学生時代はお金がなかったという人は多いと思います。
それは、学生ローンで学費を借り、卒業してから返済する学生が多いアメリカでも同じでしょう。食費や生活費などを節約するため、いろいろと工夫をする学生も多いはずです。当然ながら、無料サービスなどがあれば、それを上手く活用するのも有効です。
都市部では、キャンパスに通ったり、ふだんの移動に自転車を使っている学生も少なくありません。ガソリン代もかかりませんし、交通費の節約には強い味方です。さらに、その自転車そのものを無料で提供してくれるサービスがあれば、これを使わない手はありません。
そんな学生にとって嬉しいサービスを展開するのは、“
FreeBike Project”です。自転車を無料でリースしてくれるので、学生は自分で買う必要がなくなります。自転車を提供するための費用はスポンサー企業が出します。アメリカで学んだデンマークの学生が立ち上げました。
最近は大学のキャンパス内での自転車シェアリング・システムを構築するところもあります。いつでも乗り捨てられるなど便利ですが、通常は学内の移動用です。フリーバイクは自分専用で、通学や学外での移動にも使え、なんと言っても無料というのが大きな魅力です。
提供される自転車には広告が入るようになっており、企業にとっては宣伝広告費になります。アナログですが、新しい広告メディアの一つと位置づけることが出来ます。学生が、その自転車で街を走るたびに広告として機能するわけですし、その学生の友人など、多くの学生が目にすることになるはずです。
無料でリースする条件として、一ヶ月に一回以上、何らかのソーシャルメディアに自転車の移った写真をアップすることが義務付けられています。これを目にする人たちに対しても広告効果や、口コミでの拡大が見込めるというわけです。今どきの学生なら、写真を一枚、SNSにアップするくらい何でもないでしょう。
自転車のフレームに広告を出すなんて、前時代的にも思えますが、近年はアメリカでも自転車はクールと捉えられています。自転車は環境に与える負荷が小さく、いわゆるサスティナブルで、健康的でもあります。スポンサー企業にとっては、顧客にいい印象を与えることが出来るのです。
さらに、このプログラムでは、学生に貸し出される自転車一台につき一台、途上国へも自転車が寄付されることになっています。発展途上国に対する支援プログラムでもあるわけです。このことも、積極的に社会貢献する企業としてイメージをアップさせることにつながります。
すでに、環境に対する姿勢のアピールや、学生に対するブランドの浸透、企業イメージのアップなど、それぞれの広告戦略と合致する複数の企業がスポンサー契約を結んでいます。有名な企業も含まれています。サービスも多くの大学に広がりはじめているようです。
新しいビジネスモデルですが、ここのところアメリカでも自転車に対する関心は高まっています。都市部を中心に自転車を活用する人、楽しむ人はますます増えており、そうしたトレンドも背景にあります。企業も自転車には注目しており、その点でも広告を得やすい環境になっているのかも知れません。
シリコンバレーに本拠を置くようなIT企業は近年、自転車を社内で共有するシェアリングシステムを次々と導入しています。キャンパスと呼ばれる広大な企業の敷地の中や、近隣を移動する手段として、あるいは通勤のための手段として、自転車を選択する社員が増えているのです。
企業は自転車通勤者に対する待遇を手厚くし、駐輪場やシャワールーム、ロッカーなど、自転車環境を充実させなければ、優秀な人材を採用しにくくなっていると言います。単なる福利厚生の充実ではなく、優秀な人材の確保という企業の成長戦略に重要な条件となっており、その点からも自転車は注目されているのです。
参考:
時代のトレンドは自転車通勤
また、こうした勢いのある企業を誘致したい自治体にとっても、自転車政策は重要なポイントになりつつあります。自転車インフラを充実させ、安全・快適に移動しやすい街にすることが、多くの若者を惹きつけます。若い才能を惹きつける魅力の無い都市には、企業も進出しなくなりつつあるからです。
アメリカでも都市部では、若者のクルマ離れが進んでいると言います。各種の調査でも、若い世代は古い世代と比べて、クルマを運転する割合が明らかに減っています。クルマを所有しなくても生活が出来る都市に集まる傾向が出てきているのです。
参考:
企業に選んでもらう為の条件
もちろんアメリカは基本的にクルマ社会ですが、IT企業が欲しがるような人材は、クルマを買う代わりに、多機能携帯やスマートフォン、タブレット、ラップトップ、そして2千ドル以上の自転車を買うことを選択する傾向があるという調査結果が出ています。クルマよりネットやSNSなどに興味が移っているのです。
クルマだけでなく、彼らは大きな家にも興味が無く、郊外の広い家より、都市の中心に近いアパートに住んで、徒歩や自転車で通えるような環境を好む傾向が表れていると言います。企業は自転車環境に関心を持たざるを得ず、こうした傾向も「学生向けフリー自転車への広告」の追い風になっているのかも知れません。
日本でも貸し自転車に広告を入れるところがありますが、普通は単純な広告メディアとしての効果に限られます。このプログラムの場合、目先の広告効果だけではなく、自転車に理解のある企業、自転車利用を支援する企業として、学生にアピールする効果も見込める可能性があります。
学生は人材、採用する対象としてだけでなく、企業にとっては将来の顧客でもあります。スポンサーとして学生に無料の自転車を提供し、広告を通して自社のブランドに親しんでもらうことで、将来に向けてのカスタマ・ロイヤリティを高められるとの考え方があるのかも知れません。
学生はお金がないから料金を負けてやろう、学生でも出しやすい料金にしようという考え、学割料金はよくあります。そのような配慮や温情を企業に求めるのではなく、企業側のメリットや戦略を上手く利用することで無料にしているわけです。お金のない学生を応援する仕組みは、まだいろいろ考えられそうです。
世界中を巻き込みかねないチキンレース、ギリギリまで意地を張り合って、まさかのアクシデントというのは勘弁してほしいですね。