画像で示したポスターでした。
このポスターに描かれている12人のサイクリスト『全員』が見えていないというものです。トレーラーは、運転席部分と荷台部分が折れ曲がりますが、その際バックミラーは荷台のほうを向いてしまい、荷台の脇の道路が全く見えていないケースがあるというものでした。
このような自転車利用者に対する啓発、教育、注意喚起は多いわけですが、左折巻き込み事故を無くすため、これまでとは違うやり方に取り組んでいる団体があります。同じロンドンで、サイクリストの安全の提言などを行っている市民団体、“
London Cycling Campaign”、通称LCCです。
このLCCは、道路環境の改善、健康的でクリーンな都市の実現、渋滞の緩和、大気汚染や環境負荷の低減など、自転車に関連してさまざまな活動や提言などを行っています。自転車の活用を推進し、ロンドンを市民にとって安全できれいで楽しい場所にすると共に、経済効果も広範囲にわたることなどを広く訴えています。
そのLCCが最近打ち出したのが、
サイクリストの死亡を減らすため、彼らが提案するトラックのデザインを採用するよう関係団体に求めるという手法です。これまでのように、サイクリストに気をつけようと呼びかけるのとは、全く違った角度からの取り組みです。
LCCは、その提案するトラックなどの車両のデザインを採用することで、死亡事故を減らすために協力をして欲しいと訴えています。デザインを変えることで事故が減らせるというのです。LCCの提案する、トラックやダンプカーなどの車両のデザインのポイントは次のようなことです。
1.運転席の高さを下げることで、死角を減らすこと。
2.フロントガラスや助手席側のドアの視野を広げること。
3.トラックの下に入り込みかねない隙間を減らすこと。
4.サイドガードなどの巻き込み防止策を採用すること。
5.カメラなどで死角を補い、感知するシステムを搭載すること。
一昨年ロンドンで起きた自転車利用者の死亡事故のうち、半数以上はトラックなどによるものであり、さらにその8割近くは建設工事関係の車両だったそうです。そこで特に建設工事関係の会社や団体などに対し、こうした安全性を高めたデザインの車両を導入するよう求めているわけです。
イギリスでは実際に、こうしたデザインの車両が、すでに一部で使われていると言います。今すぐ買い換えるのではなく、車両の更新ごとに入れ替えていくならば、充分現実的な提案と言えるでしょう。新しいデザインの車両だと、値段が違い過ぎるなどいうこともないはずです。
トラックやダンプなどの、全てのクルマに占める台数の割合は少ないのに、自転車利用者の死亡事故の大きな割合を占めるとするならば、トラックなどの車両を保有、使用している会社や団体は、そこに何らかの社会的責任や危機感を感じてもいいはずです。

サイクリストにとっては、迫り来る大型車両は恐怖の存在であり、命を脅かす可能性のある存在です。しかし、一方で、そうした車両からさまざまな形で恩恵を受けているのも間違いありません。トラックなどの流通関係の車両にせよ、ダンプカーなどの建設や土木関係の車両にせよ、私たちの生活には欠かせないものです。
直接は関わりがなくても、食料や生活必需品の流通、都市の生活に必要なさまざまな建物や道路や構築物の建設など、私たちの生活に密着し、欠かせないインフラを支えています。ですから、そうした車両の使用を禁じるとか台数を減らせと言っているのではありません。デザインを変えて欲しいというだけです。
日本でも、バスなどには低床ボディのものを見かけますが、トラックやダンプといった車両の運転席はとても高い位置にあります。確かに、あれほど高くては死角が出来やすいのも無理はありません。図のようなデザインのほうが死角が少なくなるだろうことは明らかです。

助手席側のドアを、バスのようなシースルーのドアにすれば効果的なのも一目瞭然です。バンパーやサイドガードなどは日本でも採用例が多いと思いますが、運転席の低いデザインと組み合わせれば、より安全になりそうです。カメラやセンサーなどは乗用車でも普及してきており、低価格で導入できるはずです。
最近のバスのように運転席が低い位置にくるデザイン、本来であればトラック等にも採用されていいのではないかと思いますが、そうなっていません。構造的、あるいは法的な制約があるのかも知れませんが、そうでないなら、メーカーが採用しないのは何故なのでしょう。
運転席が高いほうが、前方の遠くまで見通せて、早く危険を察知できるといったメリットが考えられます。他の車両と衝突した際の安全性などもあるかも知れません。もちろん、タイヤの大きさやエンジンの位置など構造的な問題もあるだろうと思います。
ある程度大きなトラックなどに乗ったことのある人なら、その運転席の見晴らしの良さはご存知でしょう。この高さが、運転手にとって気持ちいいという要素があるのかも知れません。運転する人からは、高い位置に運転席があるデザインが好まれるということもあるのでしょう。
メーカーにとってお客様は車両を購入する会社や個人事業主です。ドライバーが見晴らしの良さを優先し、会社もドライバーの意向を尊重するのであれば、車両の選択は従来型にならざるを得ません。大型車のメーカーも営利企業ですから、選ばれるデザインの車両を製造するのは当然です。
メーカーに提案してもデザインが変わっていかないならば、購入するモデルを決定する建設業などの会社や団体に対して協力を求めるというのは、賢明なやり方と言えるでしょう。低い運転席が直接事故防止に結びつくなら、会社側にもメリットは大きいはずですし、企業イメージにも関わってくる可能性があります。

ドライバーにとっても、死亡事故を起こすリスク、刑事責任や賠償責任などさまざまなリスクを考えれば、そのリスクの少ないデザインのメリットに納得できるのではないでしょうか。購入する会社やドライバーが納得してそれを望むのであれば、メーカーもデザインを変えていくに違いありません。
もし、車両の構造などの規制によって、このようなデザインが採用できないなら、監督官庁も巻き込む必要があるでしょう。事故は加害者も被害者も、家族や関係者も不幸にします。安全性向上の恩恵は自転車利用者にとどまらず、原付バイクやオートバイ、そして広く歩行者にまで及びます。
いつ自分や家族が巻き込まれてもおかしくありません。死亡事故という社会的な損失を防ぐことでもあり、国民的なコンセンサスも得られるはずです。このLCCの取り組みは、とても意義のあることだと思います。日本でも是非見習うべきではないでしょうか。
北朝鮮がまた嫌な感じになってきました。不測の事態がおきないといいですが..。
こんにちは。今回はトラックのデザインをより視認性を高めるものにするべきという内容ですがこういう主張はあんまり聞かないので新鮮でした。私は大手運送会社で運転職を10年以上勤めておりますが現場ではあるもので仕事をする以上事故防止で語られるのは、運転の原則、認知、判断、動作、のための具体的手法にとどまります。しかし、なにより運転の前提として車体構造への理解は必要不可欠であり、それはトラックであれ、自転車であれ、変わるところは大筋においてはないのだから運転者はそれを踏まえ道路を使わせて頂くべき。勉強になりました。ありがとうございます。