October 02, 2013

市民が活動する必要をなくす

時々、駅前などで署名集めをしているのを見ることがあります。


何かの社会問題の解決や政策の変更、法律の改正や制定を求めるために、賛同する人の署名を集め、関係官庁などに提示し、その実現を目指す活動です。なかには、首長の解任や地方議会の解散、すなわちリコールのための署名を集める場合もあります。

社会的な反響の大きい問題、人々の関心が高く、賛同を得られやすいものならいいですが、中には、よく事情がわからないもの、関心が持てないもの、直接関係の無いものもあります。最近はネットで署名を呼びかけるサイトなんかもありますが、テーマによっては署名を集めるのも簡単ではないでしょう。

何らかの問題の解決を訴えるための手段としては、デモ行進、集会の開催などという手もあります。しかし、いずれにしても活動を展開するグループを組織したり、参加者を集めたりするには、人手も手間もかかるでしょう。なかなか簡単に出来るものではないと思います。

大勢の署名を集めなくても、請願や陳情という形で、政治や行政に対して意見や要望、苦情を訴えることは出来ます。しかし、個人や一部の市民がそれらの行動をとったとしても、なかなかその目的を達成するのは難しく、またそれがわかっているため、実際に行動する人は多くないのが実情なのではないでしょうか。

Unauthorized Bike Lanes, cityroom.blogs.nytimes.comUnauthorized Bike Lanes, cityroom.blogs.nytimes.com

アメリカに“Right Of Way”という団体があります。道路における歩行者や自転車利用者などの権利を主張し、クルマ優先となっている現状の打破を目指して、ニューヨークをベースに活動を行っています。彼らが問題の解決を訴える方法は、もっと行動的で直接的なものです。

9月のある夜、彼らは集まって道路にステンシルをあて、白い塗料でペイントを始めました。そのステンシルは自転車レーンのマークの形になっており、つまり勝手に自転車レーンをつくってしまおうというのです。現在はレーンのない通りに、一夜にして自転車レーンを誕生させてしまうゲリラ的な行動です。

A group is painting fake NYC bike lanes in response to ugly cab accident(ニュース動画)

このゲリラ作戦の直接の動機は、8月にニューヨークで起きた、ある交通事故です。タクシーの運転手が、路上でトラブルとなったサイクリストを急加速して跳ね飛ばし、そのまま猛スピードで歩道に突っ込んで複数の通行人をはねました。その中の一人、イギリスからの旅行者の女性は片足を失う重傷を負いました。

New York City cyclist hit by cab driver, www.foxnews.comBritish tourist's foot severed, pix11.com

この事故、自転車レーンがあれば防げたかどうかはわかりません。しかし、レーンによってクルマと自転車がセパレートされていれば、事故や事故につながるトラブルが減るのは間違いないでしょう。彼らの私製バイクレーンのペイントという行動は、この事故が直接の動機となったとしています。

Bikes4Life, www.bikes4life.org

自転車レーンをゲリラ的にペイントするという行動自体は、コロンビアで始まった、“Bikes4Life”というキャンペーンの影響を受けていると言います。これは、世界中の都市で自転車を有効な移動手段として奨励、促進するとともに、サイクリストを保護するために市民の手で「ライフライン」をつくろうというものです。

Bikes4Life, www.plataformaurbana.clBikes4Life, www.plataformaurbana.cl

これは世界的な行事となっているカーフリーデーなどに行われている行事で、都市空間における自転車の利用を促進する市民の取り組みです。生活のためであると共に、サイクリストの生命を守る意味でも「ライフライン」、自転車レーンの拡大を訴えるキャンペーンとなっています。

このニューヨークのゲリラ活動については、当局の許可を得ているわけではなく違法なわけですが、実行グループは、あくまで公益のための活動と位置づけています。彼らは違法だったとしても、それはオーケーだとしています。このあたりの主張には異論もあると思いますが、必ずしも非難されているわけではありません。

ニューヨークの交通当局は、近年大幅に自転車レーンの整備拡大を進めてきました。罪の無い旅行者が片足を失った事故が自転車レーンによって防げたかどうかについては触れるのを避けていますが、今後もサイクリストの安全のための環境整備を進めると共に、地元のコミュニティーの提案を考慮するとコメントしています。

Fake NYC bike lanes, pix11.comUnauthorized Bike Lanes, cityroom.blogs.nytimes.com

日本だったら、一部の勝手な自転車乗りたちの行き過ぎた行動としてすぐに検挙され、器物損壊か何かの罪に問われそうです。彼らが特に罪に問われていないところを見ると、ニューヨークでは自転車レーンの必要性や有効性について、当局も十分認識していることが背景にあるのでしょう。

異論もあると思いますが、その行動は公益のためであり、法的な問題はあるものの事故の再発防止が目的と見られているのでしょう。当局が事件にしないのは、整備の不備を棚に上げて善意の市民の行動を処罰し、世論を敵に回したくないとの意識もあって、警察に告発にくいのかも知れません。

ニューヨークで、ブルームバーグ市長が積極的に推進している自転車の活用拡大については、反対する意見もあります。しかし、安全のために自転車の通行空間を確保することについて、あるいはサイクリストが道路を通行する権利に関しては、市民にも理解されているのでしょう。

日本でも、これが歩行者、歩道の話だったら理解される可能性があるかも知れません。しかし、行政の自転車走行インフラに対する理解や、市民に自転車の権利に対するコンセンサスがあるとは言えません。自転車利用者のモラルの低さもあって、「勝手に自転車レーン」は支持されにくそうです。

Guerrilla bike lane protectors, www.seattlebikeblog.com

ところで、同じアメリカのシアトルで今年4月、もう一つ興味深い事例がありました。市内の自転車レーンのライン上に、一夜にして反射板付きパイロン、ポールが立てられたのです。“Reasonably Polite Seattleites”と名乗る市民グループの手作りによるもので、サイクリストの安全のための設備です。

こちらもゲリラ的な行動ですが、ポールの取り付けはエポキシ樹脂の接着剤などではなく、粘着パッドによるもので、簡単に外せるようになっていました。そして、シアトルの運輸局に、このポールを設置した理由についてメールを送っています。

このポール、パイロンがドライバーに注意を喚起し、サイクリストの安全に大きく貢献することを説明するためです。さらに、その設置にわずかな時間と、たった350ドルしかかかっていないことを記し、コストや手間は設置しない理由にならないと釘をさしたのです。

当局は、方法がゲリラ的ではあるものの、それは効果を一目瞭然にするためと理解し、その名の通り、礼儀正しく分別をわきまえた市民の提案として受け取ったようです。市民グループに返信を送り、丁重にお礼を述べています。当局もその場所の危険性は認識していたが、この市民の行動で背中を押されたことを認めました。

Guerrilla bike lane protectors, www.seattlebikeblog.com

市民による勇気ある行動に敬意を表すると共に、グループの取り付けたポールを撤去せざるを得なかったことを説明、謝罪し、ポールの返却を希望するなら連絡して欲しいとも記しました。さらに、今回使われたポールは多少高いのでハンドルに干渉する危険性があることもアドバイスしました。

そして、その後その場所には、当局によって公式の恒久的な反射板つきガードポールが設置されました。当局の柔軟さ、謙虚な対応、すぐ対処する行動力、市民に向き合い、その声を拾い上げ、住民の安全を第一に考える姿勢は評価されていいでしょう。これも日本では、あまり聞かない話です。

日本の自治体だったら、こんなに素早く柔軟に対応することが出来るでしょうか。プライドがあって、市民の指摘を認めたがらないかも知れません。議会の承認とか各セクションの調整、予算化から業者の選定など、さまざまなステップがあって、仮に実現するとしても相当に時間がかかることが多いのではないでしょうか。

Guerrilla-installed protected bike lane

もちろん、誰もが勝手に道路にペイントしたり、ポールの設置をし始めたら収拾がつかなくなります。法律をないがしろにしろと言うつもりはありません。こうしたゲリラ活動を賞賛したり奨励しようというのでもありません。また、署名や請願、デモや集会などの合法的な活動を否定するつもりも毛頭ありません。

日本では、特に自転車インフラに関して当局の理解が足りないだけでなく、その背景に市民の理解、コンセンサスがまだまだ足りないという事実があります。こうした活動が起きたとしても、世間の理解を得にくい、受け入れられにくいであろうことは否定できません。

ただ、政府にしろ自治体にしろ、あくまでも主権者たる国民、市民の負託を受けて政治や行政をおこなっていることを忘れるべきではないでしょう。市民の要望を聞き、それを汲み上げる努力を怠るべきではありません。出来ない理由を探すのではなく、実現の可能性を探るべきです。

公的な組織ですし、いろいろと手続きや制約もあります。市民の要望に応えると言っても簡単なことではないと思います。簡単に白黒がつけられる事ばかりでもないでしょう。ただ、市民の安全が第一という誰が見ても明らかなことに関しては、なるべくなら、苦労して署名を集めたりする必要のないようにしてほしいものです。





20年ごとに社殿を造り替える式年遷宮、恒久的に保つための知恵だと思いますが、橋とかトンネルなんかのインフラにも60年ごとぐらいで造り替える仕組みを導入したらどうでしょうかね。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 デル株式会社


Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。



 楽天トラベル






この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
初めまして!
たまたま拝見しましたブログなんですが
非常に興味を持てました
私は自動車学校の指導員をしていますが
自転車も大好きで愛用もしています
これからも色々な情報楽しみにしています

もし、自動車に興味がある方がいらっしゃいましたら
自分のブログを紹介して頂ければ幸いです

宜しくお願い致します
Posted by さとちゃん at October 03, 2013 15:47
さとちゃんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
クルマも乗るし、自転車にも乗る人、あるいは、どちらも好きという方は少なくないかもしれません。
クルマのブログをよく見る人と自転車のブログをよく見る人で重なっている部分もありそうです。
両方の特性や見方などを理解していることは、安全や事故防止に役立つと思います。
自転車しか乗らない人も、クルマから自転車がどう見られているか知ることは意味があることかも知れませんね。
Posted by cycleroad at October 04, 2013 23:32
 
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)