40年以上の長きにわたって、わが国の道路行政は市民に歩道走行を強要してきたため、いまさら怖くて車道なんて走れないと、歩道走行している人が大多数を占めます。一方で、まだまだ僅かな距離と言わざるを得ませんが、少しずつ車道に自転車レーンの設置を進めるところも出てきています。
少し前までは、歩道上に線を引いたり色を塗って自転車レーンと称するような、自転車のことを全く理解出来ていない自治体も少なくありませんでした。しかし、ここへきて自転車レーンは車道に設置されるのが当たり前で、歩行者との事故を防ぐ上でも、歩道上では意味がないということが理解されつつあるようです。
本町通に自転車レーン 大阪市初
大阪市は22日、自転車と歩行者の事故を防ぐため、通行量の多い同市中央区の本町通の一部区間(約500メートル)を「自転車レーン」(幅約1メートル)にすると発表した。市内に同レーンができるのは初。「事故防止の効果があれば、全市展開を検討する」としている。
同レーンは、御堂筋と堺筋に挟まれた東西の通り。原則、自転車はレーンを走り、左側通行が義務づけられる。レーン表示のため、事業費約2000万円で、車道の両端を青色に塗装。来月初旬の完工を目指し、工事は進んでおり、部分的に利用が始まっている。
ただ、レーン上の駐車車両で、自転車が通れないケースがあり、市は今後、レーンでの通行ルールの周知徹底を図る考え。自転車で近くを通行中だった同市北区の無職男性(65)は「レーン上に一時駐車する車が多く、走りにくい気がした。もうちょっとドライバーにも浸透してくれば便利かも」と話した。(2013年8月23日 読売新聞)
自転車の街 千葉を目指し 市が「すいすいプラン」発表
千葉市は二十二日、自転車が走りやすい環境づくりの計画を盛りこんだ「ちばチャリ・すいすいプラン」を発表した。自転車による市内の回遊性を高め、自転車の街・千葉を目指す。
自転車は身近な移動手段やレジャーとして利用者が増えている。市は二〇一一年、県内で初めて市内に自転車レーンの供用を始めるなど、自転車の街づくりを進めてきた。ただ、車道を通行するため、自転車が安全に通行できる走行環境の確保が課題となってきた。
プランでは、三十年後に市内に三百三十キロの安全で快適に走れる自転車の路線(走行レーン)整備を目標にしている。路線は、市内各区をつなげる広域ネットワーク路線(百二十キロ)、駅など生活拠点につながる拠点ネットワーク路線(百十キロ)、二つの路線を補完する路線(百キロ)。整備は、自転車レーンを主体として整備するほか、レーンを確保できない車道には、自転車が走行する部分に自転車マークを路面表示し、ネットワーク路線であることを示す。
当面、駅や市内大規模公園八カ所へのアクセスの向上を最優先し、来年から五年間で四十キロを整備する。熊谷俊人市長は「市内には平たんな道が多く、自転車で走りやすいので、路線のネットワークづくりを進めたい」と話した。(2013年8月23日 東京新聞)
自転車向け路面標識が効果 歩道の走行減り安全に
警視庁が試験的に導入した自転車向けの路面標識「自転車ナビライン」。車道に描かれた青い矢印が自転車の車道通行徹底に効果を上げている。24日までに同庁が公表した調査結果では、ナビラインの設置場所で歩道上を走る自転車が目立って減少しており、今後、都内全域に増設することを検討している。(2013/8/24 日本経済新聞)
松山市中心部、自転車の車道走行促進
松山市は市中心部の主要道路について、自転車が車に交じって車道を通行することを基本に整備することを決めた。環境に優しい交通手段の一つとして自転車の利用を促す一方、自動車や歩行者との事故が絶えないことから、安全に利用できる環境づくりが課題となっている。5年後をめどに路面にカラー表示を施すなどして、通行の適正化を目指す。(2013/8/21 日本経済新聞)
たまに自治体によって、使いにくいレーンを設置するところがありますが、基本的に車道への自転車レーンの設置は歓迎されます。クルマのドライバーに対しても、自転車の走行空間であることを認識させ、注意を喚起することになります。自転車で走行しやすくなり、車道を走る人も増えていくことが期待できます。
今は歩道走行する人が大多数ですが、歩道を徐行せずに走行し、歩行者に脅威となっていることに気づかない人が少なくありません。実際に自転車と歩行者の事故は増加しています。車道走行が当たり前になれば、自転車と歩行者が物理的に分離されることになり、歩行者との事故は減っていくでしょう。
歩行の延長のような感覚で自転車で走行し、逆走だろが併走だろうが、はたまたスマホを見ながらであろうが平気な人も少なくありません。これも車道走行するようになれば、少しずつ改善していくことが期待できると思います。自転車はあくまで車両の一種であり、歩行者を死傷させかねないことへの自覚も増すでしょう。
ふだん歩道走行している人も、自転車レーンがあれば車道走行を考えるだろうと思います。車道走行している人でも、クルマのドライバーに幅寄せされたり、嫌がらせを体験したという話はよく聞きます。自転車の走行空間を明示的に確保するという意味は小さくないと思います。
ただ、実際にクルマとの事故が減るかというと、必ずしもそうではありません。自転車レーンは、対歩行者との事故の減少だけでなく、対クルマとの事故でも安全性が増す気がします。確かに、そういう面もあると思いますが、自転車レーンがクルマとの事故の減少につながるとは限りません。
なぜなら、実際のクルマと自転車の事故のほとんどは交差点で起きているからです。道路の直線部分を自転車レーンに沿って走行しているようなシーンでの事故は稀です。事故の原因が、出会い頭であれ、左折巻き込みであれ、一時不停止などの不注意やルール無視であれ、起きるのは交差点なのです。
まだまだ少ないとは言え、車道へ自転車レーンを設置することの意義は認識され始めています。でも、交差点での自転車レーンの形状に注目したり、問題を指摘するような論調は少ないと思います。実際に自転車レーンと言うと直線部分がイメージされますし、交差点にはひかれていなかったりします。
自転車レーンは直線部分だけ設置すればいいのではなく、当然ながら交差点を通過、あるいは右左折する部分にも設置し、そのスムーズな通過や安全性の向上を図るべきです。しかし、交差点部分にも連続して設置されなければならないという意識は、まだ希薄なように思えます。
中には、交差点の中まで点線で描かれているところもありますが、単なる延長線であり、あまり深く考えられているとは思えません。法改正で横断歩道に沿った自転車横断帯が撤去されることになり、その趣旨に沿って、交差点を直進させたほうが安全だとの考え方に立つものだと思われます。
車道を走る自転車が横断帯を通って交差点をわたろうとすると、いったん左折して横断帯に入る形になります。これがドライバーに、自転車は左折するものと誤認させ、事故の原因になると指摘されていました。このため、自転車横断帯を廃止することになったわけです。
確かに、そういう面もあると思いますが、自転車横断帯を廃止し、交差点を直進するようになれば、左折巻き込みなどの事故が減るかと言えば、そうとも限りません。実際問題として、いま現在でも自転車横断帯を通っていない人は大勢いると思いますが、左折巻き込みは起きています。
自転車レーンの交差点における形状をどうすべきか、オランダの例が一つの参考になるでしょう。欧米では、下の図のように、右折(日本での左折)の際に、巻き込みを防ぐため、交差点では右折(日本では左折)レーンより中央側に自転車レーンを遷移させるという考え方があります。
右折(日本での左折)する自転車は、クルマと同じレーンから右折(日本での左折)しますが、直進する自転車をクルマと交差点部分で交差させないようにすることによって、右折(日本での左折)巻き込みを防ぐことが出来るという考え方です。
オランダの場合は違って、直進の場合も道路の端に沿う形で走行します。ただし、交差点の形状に工夫があります。交差点の角に島のようになった部分が存在します。原則として歩道のように一段高くなっており、クルマはその外側に沿って曲がることになります。
これによって、クルマがある程度曲がってから、前方を直進する自転車が通る形になります。クルマにとっては、自転車を前方に見ながら交差点を曲がる形になるぶん、巻き込みが起きる可能性は低くなります。「島」があることで、また、場所によって自転車用信号なども併用しながら、自転車の安全が守られているのです。
自転車は交差点でまっすぐには走れず、むしろ日本で自転車横断帯を渡るような挙動になります。しかし、コーナーアイランドの脇を通ってから横断することで、クルマと交差する角度が大きくなります。これが安全に貢献するわけです。なるほど考えられています。さすが自転車先進国オランダです。
自然に二段階左折(日本では二段階右折)を促す形でもあります。日本では前方の信号が赤だと、歩行者用の横断歩道を渡って交差点を右折し、そのまま右側通行、逆走する人がいます。交差点でもハッキリ自転車レーンが分けられ、それに沿ってしか走行出来なければ、こういう無秩序な走行も減らせるでしょう。
オランダの事例は、そのほかにも参考になるところがいろいろあります。象のアシとかサメの歯などと呼ばれるマークや、自転車専用の信号、停止線の位置など、それぞれに意味があります。日本とは習慣が違う部分もありますが、むしろオランダの例に倣って、日本式を改めてもいいくらいでしょう。
日本でも、自転車レーンの形は、交差点での形状も含めて考えていくべきではないでしょうか。まだまだ設置が限られ、ごく少ない距離でしかない今のうちに、自転車レーン全体の標準モデルを構築すべきです。もちろん、場所によって全てが理想通りには設置できないとしても、理想的な形はあってもいいはずです。
今でも幹線道路の大きな交差点では、歩道を広くとっているところが少なくありません。その角を削って、自転車だけ少し内側を通す形にすれば、同じような形状になって、自転車の安全性が増すのではないでしょうか。歩行者は、自転車レーンを横断してから車道を横断する形になります。
ただ、突然そのような形状をつくられたら、自転車の人も歩行者も戸惑うことでしょう。自転車レーンの上に立って信号待ちしてしまう人も出てくるに違いありません。やはり、自転車の車道走行を前提にした新たな道路整備体系を定め、広く周知した上で導入していく必要があります。
自転車レーンを設置するのはそれぞれの自治体ですが、ある程度、全国的にも標準化する必要があると思います。そうでないと、自転車に乗る人だけでなく、クルマのドライバーや歩行者も、行く先々で戸惑うことになりかねません。全国的な認知やコンセンサスが必要になってきます。
戦後、追いつけ追い越せと、いろいろなものを欧米に学んできた日本ですが、自転車交通については、自転車が歩道を走行するという、例を見ない野蛮な習慣が残る発展途上国です。自転車先進国の例がいろいろあるわけですから、謙虚に学び、良い部分は積極的に取り入れていくべきでしょう。
ここにきて、日本でもようやく車道に自転車レーンという話を聞くようになりました。しかし、世界は先を行っています。パリやロンドン、ニューヨークをはじめ自転車を活用するために走行インフラの整備に力を入れるところが増えています。そうした事例は、このブログでもいろいろ取り上げてきました。
日本では自転車と言うと、モータリゼーションに逆行し、時代に逆行するように捉える人もいますが、世界のトレンドを見ると、都市部では自転車を活用するほうが普通になってきました。渋滞の軽減、公害対策や環境の向上、住民サービスの充実による都市の魅力の向上など、さまざまなメリットがあります。
市民が自転車に乗ることによる健康増進の効果も見逃せません。行政にとっては、医療や介護など社会福祉予算の節減につながることが大きなメリットとして注目されています。最近の世界での論調を見ると、自転車環境を充実させない都市のほうが非常識と見られるほどです。
日本でも、自転車インフラを充実させようと考える都市が少しずつ増えてきています。後発国として、これから整備を進めるならば、先進国を手本に優れたインフラを構築したいものです。自転車活用のメリットが浸透し、今後整備が加速することも十分考えられます。そのためにも良いモデルを構築しておきたいものです。
やはり東電をそのまま存続させておくのは無理がある気がしますね。