このことに異論を唱える人はいないでしょう。実際に世界で起きる地震の10分の1が日本とその周辺で起きています。日本人なら誰もが地震大国に住んでいるという意識を持っているはずです。とくに東日本大震災を経験して日が浅いので、建物の耐震化や防災対策が政策課題としても意識されています。
比較的少ないと言われていた地域でも地震は起きていますし、最近は南海トラフを震源とする巨大地震の発生も危惧されています。首都直下地震をはじめ、直下型地震の震源となる活断層は日本中に分布しています。津波や地震火災も含め、防災対策や災害への備えが広く必要なのは言うまでもありません。
建物の耐震化のほかにも、防災・減災対策は多岐にわたります。火災の延焼防止のための都市計画や避難誘導体制、物資の備蓄、医療救援活動の計画と訓練、情報収集や通信手段の確保、被害把握と応援体制、食料や物資、燃料などの輸送経路の確保、救援物資のコントロールなど、備えるべきことはたくさんあります。
3年前の東日本大震災からの教訓は多々あると思いますが、防災対策もさることながら、その後の避難所生活の苛酷さが改めて認識されました。被災者の方はもちろん、報道等で見ていた人にも、その記憶は残っているでしょう。地震や津波による避難所生活は、長期にわたって続く可能性があります。
地震発生当初の寒さや情報の途絶、通信手段の喪失、食料や燃料の不足だけではありません。トイレなどの衛生状態が悪化したり、避難所生活でプライバシーが保てないことが苦痛になってきたりなど、避難所生活が長期化したときのための備えの必要性が痛感されました。
トイレの衛生状態の悪化で、心理的に水分の摂取を控えてしまうことで、いわゆるエコノミークラス症候群や、脳や心臓の血液性疾患などのリスクが高まります。プライバシーが保てなかったり、寒さや暑さなどの環境からくる寝不足やストレスなどによって体調を崩した方も多く出ました。
貴重な教訓を生かして、なるべく万全の対策を進めなくてはなりませんが、たくさんあるポイントの一つが電源の問題ではないかと思います。地震や津波によって、多くの避難所でも電力の供給が途絶え、その後の避難生活に大きな影響が及びました。
夜間の照明の問題だけでなく、テレビやラジオなどによる情報が途絶えたことが避難者の不安を高めました。基地局のダウンでケータイもつながらなくなりましたが、電波が届いていても、ケータイの充電が切れてしまい、充電のすべがなかった人も大勢いました。
断水が直接の原因ではなく、停電してポンプが動かないために水道が使えない施設、トイレの排水が出来なかった施設もあったと聞きます。電源があってポンプさえ動けば、下水に流すことが出来、トイレの衛生状態が決定的に悪化しなかったであろう事例も報告されています。
いまどき、何らかの形で電力を必要とする機器がほとんどであり、停電で電力が使えないことが大きな不便や不安、不快につなかったのは明らかです。こうした教訓を元に、非常用発電装置や災害用の応急電源の手当てが必要だと思いますが、各地の自治体では配備が進んでいるのでしょうか。
少なくとも避難所になるような施設では、通信機器やトイレのポンプなど、イザという時、臨時の電源で必要な機器を動かし、機能するようにしておくことが望まれます。当然ながら、発電機だけでなく、それを動かす燃料の備蓄がなければ意味がありません。
しかし、燃料だって何年も経てば劣化します。長期にわたって常時使え、また十分な量を確保しておくのは簡単ではないでしょう。非常用の電源供給手段を備えておくべきなのは明らかですが、財政的な制約もあって、なかなか全ての避難所への配備は大変だろうと思います。
もしかしたら明日使うかもしれませんが、必要になるのは30年後かも知れません。設備も安くないでしょうし、燃料の備蓄などの維持費用もかかります。必要性は誰もが認めるとしても、どうしても優先順位が低くなってしまいがちなのではないでしょうか。
そこで、災害への備えとして注目すべき、利用すべきは「人力」ではないでしょうか。非常時でも手に入る人間の力で発電するのは、原始的なようで有力な選択肢になるはずです。非常用持ち出し袋に、手回し充電式のラジオやバッテリーの充電器を入れている人もあると思います。
ただ、手回し式は疲れます。5分程度ラジオを聴くくらいならいいですが、手の力は案外弱いですし、持久力にも欠けます。やはりここは足の力、すなわちペダルパワーを使うべきです。手よりも足のほうが力が強く、持久力があるのは誰の目にも明らかです。
例えば20分、手回しで発電するのはたいへんですが、ペダルをこぐのは容易です。サイクリストなら実感としてわかると思いますが、2時間や3時間ペダルをまわし続けるくらい、わけありません。休憩をとりながらであれば、1日8時間や10時間だって可能でしょう。遠出すれば、そのくらいこぐこともあります。
ペダル式の発電装置さえ配備しておけばオーケーです。燃料は不要、避難所には人が集まってくるのですから、漕ぎ手にもこと欠きません。地域によっては、年齢的に出力が多少違ってくるかも知れませんが、ゆっくりこぎ続けるのは可能でしょう。燃料がなくても備蓄してある食料と飲み水があれば使い続けられます。
写真のペダル式発電機は、最大20Wの出力で200ドル程度です。この金額なら備蓄しておくのも無理のない費用でしょう。100Wなら5台必要ですが、それでもたいした金額ではありません。基本的に維持費用が不要というのも大きいと思います。
この“
Pedal Powered Generator”、災害用ではなく、健康機器としてアピールされています。ふだんオフィスワークをしながらペダルをこげば、運動不足解消にも役立つというわけです。折りたたむことが出来るので、収納しておくにも場所をとりません。必要なら、ふだんから使っていてもいいでしょう。
もちろん、この会社とは何の関係もないですし、この会社のものを買えと言っているのではありません。日本のメーカーが、日本の電気機器にあった仕様のものを製造するのは容易なことだと思います。全国の避難所だけでなく、個人のニーズも期待できます。量産すれば安くなるでしょう。
たかがペダル式発電機ですが、避難所に備えてあったおかげで、テレビで情報を収集できたり、通信機器の充電が出来て連絡がとれたり、トイレや水道のポンプが動いて衛生状態が維持出来るかも知れません。避難所生活に大きく役立つに違いありません。
今回の大震災では、過去何度も大津波が襲った三陸地方でも、大津波への備えが疎かだったり、津波のことが頭に浮かばなかった人も大勢いたと言われています。災害で大きな被害が出ても、年月がたつと人間はその痛みを忘れ、災害に対する警戒心が薄れてしまうのは否めません。
そして、いつも「災害は忘れた頃にやってくる。」ことになります。次がいつかはわかりませんが、いつか必ず災害がやってきます。一方、人々の記憶はどんどん薄れていき、備えの重要性への意識も低下していくばかりです。まだ災害の記憶が新しい今のうちでなければ、出来ないことも多いような気がします。
なんだか、ずいぶん暖かかったりしていますが、また寒気がやってくるようです。寒暖の差が大きいですね。