自転車レーンの整備された、いわゆる欧米の自転車先進都市と比べれば、その差は歴然としています。また、世界の多くの都市で自転車の活用が積極的に進められる中で、これまで自転車のイメージがなかった国でも、急速に自転車の走行環境が整備されるところが出てきており、日本は立ち遅れています。
理由は、なんと言っても自転車を歩道走行させた道路行政の間違いが災いしています。高度経済成長期、クルマが急速に増えた結果、事故を防ぐために自転車に歩道走行をさせる措置がとられました。これは道路整備が追いつくまでの臨時措置、あくまで一時非難のはずでした。
それが40年以上、そのままできてしまったため、多くの人は歩道を走行するのが当たり前だと思っています。昨年、警察庁や国土交通省が自転車の車道走行の原則を宣言し、ようやく自転車行政の誤りを正す方向に踏み出しましたが、多くの人は車道走行を躊躇する状況です。
道路整備も自転車の歩道走行を前提に行われてきたため、歩道の幅は広げられたとしても、車道に自転車レーンを設置するような整備は行われてきませんでした。そのため、車道上には自転車走行空間が物理的にとれない、あるいは乏しい場所が少なくありません。

道路の整備が遅れている途上国はともかく、自転車の歩道走行を認め、それが常態化しているような国は日本だけです。欧米も当然モータリゼーションの進んだ時代がありましたが、自転車と歩行者が歩道上で交錯するなどナンセンスであり、あくまで自転車は車両として車道上での共存が図られてきました。
こうした経緯により、日本の都市では自転車レーンが整備されているような道路が少なく、自転車の走行空間は貧弱で整備が大きく遅れている状態です。言ってみれば、その点については後進国です。整備が進まないと、人々の車道走行も進まない状態です。
ロンドンなどでは、一般道の自転車レーンの整備が進んでいるだけでなく、郊外とを結ぶ自転車優先の道路、いわゆる自転車スーパーハイウェイまで設置が始まっています。さらに、鉄道の高架線路の跡地を利用したスカイサイクルという構想の実現まで視野に入ってきています。(下の動画)
一方、こちらは、Richard Moreta Castillo さんがデザインした“
Bici-metro Eco Bahn”、高架自転車道の想像図です。チューブ状の道路を高架にすることで、自転車が高速で移動出来る次世代の都市交通とする構想です。進行方向を分けて、上下二層のチューブを重ねる形になっています。
今でも自転車は、場合によっては渋滞するクルマより速い交通手段です。しかし、こうした高架道路ならば信号待ちがないため、さらに速く快適に移動できます。雨天でも濡れませんし、風や雪など気象条件にも左右されません。除雪の必要もなくなります。
チューブ内に風を流すアイディアもあり、常に追い風を受けて走行できることになります。クルマとの事故もありませんし、歩行者を怪我させることもありません。自転車ですから化石燃料も消費しませんし、騒音も少なく温暖化ガスも出しません。インフラさえ整えば、環境負荷の小さい都市交通となります。
言ってみれば自転車による地下鉄網のようなものですが、動力は人力なので基本的には電気代もかかりません。さらに市民の健康増進に寄与します。自転車を使う人が増えれば、医療や介護などにかかる福祉関係の予算が確実に減ると言われており、その点でも注目する自治体は多くなっています。
近未来的なデザインですが、似たような構想はこれまでもたくさんあり、実際に開発に取り組んでいる会社もあります。決して空想の世界の話ではありません。高架道路を通せる空間が必要ですが、鉄道やクルマの高架道路とは違って、支柱の設置も少ない面積で済むので、適用可能な場所は多いはずです。
この道路の始点や終点は坂道にすることも考えられますが、都市部の途中で降車できるよう、駅や停留所のような場所が一定の間隔で設置されます。この部分は駐輪場を併設することも考えられます。うまくすれば、都市部の放置自転車の問題の対策にもなるでしょう。
もちろん、ソーラーパネルを貼るなども考えられます。夜間の照明や送風など必要な電力を自給できる可能性もあります。頭上にこんな構築物が出来ると目障りな感じもしますが、慣れの部分も大きい気がします。街に溶け込む色使いなどを配慮すれば、それほど違和感もなくなるのではないでしょうか。
普通の道路の自転車レーンすら、ほとんど整備されていないのに、日本では夢のまた夢だと考える人も多いでしょう。常識的に考えれば、突拍子もないことのように思えます。現状で、自転車は有望で現実的な都市交通だと認識している人が少ない日本では、なおさら難しいのは確かでしょう。
しかし、自転車走行インフラ後進国だからこその可能性はないでしょうか。例えば携帯電話は、アジアやアフリカなどの途上国でも急速に普及しています。固定電話のインフラが未整備な国では、固定電話網設置をスキップして携帯電話のインフラに投資を集中している国もあります。
基地局を立てる携帯電話のインフラのほうが整備しやすいこともありますが、後進国だからこそとれる戦略です。日本も自転車レーン後進国なのですから、一般の道路へ自転車レーンを整備する膨大な投資を省き、次世代の自転車レーンに注力するという戦略は考えられないでしょうか。
このチューブのような高架自転車道は、ちょっとSF的ですが、個人的にはもっと現実的な方法もあるように思います。例えば、写真のような屋根、ひさしが歩道に設けられている場所があります。日本中の商店街などに見られる、ありふれた光景です。

この屋根の上に自転車道はつくれないでしょうか。もちろん道を支えるために、支柱や屋根の部分は頑丈にものにしなければなりませんが、歩道に屋根をかけるような形で高架の自転車レーンを設置するようなことは考えられないでしょうか。
日本では、歩行者と自転車の事故の増加が問題となっており、線をひいたり色分けすることで歩道上に自転車レーンの設置を進める自治体があります。これは結果として歩行者との混在を避けられておらず、中には駐輪スペースのように使われてしまっていたりします。
欧米では既に共通認識ですが、自転車が歩道を通行するとクルマとの衝突事故が増えるのです。車道を走る自転車はクルマから見えていますが、これが歩道を走っていると、街路樹や生垣、ガードレールに遮音壁、駐車車両、電柱、看板、歩行者、バス停、その他あらゆるものが邪魔をして視認しにくいのが原因です。
クルマは、自転車が並走していても気づかずに、交差点を左折する時などに出会い頭の衝突となるわけです。このことは、多くの専門家が指摘していることで、調査としても明らかになっています。自転車の歩道走行を認めている日本が、先進国の中で自転車乗車中の事故率が圧倒的に多い理由と見られています。

せっかくの自転車レーンでも、歩道上に設置すると、かえって交差点でのクルマとの事故の危険が増すわけです。同じ歩道上でも、平面的にでなく立体的に分ける自転車レーン、歩道の屋根方式の自転車レーンなら、その心配はありません。
これなら歩行者と交錯することはありません。交差点でのクルマとの事故も防げることになります。歩行者も屋根が出来て、雨でも傘をささずに歩くことが出来ますし、夏の強い日差しを避けることが出来ます。素人考えですが、都市部に限るならば、十分検討の余地がある気がします。
これまで、自転車の歩道走行を前提に歩道の幅が広げられてきました。本来の自転車の車道走行を促すためには、車道上に自転車レーンを設置すべきであり、そのために必要であれば、歩道の幅を削ってでも車道に設置すべきだと思います。
歩道の拡幅によって車道に自転車レーンの設置余地が乏しいとも言える訳ですが、それを逆手にとって、広げられてきた歩道のスペースを利用し、その上に屋根の形で自転車レーンを通すわけです。普通の自転車レーンを設置するのが大変なら、後進国の戦略として、それをスキップしてしまうという考え方もあるでしょう。

この屋根、自転車の走行面に、滑らないよう工夫されたソーラーパネルを設置するようなことも考えられます。そのようなパネルの開発例もあります。幅は限られますが、自転車レーンの設置距離に比例して発電面積が増えることになります。駐輪場を併設すれば、地上の歩道部分への放置自転車対策にもなるでしょう。
場所によっては、電線などを通す配管を構造の一部にすることも考えられるでしょう。欧米と比べて電線の地中化が進まない日本の都市ですが、地中化の代わりに、高架自転車レーンの一部に組み込んでしまえば、景観的にはスッキリすると思います。
問題は費用ですが、道路の整備予算に加え、放置自転車対策予算、電柱の地中化予算、ソーラー発電の推進予算、交通事故の対策費などを使うようなことも考えられるのではないでしょうか。歩行者にとっても自転車にとっても、クルマにとってもメリットがあります。
平面的に考えると、都市部の道路に新たな自転車走行空間を整備するのは困難かも知れません。しかし立体的に考えて、例えば歩行者の頭上の空間ならば、まだ活用できる余地があるのではないでしょうか。高架の自転車レーンも、考えようによっては現実的になるような気がします。
今年もクールビズ、1ヶ月前倒しですか。ちょっと肌寒い感じもしますが..。