
ミネアポリスは、アメリカ中央の北部に位置する都市です。
ミネソタ州の州都は隣接するセントポールですが、ミネアポリスが同州最大の都市で地域経済の中心になっています。川や湖が多い街で、かつては世界の小麦製粉の中心として発展しました。穀物メジャーのカーギルや大手小売業のベスト・バイが本社を置いていることでも知られています。
主要な産業は商業、金融、運輸、保険、伝統の製粉をはじめとする製造業などですが、近年はハイテク産業も盛んになりつつあります。このミネアポリスで、製粉以外に市の土台を支える新しい産業を誘致しようと、先頭に立って振興策を進めているのが、R.T.Rybak 市長です。

もちろん大都市ですから、いろいろな政策があるわけですが、その中で特徴的なのが自転車走行環境の整備の推進です。R.T.Rybak 市長は、この自転車政策が、IT産業やハイテク産業などを誘致する有力な要素の一つであり、また鍵になるだろうと真剣に考えているのです。
まず、自転車で安全・快適に移動しやすい街にすることで、多くの若者にとって魅力のある都市にしようと考えています。若い才能を惹きつけ、ミネアポリスに来てもらって、住んでもらい、とどまってもらいたいのです。良い自転車環境を整備することは、そうした世代へのメッセージです。
もちろん、他のインフラが重要でないわけではありません。しかし、他の都市と差別化する意味でも、自転車政策は有効と考えています。若い人材を惹きつけることは、IT企業などの進出を促し、同市に拠点を構えてもらうための戦略の一部でもあります。
これが5年前であれば、企業は立地する都市の自転車環境がビジネスの重要な要素とは、あまり考えていなかったかも知れません。しかし、現在は確実にポイントの一つになっていると市長は指摘します。社員が自転車通勤をしたり、自転車で移動するのに快適な都市環境が、企業にとっても魅力となると言います。

前回、シリコンバレーの世界的に有名なIT企業が揃って、自転車シェアシステムや自転車通勤環境などを整えているという話題を取り上げましたが、それはシリコンバレーに限りません。企業が好ましい自転車通勤環境を整えるためにも、自治体は街の自転車環境を向上させる必要があると考えているのです。
IT企業などの新興企業にとって、何より重要なのは人材です。若くて創造性にあふれる人材、クリエイティブ世代の人材を獲得するためには、彼らの好みや考え方、ライフスタイルを考慮する必要があります。彼らの好みに合った都市が住む場所として人気になるのは自明です。
これはアメリカでの各種の調査に現れており、最近の若い世代は古い世代と比べて、クルマを運転する割合が明らかに減っています。クルマを所有しなくても生活が出来る都市に集まる傾向があるのです。アメリカでも、若い世代のクルマ離れとも言える現象があるようです。

もちろんアメリカは基本的にクルマ社会ですから、すべての若者に当てはまるわけではないでしょう。しかし、IT企業が欲しがるような人材は、クルマを買う代わりに、多機能携帯やスマートフォン、タブレット、ラップトップ、そして2千ドル以上の自転車を買うことを選択する傾向があるというのです。
こうした傾向については、アメリカのクルマ雑誌なども認識しているそうです。アメリカの若い世代はクルマに興味が薄れ、インターネットやソーシャルネットワークサービスなどに関心があって、初期費用や維持費の高いクルマを持たないで済む生活を志向しているということなのでしょう。
多くの会社が望むような創造性のある若者の思考やスタイルがそうなのであれば、企業はその欲求を満たすような都市に拠点を設けたほうが人材獲得に有利と考えるでしょう。企業を誘致したい自治体とすれば、単に道路政策だけでなく、自転車環境に力をいれるのが有効というわけです。
著名な経済学者や経済紙なども、この傾向を裏付ける発表をしています。クルマだけでなく、彼らは大きな家にも興味が無く、郊外の広い家より、都市の中心に近いアパートに住んで、徒歩や自転車で通えるような環境を好む傾向が表れていると言います。
また、自転車環境の充実は、従業員の健康を増進し、企業負担の健康保険関連の経費削減につながることも、企業にとって魅力であるという側面は否定できません。企業が進出する都市の立地を考えるとき、自転車環境の充実は人材の獲得だけに限らないのです。
こうした傾向は全米に広がっており、自転車環境を整備しようとする都市が増えています。ミネアポリスだけの話ではありません。ただ、元々ミネアポリスは自転車を利用する住民が多く、自転車道も整備されており、比較的優れた自転車環境であったというアドバンテージがあります。
そこで、元々良好な自転車環境があったところへ、さらに裏通りを使って街をネットワークする自転車道を整備したり、180マイルあった自転車レーンを倍増させる計画も進めています。大規模な自転車シェアリングシステムも稼動させ、自転車レーンの安全性向上にも努めるなど、自転車環境整備を総合的に推進しているのです。

アメリカのフォーブス誌は、自転車環境や公共交通機関を高く評価し、ミネアポリスを同誌が選ぶ世界で最もクリーンな街の第5位にランクしています。別の経済紙では、ミネアポリスを住むのが賢い場所の全米2位として、また若きプロフェッショナルにとって、クールな7都市の一つに数えています。
これはミネアポリスの魅力を生かし、そのポテンシャルを引き出す方法でもあるわけです。しかも、市にとって、自転車環境の整備は、他の大規模な開発計画と違って、一番安い方法でもあります。自転車での移動環境整備の必要性を理解し、重視している姿勢は企業へのアピールにもつながります。
こうした戦略により、ミネアポリスはアメリカでも有数の自転車都市と認識されつつあります。もちろん企業の誘致だけでなく、住民サービスの向上でもあります。若者だけでなく、あらゆる世代に住みやすさをアピールするポイントにもなるでしょう。
言われてみれば、実に理にかなった戦略です。都市の自転車での移動環境の整備・充実は、渋滞や事故、公害や環境対策から、市民の健康増進にまで寄与します。さらに医療や介護などの福祉関係の予算の低減、そして若者を呼び込み、企業の誘致にもつながる幅広い政策なのです。
しかも比較的低予算ですむとなれば、ミネアポリスのような都市にとって使わない手はありません。日本の場合は事情の違う部分があるので、そのまま当てはまらない部分があるとしても、自転車の走行環境について、アメリカの都市がこれだけ重視し始めていることには注目しておいてもいいのではないでしょうか。
気温が上がって夏日になったところも多かったようです。すでに熱中症には十分注意が必要ですね。
自動車の国アメリカでこのような動きがあるのは自転車乗りの日本人にとって歓迎すべきことだ。残念だがアメリカが変われば日本も変わる。でも日本の道路はこんなに広くない。片側一車線で慢性的な渋滞道路も多い。少し広い道路も駐停車車両で埋まり、自転車にとってはうーん・・・。
日本の自転車環境を変えるのは本当に困難に思えてしまいました。