車種によって、またどこまで分解して数えるかにもよりますが、分ければ何百という部品数になるでしょう。今どきの工業製品に共通していることだと思いますが、各パーツは国際的な分業によって生産されており、多くのメーカーのいろいろなブランドのパーツが合わさって一台の自転車になっています。
ママチャリなどは一台の完成品として販売されていますが、スポーツバイクの中にはフレーム単品で売られているものもあります。自由にコンポやその他のパーツを選んで、希望する仕様に組むことが可能です。自分だけのこだわりの一台を組んでいる人も多いでしょう。
もちろんスポーツバイクも完成車として売られますが、便宜的に一通りセットしているわけで、基本的には、自由に部品を変えられます。ちょうどパソコンのように、大手メーカーの完成品を買ってもいいし、自由にパーツを選べる注文生産もあるし、パーツを買ってきて自分で組み立ててもいいのと似ています。
つまり、自転車は組み立てて使う製品です。しかしながら、実際には完成車として買う人が多いと思います。折りたたみ自転車はあっても、組み立て自転車という言葉は聞きません。自転車を組み立てる商品とは意識していない人も多いのではないかと思います。

この作品にインパクトを感じるのは、そういう背景があるからなのではないでしょうか。
プラモデルのように部品のまま箱詰めされている自転車です。まさにプラモデルのように、自分で組み立てるというところに、斬新さ、ユニークさを感じるのでしょう。

普通の自転車でも、知識や技術があれば組み立てられますが、自分で組むという人は僅かな割合でしょう。でも、このようにプラモデル形式のキットになっていれば、誰でも組み立てられそうに見えますし、組み立ててみたくなる人も多いに違いありません。

この作品、組み立てても実際に走行することは出来ません。1分の1、原寸大の模型です。チェーンの一つひとつに至るまで精巧に作られていますが、固定されていて動かすことは出来ません。よく見ると、製作者のサイトにも実際にあるモデルの精密なコピーですが、機能はしないと書かれています。
これを作ったJurgen Kuipersさん、「
森を作るキット」などもプラモデルのようなスタイルの作品にしていますので、人々の固定観念を打ち破るような斬新な発想と、ユーモアが含まれているのでしょう。森のスターターキットには、ある種の風刺もあるのかも知れません。



自転車が組み立て製品との認識がない人には斬新ですが、部品を箱詰めパッケージにした「組み立て自転車」というコンセプトは面白いかも知れません。誰でも簡単に組み立てられることや、部品をバラバラにしてコンパクトにパッケージすることは、流通面でも何かのヒントになりそうです。

こちらは実際に乗れる「組み立て自転車」です。溶接によるフレームではなく、合板を2枚サンドイッチするような形で組み立てる、その名も“
Sandwich bike”です。普通の自転車を組んだことのない人であっても、食べるサンドイッチが作れる人だったら誰でも組み立て可能と書かれています。

フレームはユニークな形状ですが、実用的には十分と思われます。50未満のパーツで構成されており、コンパクトなパッケージで配送されます。専門業者に組上げてもらう必要がないので気軽に通販で買える商品というメーカーの戦略があるのでしょう。

いちいち分解したり組み立てたりするのは面倒ですが、頻繁でなければ組み立ても一つの手です。折りたたみ自転車よりもコンパクトになりますし、通常の宅配荷物として送るのにも便利そうです。運搬や保管の方法として、折りたたみとは別の手段として、一つの選択肢になるかも知れません。

ちなみに、
子供用の組み立て自転車もあります。こちらはダンボール製ですが、小さい子供ならば乗って遊ぶだけの強度は十分あります。あらかじめカットされた切れ目に沿って切り離して組み立てます。自分が乗れるようなオモチャを自分で作るという体験は、子供にとって刺激的なことに違いありません。

切り離したり、組み立てたり、色を塗ったり、子供の知育に役立ち、その創造性も刺激するはずです。親が手伝って作業すれば、親子のコミュニケーションの機会にもなるでしょう。屋外で乗る幼児用3輪車の前の乗り物体験としても有効な玩具と言えそうです。

3つの例は共に組み立てる自転車です。自転車は完成品を買ってくるものと思っていた人はもちろん、組み立てるものだと知っていた人にとっても、あらためて「組み立て自転車」と言われると新鮮な感じがあるのではないでしょうか。そして、誰でも簡単に組み立てられるというコンセプトは、なかなか面白いと思います。
今まで、自転車の組み立ては、ごく一部の人のものでした。しかし、組み立てがもっと手軽で一般的なものになれば、自転車に乗る楽しみだけではなく、作る楽しみも提供することが出来ます。パーツをグレードアップしたり、自分の気に入った部品に交換するのも一般的になるかも知れません。
特にママチャリの場合、ユーサーによる組み立てや部品交換が非常に困難な構造になっています。じっくり観察してみるとわかりますが、スポーツバイクと違い、タイヤを交換するだけでも、とても手間がかかる構造になっています。自転車屋さんが安い手間賃で交換依頼されるのを嫌がるのも理解できます。
後から部品を交換したり、組み立てなおしたりするようなことは、最初から一切考慮されていません。製造のコストダウンもありますが、自転車ごと使い捨てを想定しているのでしょう。自転車の組み立てや部品交換が一般的になれば、一部が壊れたり、錆びただけで全部を捨てるような風潮が改まる可能性もあります。
場合によって、例えば荷物の運搬など用途にあわせて自転車を再構成して使うようなことも考えられるでしょう。自転車の組み立てを誰でも簡単に、もっと一般的なものにするというコンセプトは、いろいろな面から、自転車の新たな展開を生むかも知れません。
しかし、消費税還元セールの禁止って、くだらない議論をしていますね。それなら「消費税還元はしないよセール」とか「消費税増税記念セール」にしてしまえばと思いますが..。