この冬の長期予報では、関東などの太平洋側でも雪が多いと予想されています。冬だろうと元気に自転車に乗り、通勤などをしている人も多いと思いますが、さすがに雪が降ると厳しいものがあります。雪国に住む人の中には、スパイクタイヤなどをはいて走行する猛者もいますが、ごく限られています。
雪に不慣れな東京などに雪が積もった日には、交通は大混乱です。タイヤがツルツル滑って、自転車に乗るのは困難です。歩道に積もった雪は雪かきされ、車道の端に積み上げられることになります。ただでさえ狭い自転車の走行空間は余計に狭くなり、危険が増します。
あまり雪が降らない地域の自転車乗りにとっては、雪道走行に厳しいものがあるのは間違いありません。これが雪国の人であったとしても、雪道ではタイヤが滑って危険なのは同じでしょうし、降雪期間は自転車を封印するという人が多いのではないでしょうか。

ちなみに、雪が積もる地域でも、これがデンマークのコペンハーゲンあたりだと事情が違います。
以前取り上げましたが、コペンハーゲンは、その人口の半数近くが日常的な交通手段として自転車を利用する自転車先進都市です。さらにその8割の40万人は冬季でも自転車に乗り続けます。
雪が降った日に、この40万人が自転車に乗るのを止め、他の交通機関、バスや地下鉄に一斉に殺到したら大混乱となります。そのため、市当局は真っ先に自転車レーンの除雪をすることになります。市民は雪が降っても、雪かきされた自転車レーンを走行できるのです。
雪は降りますが、日本ほど降雪量が多くないので、雪かきをすれば路面が露出する程度のようです。もともとセパレートされた自転車レーンが整備されているので、除雪された雪でふさがれてしまうこともありません。そのため、よほどのことがない限り、雪が降っても普通に走行できるわけです。
日本の雪国は降雪量が多く、たとえ除雪したとしても、路面が露出した状態を維持するのは難しいと思います。圧雪された状態の雪上を走行するようになって、タイヤがグリップしません。実際問題として走行は困難であり、雪が降ったら自転車が無理なのは仕方のないところでしょう。
ところが、この今までの常識は変わりつつあります。アメリカの都市でも、例えば北部のミネアポリスなどでは、冬季に雪が積もりますが、こうした地域で最近、雪でも自転車に乗る人が増えていると言います。それを可能にしたのがファットバイク、太いタイヤのマウンテンバイクです。

ファットタイヤの幅は4インチほどあり、普通のマウンテンバイクの倍ほどもあります。まだまだ、マウンテンバイクの中でもマイナーなカテゴリーで、私も自転車の見本市、サイクルモードで展示されているのを見たことはありますが、実際に乗っている人は見たことがありません。

実物を見ると、見慣れていない人だと笑ってしまうほどの極太タイヤです。最近は、さらにもっと太く5インチ近いものもあるようです。しかし、単に奇をてらって太くしているのではありません。この太さがあることで、悪路の走破性能が普通のマウンテンバイクと比べても、格段に高まるのです。

動画を見るとわかりますが、普通のマウンテンバイクでも走行が困難な雪道を、何事もなく走り抜けています。タイヤが太くて接地面積が広く、グリップ力が高いので、雪道でも普通に走れるのです。太いぶん、多少空気圧を落とすことも出来、そうすると、さらにグリップ力や安定性が増します。
雪だけではありません。砂浜などでも抜群の走破性を見せます。岩場とか、大きな石がゴロゴロしているような河原でも、その衝撃を吸収し、平気で走れます。タイヤが太いぶん、段差を乗り越える能力も高いので、多少の階段であれば、そのまま上れてしまうほどです。
ファットバイクは、10年ほど前に“
Surly”などのメーカーが、極太のタイヤにリム、またそれを装着できる専用フレームを開発したのが最初と言われています。最近になって、これを冬に乗り始める人が北米の降雪地域の都市で増え、ちょっとしたブームになっているのです。
冬でも自転車に乗れると気づいた寒冷地の自転車乗りが、購入しはじめているようです。まだまだマイナーではありますが、雪でも自転車に乗りたい人には持ってこいです。全体から見ればニッチですが、ここのところ売り上げが急激に伸びており、関心も高まりつつあります。
ミネアポリスあたりでも、自転車通勤をする人のおよそ2割は冬場でも自転車通勤を続けるようになってきていると言います。雪道用のビンディングシューズなど、寒冷仕様の関連用品も開発され、市場に投入されはじめており、企業も注目するカテゴリーになっています。

まだ北米でも、一部の地域に限られた動きですが、人気に火がついて、広く一般に知られるような状態になってもおかしくありません。何年かのタイムラグはあるとしても、日本でもブレークする可能性は十分あります。このタイヤなら、日本の豪雪地帯でも、いや豪雪地帯だからこそ役に立つのではないでしょうか。
たくさん雪が積もるところで道が狭い場所、クルマがなかなか入っていけないような場所での移動手段としても、威力を発揮しそうです。雪が深くてクルマが渋滞するような場所では、ファットバイクによる移動のほうが速かったりするかも知れません。雪が積もっていれば、道なき道でもショートカット出来そうです。

雪国の居住経験がほとんどないので詳しくありませんが、通勤にだって使えるのではないでしょうか。クルマで通勤している人に、自宅のガレージから除雪してある道路まで出るのが大変という話を聞いたことがあります。ファットバイクを担いで出てしまったほうが、貴重な朝の時間の短縮になるかも知れません。
考えてみれば、これまでにも自転車が苦手とする領域はいろいろありました。悪路にはMTB、坂道には電動アシスト自転車、雨にはベロモービルなど、それぞれに対応する自転車が開発されてきました。雪道にだって相応しい自転車があるはずです。少なくともその一つがファットバイクなのは間違いないでしょう。

今のところ、雪国での冬季の自転車、雪上自転車通勤なんていうのはナンセンスだと思われています。しかし、その常識は破られる可能性が出てきました。雪でも自転車に乗れることに気づく人が増えれば、日本の冬の雪国でも普通に自転車、という時代が来るかも知れません。
教科書のデジタル化ですか。確かに便利ですし、ランドセルも不要になるかも知れませんね。