April 17, 2013

ガソリンでガソリンを減らす

最近、自転車通勤が注目されることが増えています。


近年の自転車ブームという背景に加え、震災後の帰宅困難などがきっかけで、自転車で職場まで行く自転車通勤というスタイルへの関心が高まったようです。最初は臨時的な措置だった人も、やってみると意外に遠くても通えるとか、おもったより快適、楽しいということで、そのまま続ける人もあるようです。

自転車通勤に切り替え自転車は有害な物質を含む排気ガスを出さず、化石燃料を消費することもありません。環境への負荷が小さく、渋滞の軽減にも役立ちます。移動のコストが低いので経済的なメリットもありますし、人々の健康増進にも貢献するなど利点がたくさんあります。

テレビや新聞、その他のメディアに取り上げられる中で、こうした基本的な認識はあると思います。ただ一方で、自転車通勤者の増加に伴い、そのマナーの悪さや交通ルールの無視、事故の増加、迷惑駐輪の問題など、悪い面にスポットが当たることが増えているのも確かでしょう。

日本では自転車ブームとされていますが、自転車通勤など自転車の活用の拡大は世界的なトレンドです。そして欧米では通勤などに自転車を使う人は、おおむね良いイメージに捉えられています。もちろん全てではありませんが、基本的には環境に配慮した賢いライフスタイルの一環と受け止められています。

日本で、自転車通勤の増加により、かえって悪い面がクローズアップされているのとは対照的です。なぜ日本では、自転車通勤や自転車の活用拡大が社会的に好ましいと捉えられることが少なく、眉をひそめられるような面ばかりが目立ってしまうのでしょうか。

目立つ自転車理由はいろいろあると思います。40年来の歩道走行という日本独特の道路行政が災いし、自転車を車両ではなく歩行者の延長のように考える人が多く、ルールが守られていないのが大きいと思います。自転車文化や自転車に対する認識も欧米とは大いに違っています。

日本では、その圧倒的多数をママチャリが占めるため、自転車本来のポテンシャルが理解されず、十分に発揮されていないこともあるでしょう。そして自転車行政の致命的な間違いを長年にわたり正さずに来てしまったため、自転車の走行空間の整備が圧倒的に遅れていることも挙げられます。

もう一つ考えられるのは、自転車を活用することに、実際に環境へ貢献しているというイメージが乏しいということです。通勤手段を自転車にするのは個人的な理由、すなわち健康志向、通勤費節約、満員電車回避など個人的な都合と見られ、あまり社会的に意義のある行為と見られていないという点がありそうです。

日本の都市部では電車やバスなどの公共交通網が発達しているため、電車通勤をやめて自転車にするという人が多いと考えられます。実際に調べた資料はありませんが、自転車通勤の増加でクルマの交通量が減ったという話は聞きませんし、多くは電車から自転車と推測されます。

自転車通勤クルマの利用をやめ、自転車で代替してこそ環境負荷が減るわけであり、公共交通利用を自転車にしたのでは、社会的な意義のある行動とは言いにくい部分があります。一応エコという形容詞はつくものの、どちらかと言えば個人の都合で、社会的に好ましい行動といった良いイメージになっていないわけです。

欧米では、個人の環境問題に対する最大の貢献は、クルマの利用を減らすことと考えられています。クルマ通勤を止めて自転車にすることは、エコでクリーンで環境的にも好ましいイメージがあります。日本では鉄道網などが発達しているため、自転車通勤に代えても環境負荷は変わらず、社会的に良いイメージにならないわけです。

例えばカナダでは、温暖化ガスの排出の27%をクルマの利用が占めており、これを削減することが環境に対する個人の最大の貢献と捉えられています。もちろん産業などこれ以外の割合についても考える必要がありますが、個人レベルではクルマの利用低減が大きいという認識があります。

カナダも基本的にクルマ社会であり、交通インフラとしてクルマを利用しないというのは無理がありますが、都市部の通勤などでは利用を減らす余地があります。カナダで自転車通勤と言うと、多くはクルマをやめて自転車ということになるので、イメージもいいのでしょう。

通勤時の自転車利用促進具体的な調査はありませんが、日本ではクルマ通勤から自転車通勤にするケースは多くないようです。もし、日本の都市部でもクルマの利用を減らして自転車を増やすならば、渋滞や大気汚染も減り、環境負荷も事故も減ることになります。都市環境の向上に資する自転車のイメージも向上することでしょう。

都市部の個人でも、クルマによる通勤をしている人は相当な数に上ります。クルマでしか出来ない移動や輸送はあるにしても、自転車で代替可能な人も少なくないはずです。渋滞でクルマより自転車のほうがよっぽど速かったりするのですが、わざわざ自転車に代えるモチベーションは不足しています。

ノーマイカーデーとして、マイカー通勤しないことを呼びかけたり、会社の事業用のクルマを社員が家に乗って帰らないよう呼びかけるなども行われてきましたが、あまり効果があがったという話は聞きません。やはりクルマは便利ですし、通勤定期代より安いなどの事情もあるのでしょう。

クルマから自転車、あるいは公共交通への通勤手段の代替を促すため、世界でもさまざまな方策が実施されています。成功すれば、環境負荷以外にも渋滞、公害、事故など、さまざまなメリットがあるので大きな意味があります。その中の一つに、カナダのトロント都市圏で行われている注目すべきイニシアチブがあります。

Shuttle Challenge, www.shuttlechallenge.ca

クルマでの通勤を自転車や公共交通に代替することで10%減らしたら、なんとガソリンの無料券を支給するというプログラムです。ガソリン無料券を渡したら、逆にガソリンの使用を奨励してしまいそうです。クルマ利用を減らすための報酬としては逆効果のように思えます。常識的には考えられません。

しかし、そこがこのプログラムのポイントです。クルマを使わない人がガソリンの無料券をもらっても、使い道に困りますが、クルマを常時利用している人にとって、ガソリン利用券は、とても魅力的なギフトであり、有効な動機づけになるというのです。

Shuttle Challenge, www.shuttlechallenge.ca

一般的に、カナダのクルマ利用者はガソリン価格に敏感であり、少しでも安いスタンドで給油するなど、関心の高さがうかがわれることが調査で明らかになっているそうです。つまり、逆説的に聞こえますが、クルマ利用者にとってガソリン無料券こそ、効果的な報酬、モチベーションになりうると言うのです。

リッターあたり、わずか数セント安いスタンドで給油するため、余計な距離を走って遠くのスタンドに行ったり、値引きセールのスタンドの給油待ちの列に並んで、余計なアイドリングをするといった不合理な行動さえ見られるそうです。こういった行動は日本の消費者にも見られることでしょう。

Shuttle Challenge, www.shuttlechallenge.ca

クルマを全てやめるわけではありません。10%減らすだけです。何日かに一度、自転車にするとか公共交通にする、あるいはクルマでの通勤の一部分を代替するなどして1割減らせば、そのぶんガソリン代が減った上に、無料券がもらえて、さらにガソリン代が減らせるのは魅力的でしょう。

クルマの利用を全面的に廃止させるのは、最初から無理ということもあります。東京のような鉄道網の発達した都市ならともかく、カナダのトロントのような場所、カナダ人のライフスタイルなど、全面廃止はナンセンスであり、部分的に代替を促すのが現実的ということもあると思われます。

Shuttle Challenge, www.shuttlechallenge.ca

ガソリンの使用削減にガソリンを使うとは意表を突く方法ですが、なるほど上手いアイディアです。英語のことわざに、盗賊を捕らえるのには盗賊を使えというのがありますが、それを地で行くような方法です。聞けば確かに説得力があります。クルマ利用者に魅力的な報酬だからこそ、より多い参加者も見込めるというわけです。

自転車に搭載されたコンピュータに北米仕様のポート経由でアクセスする記録装置を使って、利用の10%減が判断できる仕組みだそうです。仕組みは高度なもののようですが、記録装置の取り付けなどは簡単で、誰でも気軽に参加できるものだと言います。

Shuttle Challenge, www.shuttlechallenge.ca

Shuttle Challenge”と呼ばれるこのプログラム、トロント圏のクルマ関連企業や環境団体、NPO、大気汚染防止の財団、大学の研究室、石油会社などの幅広い企業や組織、団体の協賛で運営されています。企業にとっても社会的な責任分担をアピールし、イメージ向上に役立つというメリットがあるのでしょう。

こうしたプログラム、日本でも例えば環境省あたりが主導して行ってもいいのではないでしょうか。エコカーに補助金を出すのなら、こういう啓発に予算を使ってもいいはずです。エコカー補助金と違って、さらに別の効果への波及も見込めます。

エコ通勤こうしたプログラムがきっかけで、一度自転車通勤を体験してみたら、クルマより速いとか、意外に楽しいなど、10%減にとどまらず、そのまま続ける人も出てくるに違いありません。人々の健康増進、生活習慣病の予防などにも役立つのは明らかです。その意味では厚生労働省が予算を投じてもいいくらいです。

その効果は国民医療費の低減、健康保険や介護関係など福祉関係予算の縮減にもつながります。一人ひとりの健康効果は小さくても、全体として見れば大きな財政的メリットが出ることが世界的にも知られています。だからこそ、世界各地の自治体が自転車活用に真剣に取り組んでいるのです。

ガソリンを使ってガソリンを減らす、一見矛盾しているように見える方策ですが、都市部での不要不急、代替できるクルマの利用を減らせれば、自転車通勤の意義も高まることでしょう。自転車の走行空間の整備も含め、都市交通のベストな形を目指すきっかけにもなると思います。日本でも検討の余地があるのではないでしょうか。





また悲しいテロが起きてしまいました。スポーツイベントを狙うというのも許せませんね。

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