例えば、空を飛ぶという人類の長年の夢は、1903年ライト兄弟によって達成されました。人間は生身では飛べないものの、いまや機械や道具を使って飛ぶことが出来ます。飛行機やヘリコプターなどを使えば、誰もが空を飛ぶことが出来、実際に多くの人が世界中で空の旅を楽しんでいます。
しかし、すでに実現しているにもかかわらず、その後も空を飛ぶ方法にこだわり、独自に空を飛ぶという夢に挑戦している人たちがいます。例えば、少し前に空飛ぶ自転車として、
自転車型のヘリコプターが開発されているという話題を載せましたが、これもその一例でしょう。チェコの企業が設計、製作したものでした。
ただ、これは電動ヘリコプターであって自転車とは呼べないという人もあります。たしかに動力をつけた時点でオートバイなど別の製品と言うべきかも知れません。夢があるプロジェクトですが、バッテリーの関係で浮揚できるのは数分であるなど、実用的かどうかという点でも、現状では疑問符がつきます。
電動アシスト自転車など、厳密には人力だけではない自転車もありますから、細かい定義はおくとして、自転車がヘリコプターのように昇降するのは、すごい制御技術なのだろうと思います。ただ、空中に浮きはするものの、空を飛んでいるという感じではありません。
その点、こちらの“
Paravelo”は、空を飛ぶという表現がピッタリ来ます。モーターを担いで飛ぶ、モーターパラグライダーというスポーツがありますが、この“Paravelo”、言わば自転車に乗ったままモーターパラグライターをするようなスタイルです。
従来の自転車を、使いやすい飛行機に変形させるというコンセプトです。動力部分はトレイラーに固定されていおり、飛びたい時にモーターを始動し、パラグライダーを広げます。国にもよりますが、ライセンスも必要ありません。それでいて、最高4千フィート、1.2キロ程度まで高度を上げることが出来ます。
モーターパラグライダー:
世界初の空飛ぶ自転車とアピールしていますが、すでに一部ではリカンベント型の3輪車にパラモーターを積んで飛ぶような人は存在しています。しかし、このように一般の人が購入できる製品として販売できるようにしようという試みは、これまでにないスタイルといえるかもしれません。
地上を自転車として走行する場合は時速24キロ程度、空中を飛ぶ場合は同40キロ程度のスピードが出ます。走行と飛行を使うことで、ドアツードアを実現する空陸両用の乗り物です。開発とテストに2年間を費やし、現在は広く一般を対象に“Kickstarter”で資金を集めています。
動画を見ると、確かに軽やかに離陸しています。機体全体が軽量になるようデザインされ、分解してクルマで運べるようになっているのも特徴です。クルマが使えれば、フライト場所の範囲が広がりますし、機体がコンパクトなぶん、保管場所は小さくてすみます。
航続距離は最高で120キロ程度と、実用的にも問題ないレベルでしょう。万一途中で燃料切れになったら、適当な場所に着陸して、地上走行で帰ることも可能です。もちろん、普通の道路に着陸するわけにはいきませんが、河川敷など少し広い場所があれば離着陸できます。
この“Paravelo”を所有しても、小型のファミリーカーくらいの購入費とランニングコストで済むと言います。そんな費用で「自家用飛行機」が所有できると考えることも出来ます。居住地域にもよると思いますが、なかなか魅力的と感じる人もあるのではないでしょうか。
森林パトロールとか広大な牧場の警備、あるいはビジネス等にも使えるかもしれません。特に新しい技術を導入しているわけではなく、モーターパラグライダーと自転車を組み合わせただけですが、実用的かつ現実的な選択肢として、実際に購入可能な自家用飛行機を提供するというコンセプトなのです。
モーターパラグライダーは、航空法で制限される航空機には該当しません。補助動力付のパラグライターというだけです。航空局に飛行許可書を提出するといった手続きも必要ありません。そのぶん気軽にフライトを楽しむことが出来ます。このあたりも魅力でしょう。
ただし、航空管制内の空域でフライトをすると、他の航空機に危険を生じさせる可能性があるので、無許可ではフライトできません。管制空域内では、他にもいろいろな制約があります。また、それ以外の場所でも、市街地での高度制限とか、警備上の規制などもあって、どこでも気軽に飛べるというわけではありません。
また、国によっても規制が違っており、日本では車輪がついていると着陸装置と見なされ、パラシュート型の超軽量動力機(マイクロライト機)というカテゴリーになるようです。この場合、準航空機という扱いとなるので、飛行するには航空局の飛行許可書が必要になってしまいます。
飛行のために免許証があるわけではありませんが、技術的に誰もがすぐに飛べるというわけではありません。空を飛ぶわけですから危険も伴います。モーターパラグライダーの技能証を既に所持している人以外は、まず講習を受けるなどして、技能を修得する必要があります。
このあたりは敷居が高い部分ですが、技能を修得してモーターパラグライターを楽しんでいる人もいるわけですから、非現実的というわけではないでしょう。日本では、なかなか難しい面がありますが、空の散歩を楽しめるような場所に住んでいる人ならば、検討の余地がありそうです。
あまりメジャーではありませんが、モーターパラグライターという空のスポーツと自転車を組み合わせれば、空飛ぶ自転車は決して夢物語ではありません。すでに実現していると言ってもいいでしょう。自転車で大空を散歩するのは、多少のハードルはあるにせよ、十分可能というわけです。
世界で初めての飛行に成功したライト兄弟が、自転車屋さんだったというのは有名な話です。そのことがどう影響したかは知りませんが、当然のことながら自転車にも乗っていたことでしょう。もちろん、だからと言って、特に自転車と飛行機に関連性があるとは言いません。
自転車で空を飛びたいという夢を持つ人は、冒頭の自転車ヘリコプターの開発者や、この“Paravelo”のプロジェクトチームの人たち以外にも、しばしば見かけます。自転車に乗っていると、風を感じ、このまま飛び上がり、空を飛んでみたくなる人が多いということなのかも知れません。
連日の猛暑です。大空もいいのですが、こう暑いと..。