ある程度、自転車が走行するためのインフラが整っている必要がありますが、十分に都市交通としての役割を担うことが出来るというのが、世界では常識的な考え方です。しかし日本では、最寄り駅までのアシでしかなく、バスや地下鉄などと比肩するような都市の交通手段とは考えられていません。
ただ、最近は少しずつ、都市交通の手段としての自転車を理解する人も増えてきているようです。少なくとも、日本のメディアでも海外の都市の事例が取り上げられるようになってきました。今回は日本で報じられた最近の海外の自転車ニュースをピックアップしてみます。
NY、自転車ですいすい=公共貸出制度始まる
ニューヨーク市は27日、自転車の公共貸出制度「シティバイク」を開始したと発表した。マンハッタン南部とブルックリンの一部で、6000台の自転車を300余りのレンタル基地に配備し有料で提供。年間会員になれば、1回当たり45分以内なら1日に何度でも利用できる。
最初の1週間は年間会員(年会費95ドル)に利用を限定し、その後1日単位などの短期会員向けのサービスも始める。当初の年間会員数は、1万5000人以上に上ったという。1日会員(9ドル95セント)と1週間会員(25ドル)は、1回30分まで。(2013/05/28 時事通信)
以前から開始がアナウンスされていましたが、技術的な問題があったことに加え、ハリケーン・サンディの影響などもあって、大幅に遅れてのスタートとなりました。当初は、この規模ですが、今後マンハッタン北部やクイーンズ、ブルックリン全域に拡大し、千以上のステーションが計画されています。
日本でも一部の都市で自転車シェアリングが導入されていますが、その規模は桁違いに小さく、ほとんど都市では、自転車シェアリングとして本当に機能するのか疑問になるほどの規模です。拠点数や台数が少なくては有効に活用できず、利用が伸びないことは明らかでしょう。
パリやロンドンに続いてニューヨークです。この世界的な3都市が自転車の活用に本格的に取り組んでいるのですから、本来ならば東京に焦りがあっても良さそうなものです。しかし、そうした議論は全く聞こえてこないばかりか、自転車を規制し、利用を抑制することばかり考えているように見えます。
ただ、このように海外では、自転車を都市交通の一つとして位置づけられている様子が報じられることが増えてきました。日本だけ、歩道走行が認められている野蛮さも含めて、自転車に対する考え方や感覚が諸外国とズレていることも、少しずつ知られるようになってきているようです。
ワシントンで自転車通勤ブーム 渋滞回避、女性にも浸透図る
米国の首都ワシントンで、自転車通勤が拡大している。地下鉄網の老朽化が進み、車両や信号の故障によるダイヤ混乱も日常茶飯事とあって、朝夕の幹線道路の大渋滞は全米でも有名。通勤のストレスを嫌う自転車族は、若者層を中心に増えている。より快適な自転車通勤や、女性への普及に向けた取り組みも進んでいる。
隣接するメリーランド州やバージニア州などからの通勤者も多いワシントン。自転車愛好家として知られたフェンティ前市長は、渋滞の解消に役立ち、環境にも優しい自転車通勤を推進した。
高低差があまりなく走りやすいこともあり、専用レーンや駐輪場、レンタル自転車が急速に整備され、米自転車専門誌の「自転車に優しい街」ランキングで常に全米トップ10に入る街に変貌した。米商務省によると、ワシントンの自転車通勤は3割強と5年前の2倍となり、全米最高だ。
自転車利用が増えるにつれ、歩行者や自動車といかに共存するかの議論が高まった。
市北西部の自宅から約5キロ離れた職場まで毎日自転車で通う女性弁護士のバレリーさん(36)は「小さな接触事故を目撃したり、ひやっとしたりは毎日」と話す。1年前に市内最大の自転車擁護団体「ワシントン地区バイシクリスト協会」の会員になった。同協会は、自転車普及や安全教育、当局へ安全環境の整備を求める活動を展開する。
特に改善を求めているのが、運転が荒いタクシー。客の乗り降りの際、路肩沿いの自転車レーンに突然突っ込んでくるため、危険が絶えない。前後を確認せずに唐突に開くドアも恐ろしい。
協会のグレッグ・ビリング氏は「タクシーの悪質運転改善はここ数年の焦点」と指摘。タクシー会社に運転手の指導を求めるとともに、市当局には取り締まりを強化するよう訴えている。協会など自転車団体の働きかけで、法律も変わった。
連邦議会とホワイトハウスを一直線に結ぶペンシルベニア通りは、大統領が就任時にパレードする片側4車線の道路。自転車レーンは車道の中央分離線沿いに配置されている。進行方向を変えようとする車が、道路の真ん中を走る自転車の前を高速で横切る危険な光景が頻発していた。
VIDEO
そこでワシントン市は緊急法を制定、昨年12月から同通りでのUターンを禁止した。より安全な走行環境にするため、協会が協力し、自転車レーンと一目でわかるようにデザインも変更された。
協会は今春、現在は自転車利用者の2割強にすぎない女性への普及を促すため、「ウーマン・アンド・バイシクル」プログラムを始めた。バレリーさんもさっそくメンバーになった。「すっかり自転車啓蒙活動家になったわ」。5月は「全米自転車月間」でもあり、交流サイト「フェイスブック」上で他のメンバーたちと活発に情報を交換している。サイクリングやお茶会で予定はいっぱいだ。(2013/5/11 日本経済新聞)
以前にも取り上げましたが、ワシントンも既にバイクシェアは導入されています。クルマ大国で、近くの距離でもクルマ移動が当たり前のように思えるアメリカの首都でさえ、自転車の活用拡大に力を入れているということは、もっと注目されてもいいのではないでしょうか。
もちろん、まだまだ問題もあるようですが、決して一時的なブームという感じではありません。アメリカでも都市部では、ネットやSNSに興味が向き、若い世代がクルマを所有しなくなり、いわゆる若者のクルマ離れが進んでいることも、自転車を通勤手段などに使う動きに拍車をかけています。
こうした傾向を受け、全米各都市では自転車フレンドリーな都市を目指す取り組みが加速しています。インフラの整備や自転車シェアリングの導入などを通し、自転車は都市交通の手段だと一般的にも認識されるようになってきています。
日本経済新聞のようなメディアも、アメリカのこうしたトレンドを伝えるようになってきているのは、日本でも都市交通としての自転車に関心が高まり、そのポテンシャルに気づく人が増えつつあるということと無関係ではないと思われます。
自転車シェアリングサービス始まる、モスクワ
ロシアの首都モスクワ(Moscow)で1日、交通渋滞緩和のために導入された自転車シェアリングサービスが始まり、この日を待ちわびた自転車愛好家らが早速利用した。しかし、多くの人々は首都中心部の幅が広く混雑した道路を自転車で通行することに不安を抱いており、今後も通勤には地下鉄を利用するという声が多く聞かれた。
この事業計画は、パリ(Paris)やロンドン(London)、最近ではニューヨーク(New York)で導入された自転車シェアリングシステムと同様のものだ。初期段階では、首都中心部の大通り沿いに設置された約30か所の自転車置き場に、合計150台の自転車しか用意されていないが、当局によるとこのサービスを急ピッチで拡大する計画だという。
自転車を利用するには、他の国と同様、オンラインでの登録とデポジット(保証金)の入金が必要となる。利用料は最初の30分間は無料、その後は1時間毎に30ルーブル(約94円)かかる。利用した自転車は、どの自転車置き場に返却してもよい。
交通安全の懸念があるにもかかわらず、モスクワの自転車利用者はここ数年間で急増している。多くのショッピングモールが自転車置き場を設けているほか、公園や川岸はサイクリストでいっぱいになることもある。しかし、自転車専用レーンは主要道路でさえ設置されておらず、道路脇には路上駐車の車が並んでいるため、多くの人々は自転車通勤には二の足を踏んでいる。地下鉄に自転車を乗せることも禁止されている。
モスクワ市当局は今年中に、他の国に比べると短いものの、総延長131キロメートルの自転車専用通路を設置すると発表しているほか、7月末までに自転車シェアリングサービスを市中心部の外部にも拡大し、自転車置き場を120か所に増やすと約束している。このサービスは10月末まで利用でき、冬季は休業となる。(2013年06月02日 AFP)
なんと、モスクワでも自転車シェアリンクが始まりました。およそ自転車都市のイメージはないモスクワですが、世界の大都市のトレンドに無頓着ではいられないということもあるのでしょう。雪が降る冬季は休業で、多くの市民の間には、まだまだ馴染みがないにも関わらず、大胆な政策決定と言えるかも知れません。
スタート時の規模は小さいものの、急ピッチで拡大する計画とあります。一定以上の規模でなければ、シェアリングシステムの意味がなく、市民の活用も進まないことは理解されているようです。ただ、自転車レーンや駐輪場などのインフラが貧弱で、市民には安全面で不安があるのが、今後の普及への課題になりそうです。
モスクワでも自転車利用者は急増しているとあります。都市で自転車を利用する人の拡大が、世界的な傾向なのは、ここでも見てとれます。都市の渋滞対策としても自転車を都市交通として活用するのは、もはや世界的なトレンドであり、活用しないのは非常識ということになっていくのではないでしょうか。
「車より自転車」、経済危機のイタリア
経済危機に陥っているイタリアでは自動車よりも自転車の方が売れている。ミラノ(Milan)の自転車利用者は、ミラノは自転車のライフスタイルに適した整備がされていると話す一方、首都ローマ(Rome)の自転車利用者は交通量の多い通りで日々、厄介な目に合っているという。
イタリアの一部の都市では自転車のシェアリング構想や自転車専用道路、市民の意識を高める計画などがある一方で、他の都市では自転車はあまり受け入れられていないのが現状だ。
イタリア・バイコロジー推進協議会(Italian Federation of Friends of the Bicycle)の会長、ジュリエッタ・パリアッチョ(Giulietta Pagliaccio)氏は「経済危機は交通を含め、すべての人に影響を及ぼしている。ライフスタイルの小さな革命が起こりつつある」と話し、「自転車という交通手段を再発見した人をたくさん見てきた。短い距離に合ったその容易さ、単純さ、スピードだ」と語った。
自転車業界連合とインフラ・運輸省が発表した統計によると、2011年の自転車の販売台数は車よりも2000台多かったが、この差は12年に20万台超に拡大した。自動車業界は12年の販売台数が20%減少した。
バイコロジー推進協議会のパリアッチョ会長によると、ローマは自転車利用者にとって特に「困難な」都市で、一般に、イタリアの南半分は道路の状態が悪く、自転車専用道路がほとんどないなど、環境が良くないという。
同会長はまた、考え方は変化し始めているものの、政治家は自転車に優しい政策について「極めて消極的」なままだと述べ、「政治家は票を失うことを恐れている。すべてがこうした視点で行われ、都市のありかたについての長期的な構想が欠けているので非常に恐ろしい」と加えた。
■売れ筋は折り畳み自転車
イタリア二輪車工業会(ANCMA)の自転車部門責任者ピエロ・ニグレッリ(Piero Nigrelli)氏は、自転車の価値についての政治家の認識不足には驚かされると話す。また、ドイツには年間700万人程度の自転車旅行者がおり、その経済効果は90億ユーロ(約1兆1900億円)に上っていると述べ、イタリアにこうした利益をもたらすのに必要なのは自転車専用道路へのほんの少しの投資だとした。
ローマでは、舗装路に散らばる廃品や定期的に洪水で水に漬かる土手沿いの道など、自転車利用者は日々直面する障害に不満を持っている。自転車ロードレース、ジロ・デ・イタリア(Giro d'Italia)で有名なイタリアだが、交通手段として自転車を受け入れる環境はまだ整っていない。
ただ、ミラノでは、自転車シェアリングシステム「BikeMi(バイクミー)」が市民から熱烈に支持され、折り畳み自転車が一番の売れ筋となっている。ミラノの自転車専門店では、折り畳み型でスーツケースのように持ち運べるイギリスのブロンプトン(Brompton)など、都市生活向けのモデルを店頭に置き始めている。
世界最古の自転車メーカー、イタリアのビアンキ(Bianchi)は、車から自転車に乗り換えようとしているイタリア人の需要に対応するため、電動自転車の市場に乗り出した。ビアンキのボブ・イッポリート(Bob Ippolito)CEO(最高経営責任者)はAFPに、同社では通勤用自転車が最も速いペースで売れていると話し、一部の顧客が車2台ではなく、車1台と自転車1台を持つことを好むようになっていることなどが背景にあると説明した。 (2013年05月28日 AFP)
イタリアでは、経済危機が自転車拡大の要因となっているようです。記事にもあるように、自転車のスポーツとしての人気は高いのですが、市民生活への自転車利用は、必ずしも進んでいません。イタリアは歴史的な古い街並みに狭い道路、石畳の道路なども多く、自転車に不向きな街が少なくないからです。
ただ、他の国や都市でも地下鉄テロがきっかけだったり、ガソリン高騰を契機に増えたりしています。最初は一時避難的な利用だったとしても、それで自転車の利便性や速さ、経済的や健康面などのメリットがあらためて実感され、結果的に自転車活用が拡大した都市もたくさんあります。イタリアも変わっていくかも知れません。
政治家が自転車に優しい政策について「極めて消極的」というのは、日本にも当てはまることでしょう。選挙時だけ自転車を使って遊説する首長候補はいますが、選挙の公約、都市のビジョンとして自転車政策を積極に打ち出す候補というのは、あまり聞いたことがありません。
「都市のありかたについての長期的な構想が欠けている」のもイタリアの政治家だけではないでしょう。政治家が長期的視点と生活者の立場に立ち、もっと世界の動向を見れば、自転車を活用した都市という発想が出てくるのは、むしろ自然な気がします。
◇ ◇ ◇
たまたまあった最近のニュースをピックアップしてみましたが、海外では自転車シェアリングなど、自転車を都市交通として位置づけ、交通事情改善のカギとして扱っているのがわかります。クルマの代わりに使う、ライフスタイルを変えるといった視点で自転車が話題になっています。
日本では、歩道走行や交通マナーの悪さ、放置自転車といったことが話題の中心ですが、最近は以前と比べて、日本のメディアが世界の自転車事情を記事として扱うことも増えている気がします。それだけ、世界の都市交通の考え方やトレンドに触れる機会が増えています。
海外の事例が広く見聞されるようになることで、重くて遅いママチャリでの歩道走行が、日本の特殊な自転車事情であることを知る人も増えるでしょう。日本の市民から政治家まで、もっと自転車のポテンシャルを理解する人、自転車の都市交通としての可能性に気づく人が増えていくことを期待したいと思います。
そして世界での標準的な認識、コンセンサスが形成されていけば、日本でも自転車を都市交通として捉え、それに必要なインフラを整備するという視点での議論が出来るようになるでしょう。それが、放置自転車の駅前への集中を減らし、日本の自転車走行環境を改善し、マナーの向上にもつながっていくと思います。
5大会連続出場、決まりました。まさに起死回生のPKでした。