自転車そのもの以外にもニュースやイベント、サービスからウェブサイトに道路行政など、個人的に興味のあるトピックについて、自転車好きの人と情報をシェアできればと思っています。なるべく話題になっているものも取り上げようと思っているのですが、ときどき記事にしようと思っていて忘れてしまうものもあります。
この自転車、“
DREAMSLIDE”もその一つです。ウェブ上で話題になったのは2010年頃だったと思いますが、記事にしていなかったことに気づきました。なかなか面白い自転車だと思うので、今さらという感じが無きにしもあらずですが、ここで取り上げておこうと思います。
ご覧のようにサドルがなく、いわゆる立ち乗りだけしか出来ないという、ちょっと変わった自転車です。ずっと立ち漕ぎなんて疲れそうですが、そこは工夫があって、立ち漕ぎだけでも疲れないよう、クランク部分が特殊な構造になっています。
動画を見るとわかりますが、左右のペダルの動きが普通の自転車とは違って、一定の回転運動ではありません。この動き、早足で歩くときに近い足の動きを再現しているのだそうです。立ち漕ぎと言うより、早足をしているような運動になる自転車なのです。
徒歩から早足、駆け足という人間本来の身体の動きの延長として見るならば、その人間の駆け足のスピードを上げる手段とするならば、むしろサドルがあるほうが不自然ということになるでしょう。人間の足の動きと考えれば、普通の自転車よりも自然な動きと言えるかも知れません。
検索してみると、3年経っているだけあって、実際に購入して乗られている方も結構おられるようで、その独特の乗車感覚がレポートされています。徒歩の延長のような感じとか、人力のセグウェイと評している人もいます。人によって評価は分かれるようですが、自転車とは別物と感じる方も多いようです。
開発者は、スケートボードやキックボードの感覚を自転車に取り入れるということを意識して開発したようです。足で蹴らないキックボードと見ることも出来ます。靴底全体を支えるペダルなど、立って乗ることを考えて綿密に設計されており、決して奇をてらった変り種自転車ではありません。
ハンドルを折って持ち運びが出来るようになっており、街中を走行したり、降りて手で持って階段を上がったりといった使い方が想定されています。後輪だけ接地させて、転がして持ち運ぶことも出来ます。まさに待ち乗り用の自転車です。ハンドルの長さは乗り手の身長に応じて調整できます。
サドルがないぶん、乗り降りが素早く出来ますし、また軽くなるので、持ち運びに有利です。小径でコンパクトなので小回りがききますし、駐輪にも場所をとりません。とくに前輪を持ち上げて立てかけるようなスタイルで駐輪すれば、普通の自転車と比べて大幅に省スペースです。
動画にあるように、歩道を歩行者をぬって走るような使い方はともかく、街で近距離を移動し、駐輪し、階段を上ったり、時には電車で移動するといった使い方は、都市の近距離移動に威力を発揮するでしょう。コンパクトなので室内保管も容易ですし、もちろんサドルを盗まれることもありません(笑)。
観光地での移動や、大規模な公園など広い施設内での移動、あるいは大きな工場や倉庫などでの移動に使うことも考えられるでしょう。今は普通の自転車を使っているところも、これに置き換えることで、省スペースや小回り、持ち運びなどの点でメリットがありそうです。
自転車からサドルを取り除いたと言うより、フランス生まれのオシャレな街乗り用の新しい乗り物、パリジャン・ パリジェンヌの小粋な移動手段といった感じです。長距離には向きませんが、街乗りで短距離の移動に使うには、もってこいの自転車と言えるかも知れません。なかなか面白いコンセプトです。
ところで、日本では自転車と言うと、最寄り駅までの下駄代わり、あるいは子供の乗り物、または主婦の買い物や子供の送迎に使う乗り物くらいにしか思っていない人が大多数を占めます。このため自転車の地位は低く、その扱いは都市の交通手段というより、放置される迷惑な乗り物、あるいは邪魔者扱いです。
日本では、ママチャリが圧倒的な割合を占めています。自転車と言えばママチャリのことだと思っている人が少なくありません。重くて遅いママチャリしか知らない人が、軽くて速いスポーツバイクに乗ると驚くはずですが、自転車本来のポテンシャルを知らない人、大幅に低く見ている人が多いわけです。
最近でこそ、職場までの自転車通勤が注目されますが、多くの人は自転車で職場までなんて、疲れるから無理だと思っているでしょう。そんな距離を走る移動手段だと思っていません。ですから、欧米のように自転車を立派な都市交通の一つとしては見ていないわけです。日本で自転車環境整備が進まない一因でもあります。
何度も書いていますが、自転車は自宅から最寄り駅までくらいにしか使えない交通手段ではありません。本当の自転車は、もっとポテンシャルが高く、欧米では十分に都市交通になりうると考えられています。世界の都市では、まさに都市交通として活用するために、自転車レーンなどのインフラ整備が進んでいるわけです。
つまり、日本で考えられているように自転車は下駄代わりではないと言ってきたわけですが、この“DREAMSLIDE”は、まさに下駄代わりのように使うというコンセプトです。中長距離でも速く快適に走れる一般的な自転車とは反対の方向を目指した自転車という意味でも、なかなかユニークな存在と言えるのではないでしょうか。
過密な都市の中の移動、それも近距離に特化したビークルと割り切るならば、ちょっとそこまで移動する、いわゆる「下駄代わり」に徹するというのも一つの方向性です。ママチャリのように、結果として下駄代わりにしか使われないのとは違います。
自転車は、都市交通として十分機能するようなポテンシャルがありますが、いわゆる下駄代わりの短い距離の移動、チョイ乗りという用途、ニーズもあることに、あらためて気づかせてくれます。こういう自転車出てくるあたり、日本のように、何でもママチャリというスタイルよりは、楽しそうです。
東海村で放射性物質が漏れ出た事故、3・11前だったら大騒ぎだったでしょうね。